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山田裕仁のスゴいレース回顧

【オランダ王国友好杯 回顧】もうひとつ“上”を目指すために

2024/07/29 (月) 18:00 39

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが別府競輪場で開催された「オランダ王国友好杯」を振り返ります。

オランダ王国友好杯で優勝した阿部将大(写真提供:チャリ・ロト)

2024年7月28日(日)別府12R 開設74周年記念 オランダ王国友好杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松浦悠士(98期=広島・33歳)
②阿部将大(117期=大分・28歳)
③古性優作(100期=大阪・33歳)
④岩津裕介(87期=岡山・42歳)
⑤浅井康太(90期=三重・40歳)
⑥中釜章成(113期=大阪・27歳)
⑦武藤龍生(98期=埼玉・33歳)
⑧伊藤颯馬(115期=沖縄・25歳)
⑨松谷秀幸(96期=神奈川・41歳)

【初手・並び】
←⑧②⑨(混成)⑦(単騎)⑥③⑤(中近)①④(中国)

【結果】
1着 ②阿部将大
2着 ⑨松谷秀幸
3着 ③古性優作

松浦悠士、古性優作、山口拳矢が参戦!地元勢も激走

 相変わらずの暑さが続いている日本の夏ですが、海外ではパリ五輪が開幕して、連日アツい戦いが繰り広げられていますね。自転車競技のトラック種目は、日本時間の8月6日深夜からスタート。男子は太田海也選手(121期=岡山・25歳)や中野慎詞選手(121期=岩手・25)、女子は佐藤水菜選手(114期=神奈川・25歳)や太田りゆ選手(112期=埼玉・29歳)など、多くの競輪選手が日の丸を背負って戦います。ぜひ、ご注目ください!

 アツさなら、年末のKEIRINグランプリを目指す戦いも負けてはいません。7月28日には大分県の別府競輪場で、オランダ王国友好杯(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からは、松浦悠士選手(98期=広島・33歳)と古性優作選手(100期=大阪・33歳)、山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)の3名が出場。地元の“看板”を背負う阿部将大選手(117期=大分・28歳)と小岩大介選手(90期=大分・40歳)も、特選からのスタートです。

阿部将大(写真提供:チャリ・ロト)

 その初日特選は、松浦選手が一気にカマシて主導権。そこを最後方から豪快に捲って、阿部選手が先頭まで突き抜けました。松浦選手マークの武藤龍生選手(98期=埼玉・33歳)が2着で、松浦選手が3着という結果。3連単配当なんと13万8090円という、大波乱決着となりました。このメンバーを相手に最後方から捲りきったのですから、脚力があるのはわかっているとはいえ、シビレましたね。

 3日目は第8レースが中止されるほどの悪天候となりましたが、以降のレースはなんとか開催できて一安心。ここでデキのよさがもっとも目立っていたのは、1着、1着、2着で決勝戦に勝ち上がった中釜章成選手(113期=大阪・27歳)でしょう。古性選手が「中釜は練習ではもっと強い」とコメントしていたように、ここにきてかなり力をつけています。決勝戦でどんな走りをみせてくれるのか、楽しみですよ。

 また、伊藤颯馬選手(115期=沖縄・25歳)も上々のデキにある様子。松浦選手も、1着こそ取れていませんが少しずつ調子を取り戻しており、本調子ではないものの戦える状態にはありそうです。

伊藤颯馬(写真提供:チャリ・ロト)

 古性選手も二次予選から連勝でキッチリ勝ち上がりましたが、こちらは相変わらずコメントが冴えないですね。とはいえ、調子が悪くても悪いときなりの走りで結果を出すのが古性選手。自分に課すハードルが高いというのもあるのでしょう。

古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

 地元地区である九州勢は、2名が勝ち上がり。先頭を任されたのは伊藤選手で、番手を回るのは別府がホームバンクである阿部選手です。この後ろに松谷秀幸(96期=神奈川・41歳)がついて、3車の混成ラインとなりました。近畿勢は、中釜選手が先頭で、番手に古性選手。こちらは3番手に浅井康太選手(90期=三重・40歳)がついて、中部近畿ラインで決勝戦に挑みます。

松谷秀幸(写真提供:チャリ・ロト)

 中国勢は、前を任された松浦選手と、番手を回る岩津裕介選手(87期=岡山・42歳)のコンビで勝負。唯一の単騎が武藤龍生選手(98期=埼玉・33歳)で、ここは主導権を奪うラインの直後につけての一発狙いでしょう。問題は、主導権を奪うのが伊藤選手と中釜選手のどちらなのか。この争いが熾烈なものになりそうで、展開は「番手」に向くというのが、私のレース前の見立てでした。

号砲と同時に阿部将大と古性優作が飛び出す!

 それでは、決勝戦のレース回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのが、2番車の阿部選手と3番車の古性選手。ここは内の阿部選手がスタートを取りきって、伊藤選手が先頭の混成ラインの前受けとなりました。その直後4番手につけたのが、単騎の武藤選手。中近ライン先頭の中釜選手は5番手からで、後方8番手に松浦選手というのが、初手の並びです。

 後ろ攻めとなった松浦選手が動き出したのは、青板(残り3周)周回の1センターから。ゆっくりと前との差を詰めていき、先頭の伊藤選手ではなく、中団の中釜選手を抑えにいきました。そのままの隊列で青板周回の4コーナーを回って、先頭の伊藤選手が赤板(残り2周)のホームを通過したところで、松浦選手は中釜選手に内に押し込み、さらに武藤選手の内をすくって、4番手のポジションを確保しました。

青板過ぎ2コーナー。後ろ攻めとなった松浦悠士(白)が動き出す(写真提供:チャリ・ロト)

赤板過ぎ1センター。松浦は中釜章成(緑)に内に押し込み、さらに武藤龍生(オレンジ)の内をすくって、4番手を確保(写真提供:チャリ・ロト)

 この松浦選手の動きによって中団がもつれ、中釜選手はいったん後方に下げて態勢を立て直すことに。松浦選手との連係を外してしまっていた岩津選手も、打鐘前には武藤選手の内に潜りこみ、番手に復帰します。ここでようやく先頭誘導員が離れて、後方となった中釜選手が仕掛けますが、先頭の伊藤選手もまったく同じタイミングで前へと踏み込み、主導権を奪いにかかります。

 ここでレースは打鐘を迎え、一気にペースアップ。松浦選手の番手に復帰した岩津選手は、ここで前との差が開いて、3番手にいた浅井選手に入り込まれました。中釜選手のカマシは伊藤選手に合わされるカタチとなり、打鐘後の3コーナーでも松浦選手の外に並ぶのが精一杯。中釜選手のカマシ不発を悟った古性選手は、最終ホーム手前で加速しながらスッと内に動いて、松浦選手の後ろを確保します。

最終ホームストレッチ。伊藤颯馬(ピンク)を追走する阿部将大(黒)(写真提供:チャリ・ロト)

 最終ホームを通過するのと同時に、最後尾にいた武藤選手が単騎で仕掛けますが、伊藤選手の逃げがかかっているのもあって、前との差がなかなか詰まらない。伊藤選手の番手を追走する阿部選手は、前との車間を少しだけきって、いつでも発進できる態勢を整えます。最終1センターを回ってバックストレッチに入ったところで、今度は4番手の松浦選手が捲り始動。素晴らしい加速で、最終バックで先頭集団を射程に入れました。

 松浦選手の後ろから古性選手と浅井選手、武藤選手も前との差を詰めて、最終3コーナーへ。松浦選手が松谷選手の外に迫ったところで、脚色が鈍り始めた伊藤選手の番手から、阿部選手がついに発進します。そして松谷選手は、外から迫る松浦選手を一度、二度とブロック。これで松浦選手は勢いを削がれ、進路も少し外に振られてしまいました。ここで一気に差を詰めてきた古性選手は、松谷選手の後ろを狙います。

 先頭が阿部選手で、その直後に松谷選手と古性選手が縦に並ぶという隊列で、最後の直線へ。外を回る松浦選手は伸びがなく、古性選手の後ろから接近してきた浅井選手は内から前を追います。しかし、先に抜け出した阿部選手スピードはまったく衰えず、外に出して差しにいった松谷選手や古性選手がジリジリと迫るも、その差はなかなか詰まらない。そしてそのまま、阿部選手が先頭でゴールラインを駆け抜けました。

松谷秀幸(紫)や古性優作(赤)が迫るも、ゴールラインを駆け抜けた阿部将大(写真提供:チャリ・ロト)

「S級S班を目指す」と宣言した阿部将大

 阿部選手はこれが通算4回目のGIII優勝で、地元記念は初制覇。地元勢による別府記念の優勝は23年ぶりとのことで、それを完全優勝で決めたのですから、本当にたいしたものですよ。2着は阿部選手マークの松谷選手で、古性選手は最後よく差を詰めるも3着まで。4着が浅井選手で、5着が松浦選手という結果でした。伊藤選手が先頭の混成ラインが、戦略・戦術ともに他を上回ったといえるでしょう。

 残念な走りになってしまったのが中釜選手で、勝ち上がりの過程ではあの組み立てで通用しても、決勝戦では通用しなかったということですね。レベルが上がれば上がるほど、他のラインや選手は自分の思い通りには動いてくれない。にもかかわらず、松浦選手の動きをアテにしようとした「甘さ」があったと、レース後に古性選手もコメントしていましたね。絶好のデキを生かすためにも、もっと積極的であってほしかったと思います。

 結果は5着も、ようやく“らしい”走りができるようになってきた松浦選手。復調には時間を要しましたが、本人的にもいい感触を得たはずで、次の平塚・オールスター競輪(GI)でのレースが楽しみになりました。また、中釜選手の失敗からしっかりリカバーして、確定板に載ってきた古性選手もお見事。いい仕事をするも2着に敗れた松谷選手については…これはもう、阿部選手が強かったと言うしかないですね。

 優勝者インタビューの場では、「S級S班を目指す」と高らかに宣言した阿部選手。4月の高知記念からこれで6回目の優勝で、いわき平・日本選手権競輪(GI)と松戸・サマーナイトフェスティバル(GII)以外は、すべて優勝しているんですよね。尋常ならざる充実ぶりで、確かにそれを口にできるだけの力をつけている。特別競輪の決勝戦に進出できたとしても、なんの不思議もない選手ですよ。

 とはいえ、日本選手権競輪やサマーナイトフェスティバルで、なぜあれほど結果を残せなかったのかは気がかり。ビッグのタイトルを目指せるような超一流の走りではなく、「普通の一流選手」の走りをしてしまっていた印象なんですよね。大舞台ではいまのところ、勝ち上がりの過程だけでなく、負け戦でもほとんど存在感を発揮できずに終わっている。力はあるはずなのに、出せていない。

 それが「なぜ」なのか私にはわかりませんが、阿部選手も大舞台で力を出せていないという自覚はあるはず。さらに上のステージを目指すためには、自分に何が足りないのかを必死に考えていることでしょう。あの表彰台での言葉は、そんな自分を鼓舞し、追い込むためのものだったのかもしれません。次のオールスター競輪で、彼がどんな走りを見せてくれるのか。いまはそれを、楽しみに待ちたいと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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