2024/05/22 (水) 18:00 43
netkeirinをご覧の皆さまこんにちは、伏見俊昭です。
今回は、5月初旬に地元のいわき平競輪で行われた「日本選手権競輪(GI)」で、先頭誘導員を務めたことを中心にお話ししたいと思います。
地元開催のGIなのでもちろん、正選手として参加できれば一番よかったのですが、残念ながらここ2年は出場権を取ることができていません。出場できないならGIの舞台を外側から見てみたいという気持ちがあって、いずれは地元GIで誘導員をやってみたいと思っていました。
レースの誘導は、誘導員の免許を取得していきなりGIの誘導をするということはできません。まずはFI、FIIの開催で誘導を経験してから、という手順です。僕は、後輩の真船圭一郎君に「伏見さん、タレてましたね」と言われネットをざわつかせた今年1月に、FIで初めて誘導員を務めました。そのときに番組から「日本選手権で誘導やってもらうかも」ということは言われていたので、レースのあっせんがなくて正式に依頼がくれば喜んでお受けしようと考えていました。
FI、FIIの誘導は均等に依頼を出すようです。いわき平なら福島県と宮城県の選手が誘導するので1年半から2年に1回程度、オファーがあります。しかし、GIの誘導は点数上位者が優先なので点数がないとできないんですよね。今回の誘導は2県合わせて5人。その中で級班、点数順に担当するレースが決まります。SIは櫻井正孝(宮城)君1人だったので、櫻井君が決勝戦を引きました。
僕はいきなり初日の1Rの担当…責任重大ですよね。前検日前日の誘導テスト走行では規定タイム通りに引けたんですけど、当日1Rでは全体的にペースが遅かったようです。2日目の朝に審判から「遅かったので規定タイム通りお願いします」って強く言われてしまいました。そこからはちゃんと規定タイム通りにこなせて、問題なく引くことができました。
レースを走っている選手は前受けすれば後ろから上がってくる選手に脚を使わせたいから誘導タイムを上げてほしいと思うし、後ろから攻める選手はタイムが上がると脚を使うから上げてほしくないと思うんです。だから、遅すぎず、早すぎずの規定通りに走らないといけないんです。昔は規定タイム通りに走らないと、誘導員を変えられることもあったそうですよ…。
中には「誘導、上げてください〜」って言ってくる選手もいます。トランシーバーで審判からの指示通りに走っているので、上げるわけないですけどね(笑)。誘導妨害、先頭員早期追い抜きなど最近は誘導に関する規則が厳しくなっています。後ろから抑えにくる選手は突っ張られたくないからいい勢いで来て、それで前受けの選手もある程度、合わせて踏む必要があります。そこで2人が誘導員を追い抜いてしまうと失格であっせんが止まってしまうし、お客さまにも迷惑がかかってしまいます。青板バックから赤板までは規定で18秒、事故を防ぐためにもここは強めに踏んでって審判から指示されます。
4日目のメインレース「ゴールデンレーサー賞」の誘導を担当しました。そこで、やらかしてしまいました…。
なんと、そのレースで落車してしまったんです。
誘導員の落車ってほぼほぼ聞いたことないですよね? 誘導員は退避するのが赤板から残り1周くらいですが、GIならレースの駆け引きも早くから始まるので今回もほぼ全レースで赤板退避でした。赤板で退避して、さらに内に退避して1周回ってホームのところに発走機を収納する場所があるのでそこで待機します。審判の指示通り、1周を回る間にスピードを落として一番後ろの選手が通り過ぎてから誘導の入場口から退場します。そのときにゴールデンレーサー賞ですから見応えのあるレースで、見入ってしまって…。
眞杉(匠)君が先行態勢の関東2段駆けでそれを古性(優作)君がまくれるかという組み合わせ。古性君がまくってきてこれは厳しいかな? それでも繰り抜けるかな? そしたら武藤(龍生)君のブロックを受けてもひるまない古性君に見入ってしまいました…。いわき平のオーロラビジョンは2センターにあるので、3コーナーまではまっすぐ見ることができるのですが、その後は後ろを振り向く感じの体勢になって、ドンって4コーナーの審判棟に突っ込んで、落車。スピードは落としているし、マットもあったので大事には至りませんでした。ここからはゴールデンレーサー賞の結果よりもやらかしたことに、パニくってしまい、恥ずかしいから何事もなかったように、クリップバンドをはずして立ち上がって待機場所まで自転車にまたがっていきました。お客さんはきっと、レースに夢中でこちらのことは気づいていないだろうと思いつつ…。
しかし映像にも映っているし、大事になっていました。管理から呼び出しされ、車体検査、身体検査。開催も4日目になっておごりがあったのかもしれません。誘導の控室に戻るまで気を抜いてはいけなかったですね。
ゴールデンレーサー賞の一つ前の10R二次予選では、浅井(康太)君と笠松(信幸)君がゴール後に落車したんです。浅井君に後から聞いたら1着になった浅井君を笠松君が激励するために、後ろから近付いたら浅井君の後輪にからまって2人で落車したそうです。それを見て櫻井君が「伏見さん、最終レースは無事がいいですね」って。そう言っていたにも関わらず、自分が落車してしまうとは(笑)。誘導が落車してレースを走っている選手になにかあったらレースが不成立になります。今回はそういうことはなかったけど、とんでもないことをしてしまったと大反省です。
誘導員は最終レースまで拘束されるのではなく、自分のレースが終わったら競輪場を出てもいいので、佐藤(愼太郎)君しか残っていませんでした。佐藤君も見えてなかっただろうし、誰にも言わないでおこうかなと思ったんですが、そういう情報ってすぐ回りますね。医務室に行くと(佐々木)雄一君と(渡邉)一成君がドアの前で待っていたので「どうした?」と平静を装って言ったら「落車、大丈夫ですか? 選手会もざわついてますよ」って。心配して来てくれていて申し訳なかったです。なんか、実際のレースで落車した時よりもいろんな人に心配かけちゃいました。まあ、多分、笑われてるでしょうけど。実際、高橋(晋也)君は大笑いしながら「大丈夫っすか?」って言ってましたしね。翌日には昔から応援してくれている人が誘導の待機場所に来て「ケガ大丈夫?」って。昨日、観戦に来ていたお客さんから落車したって聞いたそうなんですよ。
事情聴取ではないけど「どうやって転びましたか?」などは、もちろん聞かれました。レースに夢中になって審判棟に突っ込んでしまいましたって正直に話しました。「選手のほうに跳ね返っていたら競走不成立になるんですよ」ってこっぴどく言われました。申し訳ありませんって言うしかなかったです…。現在、審判に元選手の千葉雄彦さんがいらっしゃるんですが、千葉さんから「4コーナーの審判棟に突っ込んで落車するのは神山雄一郎と伏見しかいないな」って言われました。きっとそこには傷が残ってると思うので「神山」「伏見」って名前書いてほしいですねって言いたかったけど、さすがに言えませんでした(笑)。ちゃんと深く反省しています。
誘導も今回は2回目なので初回ほどは疲れなかったです。6日間という長丁場だけど、レース見て、ローラーでアップして、誘導してを繰り返していたらあっという間に終わってしまって早かったです。
日本選手権は参加選手も162人と多く、GIの中でも最も格式が高い大会です。参加したかったなと思いつつ、全レースを観戦しました。その中で一番、印象に残っているのは5日目7R。
大体のレースは控室のモニターで見るのですが、僕は次の8Rで誘導をするので、生で観戦していました。そこで南関の3人、簗田(一輝)君、小原(太樹)君、内藤(秀久)君が目の前で落車したんです。すごい音がして、競輪の落車って交通事故ですね。小原君と内藤君は滑入でゴールしたんですが、簗田君は手前で止まってしまいました。そういう時って走路審判に触れられた瞬間に棄権になってしまうので、審判はまず「再乗しますか?」と聞きます。簗田君はうずくまって動かないけど、再乗の気持ちがあったようで立ち上がろうとしていました。お客さんからは「簗田頑張れ」って声援が飛んでいて、僕も思わず「簗田頑張れ!」って叫んでいました。そんな中で身体をひきずりながらゴールした敢闘精神には感動しました。簗田君は翌日もちゃんと走っていたし、本当にかっこよかったです。お客さんも車券ははずれても、敢闘精神を出して懸命にゴールしてくれた選手を応援したいっていう気持ちになるんでしょうね。
GIは危険を冒しても勝負する価値があるので、落車はやっぱり多いですね。競輪は落車さえなければいいスポーツなんですけど、こればっかりは…。
ブログにあげたベネクスのリカバリーウェアについてご質問をいただいたのでお応えします。
ベネクスのウェアは昔から選手の身体のことを考えて、開発している商品なので愛用しています。寝る時に着るだけで疲労を取り、睡眠の質も上げてくれます。僕は10年近くお世話になっているので忖度するわけじゃないけど、そこらの寝巻きとは訳が違います。レースが終わってお風呂から上がったら、ずっと来ています。リラックスできるし、着心地もいいし、血流も良くなる感じがするし、難しいことはよくわからないけど興味のある方はホームページをチェックしてください。
今回、ブログに掲載したのはジャージなんですが、それを日本選手権期間中、ずっと着ていたので、それで疲れなかったのかな?今は選手会売店にもベネクスの担当者さんが来ていることもあってベネクス愛用者が増えています。商品も多岐に渡っていて、掛布団とかアイマスクとかアームウォーマーとかいろいろあります。その中でも一番のお気に入りはやっぱりレース後に着るアフターウェア。着る時間も長いし、寝返りをうってもひっかからないし、伸縮性、通気性などすべてがいいですね。
選手宿舎には浴衣もあるけど、それは食堂で臭いのつきそうな食事のときには着用することもありますけど…リラックスタイムはベネクス一択です(笑)。
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伏見俊昭
フシミトシアキ
福島県出身。1995年4月にデビュー。 デビューした翌年にA級9連勝し、1年でトップクラスのS級1班へ昇格を果たした。 2001年にふるさとダービー(GII)優勝を皮切りに、オールスター競輪・KEIRINグランプリ01‘を優勝し年間賞金王に輝く。2007年にもKEIRINグランプリ07‘を優勝し、2度目の賞金王に輝くなど、競輪業界を代表する選手として活躍し続けている。 自転車競技ではナショナルチームのメンバーとして、アジア選手権・世界選手権で数々のタイトルを獲得し、2004年アテネオリンピック「チームスプリント」で銀メダルを獲得。2008年北京オリンピックも自転車競技「ケイリン」代表として出場。今でもアテネオリンピックの奇跡は競輪の歴史に燦然と名を刻んでいる。