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山田裕仁のスゴいレース回顧

【桜花賞・海老澤清杯 回顧】今年の主役は間違いなく嘉永泰斗だった

2024/04/08 (月) 18:00 49

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが川崎競輪場で開催された「桜花賞・海老澤清杯」を振り返ります。

通算3度目となるGIII優勝を決めた嘉永泰斗(写真提供:チャリ・ロト)

2024年4月7日(日)川崎12R 開設75周年記念 桜花賞・海老澤清杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①郡司浩平(99期=神奈川・33歳)
②嘉永泰斗(113期=熊本・26歳)
③新山響平(107期=青森・30歳)
④山田久徳(93期=京都・36歳)
⑤松本貴治(111期=愛媛・30歳)
⑥佐々木眞也(117期=神奈川・29歳)
⑦古性優作(100期=大阪・33歳)
⑧松岡貴久(90期=熊本・39歳)
⑨佐藤慎太郎(78期=福島・47歳)

【初手・並び】
←⑦④(近畿)①⑥(南関東)②⑧(九州)③⑨(北日本)⑤(単騎)

【結果】
1着 ②嘉永泰斗
2着 ④山田久徳
3着 ⑦古性優作

5連覇ねらう郡司浩平、強烈な捲り脚を見せる嘉永泰斗!

 4月7日には神奈川県の川崎競輪場で、桜花賞・海老澤清杯(GIII)の決勝戦が行われています。川崎記念は例年いいメンバーになりますが、今年もS級S班が5名も出場という選手層の厚さ。そのほかにも、北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)や浅井康太選手(90期=三重・39歳)など、実力者や勢いのある選手がここには数多く出場していました。

 初日特選を制したのは、中団から捲るレースをみせた地元の北井選手で、番手を回った郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)との同県ワンツーを決めています。先行に強いこだわりを持つ北井選手は…まあ当然といえば当然の話ではあるんですが、捲っても非常に強かったですね。マークした郡司選手を最後まで寄せ付けない、速い上がりでの快勝でした。

郡司浩平(写真提供:チャリ・ロト)

 川崎記念といえば、毎年のようにこのシリーズで優勝している郡司選手。今年も優勝すると、なんと5連覇という大記録達成です。初日特選から2着、1着、1着という結果で危なげなく決勝戦に勝ち上がり、その大記録達成に王手をかけましたが…郡司選手のデキについて、例年ほどいいとは感じなかったんですよね。それは今年、郡司選手以上に目立っていた存在がいたからかもしれません。

 それが誰かといえば、嘉永泰斗選手(113期=熊本・26歳)です。初日こそ番手の松岡貴久選手(90期=熊本・39歳)に差されて2着となりましたが、二次予選、準決勝では強烈な捲り脚をみせて、いずれも1着。準決勝では後方8番手からの捲りで、合わせて3番手から捲った古性優作選手(100期=大阪・33歳)の上をいったのですから、驚かされました。

古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

 自身で何度もコメントしていたように、古性選手はデキがいまひとつ。いわき平でのダービー(GI)や、地元で開催される高松宮記念杯競輪(GI)を見据えての調整で、いまは少し調子を落としているのでしょう。とはいえ、立ち回りのうまさは相変わらずで、理想的な展開に持ち込んで3番手から捲っている。でも、嘉永選手はさらにその上をいったわけですよ。

 取手・ウィナーズカップ(GII)は二次予選で失格という結果だった嘉永選手ですが、そのときもかなり強い内容をみせていたんですよね。もしかすると、あのシリーズでピークにもっていったデキをキープして、このシリーズに臨んできたのかもしれません。デキのよさが目立つという意味では、断然といっても過言ではないほどでした。

 決勝戦は、ラインが4つに単騎が1名というコマ切れ戦に。2名が勝ち上がった南関東勢は、地元の郡司選手が先頭で、番手も同県の佐々木眞也選手(117期=神奈川・29歳)が回ります。郡司選手にとって痛かったのが、北井選手が準決勝で眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)と踏み合いになり、7着に敗れて決勝戦進出を逃したこと。ここは、自力で勝負となりました。

 絶好調の嘉永選手は、同県の先輩である松岡貴久選手(90期=熊本・39歳)とのコンビで勝負。新山響平選手(107期=青森・30歳)は、佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)とのS級S班タッグで決勝戦に挑みます。近畿勢は古性選手が前で、番手に山田久徳選手(93期=京都・36歳)という組み合わせ。そして、唯一の単騎が松本貴治選手(111期=愛媛・30歳)です。

山田久徳(写真提供:チャリ・ロト)

 ラインの先頭は自力のある選手ばかりですが、この決勝戦のメンバーだと、新山選手の「逃げイチ」のようなもの。主導権を奪った新山選手を、各ラインがどのような戦略をもって捲りにいくのかが注目されます。記念の決勝にふさわしい錚々たるメンツで、コマ切れ戦となったことで出入りの激しい競輪にもなりそう。車券をどう買うかが難しく、かつ面白いレースにもなりました。

近畿勢が前受け、直後3番手に郡司、5番手が嘉永

 それでは、決勝戦の回顧に入ります。レース開始を告げる号砲が鳴り、飛び出していったのは1番車の郡司選手と4番車の山田選手。それならば…と郡司選手は引いて、山田選手がスタートを取ります。近畿勢が前受けとなり、その直後3番手に郡司選手。5番手が嘉永選手で、新山選手は後方7番手から。そして最後尾に単騎の松本選手というのが、初手の並びです。

 近畿勢が前を取りにいったのはおそらく、北日本勢がスタートを取って、新山選手が突っ張り先行に持ち込むカタチを避けるため。もし北日本がスタートを取りにきたら、郡司選手は喜んで前に入れるでしょう。この場合、車番に恵まれなかった近畿勢は後ろ攻めとなる可能性が高く、古性選手はかなり厳しい戦いを強いられることになる。それを見越しての動きだったと思われます。

 青板(残り3周)周回の2センターで後方の新山選手が動く気配をみせますが、それに先んじて動いたのが、5番手にいた嘉永選手。赤板(残り2周)の通過に合わせて前を斬りにいくと、古性選手は抵抗せずに引いてポジションを下げます。次に動いたのも新山選手ではなく、5番手となった郡司選手。先頭に立った嘉永選手を斬って、郡司選手が先頭に立ちました。

赤板(写真提供:チャリ・ロト)
赤板過ぎ1センター(写真提供:チャリ・ロト)

 誰もが「主導権を取るのは新山」であるのを見越した動きをしつつ、レースが進行。そして打鐘前のバックストレッチで、後方にいた新山選手が動きました。後方にいた単騎の松本選手も、これに連動。打鐘で5番手の外を通過し、新山選手が進撃を開始します。先頭の郡司選手は、ある程度は前に踏んでペースを上げつつ、新山選手の動向を見定める態勢です。

打鐘(写真提供:チャリ・ロト)

 新山選手は、一気にカマすような勢いではなく、少し抑え気味のスピードで進出。それでも打鐘後の4コーナーを回ったところで、先頭に立ちます。ここで迷ったのが郡司選手で、最終ホームに帰ってきたところで、北日本勢に連動した松本選手と内外併走に。この位置は譲れないとばかりに松本選手が外から仕掛けて、郡司選手を内に押し込みます。

最終ホームストレッチ(写真提供:チャリ・ロト)

 引くタイミングを逸した郡司選手は、松本選手と絡みながら最終1センターを回って、バックストレッチに。ここで、6番手にいた嘉永選手が動きました。素晴らしいダッシュで一瞬のうちに郡司選手の外をパスして、北日本勢を射程圏に入れた嘉永選手。後方のポジションとなっていた古性選手も仕掛けて、九州勢に続いて前との差を詰めていきます。

 郡司選手は、嘉永選手に追い抜かれたところで力尽きて失速。嘉永選手は最終3コーナーで、佐藤選手の外まで進出します。ここで、佐藤選手がヨコの動きで嘉永選手をブロック。嘉永選手はそれを受け止め、すぐに態勢を立て直しますが、九州勢の後ろにいた古性選手や山田選手は、そのアオリをうけて少し勢いをそがれてしまいました。

最終バックストレッチ(写真提供:チャリ・ロト)

 先頭で逃げ粘る新山選手を、体勢を立て直した嘉永選手が追う態勢で、最終2センターを通過。内から佐藤選手が再び嘉永選手を止めにいこうとしますが、それを完全に乗り越え、嘉永選手が単独2番手となって最後の直線を向きます。佐藤選手は嘉永選手の直後に入り込み、松岡選手はその後ろの位置に。空いた最内のスペースを、松本選手が突きます。

 嘉永選手は、直線に入ったところで新山選手を捉えて先頭に。佐藤選手や松岡選手、松本選手は伸びがなく、かわって外を回った古性選手と山田選手がいい脚で伸びてきます。しかし、先頭に立った嘉永選手はセーフティーリード。中団から力強く捲りきった嘉永選手がそのまま押し切り、通算3度目となるGIII優勝を決めてみせました。

とにかく嘉永の調子がよくて強かった

 最後の直線で鋭く伸びて2着に食い込んだのが、古性選手マークの山田選手。3着は古性選手で、珍しく後方に置かれる展開となったことや、最後の伸びで山田選手に見劣ったことなどから考えるに、やはり調子はよくなかったのでしょう。逃げた新山選手は、末を欠いて7着という結果。大記録達成が期待された郡司選手は、最下位という残念な結果に終わっています。

 郡司選手については、松本選手を入れるか引くかで迷い、絡みながらの併走となったのがキツかったですね。それにしても負けすぎで、やはりデキがそこまでよくなかったのも背景にあると思います。それは新山選手も同様で、いいときならばもっと粘れていますよね。競輪ダービーにピークをもっていこうとすると、残り1か月を切ったこの時期は、確かに調整が難しいんですよ。

 そんななか、ひときわ目立つデキのよさを感じさせていた嘉永選手。今年の夏には熊本競輪場が復活を果たすことや、2025年度の全日本選抜競輪(GI)が熊本で開催されると発表されたことなどが、モチベーションの高さにもつながっているのでしょう。展開が向いた面があったとはいえ、この強い相手に完勝してみせたのですから、文句なしに強い内容。心身ともに充実しているのでしょうね。

 今年の川崎記念は「とにかく嘉永選手の調子がよくて強かった」というひと言に、すべてが集約されそう。とはいえ今後は、調子がよくないときにも安定した結果を出せるようになることが求められてきます。新山選手や郡司選手、古性選手などは、ここから競輪ダービーまでの期間に、どれだけ調子を上げられるかの勝負となりそうですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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