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山田裕仁のスゴいレース回顧

【よさこい賞争覇戦 回顧】競輪にも“コース適性”はある

2024/04/15 (月) 18:00 60

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが高知競輪場で開催された「能支・万協よさこい賞争覇戦」を振り返ります。

よさこい賞争覇戦を制した阿部将大(写真提供:チャリ・ロト)

2024年4月14日(日)高知12R 「能支・万協よさこい賞争覇戦」(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①犬伏湧也(119期=徳島・28歳)
②新山響平(107期=青森・30歳)
③深谷知広(96期=静岡・34歳)
④永澤剛(91期=青森・38歳)
⑤坂井洋(115期=栃木・29歳)
⑥⑥大坪功一(81期=福岡・46歳)
⑦清水裕友(105期=山口・29歳)
⑧阿部将大(117期=大分・27歳)
⑨佐藤慎太郎(78期=福島・47歳)

【初手・並び】
←①⑦(中四国)⑧⑥(九州)②⑨④(北日本)③(単騎)⑤(単騎)

【結果】
1着 ⑧阿部将大
2着 ⑦清水裕友
3着 ⑤坂井洋

難しい高知バンク、戦略や戦術にも影響

 4月14日には高知競輪場で、よさこい賞争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。4名が出場していたS級S班を筆頭に、なかなかいいメンバーが揃った記念。これからの中四国勢を背負う存在である、犬伏湧也選手(119期=徳島・28歳)も出場していました。層が厚かったのは、新山響平選手(107期=青森・30歳)と佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)を擁する北日本勢でしょうか。

 犬伏選手と新山選手は、まずは初日特選で激突します。前受けから突っ張り先行に持ち込んだ新山選手に対して、犬伏選手は得意のカマシで勝負。有利な展開をモノにしたのは北日本勢でしたが、このレースを制したのは、中団から捲って最後の直線でも外からいい伸びをみせた清水裕友選手(105期=山口・29歳)でした。清水選手は今年に入ってから、安定した成績を残し続けていますね。

清水裕友(写真提供:チャリ・ロト)

 4名のS級S班はキッチリと決勝戦まで勝ち上がり。なかでも、深谷知広選手(96期=静岡・34歳)はなかなかの好気配だったと思います。しかし、決勝戦では連係する相手がおらず、単騎での勝負に。同じく坂井洋選手(115期=栃木・29歳)も、決勝戦では単騎勝負となりました。どちらも自力がある選手ですから、展開ひとつ、立ち回りひとつで優勝争いに持ち込むことができるでしょう。

坂井洋(写真提供:チャリ・ロト)

 問題は「どちら」が主導権を奪うのか? 地元地区である中四国勢は、二次予選と準決勝を連勝してここに駒を進めた、犬伏選手がラインの先頭を務めます。勝ち上がれなかった地元・高知の選手のぶんまで、ここは奮闘を期待したいところです。その番手を回るのは、準決勝でも犬伏選手と連係していた清水選手。準決勝では犬伏選手を差せませんでしたが、デキはけっして悪くありません。

 3名が勝ち上がった北日本勢は、当然ながら新山選手が先頭。番手を回るのは、先日の川崎記念に続いての決勝戦進出となった佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)です。そして、ライン3番手を永澤剛選手(91期=青森・38歳)が固めるという隊列。新山選手はここまで1着がありませんが、2番車ならばスタートを取って前受けし、初日特選と同様に突っ張り先行に持ち込むことも可能。この総合力の高さは、やはり魅力的です。

 このシリーズでの「台風の目」的な存在だったのが、九州ライン先頭を任された阿部将大選手(117期=大分・27歳)でしょう。初日から1着、2着、1着で勝ち上がり、2着となった二次予選も、後方からの捲りで犬伏選手をよく追い詰めていました。デキもいいのでしょうが、それ以上に高知の500mバンクとの相性がいいというか。その番手は、大坪功一選手(81期=福岡・46歳)が回ります。

阿部将大(写真提供:チャリ・ロト)

 ここでちょっとだけ脱線すると、私は仕掛けどころが難しいこの高知バンクが、どちらかといえば苦手な部類だったんですよ。この展開、この脚の残り方ならば捲れる…と思っても、自分が考えているようには伸びず、前を捉えきれなかったりするんですよね。いわば、自分の感覚との“誤差”が出やすいバンクとでもいいますか。500mバンクながら、最後の直線が長いわけではないというのも、そう感じる理由かもしれません。

 高知バンクを「難しい」と感じるのは私だけではないはずで、それは決勝戦での戦略や戦術にも影響してくるでしょうね。犬伏選手はいったん引いてからのカマシのほうが得意ですが、ここは積極的に主導権を奪いにくる可能性が高そう。新山選手も主導権を奪って、唯一の3車ラインという“数の利”を生かすレースをしたいでしょうから、初手の並びがどうなるかが超重要。まずは、そこに注目しましょう。

号砲が鳴り、いい飛び出しみせる阿部将大

 では、決勝戦のレース回顧に入ります。レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのが8番車の阿部選手。いったんは完全に前に出ますが、内から追いかけてきた1番車の犬伏選手を前に出して、自分はその直後に収まりました。これで中四国勢の前受けが決まって、直後の3番手に阿部選手。北日本ライン先頭の新山選手は5番手となり、後方に単騎の深谷選手と坂井選手というのが、初手の並びです。

 その後はとくに動きがないまま周回が進み、赤板(残り2周)を通過。後方の単騎勢が動くケースもあるかと思っていましたが、赤板後の1センターを通過してバックストレッチに入っても、動きはありません。最初に動いたのは北日本勢で、新山選手は打鐘の手前から前に踏み込んで加速。しかし、それを振り返って確認した犬伏選手は、合わせて踏んで突っ張り先行の態勢に入ります。

打鐘過ぎ2センター(写真提供:チャリ・ロト)

 いったんは清水選手の外まで浮上した新山選手ですが、犬伏選手が突っ張ったことで素直に引いて、後方に下げます。その間に、後方にいた単騎の深谷選手と坂井選手はポジションを上げて、中団の位置を確保。新山選手は後方7番手となって、一列棒状となって最終ホームに帰ってきます。突っ張った犬伏選手は、新山選手が引いてくれたのもあって、流しつつ最終ホームを通過。そしてここから、一気に全力モードにシフトします。

最終ホームストレッチ(写真提供:チャリ・ロト)

 一気にペースが上がり、一列棒状のままで最終1センターを回って、最終バックストレッチに進入。清水選手は犬伏選手との車間をきって、後方の仕掛けを待ち構えながら追走します。しかし、犬伏選手の逃げがかかっているのもあって、後続が前との差をなかなか詰められない。最終バック通過時もまだ一列棒状のままで、後方に置かれる展開となってしまった新山選手は、もうこの時点でかなり厳しいですよね。

 最終3コーナーから5番手の深谷選手が仕掛け、そのスピードに乗って坂井選手も追撃しますが、絶好の展開となった清水選手は余力十分。犬伏選手の脚色が鈍り始めたのみて、清水選手は最終2センターで外に出して、差しにいく態勢に入ります。その直後に阿部選手で、大坪選手は空いている内を突くカタチで最終4コーナーを回って、最後の直線へ。中団から捲った深谷選手も、イエローライン付近を伸びてきます。

最終4コーナー(写真提供:チャリ・ロト)

 最後の直線に入ったところで、清水選手は犬伏選手を捉えて先頭に。しかし、その外から襲いかかった阿部選手がグイグイ伸びて、清水選手に並びかけます。犬伏選手は力尽きて失速し、内からは大坪選手、外からは深谷選手と坂井選手が前を追いすがりますが、先頭を争う2車までは届きそうにない。ジリジリと差を詰める阿部選手が清水選手の外に並び、ゴール直前のハンドル投げ勝負となりました。

ゴールの様子(写真提供:チャリ・ロト)

競馬は「コース適性」が、競輪には「バンク適性」がある

 最後の最後、ほんの少しだけ前に出ていたのは、外の阿部選手のほう。絶好の展開をモノにした清水選手を捉えきるというジャイアントキリングで、通算二度目のGIII勝利を決めてみせました。僅差の2着が清水選手で、3車が横に広がっての3着争いを制したのは、最後の伸びが際立っていた坂井選手。北日本勢はまったく存在感を発揮できず、新山選手は後方のまま7着という結果に終わっています。

 注目の主導権争いは前受けから突っ張った犬伏選手の勝利で、自分が得意とする戦法をやられて大敗を喫した新山選手は、さぞかし悔しかったことでしょう。新山選手の敗れ方がいささか淡白なものに感じた方が多かったと思いますが、突っ張られて引いたときにはおそらく、「高知の500mバンクであればまだ仕掛けるチャンスが巡ってくる」と考えていたのだと思いますよ。

高知競輪場(写真提供:チャリ・ロト)

 しかし、最終ホームで犬伏選手が全開モードにシフトしてからは、力尽くでねじ伏せるしかない状況に。そして、それをやるにはポジションが悪すぎたし、それができるデキにもなかったということでしょう。こういった「仕掛けどころを迷わせる難しさ」が、高知バンクにはある。自力選手はもちろん、マーク選手にとってもタイミングを狂わされるような面がある、なかなか手強い競輪場なのです。

 そんな高知バンクで、まさに水を得た魚のような強さを見せた阿部選手。調子のよさもあったのでしょうが、いわば「バンク適性」の高さが何よりも大きかったという印象を受けました。阿部選手は、準決勝でも初手から動いてポジションを取り結果を出していたのですが、この決勝戦でも主導権を奪った中四国勢の直後につけるという好判断をみせています。本当に、何もかもうまくいっているんですよね。

 二度のGIII優勝がいずれも高知という相性のよさで、シリーズのなかでは「踏めば踏むだけ前に進む」といったコメントもしていた阿部選手。こんな難しいバンクが得意というのは、苦手意識のある私からすると信じられない話ですよ(笑)。しかし、文句なしの展開となった清水選手をねじ伏せたのですから、これはもう認めざるをえない。高知での阿部選手は別モノだと、しっかり覚えておいたほうがいいですね。

 このように、競輪選手には得意とするバンクや苦手とするバンクがある。ちなみに私は静岡競輪場や、もう廃止となってしまった兵庫県の西宮競輪場と、なぜか相性がよかったんですよ。西宮は球場のグラウンドに無理やり設置されたような特殊なバンクで、段差があって揺れるうえにスピードも乗らないので、苦手としていた選手が多かったと思います。でも私は、自分でも不思議なほど得意だったんですよ。

 競馬では「コース適性」が重要な予想ファクターとして扱われていますが、じつは競輪の世界でも同様に、バンク適性があるのです。どこかの競輪場をホームにして定点観測していると、そのバンクの特性はもちろん、得意な選手や苦手な選手も少しずつわかってくるはず。競輪の世界でコレを把握しているファンの人は少ないでしょうから、覚えておくと美味しい車券にありつけると思いますよ!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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