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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ウィナーズカップ 回顧】今回は「競輪」で優勝した脇本雄太

2024/03/25 (月) 18:40 59

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが取手競輪場で開催された「第8回ウィナーズカップ」を振り返ります。

ウィナーズカップを制した脇本雄太(写真提供:チャリ・ロト)

2024年3月24日(日)取手12R 第8回ウィナーズカップ(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①脇本雄太(94期=福井・35歳)
②清水裕友(105期=山口・29歳)
③深谷知広(96期=静岡・34歳)
④伊藤颯馬(115期=沖縄・24歳)
⑤坂井洋(115期=栃木・29歳)
⑥河端朋之(95期=岡山・39歳)
⑦古性優作(100期=大阪・33歳)
⑧窓場千加頼(100期=京都・32歳)
⑨北井佑季(119期=神奈川・34歳)

【初手・並び】

←⑧①⑦(近畿)②⑥(中国)⑨③(南関東)④(単騎)⑤(単騎)

【結果】

1着 ①脇本雄太
2着 ⑦古性優作
3着 ②清水裕友

ウィナーズカップ決勝の熱戦!全員が自力で勝負できる決勝メンバー

 3月24日には茨城県の取手競輪場で、第8回ウィナーズカップ(GII)の決勝戦が行われています。その名のとおり、主に選考期間における勝利数が多かった選手が出場権を得られるビッグレースで、当然ながらマーク選手よりも、自力のある機動型のほうが多く出場してきます。いつもはラインの先頭を走っている選手が、番手や3番手を回るようなケースが出てくるのも、この大会の特徴ですね。

 それだけに「動き」のある展開が多くなり、見応えのあるレースも多かったと思いますが、落車が多かったのはやはり残念です。いつも言っていることですが、車券を買って応援してくれるファンをいちばんガッカリさせるのが、落車という結果ですから。それに言うまでもなく、選手も大きなダメージを負います。ビッグの舞台でシビアな勝負をしている以上、ある程度は仕方がないとはいえ…ちょっと多すぎでしょう。

 S級S班は、病気欠場した山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)をのぞく8名が出場。2レースが組まれた初日の特別選抜予選は、いずれもS級S班のワンツー決着でしたね。1着をとった脇本雄太選手(94期=福井・34歳)は悪くないデキにあるようで、深谷知広選手(96期=静岡・34歳)はかなり調子がよさそうな印象。しかし、このシリーズで誰よりもデキのよさを感じさせたのは、窓場千加頼選手(100期=京都・32歳)でした。

脇本雄太(写真提供:チャリ・ロト)

 窓場選手は一次予選と二次予選を連勝し、古性優作選手(100期=大阪・33歳)の前を任された準決勝でも、古性選手に差させず連勝を伸ばします。森田優弥選手(113期=埼玉・25歳)の斜行で3車の落車があったとはいえ、あの展開で差されていないのだから本当にデキがいいのでしょう。調子を上げてきていた印象の眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)は、このレースで落車して残念ながら敗退となりました。

古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

 準決勝では、松浦悠士選手(98期=広島・33歳)も落車で敗退。左手の指を骨折とのことで、復帰までには相応の時間を要するようですね。そんな激しい戦いを勝ち抜いて決勝戦まで駒を進めてきたのは、「高い能力のある選手」と「調子のいい選手」ばかり。ここまでに名前をあげていないところでは、清水裕友選手(105期=山口・29歳)や伊藤颯馬選手(115期=沖縄・24歳)もかなりいいデキだったと思います。

 3名が勝ち上がった近畿勢は、窓場選手が先頭を任されました。番手を回るのが脇本選手で、3番手を固めるのが古性選手という、なかなかお目にかかれない並びです。中国勢は、清水選手が前で、番手に河端朋之選手(95期=岡山・39歳)という組み合わせ。南関東勢は、北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)が先頭で、深谷選手が番手を回ります。単騎勝負が、伊藤選手と坂井洋選手(115期=栃木・29歳)ですね。

窓場千加頼(写真提供:チャリ・ロト)

 出走する全員が自力で勝負できるという、いかにもウィナーズカップらしい決勝戦のメンバー構成。窓場選手は徹底先行型ではありませんが、脇本選手の前を走るとなれば、ここは「なにがなんでも主導権を奪う」のが青写真でしょう。それに対して、先行に強いこだわりを持つ南関東ライン先頭の北井選手が、どのようなレースを仕掛けてくるのか。まずは、初手でどう動いてくるかがポイントとなります。

初手の並びは「車番通り」に

 それではそろそろ、決勝戦のレース回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、素晴らしい飛び出しをみせたのが7番車の古性選手。見事に外枠からスタートを取りきって、近畿ラインの前受けを確定させました。その直後4番手には清水選手がつけて、北井選手は6番手。そして後方に単騎の伊藤選手と坂井選手というのが、初手の並びです。結果的には「車番通り」ですね。

 おそらく南関東勢も前受けからレースを組み立てたかったと思いますが、それは叶わず後ろ攻めに。窓場選手が前を簡単に斬らせてくれるわけがありませんから、北井選手は立ち回りが一気に難しくなります。突っ張られるとわかっていて赤板の手前から前を抑えにいくのは、リスクとリターンが釣り合わない。少ない選択肢のなかで何が最善手なのかを、北井選手は必死に考えていたことでしょう。

赤板(写真提供:チャリ・ロト)

 とくに動きがないまま周回が進み、レースは赤板(残り2周)を通過。後方の北井選手が前へと進出を開始したのは、赤板後の1センターからでした。一気にカマシて主導権を奪いにいくのではなく、前との差を少しずつ詰めていった北井選手。しかし、後方の動きを待ち構えていた先頭の窓場選手は、一気に前へと踏み込んでペースアップ。予定通りの突っ張り先行で、主導権を奪いにいきました。

赤板過ぎ(写真提供:チャリ・ロト)

 北井選手が脇本選手の外に並んだところで、レースは打鐘を迎えます。このあたりから北井選手も全力モードにシフトしますが、先頭の窓場選手はそれを寄せ付けないスピードで先頭をキープ。脇本選手の外を北井選手が併走するカタチのまま、最終ホームに帰ってきました。ここで、古性選手が外にいた深谷選手をブロック。それと同時に、南関東勢の後ろに切り替えていた伊藤選手が、単騎で前に襲いかかりました。

最終ホームストレッチ(写真提供:チャリ・ロト)

 素晴らしい奪取で先頭との距離を一気に詰めた伊藤選手は、最終1センターで北井選手の前まで進出。深谷選手は古性選手のブロックで、北井選手との連係を外してしまっています。その外を今度は坂井選手も仕掛けて上がっていくなど、一気に動きが激しくなってバックストレッチへ。力尽きた窓場選手を捲りきって、伊藤選手が先頭に立ちます。ここで脇本選手は、伊藤選手の後ろに切り替えました。

 脇本選手の外には、再び北井選手が併走。その後ろからは、単騎で捲った坂井選手と、その後ろに切り替えた清水選手が前を追います。清水選手は最終バック手前で仕掛けて、坂井選手のさらに外から前を捲りに。先頭の伊藤選手、その直後に脇本選手と北井選手が並び、さらにその後ろには古性選手と坂井選手と清水選手が並ぶという隊列となって、レースは勝負どころに突入します。

勝負どころで見せた古性の“仕事”

 ここで素晴らしい“仕事”をしたのが古性選手。3番手から加速しつつ、脇本選手と北井選手の狭い隙間にスッと入っていって、外の北井選手を軽くブロックします。これによって大きな影響を受けたのが、北井選手の外にいた清水選手。スピードに乗って捲ってきたところで、北井選手との接触を避けるために、イエローラインの外まで張られたようなカタチになってしまいました。

 古性選手が動いて空いたスペースを狙って、内に斬り込んだ坂井選手。先頭では伊藤選手がまだ踏ん張っていますが、さすがに余力は残っていないでしょう。ブロックから戻ってきた古性選手が坂井選手の外につけて、その外に伊藤選手を差しにいった脇本選手という隊列で、最終2センターを回って最後の直線へ。北井選手はここで失速し、態勢を崩された清水選手は、脇本選手の後ろから前を追います。

最終3コーナー過ぎ(写真提供:チャリ・ロト)

 直線の入り口で、一瞬にして伊藤選手を抜き去った脇本選手。その後ろからは、古性選手が内をついてグイグイと伸びてきます。しかし、脇本選手もまったく譲らず、その差がなかなか詰まりません。外からは清水選手も追いすがりますが、こちらも前との差はほとんど詰まらないまま。結局、ゴール前でも隊列は大きく変わることなく、脇本選手が先頭でゴールラインを駆け抜けました。

この一戦で垣間見た「競輪」の面白さ、奥深さ

 2着に古性選手で、3着に清水選手。4着には、最後に外からよく差を詰めた、清水選手マークの河端選手が入りました。見せ場十分だった伊藤選手は、最後に失速して5着という結果。北井選手は7着で、連係を外して最後方に置かれた深谷選手は、見せ場なく8着に終わっています。ライン戦は、窓場選手の果敢な走りで主導権を奪った、近畿勢の完全勝利。そして、S級S班が上位を独占というレース結果でもあります。

 脇本選手は、ライン先頭の窓場選手と、3番手でいい仕事をした古性選手に大きく助けられての優勝。「ラインのおかげ」と心の底から思える、脇本選手にとってあまり経験のないカタチの優勝だったのではないでしょうか。とはいえ、勝負を決めにいったときにみせた加速の鋭さは、さすが脇本選手といえるもの。近畿勢でワンツーを決められたことで、ホッとする気持ちもあったでしょうね。

左より古性優作、窓場千加頼、脇本雄太(写真提供:チャリ・ロト)

 古性選手は惜しくも2着という結果でしたが、ヨコの動きで南関東勢の連係を断ち、さらに清水選手にも大きく外を回らせるという珠玉の働き。常にベストを尽くすその姿勢には、本当に頭が下がりますよ。清水選手も、うまく流れに乗っていいタイミングで仕掛けられたと思いますが、古性選手にしてやられたといったカンジでしょうか。それでも、清水選手らしいアグレッシブな走りができていましたよ。

 北井選手については、自分の得意とするカタチに持ち込めなかったのがやはり大きい。とはいえ、今回はこういった展開となることが十分に考えられたメンバー構成。それを想定に入れた上で、次善の策としてどのような手を打つのかという逃げ方の“幅”が、もう少し必要かもしれませんね。それに、松山記念でみせたような超抜級のデキにはなかったというのも、中途半端な走りとなった背景にあったのかもしれません。

 あとは、競輪の基本である「内有利」を改めて感じましたね。流れを見据えながらの外併走だったとはいえ、あのカタチから近畿勢に立ち向かうのは、深谷選手が連係を外していなかったとしても難しい。相手が格下ならばともかく、絶好調の窓場選手と輪界のトップ選手2名の連係ですからね。戦力的に五分ならば内が勝つのが、競輪というもの。これも、前受けからの突っ張り先行が強い理由のひとつです。

 窓場選手の走りについては、「惜しいな」と感じた方も多かったかもしれません。確かにあの素晴らしいデキならば、自身がもっと優勝に近づくような走りもできたことでしょう。それは、誰よりも本人がいちばんよくわかっているんですよ。であるにもかかわらず、巡り合わせによっては納得づくで、ラインから優勝者を出す走りに徹することもある。これが「競輪」という競技の面白さであり、奥深さでもあるのです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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