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山田裕仁のスゴいレース回顧

【全日本選抜競輪 回顧】めざましい成長を遂げている北井佑季

2024/02/13 (火) 18:00 75

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが岐阜競輪場で開催された「読売新聞社杯全日本選抜競輪」を振り返ります。

全日本選抜競輪で優勝した郡司浩平(写真提供:チャリ・ロト)

2024年2月12日(月)岐阜12R 第39回読売新聞社杯全日本選抜競輪(GI・最終日)S級決勝

※左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①新山響平(107期=青森・30歳)
②古性優作(100期=大阪・32歳)
③清水裕友(105期=山口・29歳)
④浅井康太(90期=三重・39歳)
⑤松谷秀幸(96期=神奈川・41歳)
⑥北井佑季(119期=神奈川・34歳)
⑦南修二(88期=大阪・42歳)
⑧山田英明(89期=佐賀・40歳)
⑨郡司浩平(99期=神奈川・33歳)

【初手・並び】
←②⑦(近畿)③⑧(混成)①④(混成)⑥⑨⑤(南関東)

【結果】
1着 ⑨郡司浩平
2着 ③清水裕友
3着 ⑥北井佑季

荒れに荒れた今年最初のGI

 さて、早くも今年最初の特別競輪がやってきました。岐阜競輪場を舞台に開催された、全日本選抜競輪(GI)。2月12日には、その決勝戦が行われています。最近の特別競輪の常とはいえ、このシリーズも本当によく荒れましたよね。最終日も、3連単が万車券にならなかったのはたったの3レースだけ。予想や解説をする側としても、たいへん難しいシリーズとなりました。

 落車後でデキに不安が残る脇本雄太選手(94期=福井・34歳)や、1月に練習で骨折している眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)など、S級S班に本調子を欠いている選手が多かったシリーズ。地元代表である山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)も、インフルエンザで体調を崩した直後とのことで、動きがピリッとしませんでしたね。結局、決勝戦まで駒を進めることができたS級S班は、3名だけでした。

“超抜級のデキ”で3連勝の北井佑季(写真提供:チャリ・ロト)

 そんな混戦模様のシリーズにあって、超抜級のデキをみせつけていたのが、北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)。一次予選を逃げ切って快勝すると、非常に強い相手との対戦となった二次予選と準決勝でも1着をとって、無傷の3連勝で決勝戦進出を決めています。このデキならば勢いに乗ってのタイトル奪取もなくはない…と感じさせるほどの強さで、まさに「台風の目」だったといえるでしょう。

3連勝の北井佑季、3連覇かかった古性優作

 S級S班からの勝ち上がりは、古性優作選手(100期=大阪・32歳)と清水裕友選手(105期=山口・29歳)、新山響平選手(107期=青森・30歳)の3名。昨年と一昨年の覇者でもある古性選手は、3連覇という大記録がかかります。今年に入ってからの好調ぶりが目立つ清水選手は、1着こそ取れていませんが、やはり動きのよさが目立っていました。ここも、清水選手らしいアグレッシブな走りが期待できそうです。

 逆に、決勝戦での立ち回りがちょっと難しいメンバーとなったのが新山選手。というのも、北日本の選手が勝ち上がれず、決勝戦では浅井康太選手(90期=三重・39歳)と即席コンビを組むことになったからです。1番車を得たとはいえ、他地区との連係となると、得意とする「前受けからの突っ張り先行」はやりづらい。ここは、うまく中団で立ち回っての捲り勝負を選ぶ可能性のほうが高いでしょう。

即席コンビを組んだ新山響平(左)と浅井康太(写真提供:チャリ・ロト)

 最多となる3名が勝ち上がった南関東勢は、絶好調の北井選手が先頭で、その番手を回るのは郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)。北井選手がすんなりと主導権を握るような展開になれば、郡司選手は大チャンスでしょう。ライン3番手を固めるのは、41歳にして初となる特別競輪の決勝戦進出を決めた松谷秀幸選手(96期=神奈川・41歳)。この並びならば、展開次第で松谷選手にも勝機が巡ってきそうですね。

 2名が勝ち上がった近畿勢は、古性選手が前で番手に南修二選手(88期=大阪・42歳)という組み合わせ。古性選手は準決勝でも、郡司選手の内をすくって捌くという相変わらずの巧さをみせていました。現在の輪界ナンバーワンといえる総合力の高さで、ここも臨機応変に立ち回ってくるでしょう。同地区で安心して後ろを任せられる南選手との連係は、古性選手にとっても心強いはずですよ。

 そして中四国勢は、清水選手が先頭で番手に山田英明選手(89期=佐賀・40歳)。ここは「南関東勢に楽な展開をつくらせない」が自分たちが勝つ必要条件となるので、清水選手や古性選手あたりは、南関東勢の分断を狙ってくる可能性もあるでしょうね。主導権を奪うラインの直後が取れれば、いまの清水選手のデキならば好勝負必至。それだけに、立ち回りの巧さが求められるレースになることでしょう。

初手は近畿勢の前受けに

 前置きが長くなりましたが、そろそろ決勝戦のレース回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると、内の枠番を引いた選手が揃って出ていきました。おそらく、南関東勢がスタートを取りにくることを誰もが警戒していたのでしょう。スタートを取ったのは2番車の古性選手で、近畿勢の前受けが決定。その直後の3番手に清水選手、5番手が新山選手で、南関東勢の先頭である北井選手は後方7番手となりました。

初手
初手は南関3車が後方(写真提供:チャリ・ロト)

 後方の北井選手が動き出したのは、青板(残り3周)周回の3コーナーから。ゆっくりとポジションを押し上げていきますが、赤板(残り2周)の手前で機先を制して動いたのが清水選手。先頭の古性選手を最初に斬って、先頭に立ちます。古性選手は突っ張らず、中四国ラインの後ろにシフト。その直後、今度は北井選手が清水選手を叩いて、先頭に躍り出ました。清水選手が4番手、古性選手が6番手となります。

新山がカマすも北井が番手にはまる格好

 そのままの隊列でレースは打鐘を迎えますが、ここで動いたのが後方の位置取りとなっていた新山選手。打鐘後の3コーナーから一気にカマシて前に襲いかかりますが、番手にいた浅井選手とは呼吸が合わず、浅井選手は離れて連係を外してしまいます。古性選手もここで動いて、新山選手を必死に追う浅井選手の後ろに。新山選手はそのままグングンと加速して、最終ホームでは北井選手の前に出て先頭に立ちました。

最終HS
最終ホームで北井佑季(6番車)が新山響平(1番車)の番手に収まる(写真提供:チャリ・ロト)

 労せず新山選手のハコが巡ってきたのですから、北井選手にとって願ってもない展開。新山選手と離れた浅井選手は郡司選手の外を併走し、その直後に古性選手がつけるという隊列で、最終1センターを回ります。北井選手は、新山選手との車間をきって追走。松谷選手の後ろは清水選手、浅井選手、古性選手がもつれていますが、バックストレッチに入ったところで清水選手が前に出て、単独5番手の位置を確保します。

北井と清水が同時に仕掛ける

 北井選手は最終バック手前から新山選手との差を詰めていって、番手から捲る態勢に。時を同じくして仕掛けたのが清水選手で、ここで前を捲りにいきました。その後方では古性選手も仕掛けますが、もつれたところから抜け出すのに時間を要して、前の集団とは車間があいてしまっている状況。そして最終3コーナー、北井選手が番手から発進して、先頭の新山選手に襲いかかりました。

最終BS
最終BS、新山響平(1番車)の番手から北井佑季(6番車)が発進(写真提供:チャリ・ロト)

 新山選手も踏ん張りますが、もう脚に余裕はない様子。最終2センター過ぎで北井選手が先頭に立ち、その番手にいた郡司選手も少し外に出して、差しにいく態勢を整えます。その外には、5番手からいい加速をみせる清水選手。郡司選手の内では松谷選手がインの進路を締めつつ追走し、その直後には後方から差を詰めてきた古性選手が忍び寄っている態勢で、最後の直線へと入ります。

壮絶な大接戦制したのは郡司浩平

 番手捲りから先頭に立った北井選手の外から、郡司選手と清水選手が猛追。その狭い隙間を狙って、古性選手もグングンと伸びてきます。ゴール直前では郡司選手が北井選手を捉えて前に出ますが、外の清水選手も負けじと伸び返して、最後はハンドル投げ勝負に。この大接戦を制して先頭でゴールラインを駆け抜けたのは、絶好の展開を見事モノにした郡司選手でした。

ゴール
ゴール前勝負は僅差で郡司浩平(9番車)が制した(写真提供:チャリ・ロト)

 僅差の2着が清水選手で、大接戦となった3着争いは内の北井選手がギリギリ残していましたね。3連覇のかかっていた古性選手は、残念ながら4着に終わったとはいえ、最後の伸びは素晴らしいものでした。あの位置から、よくここまで挽回してみせたものですよ。5着は松谷選手で、ライン戦は展開にも恵まれた南関東勢の勝利。郡司選手が底力で押し切ったとはいえ、この優勝は北井選手の貢献大です。

 巧い立ち回りで南関東勢の直後を取りきった清水選手は、悔しい2着。仕掛けてからの伸びも抜群で、一気に突き抜けるかとも思われましたが、ねじ伏せられませんでしたね。しかし、今日のレースでみせた強さは文句なしで、いまは本当にデキがいい様子。これなら、次に出走する予定の玉野記念でも大いに期待できるでしょう。今年ここまでの輪界を牽引しているのは、間違いなく彼ですよね。

34歳北井佑季はまだまだ伸び盛り

健闘を称え合う郡司浩平と北井佑季(写真提供:チャリ・ロト)

 北井選手も一瞬は夢を見たでしょうが、最後の最後で力及ばずという結果。とはいえ、特別競輪のメンバーを相手にこれだけやれたのですから、その成長は目を見張るものがあります。異色のキャリアでこの世界に入ってきた選手でもあり、34歳でもまだまだ伸び盛り。誰にも負けない豊富な練習量が、この急成長を支えているのでしょうね。北井選手の今後が、なおさら楽しみになりましたよ。

 結果的に上位を占めたのは、近況で調子のよさを感じさせていた選手ばかり。特別競輪のタイトルを獲るには、能力の高さはもちろん、デキのよさも欠かせないというのを改めて感じたシリーズでした。

南関地区の仲間たちに祝福される郡司浩平(写真提供:チャリ・ロト)

 そして、新田祐大選手(90期=福島・38歳)の「先頭誘導員早期追い抜き」での失格については…現行ルールである以上は仕方がないとしか言えないですね。これについては心の底から、一刻も早い是正を求めたいです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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