2024/02/05 (月) 18:00 71
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが静岡競輪場で開催された「たちあおい賞争奪戦争奪戦」を振り返ります。
2024年2月4日(日)静岡12R 開設71周年記念 たちあおい賞争奪戦争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①深谷知広(96期=静岡・34歳)
②小林泰正(113期=群馬・29歳)
③清水裕友(105期=山口・29歳)
④東矢圭吾(121期=熊本・25歳)
⑤神山拓弥(91期=栃木・37歳)
⑥佐藤壮(100期=千葉・32歳)
⑦寺崎浩平(117期=福井・30歳)
⑧大石崇晴(109期=大阪・31歳)
⑨郡司浩平(99期=神奈川・33歳)
【初手・並び】
←⑨①⑥(南関東)②⑤(関東)③(単騎)④(単騎)⑦⑧(近畿)
【結果】
1着 ③清水裕友
2着 ①深谷知広
3着 ⑥佐藤壮
2月4日には静岡競輪場で、たちあおい賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。ここに出場していたS級S班は、佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)と深谷知広選手(96期=静岡・34歳)、清水裕友選手(105期=山口・29歳)の3名。注目はやはり、地元代表である深谷選手でしょう。深谷選手は2020年に愛知から静岡へと移籍しましたが、その後はまだ地元記念を勝てていないんですよね。
そんな深谷選手は、豪華メンバーとなった初日特選を、主導権を奪った松井宏佑選手(113期=神奈川・31歳)の番手から抜け出して快勝。さらに二次予選、準決勝も1着で勝ち上がって、完全優勝に大手をかけました。しかも、郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)の番手を回った準決勝では、南関東ラインで上位を独占。3名が勝ち上がったことで、深谷選手の優勝ムードがさらに強まりました。
佐藤慎選手は惜しくも準決勝で4着に敗退となりましたが、清水選手は二次予選と準決勝をいずれも1着で勝ち上がって、決勝戦に駒を進めています。清水選手は今年に入ってから、大宮記念で優勝して川崎記念で決勝戦2着、そして今回の静岡記念でも決勝戦進出と、ずっと調子がいいんですよね。ただし今回は、誰も自分の後ろにつかない単騎での勝負に。これで強力な南関東勢にどう立ち向かうか、注目です。
3名が勝ち上がった南関東勢は、先頭が郡司選手で番手に深谷選手、そして3番手を固めるのが佐藤壮選手(100期=千葉・32歳)という、準決勝とまったく同じ並びに。郡司選手は1月の川崎記念を「深谷選手のおかげ」で優勝していますから、今回はその“恩義”を返すべく、ラインから優勝者を出す走りに徹する可能性が高いですよね。郡司選手クラスにそれをやられてしまうと、他のラインは本当に厳しいですよ。
2名が勝ち上がった関東勢は、小林泰正選手(113期=群馬・29歳)が「前」で神山拓弥選手(91期=栃木・37歳)が番手という組み合わせ。小林選手はこのところメキメキと力をつけてきている選手のひとりで、デキもかなりよさそうな印象を受けました。とはいえ、ここは相手が一気に強くなる。記念の決勝クラスでいまの力が通用するかどうかが、改めて問われる一戦となりそうです。
近畿勢も2車ラインで、先頭は寺崎浩平選手(117期=福井・30歳)で、その番手を大石崇晴選手(109期=大阪・31歳)が回ります。いいスピードを持っている寺﨑選手ですが、車番に恵まれず後ろ攻めからのスタートとなりそうなここは、レースの組み立てが非常に難しい。南関東勢が「前受けからの突っ張り先行」で勝負してきた場合、前を斬りたくとも簡単には斬らせてもらえませんからね。
そして、清水選手と同様に単騎勝負となったのが、記念の決勝は今回が初となる東矢圭吾選手(121期=熊本・25歳)。この相手で単騎だと厳しい勝負になるのは間違いなく、選択肢もけっして多くはありませんが、それでもなんとか存在感を発揮したいところ。調子自体はかなりよさそうですから、わずかな勝機を逃さないような、アグレッシブな走りを期待したいですね。
では、決勝戦のレース回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのが、1番車の深谷選手と5番車の神山選手。ここは内の深谷選手がキッチリとスタートを取りきって、南関東勢の前受けが決まります。その後ろの4番手に、関東ライン先頭の小林選手がつけました。清水選手が6番手で、7番手に東矢選手。そして、後方8番手に近畿ライン先頭の寺﨑選手というのが、初手の並びです。
南関東勢が前受けを選んだということは、郡司選手の突っ張り先行が濃厚。それがわかっている他のラインが、どういう「攻め」に出るか注目ですね。最初に動いたのは後方の寺﨑選手で、青板(残り3周)周回の3コーナーからゆっくりと進出を開始。それに合わせて4番手の小林選手も外に出して、いつでも動き出せる態勢にシフト。先頭の郡司選手は誘導員との車間をきって、待ち構えています
赤板(残り2周)通過に合わせて小林選手が踏み上げていきますが、郡司選手は突っ張って応戦。小林選手は無理に斬りにはいかず、そこで引いて元の位置に戻ろうとしますが、ここで機敏な動きをみせたのが、後方の位置となっていた清水選手です。内からスーッとポジションを押し上げ、内をしゃくるように南関東ラインの直後を確保。東矢選手も清水選手の動きに連動して、5番手に浮上します。
このタイミングで後方まで下げるわけにはいかない小林選手は、打鐘前のバックストレッチに入ったところで、東矢選手の外で併走状態に。先頭の郡司選手は、後ろの状況を何度も振り返って確認しつつ、スピードを上げていきます。内の東矢選手と外の小林選手が絡んだままで、レースは打鐘を迎えました。それと同時に動いたのが、最後方にいた寺﨑選手。一気に加速して、南関東勢を叩きにいこうとします。
しかし、先頭の郡司選手も打鐘と同時に踏み込んで全力モードに移行。仕掛けを合わされた寺﨑選手は、前との差をなかなか詰めることができません。それでもジリジリと差を詰めていき、最終ホームでは深谷選手の外まで進出。小林選手はここで、近畿勢の後ろに切り替えました。そのままの態勢で最終1センターを回りますが、深谷選手は郡司選手との車間をきりつつ、進路を少し外に出して寺﨑選手を牽制しました。
寺﨑選手は、残念ながらここで力尽きて失速。深谷選手は郡司選手との車間を2車身ほどきった状態のまま、バックストレッチに入ります。これは、深谷選手の「郡司選手をできるだけ残したい」という意識の表れですよね。その間隙をつく絶好のタイミングで仕掛けたのが、4番手の清水選手。素晴らしいダッシュで佐藤壮選手の外をパスして、最終バックで深谷選手の外まで進出します。
一気に余裕がなくなった深谷選手も、番手から発進。清水選手の少しだけ前に出た状態で、最終3コーナーに入っていきました。深谷選手をマークする佐藤壮選手の外には、清水選手の捲りに乗った東矢選手が進出。さらにその後ろには、小林選手の後ろから自力に切り替え、内を捌いてきた神山選手がつけています。先頭の郡司選手はここで力尽きて、深谷選手と清水選手が先頭で絡みながら最終2センターを回りました。
清水選手をギリギリ前に出させず、深谷選手が先頭で最後の直線へ。しかし、清水選手もそこに必死で食らいつきます。深谷選手の直後から、佐藤壮選手が内の狭いところに突っ込んでいこうとしますが、中を割って伸びてくるほどの勢いはなし。清水選手の直後から外に出した東矢選手も、直線では伸びを欠いています。S級S班の両者が真っ向勝負で激しくぶつかり合う、まさにデッドヒートとなりましたね。
最後の直線のなかばまで深谷選手が先頭を死守していましたが、最後の最後でグイッとひと伸びしたのは、外の清水選手のほう。深谷選手をねじ伏せた清水選手が先頭でゴールラインを駆け抜け、早くも今年2度目となる記念優勝を決めました。深谷選手は悔しい2着に終わり、3着は深谷選手マークの佐藤壮選手。佐藤壮選手も記念の決勝に乗るのは今回が初でしたから、これは大きな収穫でしょう。
直線でよく伸びた神山選手が4着で、5着は小林選手。清水選手の後ろから展開に乗った東矢選手は、伸びきれず6着に終わりました。東矢選手は見せ場こそ十分も、最後に力の差を見せつけられたという結果に。S級S班の強さを肌身で感じて、愕然としたかもしれませんね。しかし、さらに上を目指すならば、この悔しさを糧にして前に進むしかありません。それを繰り返して強くなるのが、競輪選手というものですから。
新しく乗り換えた自転車がいいというのもあるのでしょうが、それにしても今の清水選手は本当に強い。この勢いのまま、次の岐阜・全日本選抜競輪(GI)でも大活躍をみせてくれそうですよね。脇本雄太選手(94期=福井・34歳)は先日の落車もあって万全の状態ではないでしょうし、さらに眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)も練習での骨折明け。清水選手にとって、大きなチャンスが続きそうです。
この決勝戦については、清水選手の仕掛けが巧く、そして本当に強かった。深谷選手にとっては非常に悔しい結果だったでしょうが、郡司選手との強力な連係を清水選手にねじ伏せられたのですから、これはもう力負けだったと思うしかない。深谷選手の前に「中国ゴールデンコンビ」が立ちふさがるレースが続いていますが、そのリベンジをどの大舞台で果たすのか…というドラマにも期待したいですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。