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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

自分の力を冷静に受け止める脇本雄太 交差する自力最強の意地と将来への思い

2024/01/24 (水) 18:00 54

2024年の脇本雄太は大宮記念出場も、2日目を走り終えた後に体調不良で途中欠場となってしまった。いわき平記念で再始動を図る1年になるが、今年考えていることは何なのか。また、昨年の立川「KEIRINグランプリ2023」では何を狙い、レースの中でどんな判断をしていたのか。(取材・構成:netkeirin編集部)

撮影:北山宏一

グランプリ後、相棒のGI総ナメ発言に慎重な姿勢も

 グランプリ発祥の地・立川で行われた「KEIRINグランプリ2023」は北日本2人、中国2人、単騎3人で、脇本雄太(34歳・福井=94期)は古性優作(32歳・大阪=100期)とのタッグで挑んだ。新山響平(30歳・青森=107期)が前受けから突っ張り先行を確立した2023年。どうなるーー。

「作戦は色々と決めてはいました。単騎勢を入れない中団が一番良かった」

 が、深谷知広(34歳・静岡=96期)が瞬発力よく飛び出したこともあり、新山が前受け、3番手に深谷が続く形になった。その時は「単騎の誰かが前に入ったら一番後ろでと思っていた」と深谷の姿を見て、後方からを選択。「新山君が青板BSくらいから後ろを確認していたので、カマシを狙おう」と長い周回、勝負の時を見据えた

 タイミングが来たのは「前にいた単騎の2人が外に外したので、そこで外を踏もう」という打鐘が鳴る前。600メートルを超える距離でも、それがワッキーの勝負だった。無論、新山の動きを綿密にとらえていた。

「新山君はビジョンを見て、僕の動きを把握してくるんです。競輪祭でもありました。それに立川は1センターにビジョンがあるので、それを見ている目線を外して仕掛けようと思っていました。1センター辺りではわざわざボクを直接見なくて済むので。そこを通り過ぎないとタイミングはない」

 誤算は出切るところで「ホームでは古性君と2人で出切っているイメージでした。でもホームも取れていないんですよ、あのレースは」と新山を叩くまでに時間がかかってしまったこと。「出切るのに時間がかかった以上、あとは自分がやるべきことをするだけ」と懸命に踏み続けたが、脇本が8着、古性が4着という悔しい結果に終わった。

主導権を取って逃げ込みを図ったグランプリ(9番・紫)(撮影:北山宏一)

 古性はレース後、「2024年は近畿でGIを総ナメしたい」と標榜し、和歌山記念でもその意志を強調した。ただワッキーは「僕がそこについていけるかはわからない」と苦笑い。自分自身が何をできるのかを、また近畿勢がどう戦えるかを考える。和歌山では福井の後輩・寺崎浩平(30歳・福井=117期)の奮闘もあったが、「寺崎君にかかる負担が大きくなるのは良くない。自力選手だけじゃなく、後ろを回る選手も増えないと厳しい」と冷静にみる。

大宮、そしていわき平へ…今年も激闘へ身を投じる

 自身についても、安直な考えはない。

 昨年は8月に負った重傷を乗り越えた。脳裏をよぎった「今までの自力は望めないかも」は、克服した。だが「全体的に力が落ちているのはある」と感じている。自分に足りないもの、への真っすぐな視線が、ワッキーを冷静にする。

 昨年の競輪祭の決勝、を挙げた。グランドスラムという目標を見据えれば、ワッキーは全日本選抜と競輪祭を残す。特に競輪祭は大会自体を苦手としている。「今年の目標と言われれば、獲っていないタイトルを獲ること、なんですけど…」。競輪祭は特に、決勝で勝てる構成になりづらいのが悩みだ。

「でも古性君だったら、あの構成でも不利とは思わないと思うんです」

 別線が2段駆けでワッキーを後方に置いて…という構成がありがちだ。そこに対応できていないのは事実と自認する。まだ現状は自力での戦いが中心だが「自力がなくなってきたらその境地に行くと思う」と、位置取り、ヨコの意識を持つことは、いつか必要になる。

 自力の最強選手として両足を踏ん張りつつ、競輪の深さはわかっている。

 グランプリ激闘の後、すぐに2024年は大宮記念が控えていた。年末年始は「競輪選手をやっている以上、ないですね。初詣とかも行っていないな〜」と笑う。グランプリが終わると「31日には福井に帰って、元日にはトレーニング」と大宮記念に備えた。開催に入る時は元気だったものの、「前検日くらいから体調が良くなくて…」。

 初日を走り終え、夜には「熱が出てしまった」と明らかに変調していた。2日目は「番組も出ていたし、なんとか気持ちだけで」と上がりタイム13秒6でまくり、マークした浅井康太(39歳・三重=90期)には差されたもののワンツーで終えた。しかし「次の日に走ると迷惑をかけるだけ」と、どうにもならない状態だった。

 周囲の選手は、あれだけの走りだったので「ウソだろ」と欠場に驚いていたが、病院に行くとインフルエンザの診断だった。

 いわき平記念に向けて練習を再開し、「また北日本がいつものメンバーなんだよな〜」と苦笑い。厳しい戦いを見据えつつ、またここから、を誓う。その上で、もう自分だけの戦いではない。

「弟子が3人いて、福井の練習グループも人数が増えてきているんです。127期に合格した上杉有弘も弟子になる予定で、彼の兄の上杉嘉槻も一緒に練習しています」

 当コラムで何度も主張していることだが、「自分の経験を伝えていくことが使命」と自分の立場を任じている。先日は「妻と弟子が麻雀を打ってました」。そうした場を準備することも、師匠の考えがあってこそ。「オンとオフをしっかりすることも大事なんです。一番は、強くなる環境を作る、ということなんです」。マージャンを楽しむことも含め、そうした時間をすべて有意義につなげる考えなのだ。

「現役でいる間に作り上げて、形として残していきたい。えっ、弟子では誰が麻雀が強い? 岸田かな〜。大学時代に結構やっていたみたいでね、ワハハ!」

 また、福井からは市田佳寿浩さん(引退=76期)の息子の市田龍生都さんも合格した。「練習グループ的に一緒になるかは分からないけど、いつか連係? う〜ん、でも息子さんが絶対メチャクチャ緊張して、僕は重い気持ちになるんだよな〜、どうしよう」と楽しみながら、おびえてもいる。それが、本音だ。

「みんなで五輪を楽しみたい」オリンピアンとしての使命

 2024年、ワッキーにとってはまた特別な年になる。8月にパリで開催される五輪が待っている。リオデジャネイロ、東京で成し得なかったものが、日本に残っている。

「2月3日にラ・ピスタ新橋で、オーストラリアで行われているネーションズカップを解説するイベントをやるんです。五輪をどう楽しむか、を伝えるのも僕の使命だと思っているので」

※編集部注:脇本選手が登場する先着100名のイベントは即日満席になりました

 岐阜のGI全日本選抜を控えるが「僕ができることはすべてやる」と決めている。「どこでどうしているか、どうなっているか、は全部解説できるので」。直近の自転車競技の今を伝える役割を果たし、「盛り上げたい」ーー。

 五輪に出場する選手には「どう五輪に向かうか、ではなくて、現地でどう過ごすかをアドバイスしたい」と語気を強めた。世界各国からアスリートが集い、目の前で多種目の勝負が行われる。でも「他の競技を見ない、これが大事です」と意外なことを口にした。

「見ると気持ちが高ぶってしまうんです。同じ舞台で戦っている人に感情が乗っかっちゃうんです。それで緊張してしまう。東京五輪の時は、絶対に見なかった」

 そこまでしないと、自分の本来の力を発揮できない。現実を知るだけに、伝えておきたいことは、絶対に伝えたい。自身が、また今までの日本代表の選手たちが届かなかった場所にたどり着いてほしい、それが、ある。

 そんな1年が、始まっている。

撮影:北山宏一

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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