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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

帰ってきた脇本雄太「並びは決まってもいないし話してもいない」自然体でグランプリへ

2023/12/09 (土) 18:00 60

ワッキーが帰ってきた! 全治6か月と診断された右肋骨骨折、右肩甲骨骨折、肺気胸といった大ケガから、11月四日市記念で復帰。脇本雄太は脇本雄太らしさを失っておらず、続く競輪祭でも決勝進出と、現在の体で死闘を繰り広げた。グランプリ出場も決まり、約1か月をどう過ごすのか、気になる古性優作との前後は?(取材・構成:netkeirin編集部)

全治半年の診断だったが3カ月で戦線に復帰した(撮影:北山宏一)

復帰2戦目の競輪祭、準決後の疲労感が半端なかった

 あの大ケガから3か月弱。脇本雄太は四日市記念で復帰した。「オールスターで一緒にいた人たちが、『これはヤバい…』って話すくらいでしたから」。ケガをする前のような動きができるか、今までのように人気に応えられるか、不安を抱えつつだった。が、吹き飛ばした。

 前回のエントリーでは「不安が残る状態では復帰の決断はしない」と記している。復帰を決めた決定的要因は「練習を含めて何をやるにしても違和感がなくなった」から。肉体の戻り具合だけなら「寬仁親王牌にも間に合ってはいた。でも自分が納得できない状態では走れない」と欠場を決め、「より不安のない状態」で四日市へ向かった。

 初日特選でワッキーらしい打鐘先行。ただし「最低限のことはできたと思う」と、光を感じるまでではなかった。

「先行できる条件が色々と発生して先行できた。もがき合いもなかったですし」

 体の状態を確かめ、4日間を走り抜き、すぐに控えるGI競輪祭に向かった。「体の上積み自体は四日市からはできないので、後は精神面だけかな」と自分自身をコントロールして、小倉へ。問題は長い戦い。

「開催中に痛みが出るとかはなかったんですが、やっぱり6日間という長丁場をどう過ごすか、でしたね」

 ケガを治したばかりの体と、34歳という年齢。疲労が残ることが、一番感じた課題だった。特に、激戦の準決ーー。

「準決は納得がいくレースができたんです。その後の疲労がすごかった。すべてを出し切った感があったんですよ。深谷(知広)君も『決勝に上がらなきゃ』ってそこにかける気持ちはすごかったと思うし」

 自力の対戦相手は深谷、新田祐大に山崎賢人。「ナショナルで走ってきたメンバーが多いな…とは思いましたね。特に深谷君、新田さんとは東京五輪を目指して一緒だったメンバーじゃん!って」。その一戦を先行で、決勝への道を切り開いた。

競輪祭の準決勝はゴール前で差されて2着に終ったが、攻めの走りを見せた(写真撮影:チャリ・ロト)

 決勝は深谷の先行の前に、不発に終わった。「昨年の決勝には僕は乗っていないんですけど、昨年の北日本みたいな感じになるんだろうなと思っていた。何とか対策はしたいと思っていたんですが、前にいるのが深谷君なんで。疲れ自体も抜けきっていなかった」と8着に終わった。

 それにしても、深谷。高校時代から知る男で、従前から「僕が死ぬ気で先行しに行って、相手が同じようだった時に先手を取れないのは深谷」とワッキーは話している。

「まさにそれが現実になった感じですね」

 深谷の先行相手に後方は厳しく「中団で勝負しなきゃいけないところでしたが体が反応しなかった」。現状でできることは尽くしたが、今は完敗だった。「準決みたいに自分が納得できる走りができた後のダメージがすごい。その疲労を取れるかが課題ですが、今、こうという解決策はない」

 8月の大ケガの際には危ぶまれもしたグランプリ出場だが、無事に出場決定。いるべき場所に、今年もいる。競輪祭の後は「1週間くらいはゆっくりして、2週間くらい追い込んで、ですね」と想定は済んでいる。昨年は超抜のデキだったが「完全にグランプリに向けて仕上げていったのは昨年が初めて。ただナショナル仕込みの仕上げ方なので、競輪に合っているかはまだわからないんですけど」と、冷静だが、仕上げる。

 近畿は古性優作と2人。ある意味、考えることは何もない。

「連覇とか賞金とか、古性君もそうだと思うんですけどお互い、言い方は良くないかもしれないけどそういうのに関心がない、ハハハ。考えていることは、ベストを尽くして1着を目指そう、だけですね」

 古性は今年GIを3つ制覇。“最強”というフレーズが浮かんでくる。「ありますよ。最強感」。といっても「近くにいる時間も長いので」と変に遠くに感じることなどもちろんない。「自分が自力型の最強、古性君が自在型の最強とかいろいろとらえ方もあると思うんですけど、『自在としてこの動きはどう?』とか聞きますから。ジャンルの違う最強として」。認め合い、高め合っている。

最強の自在と最強の自力の2人。古性優作(左)との関係は熟成されている(撮影:北山宏一)

 古性は脇本がいるので“最強”とは全く感じないというが…。

 その2人。グランプリの前後は?どうしても気になる部分だ。競輪祭が終わってすぐは当然「決まってないし、話してもない」。呼吸がある。基本的には戦法を考えても脇本ー古性が普通。

「岸和田で合宿をする予定なんですが、そこで自然と決まると思う」

 その時の状態、気配で2人の間に見解が生まれる。無理に何かを想定して、ということもない。しかも「その合宿はどっちかっていうと若手を育てるためのものなんですよ」と話す。グランプリに出場する2人がいて、という場所だが、大事にするのはこれからの近畿。語気を強め「僕と古性君の2人が頑張っている…じゃいけない。やっぱり近畿が盛り上がらないと。引き継いでいく、というわけじゃないけど、若手を育てないといけないんです。」は、ワッキーのブレない信条だ。

 立川グランプリといえば2019年、逃げ切りだ!と思われた瞬間、佐藤慎太郎が強襲して2着だった。レース後のワッキーはしかし、楽しそうだった。

「僕自身納得できた走りでした。一番、僕自身が反省するところが1個もないレース。出し尽くした上での結果なので」

 あの時は、シンタロウを満面の笑みで祝福するばかりだった。「グランプリだからと特別なことは考えず、いつも通り頑張るだけ」。いつもの場所に戻ったワッキーがいる。

「なるべく早く戻ってこよう、と思ってやってきたのが…」

 病室でじっとしていた時間…、痛む体…、落車したレースについては「思い出せない」。今までで一番の重傷を何か所も…。しかし、戻ってきた。もう、笑顔だけでいい。立川で、そして2024年も…。

撮影:北山宏一

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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