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山田裕仁のスゴいレース回顧

【桜花賞・海老澤清杯 回顧】深谷知広と郡司浩平の強い“絆”

2024/01/22 (月) 18:00 46

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが川崎競輪場で開催された「桜花賞・海老澤清杯」を振り返ります。

郡司浩平(写真提供:チャリ・ロト)

2024年1月21日(日)川崎12R 開設74周年記念 桜花賞・海老澤清杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①松浦悠士(98期=広島・33歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・33歳)
③稲川翔(90期=大阪・38歳)
④福田知也(88期=神奈川・41歳)
⑤清水裕友(105期=山口・29歳)
⑥堀内俊介(107期=神奈川・34歳)
⑦深谷知広(96期=静岡・34歳)
⑧恩田淳平(100期=群馬・33歳)
⑨松谷秀幸(96期=神奈川・41歳)

【初手・並び】

←⑤①⑧(混戦)③(単騎)⑦②⑨⑥④(南関東)

【結果】

1着 ②郡司浩平
2着 ⑤清水裕友
3着 ①松浦悠士

4名ものS級S班が参戦、“主役”は地元代表・郡司浩平

 1月21日には神奈川県の川崎競輪場で、桜花賞・海老澤清杯(GIII)の決勝戦が行われています。約1年間の改修工事を終えて、昨年10月にリニューアルオープンした川崎競輪場。30年ぶりに全面改修されたことで、バンクは見違えるように綺麗になりましたよね。本場での記念シリーズは1年9カ月ぶりで、それを祝福するかのように、本場には本当に多くのファンが詰めかけていましたね。

リニューアルオープンした川崎競輪(写真提供:チャリ・ロト)

 KEIRINグランプリ2023の覇者である松浦悠士選手(98期=広島・33歳)は、ここから始動。大宮記念を体調不良で欠場していたので、身体の仕上がりが気になるところです。深谷知広選手(96期=静岡・34歳)と清水裕友選手(105期=山口・29歳)も要注目で、練習中の怪我で欠場となった眞杉匠選手(113期=栃木・24歳)にかわって、追加あっせんで佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)も出場と、出場メンバーも超豪華です。

 以上、4名ものS級S班がしのぎをけずるとはいえ、このシリーズの“主役”は地元代表である郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)ですよ。川崎記念を現在3連覇中と、地元記念にかける思いの強さはかなりのものです。初日特選は後方から捲った深谷選手が快勝し、松浦選手と郡司選手が2着同着という大接戦に。郡司選手はその後の二次予選と準決勝を連勝して、今年も決勝戦に駒を進めました。

 佐藤選手は残念ながら二次予選で敗退となりましたが、それ以外のS級S班は揃って決勝戦に進出。懸念された松浦選手のデキも、ライン3番手からよく伸びた準決勝での走りからみるに、そう悪くないように感じました。調子のよさが目立っていたのは初日特選を制した深谷選手で、郡司選手も自力で結果を出しているように上々の仕上がり。あとは、恩田淳平選手(100期=群馬・33歳)も絶好調といえるデキでしたね。

 地元・神奈川勢が4名も勝ち上がった結果、決勝戦は二分戦に。南関東ラインの先頭を任されたのは深谷選手で、ここは神奈川勢の前を回ります。番手が郡司選手で、3番手が松谷秀幸選手(96期=神奈川・41歳)。4番手が堀内俊介選手(107期=神奈川・34歳)で5番手を固めるのが福田知也選手(88期=神奈川・41歳)と、南関東は5車連係の必勝態勢で勝負をかけてきました。

 清水選手と松浦選手の中国ゴールデンコンビは、清水選手が前回り。先日の大宮記念で5車連係の埼玉勢を打ち破っているとはいえ、今回は相手が超強力ですからね。同じようにはいかないでしょうが、ここでもS級S班として力を示したいところ。番手に松浦選手がいるというのは、清水選手も心強いはずです。そして、「同級生だから」と松浦選手の後ろを選んだのが恩田選手。二分戦だと、いかんせん選択肢が少ないですからね。

 そして唯一の単騎勝負が稲川翔選手(90期=大阪・38歳)。レース前には「なんでもやる」とコメントしていましたが、彼のスタイルから考えるに、ここで南関東勢の分断といった“奇襲”を仕掛けてきたりはしないですよね。となれば、まずは恩田選手の後ろにつけて、あとは展開次第という組み立てになるでしょう。清水選手の走り次第という他力本願にはなりますが、単騎を選んだ以上は致し方ありません。

初手の並びは“中国ゴールデンコンビ”が前受け

 それではそろそろ、決勝戦のレース回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると、まずは2番車の郡司選手と1番車の松浦選手が飛び出していきました。郡司選手のほうが前に出たかと思われましたが、スタートを取りきったのは松浦選手のほう。中国ゴールデンコンビが前受けとなり、単騎の稲川選手が中団4番手。そして南関東勢が5番手からというのが、初手の並びです。

 深谷選手は、南関東の“数の利”を生かすためにも主導権を奪いにくる。まずは外から抑えにいくか…と思われましたが、動きはありません。後方の深谷選手が動いたのは、青板(残り3周)周回の4コーナーを過ぎてから。赤板(残り2周)通過のタイミングに合わせて後方からダッシュし、一気のカマシで主導権を奪いにいきました。これは、清水選手に内から飛びつかせないための選択でしょうね。

赤板の様子(写真提供:チャリ・ロト)

想定外に早い深谷知広のカマシ、清水裕友が機敏に反応

 南関東5車に出切られると、ここで大勢は決してしまう。深谷選手の想定外に早いカマシで、慌てて前へと踏み込んだ清水選手でしたが、両者のスピードが合ったのは深谷選手と郡司選手までが前に出たところでした。これは逆にいえば、想定外に早い深谷選手のカマシに対して、清水選手が機敏に反応できたということ。郡司選手の後ろを清水選手と松谷選手が競り合うカタチとなって、打鐘前の2コーナーを回ります。

打鐘手前の2コーナー(写真提供:チャリ・ロト)

 南関東5番手の福田選手は深谷選手のカマシについていけず、連係から早々と離脱。清水選手の外に松谷選手、松浦選手の外には堀内選手という隊列で、レースは打鐘を迎えます。清水選手と松谷選手は、身体を激しくぶつけ合ってのポジション争いに。そして打鐘後の2センターでは、南関東4番手の堀内選手も連係を外して離脱。清水選手の外で松谷選手だけが浮くカタチとなって、最終ホームに帰ってきます。

最終ホームストレッチでの動き(写真提供:チャリ・ロト)

 その後も清水選手と松谷選手のバトルは続きますが、こうなると内にいる清水選手のほうが格段に有利。その後ろには松浦選手と恩田選手が続いて、7番手に稲川選手という隊列で最終1センターを回ります。そしてバックストレッチに入ったところで、清水選手と絡んでいた松谷選手が力尽きて失速。それとほぼ同時に、後方にいた単騎の稲川選手が仕掛けて捲りにいきました。

 しかし、先頭の深谷選手がかかっているのもあって、捲った稲川選手は前との差をなかなか詰められない。郡司選手は深谷選手との車間をきって、番手から仕掛けるタイミングをうかがいます。隊列に大きな変化がないままで最終バックを通過して、最終3コーナーに突入。稲川選手は松浦選手に並ぶところまでもいけず、捲りは不発に。優勝争いはこの時点で、その前にいる4車に限られました。

 深谷選手が先頭のままで最終2センターを回って、最後の直線へ。外に出した郡司選手は一瞬で深谷選手の外に並び、先頭に立ちます。早くから脚を使っていた深谷選手は、ここで失速。先に抜け出した郡司選手を追うのが、外に出した清水選手と、内から中を割りにいった松浦選手です。しかし、郡司選手との差はジリジリとしか詰まらないまま。内を突いた松浦選手は、前が詰まるカタチとなってしまいます。

郡司浩平が地元記念4連覇、好調モードの深谷知広がアシスト

 結局、郡司選手がそのままリードを守りきって、先頭でゴールイン。地元記念の4連覇を、見事に達成してみせました。僅差となった2着争いの勝者は清水選手で、進路が狭く伸びきれなかった松浦選手が3着。恩田選手が4着で、逃げた深谷選手が5着という結果です。最高のスタートを切った今年の郡司選手ですが、今日に関しては完全に「深谷選手のおかげ」ですね。深谷選手との絆の強さを感じました。

好調モードの深谷知広(写真提供:チャリ・ロト)

 とはいえ、地元記念4連覇という偉業を達成できたのは、郡司選手に「巡ってきたチャンスを逃さない勝負強さ」があるからこそ。清水選手もそうですが、地元記念にかけるモチベーションが非常に高く、ここを目標に身体もしっかり仕上げてきますからね。そんな郡司選手を、好調モードの深谷選手が「ラインから優勝者を出す走り」でアシストしたのですから、そりゃあ手強いですよ。

 清水選手も強いレースをしていますが、深谷選手と郡司選手にその上をいかれたのですから、致し方なし。前受けからの組み立てで、深谷選手だけを前に出してそのハコを…と狙っていたと思われますが、深谷選手は仕掛けるタイミングを前倒しすることで、清水選手が合わせて踏むタイミングを、少しだけ遅らせることに成功している。そのぶんキツい展開になりましたが、最後まで本当によく粘って、郡司選手の優勝に貢献しています。

地元記念4連覇の偉業を達成した郡司浩平(写真提供:チャリ・ロト)

 強い選手が強いレースをして、終わってみれば確定板を独占。二分戦でも単調な展開にならず、手に汗を握る瞬間のある、いい決勝戦になりましたね。3着の松浦選手も、体調不良での欠場明けだったのを考えると、悪くない始動戦に。シリーズのなかで調子を上げてきていた印象なので、次に走る予定の岐阜・全日本選抜競輪(GI)では、さらに高いパフォーマンスを発揮してくれることでしょう。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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