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【眞杉匠】2024年も“攻めの姿勢”を大事に!「何年も赤パンを履き続けられるように」/KEIRINグランプリ2023特別インタビュー

2023/12/28 (木) 18:00 29

今回はKEIRINグランプリ特別インタビューとして、新時代を切り拓くニューヒーロー・眞杉匠選手をクローズアップします。地元記念を制し、オールスター、競輪祭と2度のGI優勝。この大ブレイクの裏にあった苦悩や、非エリートの成長の道のりを振り返り、ここまで強い選手に成長させた“ターニングポイント”に迫りました。来年に向ける意気込みとともに、いつもよりちょっと真面目で真剣な眞杉選手の本音をお届けします。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

眞杉匠(撮影:北山宏一)

今年を振り返って ブレイクの裏にあった苦悩

ーー今年はどんな目標を立てていましたか?

眞杉 毎年そうだけど、前の年よりも良い成績を収めたいと。もちろん、タイトルを獲りたいとは思っていましたけど。

ーー悔しかったレースを一つあげるとするならば?

眞杉 ダービーの準決勝かな。相手が新山響平さんで、向こうのスタイルでやられた上にワンツースリーを食らった。何もできなかったし、悔しさしかなかったです。

ーーS級S班である新山選手の先行に壁を感じましたか?

眞杉 あの形で何回かやられている。自分が逆をやったとしても着は沈んでいただろうし、それでは勝ったとは言えないですよね…。競輪祭の前検日に今年のベストレースを聞かれて、パッと出てこなかった。ってことは、今年はそんなに良いレースができなかったんだなって。成績は着だけ見たら良いですけど。

ーー優勝した競輪祭についてはどうですか?

眞杉 単騎だし、良い位置が取れて流れが向いただけ。正直、インパクトのある勝ち方でもないし「これ、強え〜」って感じじゃないので、まだまだだなって。それに競輪は『ライン戦』ですから。

単騎で優勝した競輪祭(撮影:北山宏一)

ーーGI初制覇のオールスター後、気持ちや意識の変化はありましたか?

眞杉「自分一人だけで戦っているわけじゃない」というのは再認識しました。

ーー開催中の会見でも、“らしくない”どこか浮かない表情が一時期は続きましたね。

眞杉 セッティングをいじって色々と試してて。最初から上手くいくとは思わないけど、セッティングが合っていないと乗り方もおかしくなっちゃうし、それに伴って着だって悪くなる。で、練習をやっていても進まないから面白くもないし。「早く戻んねーかな」って感じでした。戻るというより「良い方向に早く向かないかな」っていうのはありました。

ーー本当に繊細な世界だと思うんですが、セッティングは常に変えていかないとダメなんでしょうか?

眞杉 毎日、少しずつ体は変わっていて、張りがあったり、肩が凝ったりするじゃないですか。だから、現状の体にセッティングを合わせないといけない。練習していても乗り方は変わっていくし。

 あと、自転車を競走先へ送ったりしていると、セッティングが動いちゃうんですよね。ハンドルはそんなに動かないけど、サドル回りはハードケースに入れると動いちゃう。それで全くいじれないと、少しずつセッティングが変わっていって「あれ、こんなんだったかな…」とわからなくなるというか。

ーーセッティングがしっくり来ない期間が長かった、と。

眞杉 強い人はみんな常にセッティングをいじっている。でも、いじって悪くなってしまう怖さはあって「現状より悪くなったらどうしよう」って。その後は良くなるって感じだけど、悪い期間は「そのまま正解がわからなくなっちゃたらどうしよう」っていう不安との戦いですね。

 更にもっともっと求めるなら、いじらないとダメだし、いじらないと技術は付かないじゃないですか。他の人に見てもらっても、その人の感覚でしかないので、自分の感覚を養わないといけない。

地道に自転車と向き合う必要がある(photo by Shimajoe)

ーー何月頃にいじったんですか?

眞杉 実際にいじったのは5月ぐらいでダービーの開催中にいじった。あっ旋が止まっていた3月以降から調子が結構悪くて。それまでFIで優勝できていたけど、思うように進まなくて。それもあって、またいじって、どんどん良くない方向に行ってしまった。半年以上は悩んでいたけど、それはみんなが通る道だし、今までにも何回もあったこと。一年間を通してずっと調子が良いって、人間だから無理ですし。だからこそ、その調子の波をいかに小さくするかが大事で。以前よりは全然その波は小さくなったと思う。

ーーその悩んでいた時期は、レースの走り方にも影響は出ていましたか?

眞杉「ちょっと調子が悪いから先行しない」っていうのは嫌だけど、今年はそれがちょっとあったかなと思う。守りに入っちゃったというか…。「本当はもっと行きたいけど、今日は調子が悪いから捲りに構えようかな」じゃないですけど。実際に、そうなっちゃっていたところもある。

ーー結構、だいぶ悩まれていたんですね。

眞杉 へっへっへへ(笑)。こう見えて考えていますから、オレ。

S級S班になるということ 決してエリート街道ではなかった道のり

ーーS級S班にどんなイメージをお持ちでしたか?

眞杉 何でもできるし、みんなよりも一個一個の能力値が高い。ダッシュだけ、地脚だけの人はざらにいるけど、そういうものを全て兼ね備えて何でもできるのがSSだと思う。

ーーどういうSSになりたいですか?

眞杉 やっぱり単発で終わりたくない。自分のスタイルを崩さずというか、守りに入らない走りをして何年も赤パンを履き続けたいですよね。

ーー仕掛けるって勇気がいることだと思うんですけど、先行って怖くないですか?

眞杉 長い距離を行って負けてしまうかもしれないっていうことですよね。でも、負けると思って早めに仕掛けたり、先行しているわけじゃない。勝つつもりで勝つために先行しているので、そこに恐怖心はないですね。

先行することに恐怖は微塵もない(撮影:北山宏一)

ーーデビュー当時の目標と憧れていた選手を教えてください。

眞杉 やっぱり赤パンが格好良いから、SSになりたいなと。ずっとSSで同地区の平原さんに憧れていた。

ーー平原康多選手と過ごす時間が多くなって、どういう影響を受けていますか?

眞杉 よく悩みを相談するんですけど、的確に教えてくれて「やっぱりそうだよな」と再認識できるというか、迷いを吹っ切れる。平原さんと話したこと全てが勉強になっています。神山雄一郎さんもそうですけど、背中を押してくれる存在ですね。

レース終了後、平原康多に意見を求めるシーンも(photo by Shimajoe)

ーーS級S班として、どのように戦っていきたいですか?

眞杉 「勝ちにこだわらずに」っていうのはおかしいけど、積極的には行きたい。やっぱり「勝ちたい」ってなると消極的になっちゃうので、そういうことだけにはならないように。これは平原さんも、雄一郎さんも言っていました。自分でも分かっているし、やっぱり大きいところを獲るためにやっているので、一戦一戦、攻めたレースをしないと。SSっていう、今までよりも責任感のある立場なので気を引き締めて戦いたい。

ーーデビュー当時、今の自分を想像できました?

眞杉 できないですね。だって、いつもグランプリは家で見てたもん(笑)。

ーー眞杉選手は特昇するまで、トントンと行ったわけじゃないんですよね。

眞杉 最初は2ヶ月おきぐらいに落車していたし、引いてからの捲りしかやっていなかったんですよ。1着が取れればいいかなって。学校時代もみんなが先行争いをする中、して来なかった(笑)。前を取って周りが先行争いをして、自分は番手、3番手にハマって最後に行くみたいな、そういう走りしかしてこなかった。

 でも、先行していれば力が付くじゃないですか。段々、距離も伸びてくるし。先行していないと、仕掛ける自信もなくなってきて行ける距離も短くなってくる。そのことにチャレンジの時に気付いて。怪我が多かったし、怪我をしないことが一番だと思って、それで先行するようになった。それでも、決勝は同期もいたりして負けてしまって、すぐには特進できず。特進できたのは、デビューして一年かからないぐらいでしたかね。

ーーS級に上がってからはどうでしょう?

眞杉 同級生がみんなS級を走っていて焦りしかなかった。S級初戦は高松で7・6・2着、その次の松山はヤバいでしょう。9・9・9って『銀河鉄道』じゃないんだから(笑)。9・9ってなった時点で、最終日も9だろうなって。だって、バックも取れないで捲られちゃうんだもん。その頃は本当に勝てるビジョンが見えなかったですね。みんな強くて名前を知っている人しかいなくて、走る前から「ぜってー無理だろう」って。だから、焦って早めに踏んじゃって、オーバーペースになってタレて捲られる。そんなんばっかでしたからね。ふ〜(ため息)。

栄光を掴むまでに紆余曲折があった(写真提供:チャリ・ロト)

ーー悔しさを糧にステップアップを遂げ、来年からは憧れの赤いパンツです。

眞杉 気が付いたら、ふふふふふ。

ーー栃木、関東だけにとどまらず、今では競輪界を代表する先行選手ですよ。

眞杉 犬さん(犬伏湧也)や北井さん、新山さんとかの方が徹底先行じゃないですか。本当はあれぐらい先行したい。突っ張ってラインで決められるんだったら、それ以上の走りはないですから。

ーー眞杉選手を中心に関東勢の士気は高まっています。

眞杉 関東9人でSSを独占したい(笑)。でも、北日本は4人(佐藤慎太郎、新田祐大、守澤太志、新山響平)いたし、インパクトは強いですよね。

ーー先日、宿口陽一選手が「眞杉の周りは鼻息が荒い」と話していました。

眞杉 最近は栃木に来てくれる人が多くて。この間は埼玉から5人、黒沢征治に森田優弥、小玉勇一、荒木貴大、藤田周磨。東京からは樋口開土、寺沼拓摩、あとは板垣昴。お互いに刺激が入るし、自分もありがたいですよね。良い流れかなと思います。

刺激を入れ合う仲間がいる、写真は森田優弥と立川記念で(写真提供:チャリ・ロト)

ーーそのうち弟子は取る予定はありますか?

眞杉 来年、高校生になる弟が作新学院の自転車部に入るんですけど、(競輪を)やるって流れになるだろうから…。自然な流れで師弟になるのかな。ま、学校に受かればの話だし、まだ始まってもいないので。181㎝あって背がデカい。性格は…似てるかも。

ーーご自身の性格をどう捉えていますか?

眞杉 負けず嫌い、周りからも結構そう言われますね。最終日に変なレースをすると「何やってんだ〜」って、ずっと帰りの車の中で考えている。道中ダメでも最終日に終わり良ければって感じだから。あとは初日にずっこけると…、ね。競輪はメンタルスポーツなので。

ーーずっと大事にしていること、心掛けていることはありますか?

眞杉「自分だけのレースにはならないように」とは考えて毎回走っています。失敗することもあるけど。番手に付いている選手だって、そこに向けて練習して仕上げてきているわけだから。自分の着だけを狙いに行ったら、付いてくれている人にも失礼。お互いにチャンスがあるようにと走っているけど、それができなかった時は反省です。

今年の一大ニュース、オンとオフについて

ーー2023年、眞杉さんの一大ニュースを教えてください。

眞杉 何だろう…。オールスターでヘルメットを走路に投げたことかな(笑)。

ーーあれはダサかったですね(笑)

眞杉 あそこは場所的に投げづらいですよね、ホームとかじゃなくて1コーナーだから。投げるのを忘れてて、戻ったときに「投げて」って言われて、投げたら指に引っかかって。客席を通り越して走路に落っこちた(笑)。で、競輪祭はビビって投げなかった(笑)。

オールスター制覇の大偉業を達成する中、ヘルメット投げだけが決まらなかった(写真提供:チャリ・ロト)

ーーまぁ、ニュースって言えば ニュースですね。プライベートでは?

眞杉 税金がやばい(笑)。去年の賞金を大幅に超えている。オールスターが終わって賞金をまぁまぁ使っていたら、税理士さんに「来年はこれぐらいですね」って言われて「え、嘘、そんなに来んの?そんなに金、持ってねーよ!」と青ざめた。「やばい、やばい、大ピンチ!競輪祭かグランプリ、稼がないとヤベえな」と。

ーーそこで火がついたわけですか。

眞杉 そうなっちゃうとダメなんですけどね。今回で優勝しないと払えないとかでレースが小さくなったらダメなので。チャレンジの時から「今回、優勝しないと、今月のカード支払えないじゃん」っていう状況ばかりだったから、変わってねーなって(笑)

ーー経済を回してください。競輪祭優勝のご褒美は買いましたか?

眞杉 車を買いました。

ーー車、好きですね〜。

眞杉 乗り物が好きで車もだし、バイク、水上ジェットも。普段の過ごし方も趣味のことをしているか、練習しているか。オンオフのメリハリはハッキリしていると思います。

一人じゃ練習できない。医者か弁護士になっていたかも

ーー眞杉選手は練習量が多いとよく聞きますが。

眞杉 そうでもないと思う。雄一郎さんと話しても、当時の練習を聞くと全然足りてない。実際に聞いたメニューをやってみたけど、こなせなかった(笑)。

 朝5時には起きて、すぐ乗り出して朝練。9時ぐらいから始まるみんなとの練習に合流して、お昼休みは自分でモガきに行くでしょ。で、午後はまたみんなと練習して、18時に飯を食って、19、20時ぐらいからローラーに乗ってモガき。21時ぐらいから寝るのかと思ったら、ウエイトに行って23時に寝るっていう…。それを雄一郎さんは一年間、やり続けたって聞いて「いや、一年って。俺、一週間もできねえよ」と。一日もできなかった、まず5時に起きるってことが無理…。

レジェンド・神山雄一郎(撮影:北山宏一)

ーー普段は自分で考えた練習メニューをやっているんですか?

眞杉 最初は先輩がやるメニューに混ざっていたけど、最近は自分の足りないところを考えて、やりたいメニューをやっています。一人じゃ練習できないタイプで、誰かいないとオフになっちゃう。バンク行って携帯いじって「そろそろ乗らなきゃヤバいな〜」って大体なりますね。一人で街道に行っても、気が付いたら歩道を走っているし(笑)。なので、周りが一緒にやってくれて本当に助かっています。

ーー人間らしいというか何ていうか(笑)。

眞杉 本当に練習イヤイヤマンですから。でも、選手になって変わったのかも。アマチュアの時は本当に練習をやりたくなくて、高校時代も全然やっていなかった。作新の練習はキツかったですね。やらされる練習と自分で考える練習じゃ、身の入り方が違うし、自分にいかに考えるかが大事ですよね。

ーー競輪選手で良かったですね。

眞杉 いや、作新に行っていなかったら、医者とか弁護士になっていたかもしれない。そういう道を捨てて選手になったので。

ーーそんな話、聞いたことないですよ(笑)。選手になっていなかったら、何をしていたのでしょうか?

眞杉 元々はテニス部だし、作新に入って自転車部とは決めていなくて他の部活にも体験入部に行きました。ボクシング部に行ったけど、サンドバッグを殴ったら手首が折れるかと思ったし、グローブを外したら臭いし…これは違うなと(笑)。当時は体重が46キロしかなくて、周りはガタイの良いやつばかりでしたしね。

ーー自転車部には勧誘されて?

眞杉 競輪好きな親に勧められたんです。でも、作新の自転車部って自転車部に入るために来ている本気の人たちばかりで。体験入部期間が終わった5月、6月に自転車部に行ったら「何、今さら来てんの?早く帰れよ」って言われて。「は〜?いいよ、やってやるよ」ってスイッチが入った(笑)。結果的に一番、そいつとは仲が良くなりました。

ーーその方は選手を目指さなかったんですか?

眞杉 俺が先に選手になって、大学まで自転車を続けて選手を目指したけど、ダメでした。受かっていたら面白いことになっていましたね。今でも交流があって応援もしてくれている。「お前のおかげで選手になったわ」って、いまだに言っています。

ーー選手人生、まだまだこれからですよ。さぁ、いよいよ迎える初めてのグランプリ。新しい時代の幕開けです!

眞杉 一年で(赤パンを)脱ぎたくない。でも、楽しみの方が大きいですけどね。最近は関東勢の流れが良いと思うし、来年はもっと良くなるはず。来年も良いレースを見せられるように、一戦一戦、頑張ります!

栃木、関東のエースが立川でひとり牙を剥く(撮影:北山宏一)

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