2023/12/17 (日) 12:00 5
現役時代はトップ選手として長く活躍し、現在は評論家として活動する鈴木誠氏の競輪予想コラム。今回は佐世保競輪場で開催されている九十九島賞争奪戦の決勝レース展望です。
【九十九島賞争奪戦】は九州地区の選手たちが、大会を席捲しています。
準決勝の10レースではなんと5車での連係。12レースでも4車が連係して、決勝にも九州地区だけで5車が勝ち上がってきました。
今大会は九州地区の出場選手が多かっただけでなく、その中でも先行選手の占める割合が大きくなっていました。佐世保バンクは傾斜が緩やかな皿状のバンクであり、それもまた先行選手が有利に働いていた一因にはあります。
この先行選手を生かす走りをしていたのが、ここまで3連勝の荒井選手、井上選手と地元の2人です。3日間を通して番組に恵まれた感もありますが、それでもしっかりと決勝まで勝ち上がってきたあたりは、2人のこの大会にかける意気込みが現れているとも言えそうです。
その2人も含めた決勝での九州ラインの並びは、伊藤選手-久島選手-荒井選手-井上選手-塚本選手。この強力なラインに対抗するのは、関東の小林選手-平原選手の後ろに、神奈川の鈴木選手が3番手を回る東日本ライン。小川選手は単騎を選択しました。
二分戦かつ、1番車に荒井選手が入ったことで、九州ラインのやることはスタートを取っての突っ張り先行となります。
準決勝の10レースでは北井選手に前受けをされただけでなく、12レースでも雨谷選手の好スタートを許る形となった九州ラインですが、1番車の荒井選手だけでなく、9番車の井上選手もスタートが早いので、ここは是が非でも前を取りに行くはずです。
この展開となれば6番手には小川選手、7番手以降は東日本ラインとなります。後ろから小林選手が前を抑えに行きますが、今大会では調子の良さが目立つ伊藤選手が、2周前からでも一気に先行体勢へと入るはずです。
自ら志願して伊藤選手の番手を回った久島選手ですが、タイミングを見て番手捲りを仕掛けたとしても、荒井選手は少しでも久島選手のスピードが緩んだのならば、一気に踏み込んでいくと思います。
いわゆる「三段駆け」のような形となれば、荒井選手の優勝は濃厚であり、2着は後ろを回っている井上選手。もしくは九州ラインの6番手から突っ込んできそうな小川選手も2着候補と言えるでしょう。
九州ラインを叩きたい東日本ラインですが、小林選手が中長距離が得意な「地脚タイプ」の先行選手です。一方、伊藤選手はスプリント競技でならしたスピードと、ロードでも優勝経験があるスタミナも持ち合わせた、「オールラウンダー」の先行選手でもあります。
小林選手にとっては、前受けをされた場合、最も分が悪いのが伊藤選手であり、だからといって、伊藤選手の番手を狙っていこうにも、外並走がそれほど得意ではないので、その作戦も難しくなります。
こうなると、東日本ラインが九州ラインに一泡吹かすには前受けしかありません。もし、九州ラインがスタートを取れなかったとしても、準決勝10レースの東矢選手と伊藤選手のように、この決勝でも二の矢、三の矢を放っていける、九州ラインが優位であるのは間違いありません。
点数では上位ながらも、伊藤選手の番手を久島選手に譲ったどころか、自ら3番手を主張したとされるのが荒井選手です。
一見、番手を回った方がいいのでは? と思いたくもなりますが、伊藤選手が突っ張り先行をして長い距離を踏んでいた場合、番手の久島選手も、普段の先行選手のような距離を捲っていく必要が出てきます。
こうなると、久島選手の番手捲りに乗っていく荒井選手の方が、踏んでいく距離が短くなる分だけ、有利に運ぶことができるわけです。なかなか5車で並ぶレースはないとは思いますが、その場合は「番手よりも3番手が有利」と覚えておいてください。
鈴木誠
千葉県市原市出身。日本競輪学校第55期卒。千葉経大付属高校の頃から競輪に没頭し、吉井秀仁氏に師事。現役時代はすべての戦法を完璧にこなし、「本物の自在型選手」と評されるほど多彩なストロングポイントを武器に、引退するまで長きにわたってトップ選手として君臨した。現役時代は通算3058戦665勝、優勝109回(うちGIは競輪祭新人王を含め4回、GP1回)、年間賞金王1回、通算獲得賞金は17億を超える。18年7月に、ケガのため惜しまれつつ引退。引退後は選手経験を生かし、解説者として活躍。スピードチャンネルなどの番組にも出演している。