2023/11/20 (月) 18:00 17
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大垣競輪場で開催された「第9回施設整備等協賛競輪in大垣」を振り返ります。
2023年11月19日(日)大垣12R 第9回施設整備等協賛競輪in大垣(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①志田龍星(119期=岐阜・26歳)
②山賀雅仁(87期=千葉・41歳)
③片岡迪之(93期=岡山・37歳)
④白戸淳太郎(74期=神奈川・50歳)
⑤松村友和(88期=大阪・43歳)
⑥阿部大樹(94期=埼玉・34歳)
⑦阿部将大(117期=大分・27歳)
【初手・並び】
←⑦⑧(九州)①⑤(中近)⑨②④(南関東)③⑥(混成)
【結果】
1着 ②山賀雅仁
2着 ⑨青野将大
3着 ⑧成松春樹
11月19日には岐阜県の大垣競輪場で、施設整備等協賛競輪in大垣(GIII)の決勝戦が行われています。小倉・競輪祭(GI)の直前という時期の開催ですから、競走得点がもっとも高いのが河端朋之選手(95期=岡山・38歳)という、かなり手薄な出場メンバーに。ただでさえ混戦模様であるうえに自力選手が非常に多く、レースに動きがあって面白いとはいえ、車券がとんでもなく難しいシリーズになりましたね。
ここで地元の“看板”を背負ったのは、初日特選にも出走した若手の志田龍星選手(119期=岐阜・26歳)。その初日特選は、赤板(残り2周)過ぎから前を叩いて主導権を奪うも、最後は粘りを欠いて4着という結果でした。二次予選と準決勝では、地元のマーク選手である山口富生選手(68期=岐阜・53歳)と連係して3着、2着。初日から3日連続でバックを取るという、積極的な走りをみせていましたね。
優勝候補の一角だった河端選手は初日から動きが冴えず、二次予選で敗退。急に冷え込んだことでバンクを重く感じる選手が多かったようで、河端選手のようにスピードが持ち味というタイプにとって、厳しいバンクコンディションだったのかもしれません。デキのよさが目立っていたのは青野将大選手(117期=神奈川・29歳)で、初日から準決勝まで、本当によく動けていましたよ。
決勝戦でファンの期待が集まったのは、その青野選手が先頭を任された南関東勢。青野選手と同県の白戸淳太郎選手(74期=神奈川・50歳)が、「自分は3番手でかまわない」と番手を山賀雅仁選手(87期=千葉・41歳)に譲ったことで、より戦闘力が高いラインとなった印象です。いまの南関東の雰囲気のよさや、白戸選手の奥ゆかしい性格、山賀選手の周囲からの高い評価などが感じられる「並び」といえます。
地元代表である志田選手は、松村友和選手(88期=大阪・43歳)とのコンビで中部近畿ラインを結成しました。この決勝戦メンバーならば志田選手が先手を奪うのは難しくないでしょうが、課題は最後どこまで粘れるか。四分戦で出入りの激しい展開になりそうですから、優勝争いに加われるかどうかは仕掛けどころ次第でしょう。ここで優勝できておかしくないだけの力はあると思います。
九州勢は、阿部将大選手(117期=大分・27歳)が先頭で、成松春樹選手が(93期=佐賀・37歳)が番手という並び。成松選手もデキのよさが目立っていた選手のひとりで、GIIIでの優出はこれが初となります。そして片岡迪之選手(93期=岡山・37歳)は、阿部大樹選手(94期=埼玉・34歳)との即席コンビで決勝戦を戦います。うまく立ち回って、主導権を奪うラインの直後につけたいところですね。
以上のように決勝戦も、展開ひとつでどの選手にもチャンスがありそうな混戦模様となりました。それではそろそろ、回顧に入っていきましょうか。スタートの号砲と同時にいい飛び出しをみせたのは、車番に恵まれなかった7番車の阿部将大選手。九州勢の前受けが決まり、志田選手は3番手からのレースとなりました。5番手が青野選手で、後方8番手に片岡選手というのが、初手の並びです。
青板(残り3周)の後半から、後方にいた片岡選手がゆっくりと浮上を開始。赤板を通過したところで、先頭の阿部将大選手を斬りにいきます。阿部将大選手は突っ張り気味に抵抗しますが、ここは片岡選手が引かずに前に出て先頭に。そして打鐘前の2コーナーを回ったところで、今度は順番が回ってきた青野選手が前を斬りにいきます。片岡選手は引いて、ポジションを下げました。
次は主導権を奪いたい志田選手が前を斬りにいく順番ですが、ここでレースは打鐘を迎えました。先頭に立った青野選手はすでにスピードに乗っており、タイミング的にもやすやすと引くわけにはいかない。それを志田選手が叩きにいって、踏み合いながら打鐘後の2センターを回り、最終ホームに帰ってきます。ここで、志田選手の番手である松村友和(88期=大阪・43歳)がついていけず、離れてしまいました。
志田選手は最終1コーナー手前で先頭まで出切りますが、援護が期待できない単騎に。志田選手との連係を外した松村選手は、南関東勢3番手の白戸選手のポジションを外から奪いにいきます。そうはいかない白戸選手が松村選手を押し返して、絡み合いながら最終1センターを通過。志田選手のハコが転がり込んだ青野選手や、その番手を回る山賀選手にとって、願ってもない展開となりましたね。
バックストレッチに入ったところで、絡んでいた白戸選手と松村選手はともに失速気味に。その直後にいた片岡選手は内で詰まるカタチとなり、動きたくとも動けません。ここで動いたのが、最後方から外を回って差を詰めてきていた阿部将大選手。先頭集団の3車を目がけて、スピードに乗った捲りで一気に浮上。最終バックを通過したところで、前を射程圏に入れます。
時を同じくして、単騎先頭で踏ん張っていた志田選手の番手から、青野選手も発進。最終バック通過直後に外から志田選手に並びかけて、先頭に立ちます。青野選手にあっさりと捉えられた志田選手は、残念ながらここで失速。青野選手が先頭に立ち、その直後に山賀選手。さらにその後ろに後方から捲ってきた九州勢という隊列で、最終2センターを回って最後の直線に向きます。
最終4コーナーで阿部将大選手は外を回りますが、その番手にいた成松選手はその内を突いて、阿部選手の前に出ました。このあたり、大垣バンクの特性をうまく生かした立ち回りでしたね。抜け出した青野選手が先頭で踏ん張っていますが、その番手から外に出して差しにいった山賀選手は、道中で脚を使っていないのもあって余力十分。後方からは、阿部大樹選手も直線でいい伸びをみせます。
そして、直線なかばで青野選手に並んだ山賀選手。最後までしっかり伸びて、先頭でゴールラインを駆け抜けました。その後ろにいた青野選手と成松選手が僅差の2着争いとなりましたが、青野選手が粘りきって2着を死守。成松選手が3着で、4着に外からいい伸びをみせた阿部大樹選手。5着が阿部将大選手という結果で、人気を集めた南関東勢がワンツーを決めるという結果となりました。
山賀選手は、じつに5年ぶりのGIII制覇。最後まで余裕が感じられた走りで、巡ってきたチャンスをキッチリとモノにしましたね。とはいえ、これは青野選手の力強い走りや、白戸選手が番手を譲ってくれたことに助けられての結果。いかにも競輪らしい「ラインのおかげ」での優勝ですよ。青野選手がラインのために確実を期して、最終バック手前から仕掛けてくれたのも大きかったでしょう。
強い内容をみせたのは、2着の青野選手。志田選手の番手にうまくハマったとはいえ、道中でけっこう脚を使わされていながら2着に粘りきったのは賞賛に値します。仕掛けをもう少し遅らせれば、最後はもっときわどい勝負になっていたかもしれませんね。でも彼は、それを承知の上で早めに仕掛けて、ラインから優勝者を出す確率を高めることを優先している。先頭を任された者の責務を、パーフェクトに果たしていますよ。
7着という結果に終わった志田選手については、前を斬る「順番」が回ってきたのが打鐘と同時だったことや、番手の松村選手が連係を外してしまったことなど、ツキにも恵まれませんでしたね。とはいえ、今後トップクラスと戦っていくためには、やはり「最後の粘り」の強化が必要不可欠。また、そこを補うためにどうレースを組み立てるかという、ひと工夫もほしいところです。いい素質を持っている選手ですから、なおさらですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。