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【小林優香】“最低な今”からもう一度トップへ! 2024年の地元ビッグへ向けて復活の道を進む/特別インタビュー

2023/11/12 (日) 20:30 57

小倉競輪は21日〜23日、「競輪祭女子王座戦」を開催する。このシリーズは新設されたGIだが、2021年東京五輪・日本代表の小林優香は出場できず。今シーズンの小林は病気欠場が続き、既定の「最低出走回数」を満たせなかったからだ。10月15日、玉野競輪でのガールズケイリン取材時に、小林本人に現況を聞いた。すでに気持ちは来年へ向いていた。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

小林優香(撮影:北山宏一)

ナショナルチーム引退の背景

 東京五輪の翌年、2022年9月にナショナルチーム引退を決意し、約7年間の競技生活に終止符を打った小林優香。まずは引退を決意した背景から。

ーーナショナルチームを引退する決断の大きな要因となったのは、やはり怪我でしょうか?

小林 カナダ(22年5月・ネーションズカップ・ケイリン決勝)の落車で負った怪我が少しずつひどくなっていって、最終的には仙骨骨折に仙腸関節炎、腰椎の疲労骨折していることが判かりました。多分、腰の疲労骨折は元々あったと思うんですけど、仙骨骨折や関節炎は落車が原因だと思います。その影響でサマーナイト(7月・玉野GII)では歩けなくなっていましたね(※初日のレース終了後、起立困難となって欠場となった)。

 それがひとつ、競技引退を決めた要因かな、と。これ以上は体が持たないし、何よりもオリンピックポイントを取る厳しさは知っているつもりなので、来年すぐにパリに向けて競技を再開できるかと言われたら「この怪我のままじゃ…」という葛藤がありました。

ーー決断には時間を要しましたか?

小林 サマーナイトを途中欠場してから2ヶ月ぐらい迷い、コーチとも話をしましたが、最終的には自分の決断で「辞める」という結論を下しました。

東京五輪出場の経験から怪我を抱えて競技生活を続けることの厳しさを熟知していた

どんな困難な状況にあっても

 一時は1ヶ月間も寝たきりと、もどかしい期間を過ごしたが、小林の心は折れなかった。懸命なリハビリを経て戦いの舞台に戻って来た。

ーー改めて7年間の競技生活を振り返って、得たものとは何でしょう。

小林 もちろん、練習方法など色々あるとは思うんですけど、やっぱり「自転車に対する向き合い方」ですね。オリンピックや世界のトップを目指して戦うっていうのは、食事制限で好きな物も食べられないですし、メンタルもしっかりと整えなければ世界とは戦えません。

 その中で学んだのは「どんなに困難な状況になっても“自分”をしっかり持っておく」こと。そうすれば、すぐに切り替えることができる。例えば、屋外の33ですごくガタガタのバンクで走ったことがあるんですけど、その中でもしっかりと対応できる選手がチャンピオンになる、とずっと言われ続けてきました。競技を引退してからも、すぐに切り替えられたのはそういった経験が活きていると思います。

ーーガールズケイリンに復帰して一年、現在、患部の状態はいかがですか?

小林 今年の7月に腰の手術をして、まだ体を反るのはキツい状態。膝の怪我もやっているし、治療しながらですね。出走回数が足りなくて競輪祭には出られない。でも来年4月にはオールガールズが地元の久留米で開催されるので、来年に向けて頑張っていきたいと思っています。

手術を経て来年を見据えている(撮影:北山宏一)

迷いがない状態で這い上がるしかない

ーーガールズケイリンにGIが設立されて、率直に感じたことはありますか?

小林 偶然、自分が競技を辞めたタイミングでしたし、高いモチベーションを持つことができるな、と思いました。今までやってきたことは、オリンピックの4年間を逆算してのトレーニングだったので、それが一年一年、しっかりと短いスパンの目標設定ができるっていう点では良かったな、と感じていたんですが…。

ーー感じていたんです…“が”…?

小林 正直、松戸(10月・GIオールガールズクラシック)が終わるまでは「今の自分の目標って何なんだろう?」というのは多少ありましたね。やっぱり、東京オリンピックを経験して、表彰台には3人しか上がれない、世界でたった3人しか成功しない舞台なので、あそこは。その現実を初めて見て、学んだことだったので、次のモチベーション、目標がなかなか見つけづらかったっていうのはありましたね。

ーーオリンピック、世界の頂点を目指してきたからこそ感じるものがあったんですね。

小林 それでも、やっぱり日本の競輪は仕事ですし、タイトルを獲るっていうのはモチベーションになっています。だけど、自分では頭で分かっていても、なかなかしっかりと入り込めていなかったな、と松戸が終わって振り返ったときに感じました。

 でも、今はもうしっかりと来年に気持ちは向いていて、来年の一発目が地元のオールガールズクラシック。そこに向けて、しっかりやっていこう、という気持ちが松戸を終えてやっと徐々に出てきた。そこだけじゃなくて、FIやFIIのレースもあるので、そこで自分の脚を徐々に戻していけたらな、と思います。

 もう迷いがないようにやっていきたい。今が最低な状態、もう這い上がっていくしかないので。また自分もトップで走れるようになるために今年は準備の段階かな、という風に捉えています。

松戸オールガールズクラシックを終えて気持ちを見つめ直した(撮影:北山宏一)

早く復活したい、楽しくないですもん

ーーこれまでグランプリに出場するには、一年間、賞金争いで最後の最後まで気の抜けない戦いだったと思います。GI設立により、優勝すれば出場権利獲得というのは大きいですよね。

小林 大きいと思います。来年からは4月のオールガールズクラシックで優勝できれば、残りの半年以上はグランプリに向けてレースで試したいこともできるし、気持ち的にも楽になって今の碧衣みたいに大きなレースもできるかな、って思います。

 早く自分も復活したいです、そろそろ。今、楽しくないですもん(笑)。勝てないと楽しくないし、なかなか脚が動かないのも楽しくない。「今は我慢の時だ」っていうのは分かるし、周りもそう言いますけど…。でも、やっぱり楽しくないし、面白くないっていうのはある。焦りもあるけど、一戦一戦で自分自身の走りを取り戻して、ここ半年以上はお客さんに迷惑をかけてしまっているので、来年のオールスターにも繋げられるように頑張りたいです。

ーー多くの人たちが「優香スマイル」を待っていますよ。パールカップから取材させていただいていますが、少しずつ表情は明るくなってきたように感じます。

小林 待ってくれている人たちの存在は大きいですし、ありがたいことですよね。表情か…。私、昔ナショナル時代に“人を殺したような目”をしているって言われてたんですよね(笑)。

“優香スマイル”を待つファンは多い(撮影:北山宏一)

ーー(笑)。日々の厳しいトレーニングを積んで、極限の状態まで自身を追い込むわけですから、そのような目つきになるのも当然です。

小林 ガールズケイリンは一年を通してオフシーズンがないので、こっちはこっちですごいなって思いますし、もちろん、オリンピックを目指してやっている時もナショナルチームってすごかったな、って思う。両方とも違うすごさがありますね。

ーーその両方のすごさを知っている優香さん。復活を楽しみにこれからも取材させていただきます!

小林 復活するために今できることをやっていきたいと思います。また力強い走りを披露できるように頑張るので、待っていてください!

来年に照準を絞り這い上がるだけ!(撮影:北山宏一)

 インタビューでは「早く復活したい」、「今、楽しくない」との言葉で現状を語った小林優香。小林自身もビッグレースでの優勝に飢えているが、多くのファンも小林が再びガールズケイリンのトップに君臨する瞬間を待っている。新たな目標を打ち立て前を向く小林に迷いは見られない。完全復活へ、突き進むのみだ。

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