2023/10/23 (月) 18:00 56
2023年10月22日(日)弥彦12R 第32回寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①佐藤慎太郎(78期=福島・46歳)
②犬伏湧也(119期=徳島・28歳)
③古性優作(100期=大阪・32歳)
④諸橋愛(79期=新潟・46歳)
⑤渡部幸訓(89期=福島・40歳)
⑥河端朋之(95期=岡山・38歳)
⑦南修二(88期=大阪・42歳)
⑧小松崎大地(99期=福島・41歳)
⑨和田健太郎(87期=千葉・42歳)
【初手・並び】
←⑧①⑤(北日本)③⑦(近畿)⑨(単騎)②④(混成)⑥(単騎)
【結果】
1着 ③古性優作
2着 ①佐藤慎太郎
3着 ⑤渡部幸訓
急速に秋が深まり、全国的に肌寒さを感じる気温となったこの週末。10月22日には新潟県の弥彦競輪場で、寛仁親王牌(GI)の決勝戦が行われました。このシリーズが終われば、今年のGIは残すところ小倉の競輪祭(GI)のみ。年末のKEIRINグランプリ出場権をめぐる戦いも、いよいよ佳境を迎えます。獲得賞金額での出場ボーダー付近にいる選手は、これから気が気でない日々となるでしょうね。
最終日は良好なバンクコンディションとなりましたが、2日目などはかなりの雨量。滑る路面や体感温度の低さに悩まされた選手も、少なくなかったと思います。S級S班は、ケガの療養中である脇本雄太選手(94期=福井・34歳)以外の全選手が出場。しかし、調子がいまひとつの選手が多かった印象で、決勝戦に駒を進めることができたのは、佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)と古性優作選手(100期=大阪・32歳)だけでした。
初日の日本選手会理事長杯(日競杯)は、中団からの単騎捲りで古性選手が1着。古性選手は2日目のローズカップも自力勝負で快勝と、デキのよさはかなりのものでしたね。タテ脚があるのはもちろんのこと、ポジション取りの上手さに、レースの流れに対する対応力など、いまの古性選手は本当に隙がない。勢いに乗る古性選手は準決勝も連勝して、完全優勝に王手をかけています。
古性選手と同じく、オール1着で勝ち上がってきたのが和田健太郎選手(87期=千葉・42歳)。まさに絶好調といった印象で、2020年平塚グランプリのような「一発」があっても驚けないほどに仕上がっていましたね。最後の直線が長い弥彦バンクも、和田選手にとっては強調材料。決勝戦は単騎となりましたが、道中の立ち回りと展開次第で、上位争いが十分に期待できると感じました。
決勝戦にもっとも多くの選手を送り込んだのは北日本。ライン3車の先頭は小松崎大地選手(99期=福島・41歳)で、番手が佐藤選手。3番手を固めるのが、これが初のGI決勝戦進出である渡部幸訓選手(89期=福島・40歳)です。準決勝では後方から豪快に捲りきったように、小松崎選手のデキは上々。オール福島という結束力の強さも魅力で、番手に佐藤選手がいるのは、小松崎選手にとって本当に心強いでしょう。
近畿勢は、古性選手と南修二選手(88期=大阪・42歳)が勝ち上がり。当然、古性選手がラインの先頭です。古性選手は2番車と、いかにも中団を取りやすい車番に恵まれましたね。大阪コンビという気心のしれた連係で、ここは南選手にとってもタイトル奪取の大チャンス。臨機応変に立ち回る古性選手の反応速度に最後までしっかりついていければ、大阪ワンツーもありそうです。
若手の注目株である犬伏湧也選手(119期=徳島・28歳)は、ここ弥彦がホームバンクである諸橋愛選手(79期=新潟・46歳)と即席コンビを結成。このシリーズでは、犬伏選手の魅力である「爆発的なダッシュとスピード」があまり発揮されていない印象でしたが、それでも決勝戦まで進出してきましたね。番手を回る諸橋選手は、犬伏選手に離されずについていくのが、勝利の必要条件でしょう。
そして最後に、諸橋選手が犬伏選手の番手を主張したのもあって、それならば…と単騎での自力勝負を選択した河端朋之選手(95期=岡山・38歳)。この相手での単騎勝負はなかなか厳しいものがあるので、展開面でのアシストが欲しいところです。主導権を奪いそうなのは犬伏選手で、メンバー的には「逃げイチ」のようなもの。問題は、このアドバンテージを生かす走りができるかどうか、ですね。
それでは、決勝戦の回顧といきましょう。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのは、1番車の佐藤選手と3番車の古性選手。ならば、スタートを取るのは佐藤選手のほうです。レース前の想定どおりに北日本勢の前受けが決まり、古性選手は4番手に。近畿勢の直後には単騎の和田選手がつけて、その後ろの7番手に犬伏選手。そして最後方に単騎の河端選手というのが、初手の並びです。
主導権を奪いにきそうな犬伏選手が後方となると、「斬って斬られて」が何度も繰り返される展開にはなりません。初手の並びが決まってからは誰も動かず、静かに周回が重ねられていきました。先頭の小松崎選手は、先頭誘導員との車間をきって後方の動きを待ち構えますが、赤板(残り2周)の手前でも後方の犬伏選手は動かないまま。打鐘前のバックストレッチに入っても、隊列に動きはありません。
そのままレースは打鐘を迎えて、先頭の小松崎選手が「逃げさせられる」形に。覚悟を決めた小松崎選手は、一気にスピードを上げます。結局、後方の犬伏選手が動いたのは打鐘後の3コーナーから。しかし、先頭の小松崎選手はもう加速を開始していますから、前との差をそう簡単には詰められません。しかも、犬伏選手のダッシュについていけず、諸橋選手は最終ホームに帰ってくる手前で連係を外してしまいました。
犬伏選手から離れた諸橋選手は、河端選手の前に入って8番手に。犬伏選手は大きく外を回って、そのまま単騎で前を捲りにいきます。最終ホームで4番手まで浮上しますが、小松崎選手の逃げもかなりかかっていて、最終1センターを通過してバックストレッチに入っても、そこからの差が詰まらない。しかも、犬伏選手はブロックを警戒してか、ずっとイエローライン付近を走っています。
最終バック手前になっても、犬伏選手と前との差はなかなか詰まらないまま。ここで、4番手にいた古性選手が前を捲りにいきます。素晴らしいダッシュで、内の渡部選手と外の犬伏選手の間にスッと入り込み、最終バック過ぎには渡部選手の横を一瞬で通過。その勢いの鋭さに、佐藤選手もブロックにいけません。古性選手の外にいた犬伏選手は、ここで力尽きて失速。後方からは、河端選手や諸橋選手も差を詰めてきています。
古性選手は佐藤選手の外も一瞬でパスして、最終3コーナーでは先頭の小松崎選手の外併走に。それに古性選手マークの南選手が続きますが、今度は反応した佐藤選手がこれをブロック。南選手の直後には和田選手が、その外には河端選手がいて、先頭集団の7車はギュッと密集しています。佐藤選手のブロックを耐えた南選手は負けじと応戦しますが、佐藤選手がここで進路を少し外に出したことで、アクシデントが発生しました。
佐藤選手の動きで外に振られた南選手の後輪と、その直後にいた和田選手の前輪が接触。南選手は転倒をまぬがれましたが、和田選手は残念ながら落車してしまいます。最終コーナーでは古性選手が先頭に立ち、小松崎選手から切り替えた佐藤選手と渡部選手が、古性選手の直後から前を追う態勢で最後の直線に。最後方から内の最短ルートを抜けてきた諸橋選手も、渡部選手の後ろまで忍び寄ってきています。
力強く抜け出した古性選手は、余力十分に先頭を疾走。佐藤選手がそれを必死に追いすがりますが、前との差は詰まるどころか開いていきます。小松崎選手は失速し、佐藤選手の後ろでは、渡部選手と諸橋選手、態勢を立て直した南選手が併走。しかし、こちらも最後の直線での伸びはありません。諸橋選手と南選手は、身体をぶつけ合いながらの3着争いとなりました。
結局、最後の直線に入ったところから態勢は大きく変わらないまま。古性選手がそのままゴールインして、両手を高らかにあげたガッツポーズが飛び出します。2着は佐藤選手で、接戦となった3着争いは最内の渡部選手が先着。4着が南選手で、5着に諸橋選手。捲り不発に終わった犬伏選手は、8着大敗という結果でした。古性選手が“盤石”の強さをみせた…という印象ですね。
それに、展開も古性選手に向きました。まずは、前受けから散々焦らされたあげく逃げさせられた小松崎選手について。自分が主導権というパターンも想定に入れていたとは思いますが、「前受けから何が何でも突っ張る」といったプランではなかっただけに、少し迷いがあった。もっと早い段階で犬伏選手がカマシてきた場合には、そのハコが労せず転がり込むかも…といった考えもあったかもしれません。
自分が主導権と腹をくくってからの逃げはかかっていたし、佐藤選手と渡部選手が確定板に載るのに大いに貢献しています。なかなかタイトルを獲るチャンスが巡ってきませんが、そこはもう、自分のチカラでたぐり寄せるしかない。それに、この決勝戦に関しては古性選手が本当に強かった。あの佐藤選手が反応できず、番手の南選手をブロックにいくのが精一杯なほどの鋭さでしたからね。
そして、ペースが緩んだところでのカマシ先行ではなく、ペースが上がってからの仕掛けとなってしまった犬伏選手。レース後のコメントによると事前の作戦どおりだったようですが、先頭の小松崎選手が前に踏まざるをえないタイミングで仕掛けたのですから、厳しくなって当然でしょう。あそこから出切れると考えていたのであれば、それは特別競輪の決勝メンバーを甘く見過ぎですよ。
ダッシュが鋭すぎて番手の選手が離れてしまうという“課題”はさておき、この決勝戦のようなメンバーならば、主導権をキッチリ奪うまでは行かなければダメ。もっとタイミングよく仕掛けていれば、優勝するチャンスは十分にあったはずです。犬伏選手の能力ならば、今後も大きなタイトルを獲る機会が何度もあると思いますが、それを逃してしまうと危ない。得てして「獲れそうで獲れない」状態に陥ります。
いい決勝戦だったと思いますが、期待していた和田選手の落車が個人的には残念。もっとも、あれがなくて直線で進路がスムーズに確保できたとしても、古性選手に迫れていたかどうかは微妙でしょう。いまの古性選手は、オールラウンダーとして完成の域に近づいている。脇本選手の番手にいる場合も怖いですが、自力勝負のほうがもっと怖いといえる存在になりつつありますね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。