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平原康多の勝ちペダル

【#37】関東ライン結束「やっぱり競輪は“ハート”なんだと」/ オールスター競輪回顧

2023/08/25 (金) 18:00 99

今年も地元・西武園で行われたオールスター競輪(撮影:北山宏一)

8月、G1西武園オールスターで平原康多選手は決勝進出を果たしました。優勝はこのコラムで何度も名前が出ている眞杉匠選手。平原選手がずっとテーマにしてきた「関東ラインの結束」が実を結んだ瞬間でもありました。しかし、シャイニングスター賞や決勝の判定が物議を醸すなど、精神的な苦労も大きかったと思います。今回はオールスター期間中のレース内容から心情まで本音で語ってもらいました。

◆「失格を覚悟しました」

ーーオールスターお疲れ様でした。地元開催ということもあり、かなり疲労感があったのではないですか?

 そうですね。終わってからグッタリしました。肉体的なものだけでなく、精神的なものも半分はあったと思います。

ーー完調とは言えない中での決勝進出。この結果をどう受け止めていますか?

 今回は関東の仲間のおかげだと思っています。自分が後輩達に言ってきたことが、いい方向に向いたなと感じられたし、環境はすごい変わりようでした。嬉しかったですね。

ーーまず平原選手個人のレースを一つひとつ振り返っていただきたいと思います。まず今年もドリームレースに選出されました。

 ありがたいことですね。本当に今年は運にも見放され、結果が出ていませんでしたから。

ーードリームは昨年のグランプリと全く同じメンバーになりました。東北の並びに変化がありましたが、どのように戦おうと思いましたか?

 単騎だし、まずはこだわってでも中団にいようと思いました。でも、最終的に最後方になってしまったのは反省点ですね。あと1車でも前にいたら、もう少し結果は違ったのかな。

ーーあのハイペースのレースの中で、後方から必死にコースを探している姿を見て、状態はかなりいいのかなと感じました。

 余裕はなかったけど、突っ込めた。自分の中でも良くなってきたなという感覚はありました。

ーー1次予選2は、菊池岳仁選手、武藤龍生選手との連係でした。

 僕としては、菊池が出し惜しみせずに頑張ってくれたので、何とかしてあげたいという気持ちになりました。龍生に抜かれたのは仕方ないですね。それに龍生が強かったです。あのレースだけでなく、どのレースも力を出せていました。

武藤龍生選手(写真撮影:チャリ・ロト)

ーー続いてシャイニングスター賞です。眞杉匠選手は、突っ張り先行で腹を決めていたのですか?

 車番的に前は取れないと思っていたし、作戦ではありません。僕から眞杉には、一応出てみるけど、前は取れないと思うから好きに走ってくれ、と伝えていました。

ーーでも、Sが取れてしまった。そこで眞杉選手にスイッチが入ったのですね。ただ、いつもの掛かりではなかったように見えました。

 眞杉は開催中にけっこうセッティングをいじるんですけど、あの日に限っては出ていなかったですね。

ーーレースでは残念なアクシデントがありました(平原の後輪と脇本雄太の前輪が接触して、脇本、松浦悠士、古性優作、新田祐大、山口拳矢の5選手が落車)。

 レースが終わって、僕の単独審議だったし、外帯線をはずしていたので、失格を覚悟しました。でも、ワッキーの前輪が外ハウス(接触)か、内ハウスだったかは、あの瞬間は分かっていませんでした。

ーー単独審議だったこともあり、セーフの判定が物議を醸しました。私個人の意見としては、審議対象者が2人だったら問題にはならなかったのでは? と…。レース後の共同会見で平原選手が言った「気まずいです」の一言が重く響きました。

 誤解を生んでしまったのなら残念ですね。けがをしてしまった選手には一日も早く回復してもらいたいです。

シャイニングスター賞(写真撮影:チャリ・ロト)

◆苦しみながらも「タダでは終わらないぞ」

ーー準決勝は吉田有希選手の頑張りが光りました。今開催、有希選手は変わりましたね。

 本来の彼の走りを取り戻していました。中野(慎詞)とのもがき合いは後ろで見ていてもしびれました。世界3位の脚力とダッシュに挑んでいくユウキからは、強く伝わるものがありました。

ーー準決の九州勢が山崎賢人-嘉永泰斗の並びだったのはどう思いましたか?

 ユウキはダッシュ型ではないので、あの並びの方が嫌だったと思います。僕自身もとんでもないスピードレースになると予想していました。

ーー眞杉選手がホームから出ていきましたが、とても落ち着いていたように見えました。そこからの展開はいかがでしたか?

 眞杉のスピードがバックあたりで少し落ちてきて、そこに山崎がまくってくるのが見えました。何とか援護しようと内を空けてしまったんですが、松本(貴治)がそこを入ってくる選手という考えが自分の中になかったんです。

ーーそこには油断があったと?

 甘かったですね。ワンツー決めないといけなかったし、反省しないといけないレースでした。

ーー先ほど中野慎詞選手の話が出ましたが、今回は太田海也選手など若い自力型の活躍が目立ちました。

 ナショナルチームの連中が世界選帰りなのに力を遺憾なく発揮していた。めちゃめちゃ脚力があると思ったし、レベルが上がっていると感じました。

ーーナショナルチームを離れて本格化した選手もいますね。

 その最たる例が新山(響平)でしょうけど、松井(宏佑)も競輪一本になって前より強くなっているなと感じます。

ーーでは決勝の話を伺いたいと思います。吉田拓矢選手の前回りはサプライズでした。

 ヨシタクとはなかなか連係がうまくいかないこともありましたが、今回、彼の競輪への向き合い方が変わってくれたことが本当にうれしかったです。

ーー号砲が鳴って、全力のS取りでしたね(笑)。

 ははは、緊張しましたよ。もちろんここがうまくいかなかったら、ラインがやりたいことが潰れてしまう。いや、僕が潰してしまうことになりますから。責任を感じました。

ーー残り2周であの形になった時は、決まったなという感じでしたか?

 そんな感じではありません。ヨシタクがものすごいダッシュだったし、こんなに行くんだ、こんなに踏むんだ、と思って付いていました。

ーー犬伏湧也選手はレースをさせてもらえませんでしたが、清水裕友選手がやっぱり来ましたね。

 ちょうど眞杉が踏んだところが1コーナーの上りで、清水が自分の横に来た時は、これはキツいなと思いました。タイミング的にも遅れてしまって競りづらい厳しい状態でしたし、2コーナーではもう僕が優勝できる展開じゃなかったです。

ーー清水選手のヨコは重かったですか?

 当たり方が上手ですね。古性(優作)や松浦(悠士)と一緒で、何でも出来る選手だと思います。

ーー競っている間は、どういう心境でしたか?

 清水に当たられて自分の出足が殺されました。でも、タダでは終わらないぞと。何とか清水のスピードを殺して眞杉に追いつけないように、必死に頭でこすっていました。あそこはすごく苦しかったです。

ーー眞杉選手が一番先にゴールを駆け抜けた瞬間は?

 眞杉がガッツポーズをしているのが見えて、良かったぁ〜と安心しました。

初タイトル獲得の眞杉匠選手(写真撮影:チャリ・ロト)

ーーただ、吉田拓矢選手の失格(暴走)は本当に残念でした。

 走っている時は全然分からなくて、終わって管理の人たちがガサガサしていても何かあったの? という感じでした。ヨシタクは前日から「関東の前でやることはひとつ」と記者の人にもコメントしていましたし、ああいう走りをすることはファンの皆さんも分かっていたと思います。

ーー選手側にしたら、あのルールは厳しいものがありますね。

 ルールや判定について意見をするのは難しいですが、優勝した眞杉が100%気持ち良く終われなかったのは可哀想でした。

ーーこのコラム内でも眞杉選手を高く評価していましたが、表彰式に向かう眞杉選手の背中をバンバンと叩きながら祝福する平原選手の笑顔が印象的でした。

 うれしかったですね。日頃の努力もありますけど、タイトルは巡り合わせや、そういう星の下に生まれているかというのも重要だと思うんです。

ーー確かに強くてもなかなか取れない選手もいますね。

 宿口(陽一)が取った時に、本当にそれを感じました。無冠の帝王のような人もいるのに、アイツはサッと取ってしまいましたから。

ーー今回は眞杉選手の優勝も、平原選手の決勝進出も、本当にラインが機能していたと感じました。関東に素晴らしい結果をもたらせましたし、平原選手のラインへの思いが形になりましたね。

 会話の大切さ、思いを伝え合う作業というのがどれほど重要か分かりました。今回の結束を見て、やっぱり競輪は「ハート」なんだと改めて思いました。

(文中敬称略)

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平原康多の勝ちペダル

平原康多

Hirahara Kota

埼玉県狭山市出身。日本競輪学校87期卒。競輪選手・平原康広(28期)を父に持ち、その影響も受けて高校時代から自転車競技をスタート。ジュニア世界自転車競技大会などで活躍し、頭角を現していった。レースデビューは2002年8月5日の西武園。同レースで初勝利を記録。2009年には高松宮記念杯と競輪祭を制し、2010年も高松宮記念杯で勝利。その後もGⅠ決勝進出常連の存在感を示し、2013年は全日本選抜、2014年と2016年には競輪祭、2017年も全日本選抜などで頂点に輝く。最高峰のS級S班に君臨し続け、全国の強者と凌ぎを削っている。

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