アプリ限定 2023/08/18 (金) 12:00 40
西武園競輪場で8月16日にアルテミス賞レース、17日にガールズドリームレースと、ガールズケイリンコレクションの2大会が行われた。アルテミス賞を石井寛子(37歳・東=104期)が、ガールズドリームを児玉碧衣(28歳・福岡=108期)が制した。
石井寛子としては今年、大きなレースで結果を残せておらず「ここで」の思いが強かっただろう。「これで流れを変えたい」の思いは、ガールズグランプリに向けてのもの。レース運びの巧みさと勝ち切った力はやはり揺るぎない。その美しさの陰に、壮絶な2着をもぎ取ったのが石井貴子(33歳・千葉=106期)だった。
かつては2021年5月京王閣のガールズコレクションの落車で、医師から引退勧告を受けるほどの重傷を負った。頭を強く打ったこともあり、もう落車はご法度だ。なのに3月小倉の優勝後に練習中に落車してしまう。複数の骨折もあり「引退を考えた」というが、ファン投票でアルテミス賞に選ばれたことが踏みとどまらせた。
レースは最後の最後まであきらめず、1cmでも前へと突き進み、狭いコースをやめずに踏んで2着。頑張る姿を見せることがファンへの恩返し。涙はもう尽き果てたというような壮絶なゴールだった。その勇気には感動がふさわしかった。
ガールズドリームは動いて先頭に立った佐藤水菜(24歳・神奈川=114期)を、児玉が早めに叩き切ってそのまま押し切った。世界選手権帰りの佐藤の状態が読みづらかったとはいえ、その力に疑いの余地はない。真後ろについていっての勝負も考えられた。
だが信じたのは自分の力。ケガの影響が残るままだった3月別府競輪のガールズコレクションでは、なすすべなく終わった。佐藤の台頭や大ケガにより「児玉は終わった」の声も聞かれたが、「絶対イヤ」とむき出しの勇気で戦いの場に挑んだ。
成し遂げられる度胸はすさまじいものがある。感動を超える。確実に尊敬の対象。映画「野獣死すべし」に「神よりも美しい!」と松田優作が叫ぶシーンがあるが、児玉は神を超えたと思う。
ガールズドリームは直線部分で佐藤と柳原真緒(26歳・福井=114期)が接触したところが審議となった。お互いが同時に寄る形になって体がぶつかった。審議はセーフでルールの範囲内であったわけだが、近況のガールズケイリンは接触が多い。
そこまでしないと勝負にならない、というのが現実だが、原点に返るべきだ。大ケガにつながる事故も少なくない。完全なアクシデントはやむを得ないものはあっても、そこに至らないようにする日々の積み重ねも必要だろう。
接触につながるような動きは、普段から厳しく見ていかないとズルズルと「この程度はオーケー」の風潮になる。危険な競技、と認知されたのではガールズケイリンの選手になりたいと思う人は確実に減る。落車が起きない、事故が起きない、そうした積み重ねのある競技であってほしい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。