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前田睦生の感情移入

【競輪の歴史】時代は変わったのか西武園オールスター、悲しい暴走失格のルール

アプリ限定 2023/08/22 (火) 12:00 217

眞杉匠はタイトルホルダーとなった(写真提供:チャリ・ロト)

山口拳矢に続く眞杉匠の若手によるGI優勝

 西武園競輪場で8月15〜20日の6日間に渡り、ナイター「第66回オールスター競輪(GI)」が開催された。死闘は過酷を極め、4日目のシャイニングスター賞では大量落車が起こってしまい、脇本雄太(34歳・福井=94期)と松浦悠士(32歳・広島=98期)は大ケガを負う事態となった。今年のS班はどうにも落車禍に見舞われている。

 上位陣のアクシデントがあったとはいえ、若手の活躍は確固たるものがあった。優勝した眞杉はもちろんだが、初めてのGI出場で中野慎詞(24歳・岩手=121期)と太田海也(24歳・岡山=121期)は準決進出。世界で戦いながら、国内の競輪でも…の気迫を見せつけた。犬伏湧也(28歳・徳島=119期)も言うまでもなく、嘉永泰斗(25歳・熊本=113期)や伊藤颯馬(24歳・沖縄=115期)、復活の吉田有希(21歳・茨城=119期)など若者が躍動していた。山崎賢人(30歳・長崎=111期)は終盤の台風の目になりそうだ。

 決勝の清水裕友(28歳・山口=105期)の攻めもヒロトらしく、松本貴治(29歳・愛媛=111期)は展開に泣いたものの近況の成長は確かなものがある。5月平塚競輪の「日本選手権競輪(GI)」を山口拳矢(27歳・岐阜=117期)が制し、今回の眞杉と若い名前が12月30日の立川競輪で開催される「KEIRINグランプリ(GP)」に向かう。

 時代は、変わったのかーー。

時代はどこへ向かう

吉田拓矢の走りの意味は…(撮影:北山宏一)

 スピード競輪全盛と言われる中でも、ラインの絆の競輪は強化される一方だ。決勝では吉田拓矢(27歳・茨城=107期)が関東4車の先頭を志願し、赤板から主導権を握った。準決では弟の有希が眞杉と平原の前で奮戦し、決勝に導いている。吉田兄弟の汗が西武園バンクに染み込む。

 平原は清水と絡んだことで力尽きたのだが、関東結束で戦えたことは間違いなくこれからの復活のエネルギーになる。武藤龍生(32歳・埼玉=98期)には驚きもあったが、いつかGIを制し、その次の開催では葉巻をくゆらせながら「たつおです…」と登場するはずの豪傑だ。

 問題は、いや、基本的には“問題”ではないのだが、拓矢の暴走失格について。
 これはルールなので、今回は失格が妥当。準決の平原の動きも、過去の事例においても、脇本の動きがあってのものなので失格は取れない。審判はその責務を果たしているのみ。

 2019年松戸競輪場で代替開催された千葉記念の決勝で小埜正義(42歳・千葉=88期)が暴走で失格となった。あの時、「ついにこんな時代になったのか」と愕然とした…。そして、今回の決勝があった。

競輪は築いてきたものがある

小埜正義も暴走失格となったことがある

 競輪は“個”の勝負で1着を競うものだが、70年を越える長い歴史の中で、それだけではない競技、ギャンブルになってきた。競輪選手たちはラインという心でつながった仲間たちと、目の前のレースだけでなく、過去と未来を含んだ奥の深い走りをしている。

 拓矢にしても小埜にしても、自分が勝つ可能性は低くなっても、ラインの誰かから…と自分ができることに徹した。そこで、力尽きた。この形のレースは昔からいろんな場所で行われ、ファンもそれを共有してきた。9着だったとしても、その選手にはずっと称賛が与えられてきた。

 戦後ということもあったのだろうかーー。犠牲的精神というものが尊ばれ、日本人の浪花節的なものとしても競輪は多くのファンに好まれてきた。そこに物語を、見てきた。

 ずっと続いてきたが、時は流れた。

引き裂かれた愛読書

金網のこちらと向こう

 私も42歳になり、20年以上競輪を見てきた。愛してきたと言ってもいい。取材記者になって選手の姿を目の前で見るようになった。先頭で戦い抜いて敢闘門で倒れ込み、仲間たちが笑顔で抱え、起こし、介抱し、称える。その光景を何度も見た。美しいと思ってきた。

 その光景を、できるだけそのままファンに伝えようとしてきた。それが6年くらい金網に張り付いていた1人の競輪ファンだった自分に向けて、と思って…。

 競輪から離れられずに、ずっと“競輪の本”を読んでいるようなものだが、この暴走の失格は私の愛読書を引き裂く。4年前、小埜の時は拾い集めて、もう一度本にできたのだが、2度目はきつい…。
「前田クン、もうこの本は終わったんだよ」。顔のない教師が私に声をかけて来る。今の時代は拓矢と小埜を失格とする時代なのだ。

 古いものにしがみついて、現在を見ることができていないのかもしれない。

 でもね、顔のない教師は1人だけで、ホントは私の脇腹を突っつきながら「拓矢は最高のレースをしたんだよ!」「これが競輪なんだよ!」「みんな分かってるって!」という無数の声ばかりが聞こえる。

 大事に抱えてきた本は今、散り散りバラバラに地面に落ちて踏みにじられているけど、拾ってくれている人がいて、その人たちの顔はみんな真剣なんだ。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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