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山田裕仁のスゴいレース回顧

【瑞峰立山賞争奪戦 回顧】“圧巻”だった北井佑季の走り

2023/08/07 (月) 18:00 46

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが富山競輪場で開催された「瑞峰立山賞争奪戦」を振り返ります。

瑞峰立山賞争奪戦で優勝した郡司浩平選手(写真提供:チャリ・ロト)

2023年8月6日(日)富山12R 開設72周年記念 瑞峰立山賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①浅井康太(90期=三重・39歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
③松浦悠士(98期=広島・32歳)
④北井佑季(119期=神奈川・33歳)
⑤佐藤慎太郎(78期=福島・46歳)
⑥恩田淳平(100期=群馬・33歳)
⑦小倉竜二(77期=徳島・47歳)

⑧柏野智典(88期=岡山・45歳)
⑨眞杉匠(113期=栃木・24歳)

【初手・並び】

←④②⑤(混成)①(単騎)⑨⑥(関東)③⑧⑦(中四国)

【結果】

1着 ②郡司浩平
2着 ④北井佑季
3着 ①浅井康太

力のある選手が揃ったシリーズ

 8月6日には富山競輪場で、瑞峰立山賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。ここは、イキのいい機動型にオールラウンダー、そしてマーク選手と、力のある選手がズラリと揃いましたよね。近況好調の松浦悠士選手(98期=広島・32歳)や、追加あっせんで出場の郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)など、4名のS級S班が随所で存在感を発揮。このシリーズは盛り上がりそうだな、車券も売れそうだな…と思いつつ観戦していました。

 残念ながら新山響平選手(107期=青森・29歳)は準決勝で4着に敗れてしまいましたが、それ以外のS級S班は決勝戦に進出。しかし、勝ち上がりの過程で彼ら以上の輝きをみせたのが、無傷の3連勝で勝ち上がってきた眞杉匠選手(113期=栃木・24歳)と、北井佑季選手(119期=神奈川・33歳)です。S級S班を相手に連続して1着をとった、北井選手のデキのよさは本当に素晴らしかったですね。

S級S班を相手に連続して1着をとった北井選手(写真提供:チャリ・ロト)

 徹底先行タイプで、なおかつデキもいい眞杉・北井の両者が、ラインの先頭として決勝戦で激突。実績的に「格上」なのは眞杉選手ですが、北井選手は番手が郡司選手で3番手を固めるのが佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)という、総合力が非常に高いラインの先頭を任されました。この主導権争いがどうなるかは、決勝戦の大きな見どころとなること間違いなしです。

 眞杉選手が先頭の関東勢は、恩田淳平選手(100期=群馬・33歳)とのコンビに。そして3名が勝ち上がった中四国勢の先頭は、松浦選手に任されました。こちらは、番手を回るのが柏野智典選手(88期=岡山・45歳)で、ライン3番手は小倉竜二選手(77期=徳島・47歳)。眞杉選手と北井選手が主導権を争ってやり合うような展開もありそうで、松浦選手らしいクレバーな立ち回りで勝負してくることでしょう。

 そして唯一の単騎が浅井康太選手(90期=三重・39歳)で、多勢に無勢ではありますが、1番車がもらえたのは大きいですよね。初手でいいポジションを確保して、そこからどう立ち回るかの勝負となります。さまざまな展開が考えられる一戦で、車券的にもかなり面白そう。北井→郡司の二段駆けをすんなり許すような出場メンバーではありませんから、333mバンクらしい出入りの激しいバトルとなりそうです。

北井選手と眞杉選手が激しく身体をぶつけ合う

 では、決勝戦の回顧に入りましょう。スタートの号砲と同時に、6番車の恩田選手や1番車の浅井選手が出ていこうとしますが、それらを制して先頭に立ったのは2番車の郡司選手でした。つまり、北井選手が先頭の混成ラインが「前受け」です。その直後の4番手に、単騎の浅井選手。眞杉選手が先頭の関東勢は中団5番手で、松浦選手は後方7番手からというのが、初手の並びです。

 レースが動き出したのは、青板(残り3周)周回の2コーナーを回ったところ。後方に位置していた松浦選手が前との車間をきって、一気にカマシにいくタイミングをうかがっています。おそらく松浦選手は、「先頭の北井選手が合わせきれないほどのスピードでのカマシ」を狙っていたのでしょう。なにがなんでも突っ張って主導権を主張するであろう、北井選手への対抗策ですね。

 しかし、そんな松浦選手よりも先に動いたのが中団の眞杉選手。青板のバック手前から仕掛けていって、先頭の北井選手を斬りにいきました。しかし、北井選手は譲らずに突っ張って主導権を主張。青板の2センターでは早々と、内の北井選手と外の眞杉選手が激しく身体をぶつけ合うバトルが開始されます。松浦選手は関東勢の後ろにつけて、前の様子を見ながら5番手の外を追走しています。

 北井選手と眞杉選手はともに一歩も譲らず、もがき合いで赤板(残り2周)のホームを通過。松浦選手はここで、関東勢の後ろから浅井選手の後ろに切り替えました。その後も北井選手と眞杉選手の熾烈なバトルが続きますが、打鐘前の1センターで眞杉選手の追撃を振り払って、主導権を奪取。眞杉選手の番手にいた恩田選手は、佐藤選手のブロックを受けたのもあって、連係を外してしまっています。

 先頭まで出切れなかった眞杉選手は、3〜4番手の外を追走しながら入り込めるスペースを探しつつ、レースは打鐘を迎えました。しかし、そうは問屋が卸さないとばかりに、浅井選手が瞬時に前との差を詰めて、眞杉選手の内をすくうように4番手をキープ。さらに松浦選手も浅井選手に連動して、最終ホームに帰ってきたところで一気に加速。眞杉選手の動きを阻みながら、前を捲りにいきました。

 眞杉選手とのバトルでかなり脚を使わされたはずの北井選手ですが、主導権を奪いきってからも、非常にかかりのいい逃げで先頭をキープ。捲りにいった松浦選手が、なかなか差を詰めることができません。最終1センター過ぎに佐藤選手の外まで並びかけますが、まずは佐藤選手がヨコの動きで松浦選手を受け止め、その前にいる郡司選手も進路を外に振ってブロックするという二段構えで迎撃しました。

 これでかなりスピードを削がれた松浦選手。最終バック手前から態勢を立て直して再び前を追いますが、一気に前を飲み込むような勢いはありません。再びジリジリと差を詰めようとする松浦選手に対して、内の佐藤選手が牽制しようと進路を少し外に振ったところで、最内の狭いスペースを浅井選手が突いて、最終2センターでは3番手の3車が横並びに。北井選手が先頭のままで、富山の短い最後の直線へと入ります。

 ここで、内を最短距離で回った浅井選手が単独3番手に浮上。しかし、それを察知した郡司選手が直線の入り口で内をしっかり締めて、その進路をなくします。その後ろでは、浅井選手と同じコースを抜けてきた小倉選手と、郡司選手マークの佐藤選手、外を回った松浦選手が並んで前を追いますが、先頭集団には届きそうにない。逃げた北井選手はまだ失速せず、先頭で粘り続けています。

 しかし、それを満を持して差したのが郡司選手。1車身ほど抜け出して、先頭でゴールラインを駆け抜けました。北井選手と浅井選手の争いはきわどくなりましたが、内の北井選手がギリギリ粘って2着を確保。3着に浅井選手、4着に小倉選手で、捲りを受け止められた松浦選手は5着まで。眞杉選手は7着という結果に終わりました。結果はもちろんのこと、内容的にも郡司&北井という神奈川コンビの「完勝」でしたね。

1車身ほど抜け出して、先頭でゴールラインを駆け抜けた郡司選手(写真提供:チャリ・ロト)

 勝ち上がりの過程でも素晴らしい走りをみせていた北井選手でしたが、この決勝戦でみせたパフォーマンスには、正直なところ驚かされました。眞杉選手とのもがき合いを制して、そのうえ最後まで止まらず2着に粘りきるとは…まさに“圧巻”の走りですよ。先行有利の333mバンクで、内にいたというポジション的な有利さがあったとはいえ、あの厳しい展開でこの結果を出すというのは、並大抵ではありません。

 そんな北井選手の力強い走りに導かれて、チャンスをしっかりとモノにした郡司選手。平塚ダービーでの落車骨折によるダメージも癒えて、いい手応えとイメージをもって大一番の西武園・オールスター競輪(GI)に臨めることでしょう。それは北井選手も同じで、西武園は400mバンクとはいえ、圧倒的に先行有利。この強い相手にこの走りができたことで自信をつけて、再び快走劇がみられるかもしれませんよ。

 早々と中団から動いて主導権を奪いにいった眞杉選手については、あの初手の並びならば先に松浦選手に動いてもらって、北井選手と松浦選手がやり合う展開を期待したほうがよかったかもしれません。それでも先に動いたというのは、先行にこだわりと持つ者としての“意地”ですよね。自信をつけるとさらに手強くなる存在とみて、強引にでもねじ伏せにいった…という印象を受けました。

 結果として返り討ちにあったわけですが、これはあくまで今回の話。これで眞杉選手は、北井選手を同格の強敵とみなして、その存在をより強く意識した戦いを挑んでくることでしょう。次なる直接対決の舞台で、今度は彼らがどんな“意地”や“プライド”を背負った走りをみせてくれるのか。この「継続性」も、競輪という競技の大きな魅力のひとつです。次回のバトルも、ぜひ注目したいですね!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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