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【嘉永泰斗 独占インタビュー】GIタイトルへの意識、ライバルたちの存在、熊本への熱き思い…デビュー5年の“現在地”から見ているもの/サマーナイトフェスティバル特集

アプリ限定 2023/07/13 (木) 18:00 63

いよいよ夏本番! 7月15日〜17日、函館競輪「サマーナイトフェスティバル(GII)」が開催となります。今回netkeirinではシリーズ開幕を記念して、今伸び盛りの若手機動型、熊本113期・嘉永泰斗選手にインタビューを敢行しました。デビューから丸5年が経ち、この先に掲げているビジョンや今感じている競輪に対する熱い思いなど、これからの競輪界を背負って立つ若武者の胸の内に迫りました。(取材・構成 netkeirin編集部)

熊本支部所属の25歳、嘉永泰斗(撮影:北山宏一)

勢いだけだった昨年と今年は違う

ーー7月にデビュー5年目を迎えました。ここまで紆余曲折あったと思いますが、振り返ってみていかがでしょうか?

嘉永 早かったっすね〜(笑)。マジで一瞬でした。特に(3年目に)S級に上がってからはすぐでした。

ーー現状の成績だったり立ち位置だったりは思い描いた通りですか?

嘉永 描いた通りといえば通りですけど、去年に関しては勢いでパッと上がってパッと下がった感じです。今年は手応えをつかみながら走って上がっているので悪くないですね。

ーー“手応え”とは感覚的なものですか。

嘉永 そうですね。練習からレースへの過程がしっかりしているから、実戦でも結果が出ているなと感じます。去年までは「過程は微妙だけど結果だけはつく」という感じで、自分の中に明らかな根拠がなかったんです。勢いだけというか。それじゃあ長続きしないしミスも増えますよね。

ーーたしかにS級に上がり始めの頃は、勝つ時は強い勝ち方をするけど、負ける時は淡泊に負けるといったレースも多かった印象があります。

嘉永 はい。それも何とか戦っているって感じで。(ビッグレースに)初めて出た「ウィナーズカップ(2021年3月・松阪)」なんか、最終日までいられずに3日間でお帰りになったぐらいでしたから。あの頃はただただ大きなレースに出場しただけって感じでした。

ーー自分の中で劇的に変わったものがあったのですか。

嘉永 やっぱり、ちゃんとテーマを持って練習をするようになったって事ですかね。それまでは漠然と乗り込んでいて、ただ練習をしただけで満足してしまったり。今は常に目的意識を持っています。

ーーウィナーズカップと同じ年の10月には地元記念(開設71周年記念「火の国杯争奪戦in久留米」)を優勝し、GIII初制覇を挙げました。翌年2月には初のGI(取手競輪「全日本選抜競輪」)に出場して準優まで勝ち上がるなど、一躍ブレイクしました。

嘉永 地元記念は前で走ってくださった北津留さんと3番手を回ってくれた瓜生さんのおかげでしたし、GIもマークされていなかったからポンポンと行っただけ。点数を持っていなかったし、完全に勢いだけでした。それこそ根拠と言えるものがなかった。

北津留翼の先行に乗り記念初制覇、レース後は瓜生崇智に担がれた(photo by Shimajoe)

ーー根拠の材料となりうる取り組みとして、何か具体的に行動を起こした事はありましたか。

嘉永 周りの方々から多くのアドバイスをもらって、いろんなものを取り入れて自分なりにアレンジをしていますが、去年1月の和歌山記念で荒井(崇博)さんからウエイトトレーニングの話を聞いたんです。あれが自分の中では特にハマったんですよね。

ーー“ハマった”とはどういうことでしょう。

嘉永 実際に聞いたものを落とし込んで自分なりにメニューを組んで実行していたら、上げる重量とかも少しずつ上がってきました。

ーー理論が備わったという事ですか?

嘉永 そうですね、荒井さんの説明や話が自分には合っていました。納得する部分がたくさんあって、バチっとハマりました。

ーー今ではどの選手もウエイトトレーニングを取り入れていますよね。嘉永選手は以前から積極的だったのですか?

嘉永 もちろん、ウエイトをやらない選手もいるんですよ。ただ自分の場合は元々、線が細いから大きくした方がいいって事で以前から取り入れていました。それに伴って自転車の調子も上がったから理にかなっていました。そのあとも瓜生さんや松岡タツ(松岡辰泰)と荒井さんのところに出稽古へ行ったほどです。

荒井崇博の理論がハマり、ウエイトトレーニングの質が向上した(撮影:北山宏一)

負けられないライバルについて

ーー今でこそS級の上位戦線に名を連ねるまでになりましたが、デビュー当初は113期の面々の台頭が目覚ましく、彼らと比べてやや出遅れた感がありました。周りの選手たちを見て焦りなどは感じませんでしたか。

嘉永 みんな、けっこうバーンってS級に上がりましたよね。自分はケガをしたり、誘導員早期追い抜きをしたりして出遅れたんです。でも、その間はケガを治す期間に充ててS級に備えていたので、遅れたとかはまったく思わなかったし、焦りもしませんでした。

ーー慌てずに先を見据え、来るべき日に備えていたという事ですか。

嘉永 早期追い抜き(2019年6月・大垣)をした際、あっせんが3か月止まったんです。その空いた時間を使って、チャレンジ時代に出たヘルニアの手術をしたのが良かった。最初は自転車にも乗れないぐらいのキツさだったけど手術のおかげか、今となっては大きな痛みも出ていませんから。

ーー回り道をしたけど得るものも多かったのですね。

嘉永 自分は人よりも確実に多くケガをしていると思うので、対処の仕方や向き合い方はA級でわかったから(S級で落車が増えても)その経験を生かせていると思います。

ーー逆境を跳ね返して、うまく強みに変えています。

嘉永 いろいろな失敗も経験したし、今は体の維持のために週に2、3回は絶対にケアを入れたりして、かなり気を遣っています。

ーー昨年は「調子が上がってくると落車する」という負のスパイラルがありました。ご自身でも自覚はありましたか。

嘉永 それはありますよ(苦笑)。去年が選手になって一番コケました。共同通信社杯(GII・名古屋)では鎖骨骨折をやったり。今年も危ないレースはたまにあるんですけど、今のところは車体故障だけで済んでいて、まだ落車はゼロなんです。

ーー位置取りの激しさやスレスレのところをスピードに乗せてまくっていくようなリスキーなレースが多いだけに意外な感じがします。

嘉永 去年の落車は激しいけん制や(巻き込まれての)乗り上げがほとんどでした。体力的にも余裕がなかったからでしょうね。体やセッティングを作って、落車して、またゼロになって戻していくのって思った以上にしんどいものなんです。だから落車がないのは気持ち的にだいぶ楽ですね。

落車のない今年は精神的余裕をもたらしている(撮影:北山宏一)

ーーここまで様々な選手たちと戦ってきました。同年代、同期で意識する選手はいますか。

嘉永 同期の眞杉(匠)とか松井(宏佑)さんですかね。2人はGIの決勝にも乗っているし、どうしても意識します。

ーーその2人は特別戦線でも争覇クラスに君臨しています。現地で意見交換などはするのですか。

嘉永 眞杉とはけっこう自転車の話をします。(同じ自力型だが)戦法は違うけど、身長はほぼ同じなのでセッティングを見てもらったり、フレームの寸法を聞いて参考にしたり。あとは遊びや趣味の話とかざっくばらんです。

ーー松井選手とは年齢が離れていますが眞杉選手は年齢も近く、好敵手としては一番近い存在ではありませんか。

嘉永 そうですね。年齢は一個下ですし、(特別戦線で)戦う機会が増えるでしょうし、負けられない相手です。

火花を散らすライバル的存在、同期・同年代の眞杉匠(撮影:北山宏一)

地に足をつけたい今、GIタイトルに意識ない

ーー今年5月には函館競輪「五稜郭杯争奪戦」で2度目となるGIII制覇を挙げ、今年は更なるステップアップが期待されています。ご自身の中でもGIタイトルやKEIRINグランプリ出場に対して期するものがあるのではないですか。

嘉永 いや、今年はまったく意識していません。目先を見ても仕方がないし、今年は目いっぱい頑張って、来年あたりに見えてきたらいいなと思っています。

ーー賞金ランキングなどをチェックしたりはしませんか。

嘉永 たまに見たりはしますよ。だけど、それを見て上積みしてグランプリを目指そうとかって気持ちにはならないですね。

ーーまだまだ遠い世界という感じでしょうか。

嘉永 点数を今以上に持って、周りからマークされた上で準決なり決勝に乗れていれば、ステップアップしているとは思いますけど、まだGIの決勝にも乗っていないですから。それにタイトルって、上位を走る人はみんな狙っているから難しい。

ーー激戦が続く中、6月の岸和田GI「高松宮記念杯」の際には「今は競輪が楽しい!」と声を弾ませていらっしゃったのが印象的でした。その言葉の意味は?

嘉永 GIの上位陣の人たちはみんな強いし、そこへ挑んでいくってところが楽しいです。まだまだ、ぜんぜん挑戦者ですし、高松宮記念杯も完全にラッキーで準決勝に乗れただけですから。自分の力はまだ足りていないと思いました。

ーー特別戦線でもうひとつ上へ行くためには何が必要だと考えていますか。

嘉永 開催を通して戦う体力は大事だと思います。GIは最低4日以上ありますし。S級S班の人たちはその辺のバランスを考えて過ごしているのかなって。そういう意味では高松宮記念杯は準決で負けたけど、5日連続で走ったわりには最終日に納得できるレースができたので、自分の中ではいい開催だったと評価できました。

ーー準決勝で負けたあと、集中力を保ったまま最終日を戦うのって難しいものではないですか?

嘉永 そうです。だけど岸和田は気持ちも体力も切らさずに最後まで戦えたし、ちょっとずつ体力が上がっているなと実感できて自信が付いたんです。この先の特別戦線に生かせたらいいですね。

上位陣に挑む楽しさを感じつつ、地に足をつけてタイトルへ近づきたいとした(撮影:北山宏一)

思い入れある函館バンクで好スタート切りたい

ーー15日から函館GII「サマーナイトフェスティバル」が行われます。現状の仕上がりなど状態面を教えてください。

嘉永 それが…。高松宮記念杯が終わったあと、ストレスや疲れが溜まったせいか気持ちが沈んでしまって。一旦ダウンして気持ちを立て直している最中です。(※取材日:7月4日)

ーー本番へ向けて何か特別な事をしているとかは。

嘉永 特に変わりなくいつも通りに練習をしていますが、直前に小倉競輪に何日間か入って荒井さんたちと合宿をしてきました。充実した練習ができているし順調っちゃ順調です。

ーー改めて函館のイメージはどうですか。

嘉永 やっぱり記念を獲ったし、思い入れのあるバンクだから楽しみです。それに去年は、後半戦がとても悪かったので、今年はスイッチを入れ直して、(後半戦の)いいスタートが切りたいです。

5月にバンクレコードを更新し優勝している函館には思い入れがある(写真提供:チャリ・ロト)

ーーその後半戦へ向けて、改めて取り組みたい事はありますか。

嘉永 2月の高知GI「全日本選抜」から変えたフレームが合っていて。去年のダービーや高松宮記念杯の時の感覚が戻り、“これだ!”って感じがあったんです。今もずっと同じものを使っていて、乗り方やセッティングを煮詰めています。フレームはやっぱり大事。一個変えるとガラッと変わりますから。

ーー後半戦と言えば10月には地元記念があります。もしも走る機会がありましたら、どのような戦いがしたいですか?

嘉永 もちろん、獲りたいし狙いに行きますよ! 今度は地元を自分の力でしっかりと勝ちたいです。

ーー脇本雄太選手ら強力なメンバーが揃うと厄介ですね。

嘉永 いやいや、どのみち勝ち進めば決勝とかで当たるだろうし、いつか戦わなきゃいけない方たちですからそこは気になりませんよ。

ーー熊本勢は今、松本秀之介選手や伊藤旭選手らが定期的に特別戦線に名を連ねるようになるなど若手の躍進が著しいです。後輩たちの存在はどう映っていますか。

嘉永 後輩もたくさん増えたし熊本自体、盛り上がっていますよ。切磋琢磨して強くなろうとみんな目的意識を持っていると思うし。ただ、後輩たちには…負けたくないです。

熊本競輪場再開後の地元記念で名前を残したい

ーー熊本競輪界エースの座には長年、中川誠一郎選手が君臨していましたが、今は本調子を欠いています。嘉永選手には新世代のエースとして期待がかかります。

嘉永 いつか、その位置にいけたらいいですね。背負うものもあるし、もっと頑張らないと。

熊本競輪界、新世代のエースめざして(撮影:北山宏一)

ーーちなみに、当サイトでやっている中川選手のコラムを読む事はありますか。

嘉永 毎月、読んでいますよ。とにかく面白いです(笑)。自分の名前が出ると、何を言っているのかな? とか思いながら見てますね。誠一郎さん、早く復活して欲しいです。

ーーそういえば、先月の中川選手のコラムに書いてあった脇本選手の麻雀会に参加されたと聞きましたが。

嘉永 それこそ脇本さんに誘われて参加させてもらったんですけど、楽しかったですね〜(笑)。麻雀はゲームではしていたけど、実際に打った経験がなくて、牌をにぎるのも初めてでした。頭を使うしいい緊張感もあって勉強になりました。いずれ、趣味にできたらいいですけど。

ーー今ハマっていることや趣味はありますか?

嘉永 最近は趣味に割く時間自体、あんまり取れないんですよ。以前はスニーカーを集めたりしていたんですけど、あれって人気のある商品は抽選になるんです。だけど、なかなか当選しなくって(笑)。

ーーなるほど。それなら脇本選手の麻雀会はオン・オフの切り替えとして最高の気分展開になったのではないでしょうか。

嘉永 今ちょうど家を建てているんです。敷地内にウエイトの部屋を作ったりしてこだわっているんですけど、せっかくなら麻雀卓も置こうかなって考えているぐらい(笑)。けど、人数がなかなか集まらなそうだし迷いますね。

ーーそこまで! かなり本格的ですね。

嘉永 だから、頑張って稼がないと(笑)。今では最高のモチベーションになっています。

ーー話を競輪に戻しますが、来年には熊本競輪場が再開します。

嘉永 はい。自分らの世代は熊本競輪場をレースで走った事がないから、今から待ち遠しいです。

ーーそこまでにもうワンランクアップしていたいですね。

嘉永 来年、一発目の地元記念に出られればそこも獲りたいし、もっと強くなっていないと。優勝して名前を残して地元ファンにもっと自分の名前を知って欲しいです!

ーー最後にひとつ教えてください。4月の四日市ナイターGIIIで、アマチュア時代に浅井康太選手からサインをもらったというエピソードが話題になっていましたが、どういった経緯でしたか。

嘉永 高校時代に熊本競輪で大きなレースがあり、浅井さんがいらしていて。師匠の倉岡(慎太郎)さんが「誰かのサインをもらってくるぞ!」と言ってくれたので、「浅井さんのサインが欲しい」とお願いしたんです。そんな縁もあったから、四日市ナイターGIIIの決勝で連係できた時はうれしかったし、思い出になりました。

四日市ナイター決勝で浅井康太と連係! 浅井が優勝し嘉永は準優勝となった(写真提供:チャリ・ロト)

ーーそんないきさつがあったのですね。それではサマーナイトフェスティバルでの躍動を楽しみにしています。今日はインタビューありがとうございました。

嘉永 ありがとうございました! 後半戦のスタートを良いものにできるように精一杯頑張ってきます!

夏の夜、火の国・熊本から大輪の華を打ち上げに!いざ函館決戦へ!(撮影:北山宏一)

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