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不屈の男・金子貴志の奮闘記 〜40代の挑戦〜

【金子貴志の読書】“70歳での挑戦”に心掴まれた! 競技生活30年、学びに終わりはない

2023/06/22 (木) 18:00 14

 netkeirinをご覧の皆さんこんにちは、金子貴志です。

 18日に終わったGI「高松宮記念杯競輪」では、古性優作君が連覇を果たしました。本当におめでとうございます。

 古性君が表彰式で見せた涙は印象的でした。今回は初日に落車もあり、連覇や地元のプレッシャーも相当なものだったでしょう。その重圧を乗り越えての優勝ですから、心技体どれを取ってもさらに強さが増したのではないでしょうか。

 全日本選抜に次ぐ連覇で周囲からの期待はさらに大きくなると思いますが、連覇した人にしか挑戦できないこともあります。これからも勝ちを積み重ねて、新しい時代を築いていってほしいです。古性君はラインを組んで前で頑張ってくれたこともありますから、同じ選手としても今後の活躍を見るのが楽しみです。

高松宮記念杯連覇の古性優作、表彰式での涙が印象的だった(写真提供:チャリ・ロト)

 今月、私は2022年にリニューアルされた玉野競輪場に行ってきました。玉野が新しくなってから、初めての参加でした。
 競輪場に併設された「KEIRIN HOTEL 10」は、ホテルの部屋から競輪が観戦できるという夢のようなホテルです。

 このホテルは、開催中は私達選手の宿舎になります。普段の宿舎は4人部屋のことが多いですが、玉野は個室が用意されています。人目を気にせずゆっくりできるので快適でした。内装もお洒落だし、近代競輪の完成形といった感じですね。

玉野競輪場に併設されている「KEIRIN HOTEL 10」(photo by Shimajoe)

夢中になった一冊

 選手はよく開催中の宿舎での過ごし方を聞かれますが、私は今回読書に精を出しました。今回のコラムでは、その時に読んだ本について書いていきたいと思います。

 読んだ本はフレンチの巨匠・三國清三さんの『三流シェフ』です。最近キャンプで料理をしたり、一緒に選手を目指していたときの先輩が料理人として活躍しているのを見て刺激をもらっていたので、料理への関心がふくらんでいました。そんなときに出会ったこの一冊は、三國シェフのこれまでの人生と、これからの夢が描かれたものです。

 料理人と競輪選手、一見するとまったく畑違いの業界ですが、三國シェフの歩みを知ると私たちと重なる部分もあり、夢中になって何度も読み返してしまいました。

玉野競輪の宿舎は個室で落ち着く

基礎の徹底がチャンスを招く

 今では“世界のミクニ”としてフレンチの世界では知らない者はいない三國シェフ。貧しい家庭で育ち、15歳で住み込みで就職します。そこで出されたハンバーグに感動し料理の道を志しました。老舗・札幌グランドホテルの厨房で修行をはじめ、中卒ながら正社員の座を掴みます。

 そして18歳であの帝国ホテルに紹介されますが、そこで待っていたのは厳しい下積み。ひたすら鍋洗いをする毎日でも、「料理が好き」という想いが強かったため辛さは感じなかったといいます。そのうえ、同僚たちが帰った後も人知れず鍛錬を重ねていました。

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 そして目の前の仕事に懸命に取り組むことでチャンスを掴み、20歳のときに帝国ホテルの総料理長の推薦でスイスの日本大使館での料理長に就任しました。

 一見すると夢のようなストーリーですが、やはり「基礎が一番大事」ということにとても共感しました。三國シェフの場合は、商売道具の「鍋」をピカピカに磨くこと。競輪選手であれば、商売道具は自転車です。商売道具を大切にするという“基本中の基本”をしっかり守ることで、成功への道が開けたのだなと思います。

競輪選手の“商売道具”(photo by Shimajoe)

苦しいときにこそ心に響く言葉

 海を渡った後も三國シェフは社会の荒波にもまれることになります。ヨーロッパでの武者修行では思い通りにならないこともあり、フランス人シェフから「この料理は洗練されていない」と言われることもあったそうです。

 苦しいときに、三國シェフが思い出す言葉があったといいます。家を出るときに母にかけられた「学歴はなくても、志はみんな平等なんだからね」という言葉と、漁師の父と海に出たときに言われた「大波が来たら逃げるな。船の真正面からぶつかっていけ」という言葉です。

 そしてある日、オリジナリティーを出さないといけないこと気づきます。伝統的なフランス料理の基本を完璧に抑えた上で、日本人である三國シェフにしかできないアレンジを加えて、独自のものを作り上げました。それが評価され、「世界のミクニ」と言われる存在になったのです。

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 苦しいときに思い出す言葉が私にもあります。20代の頃は順調なキャリアで、思い返せば「尖っていた」かもしれません。ですが30代前半でなかなか勝つことができなくなり、不安を感じることもありました。

 ですがある日、レース後にお客さんから「自分の道は自分で切り拓け!」と声をかけてもらい、それを聞いて吹っ切れたのです。今もその言葉に勇気をもらっています。苦しいときにこそ心に響く言葉です。

苦しいときに思い出す「ファンからの言葉」がある(撮影:北山宏一)

“70歳での挑戦”に心掴まれた

 三國シェフは昨年末、37年間営業した人気店「オテル・ドゥ・ミクニ」を閉めました。そして70歳になった時、新たなお店を開くそうです。それは8席ほどの小さなお店で、自分で選んだ食材を自分で調理して、お客さんと話しながら料理を提供するスタイルと決めているのだといいます。

 きっと、そのまま「オテル・ドゥ・ミクニ」を続けていても、大成功だったでしょう。70歳を前にしても、あえて挑戦する方を選び、夢を叶える三國シェフの生き方に感銘を受けました。ぶれない姿勢を貫き通すことの大切さを学び、気持ちが高ぶり熱くなりました。今までフランス料理は身近ではなかったのですが、この本を読み終えて、カウンター越しで三國シェフの料理を食べてみたくなりました。すっかり三國シェフに心を掴まれています。

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 私もいくつになっても夢を持てるような人生にしたいです。私はこれまで競輪選手として、グランプリでの優勝などたくさんの夢を掴むことができました。それは妻が選手生活に集中できる環境を整えてくれていたおかげです。

 だから今度は、私が妻の夢を叶える番だと思っています。妻は以前からお店を出すことが夢で、それが私の競輪選手としてのモチベーションにもなっています。夢は、自分を突き動かしてくれます。苦しくてももうちょっと頑張りたい、という気持ちになるのは夢があるからです。

 この本の中に『厨房は地獄、客席は天国』という一節が出てきます。これは、競輪も似ています。お客さんに見せられるのは、走っている3分間だけ。そのために見えないところで選手は努力を重ねています。どんな世界でも、見えない努力があるのですね。

“見えない努力”を重ねて3分間のレースに挑む(撮影:北山宏一)

競技生活30年、学びに終わりはない

 私はもうすぐ、自転車競技を始めて30年になります。
 身体が変わった、以前できていたことができない、と感じることもあります。ですがそれが面白いところでもあるのです。

 調子がいいときは自然に勝てたりします。でも、勝てなくなるといいイメージが浮かばなくなってしまいます。そういうときこそ「基本」に立ち返り、シンプルな考えに戻します。時間がかかったとしても、ひたすら自転車と向き合うことが大事だと思うのです。

イメージ(photo by Shimajoe)

 競輪選手は、自転車を降りてからも競輪選手です。新しい出会いを生かし、新しい知識を自分のものにして、プラスの方向に変えられる人が強くなれる。これからもいろんなものを取り入れていきたいです。

 この30年、自転車で得たものがたくさんあります。だから自転車でまだまだ頑張りたい気持ちもありますし、広い視野で見たときにも絶対に役に立つことがあると確信しています。学びに終わりはないですね。

 読書も学びを得るための手段です。今回紹介した『三流シェフ』の他にも、私が好きな本があります。外山滋比古さんの『思考の整理学』と松下幸之助さんの『道をひらく』です。ぜひ読んでみてください。これからもいろんな本を読むつもりですので、また紹介できたらと思います。

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金子貴志

Kaneko Takashi

愛知県豊橋市出身。日本競輪学校75期卒。2013年には寛仁親王牌と競輪祭を制し、同年のKEIRINグランプリでも頂点に。通算勝利数は500を超え、さらには自転車競技スプリント種目でも国内外で輝かしい成績を収めている。またYoutubeをはじめSNSでの発信を精力的に行い、キッチンカーと選手でコラボするなどホームバンクの盛り上げにも貢献。ファンを楽しませることを念頭に置き、レース外でも活発に動く中部地区の兄貴的存在。

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