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【未来の競輪スター候補】何度でも立ち上がる強い心…「ひとつだけ誰にも負けない才能ある」/中原恭恵候補生

2023/06/04 (日) 18:00 24

『競輪選手になるために、そして夢を叶えるために-』
今年は第125回生として男子72名、第126回生として女子19名の候補生たちが日本競輪選手養成所に入所し、2024年のプロデビューを目指している。この時期、“未来の競輪スター候補”と題して毎年お届けしている本シリーズだが、今年は7名の注目候補生へインタビューを実施した。今回は126期の最年長入所の中原恭恵(なかはら・やすえ)候補生を紹介する。(取材・netkeirin編集部)

トライアスロン、ロードレース出身の中原恭恵候補生、丁寧な言葉選びに実直さが滲み出ていた(photo by Kenji Onose)

 昨年12月に開催された「JBCF全日本トラックチャンピオンシップ」の女子スクラッチ(8km)で優勝した中原候補生。もともとはトライアスロンの選手で、東京五輪出場を目指す際にロードレースへ転向した経歴を持つ。2018年にはオランダのレースチームと契約し、海外を拠点に活動。東京五輪出場を夢見て実力を磨いた。しかし、選考対象となる全日本選手権2019の開催年3月に海外の大会で右大腿骨骨折、帰国した6月にも交通事故により負傷し、夢は潰えた。

 そんな中、トライアスロンの実績を買われ、東京パラ五輪のトライアスロン(PTVIカテゴリー)のガイドの話が舞い込み1年半以上の期間打ち込むも、本大会では補欠ガイドとなり出場ならず。絶望的な挫折を含め、密度の濃い経験を重ね、日本競輪選手養成所の受験に辿り着いた。

ーー中原候補生は今まで多くの挫折を経験しています。そんな中でガールズケイリンを目指した経緯を教えてください。

 2020年の五輪開催地が「TOKYO!」と決まった瞬間を見て、私も出場したいと考えました。トライアスロンから自転車のロードレースに転向することを決めてから海外のチームで活動をしていましたが、タイミング悪く負傷が重なってしまい…。

 その後、パラリンピックの視覚障害のトライアスロンで円尾敦子選手のガイドの話をいただきましたが、補欠ガイドとなり、大会出場は叶いませんでした。この時、かけがえのない経験を得たと思う一方で、過去を振り返って「まだやりきれていない」という感情は残りました。

 でも「このまま終われない!」という気持ちがあっても、ロードレースでリスタートしてヨーロッパのチームと契約するのは難しい状況で、何ができるか考えていました。そしてトラック競技の経験もあったので「ガールズケイリンを走りたい」と思い立ち、挑戦の気持ちを固めていきました。

ーー紆余曲折を経て養成所に入所されたのですね。

 はい。紆余曲折はありましたが、同時にたくさんの経験も積み上げてこられたので、それらを活かせるように頑張りたいです。

ーートライアスロンやロードレースの経験から培ったものがあると思います。「誰にも負けない」と胸を張っているものはありますか?

 私が誰にも負けないと思っていることは「やり続けることができる」だと思います。今までどんなことがあったって挫けずに努力を続けられました。私には天性のものなんて何もありません。でもやり続けるメンタル、このひとつだけは才能だと思うことがあります。

ーー中原候補生の入所までの背景を知り、まさに“努力の人”だと感じています。そのエネルギーの源はどこにあるのでしょう?

 なんていうのでしょうか。「最終的にできるようになれば一緒でしょ?」というポジティブさは昔から持っていると思います(笑)。人が10分でできることをできない時、あきらめるのではなく、何時間かけてもいいからできるようになって同レベルに追いつかなくちゃと思うんです。いつも「努力無限」という言葉を大切にしています。

ーー「努力無限」ですか。

 はい。これは私が自分に言い聞かせている言葉で、ことわざの「継続は力なり」の意味が近いと思います。素質がない私の座右の銘ですね。

ーーどんな選手になることを目指していますか?

 今、語るには早い気がします。持久系の競技をひたすら18年間やってきて、ダッシュの能力には課題があります。記録会のタイムを見ても“まだまだ”です。そんな私が「先行を武器に戦う選手になりたい」と言っても自分自身に現実味がありません。でもダッシュをしっかりと伸ばせるのなら、今まで培った持久系の競技経験も光ると思います。先行を武器に戦うことはできなくても「自分から動ける、自分がレースを動かせる選手」にはなりたいと思っています。

ーー“自分から動く選手”にこだわりがあるのですね。

 トライアスロンもロードレースも同じでしたが、自分から動いて勝利することに価値を感じていました。自分で何も動かずに失敗するときのやるせなさはサイアクです(笑)。負けたとしても自分のスタイルを貫けたら「失敗は失敗じゃない」という納得感が残ります。これからの養成所生活で自分を鍛え上げて、いろいろイメージしながら模索していきたいです。

ーーどんな養成所生活にしていきたいですか?

 選手として強くなるためにしっかりと鍛えていきたいです。あとは「当り前のことを当たり前にやること」ですね。これは毎日いつも心がけてやってきたので、養成所でも変わらず取り組みたいです。養成所には決められたチャイム、決められた姿勢もあります。それら当たり前のことをしっかりと守りたいと思っています。

ーー当たり前のことを当たり前にやる、を徹底するのは何か理由があるのですか?

 私は「心の貯金」と表現しているのですが、心の貯金がたくさんある選手が強いと感じたことがありました。ふとんを綺麗にたたむ、スリッパが揃っていなかったら綺麗に整理するとか。生活の中にも当たり前を心がけるシーンがあるのですが、それってレースの勝ち負けに影響があると思うんです。自転車のレースはコンマ何秒を争うこともありますが、最後に僅差の勝ち負けを分ける時、日常の当たり前のこなし方で差が出るのかなと思うことがありましたね。

ーーなるほど。当たり前のことを丁寧にやり抜くことが勝利に繋がるんですね。

 過去の競技経験からはそう思っていますね。

ーー今日はお話聞かせていただきありがとうございました。それでは最後にこれからの意気込みをお願いします。

 ありがとうございました。一日一日を大切に「努力無限」に頑張ります!


 悔しいタイミングの怪我にも屈さずに、何年も前進することをやめなかった中原候補生。挑戦し続ける姿勢は凛々しく、エネルギーに満ち溢れていた。候補生には違いないが、すでにプロフェッショナル然としたオーラがあった。

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