アプリ限定 2023/02/18 (土) 12:00 68
2022年1〜12月の競輪の車券総売上高は1兆797億8428万8600円だった。2003年以来19年ぶりに1兆円を超えた。
2003年といえば佐藤慎太郎(46歳・福島=78期)が、当時11月に開催されていた「全日本選抜競輪」でGI初制覇を成し遂げた年である。
2003年は4月に株価がバブル後の最安値をつけた年だ。平成の前半の競輪の売り上げは良かったが、そこから静かに沈んでいった。その後は2013年の6063億1027万7800円が、年間の売り上げが最も低い年になった。
緩やかに回復しつつ、民間サイトの参加もあり、急激に復活してきたのが現在の状況だ。この間、制度が様々と変わり、ルールも手を加えられてきた。
しかし、売り上げが伸びているから、“すべてが良し”とは思わない。
以前、支部長を務めていた選手から聞いた言葉で印象的だったものがある。
「最近はないんですよ、特に。苦情が」。
支部長は所属する選手たちの声を吸い上げて、選手会としての意見にまとめる役割がある。選手数も多く、いろんな考えがあるので、難しい立場である。
ただし近年は売り上げの増加にともない、選手の賞金も上がった。これにより気分的な面でも改善されたのか、細々とした要請はないというのだ。ミッドナイト手当の増加など、働きに見合った改善がされたことも大きいだろう。
…とはいえ、先頭誘導員早期追い抜きのペナルティの厳しさや、期末における中0日のあっせんの多さなど、選手の負担に関しては“丁寧な目”を向ける必要がある。
さらに思い出すのが、故人になってしまったが児玉広志(66期)のひと言だ。全盛時を知るトップレーサーで、賞金が下がっている時に「この賞金では命をかけられん」とつぶやいたことがある。猛烈に勝負に飢えていた選手ならではの言葉だが、重く響いた。
賞金が魅力的というのは、「選手になりたい」の思いを支える。ガールズケイリンのストレート代謝の問題など、抱えている負のものもあり、喜んでばかりはいられない。
現状の売り上げを支えているのは民間サイトの力によるものが大きい。新規ファンの増加、新しいファンへの取り組みも必要だ。コロナ禍により選手との接触ができづらくなったこともある。やっとファンサービスのトークショーなど各地で見られるようになり、癒されるものがある。
“情報としても”だ。取材ゾーンが限られ、取材人数も制限されては伝えられるものも伝えられない。取材現場において、いい仕事ができる環境に戻ることを切に願う。
高知競輪場で開催されるGI全日本選抜において、当初は場内の滞留人数の制限がなされる予定だった。だが、昨今の国の動き、政府としての判断、コロナに対する施策の変更を受け、制限は撤廃された。これだけでも、「多くのファンに来てほしい」の思いが伝わってくる。
1兆円回復はゴールではない。この地点に戻ってきたからこそ、見つめ直すべきものがある。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。