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山田裕仁のスゴいレース回顧

【和歌山グランプリ 回顧】言葉を失うほどに圧倒的な“強さ”

2023/01/16 (月) 18:00 61

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが和歌山競輪場で開催された「和歌山グランプリ」を振り返ります。

優勝した脇本雄太(撮影:島尻譲)

2023年1月15日(日)和歌山12R 和歌山グランプリ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①脇本雄太(94期=福井・33歳)
②眞杉匠(113期=栃木・23歳)
③新田祐大(90期=福島・36歳)
④山崎芳仁(88期=福島・43歳)
⑤古性優作(100期=大阪・31歳)
⑥藤田勝也(94期=和歌山・34歳)
⑦守澤太志(96期=秋田・37歳)
⑧佐藤友和(88期=岩手・39歳)

⑨深谷知広(96期=静岡・33歳)

【初手・並び】
←③⑦④⑧(北日本)⑨(単騎)②(単騎)①⑤⑥(近畿)

【結果】
1着 ①脇本雄太
2着 ⑤古性優作
3着 ⑦守澤太志

王者・脇本の出場が注目を集めた今開催

 1月15日には和歌山競輪場で、和歌山グランプリ(GIII)の決勝戦が行われています。昨年のグランプリ覇者である脇本雄太選手(94期=福井・33歳)が、今年はここから始動するとあって、かなりの注目を集めました。それだけにプレッシャーもあったと思いますが、後方から一気に捲る競輪で、初日特選から無傷の3連勝で決勝に進出。新年早々から、完全優勝に王手をかけています。

 そのほかにも、先日の立川記念を制した新田祐大選手(90期=福島・36歳)や、古性優作選手(100期=大阪・31歳)、守澤太志選手(96期=秋田・37歳)も出場。非常にレベルの高いシリーズとなりましたが、これらS級S班の選手はいずれも決勝戦へと駒を進めています。本当は松浦悠士選手(98期=広島・32歳)も出場予定だったのですが、高熱が出たとのことで病気欠場になってしまったのが、ちょっと残念ですね。

 まずは、3車が勝ち上がった近畿勢から。その先頭は当然ながら脇本選手で、番手を回るのが古性選手。昨年のグランプリでワンツーを決めたコンビですから、「超」強力であるのは言うまでもありません。そして3番手に、地元で唯一の勝ち上がりとなった藤田勝也選手(94期=和歌山・34歳)。記念の決勝戦を走るのは今回が初ですから、まずは連係を外さずに最後までついていけるかどうかが課題といえます。

数の利がある新田・守澤ら北日本勢

 4車ラインとなった北日本勢は、新田選手が先頭。脇本選手が相手の自力勝負となると、正攻法での勝負だと分が悪いですから、レースの組み立てをかなり考える必要があります。新田選手がどんな戦略で挑んでくるのか、楽しみですね。番手を回るのは守澤選手で、3番手に山崎芳仁選手(88期=福島・43歳)。4番手は佐藤友和選手(88期=岩手・39歳)が固めるという布陣です。

 単騎を選んだのが、眞杉匠選手(113期=栃木・23歳)と深谷知広選手(96期=静岡・33歳)の2名。どちらも自力のある選手で、単騎でも立ち回り次第で上位争いに持ち込めるだけの能力があるとはいえ、この相手だとなかなか難しい。期待するならば、近畿と北日本がもがき合う展開になっての「一発」でしょうか。いずれにせよ、上位を争うには展開面での助けがほしいところです。

 徹底先行型の選手は見当たりませんから、脇本選手と新田選手のどちらが主導権を奪うことになるかは、レースの流れ次第。“数”の利がある北日本勢がすんなり主導権を奪える展開になったとしても、好調モードの脇本選手には、それをあっさりと乗り越えてしまえるほどのスピードがありますからね。二分戦なのでシンプルな展開になりそうですが…さて、結果はどうなりますか。では、決勝戦の回顧に入っていきましょう。

打鐘前に脇本が動く

 スタートを積極的に取りにいったのは、新田選手。北日本勢の前受けがすんなりと決まって、その直後の5番手に深谷選手、6番手に眞杉選手と、単騎の2名が中団に構えます。脇本選手は、後方7番手から。初手がこの隊列になった時点で、道中の動きがほとんどないレースとなるのがほぼ決まります。あとは脇本選手が主導権を奪いにくるのかどうか次第で、単騎の2名も自分から動きたくはありませんからね。

並びは北日本ラインの前受けとなった(撮影:島尻譲)

 その後は淡々と周回が進んで、赤板(残り2周)を通過しても隊列には変化なし。後方の脇本選手が動いたのは、打鐘前の2コーナーを回って、バックストレッチに入ったところでした。ペースが緩んでいるところをカマシて、外からグングンと上がっていく脇本選手。先頭誘導員との車間をきってそれに備えていた新田選手は、その仕掛けに合わせて踏んで、脇本選手に全力で抵抗します。

北日本ラインを分断する脇本・古性のタッグ

 打鐘過ぎには、新田選手の外から並びかけた脇本選手。しかし、ダッシュの鋭さでは負けていない新田選手も、必死に食らいついていきます。しかし、新田選手の番手にいた守澤選手が、ここで少し離れてしまいます。そこにうまく入り込んだのが古性選手で、最終ホームに戻ってきたときには、新田選手の直後につけて北日本勢を分断。その前では、脇本選手と新田選手のもがき合いが続いています。

先頭で繰り広げられる脇本雄太(白・1番)と新田祐大(赤・3番)の競り合い(撮影:島尻譲)

 脇本選手と新田選手の熾烈なバトルは、最終1コーナーで決着。脇本選手が前に出切ったのを確認すると、古性選手はすかさず外に出して新田選手に迫り、脇本選手の番手に復帰しようとします。しかし、脇本選手の番手にハマるカタチとなった新田選手は、そのポジションを簡単には譲れません。今度は新田選手と古性選手のバトルとなり、古性選手は新田選手を内に押し込めます。

脇本雄太の番手を争う新田祐大(赤・3番)と古性優作(黄・5番)(撮影:島尻譲)

 この最終1コーナーでの攻防で、近畿の3番手にいた藤田選手は古性選手の動きについていけず、連係を外して失速。最終2コーナーを回ったところでは、脇本選手の番手を新田選手と古性選手が併走して、その直後に北日本勢の守澤選手、山崎選手、佐藤選手がつける隊列となりました。単騎の深谷選手と眞杉選手は、ここまでまったく動かずに、後方でじっと脚をタメています。

「誰が脇本を差すのか」観客の緊張が高まる

 そして最終バック手前、古性選手が新田選手を再び内に押し込めたところで、新田選手はついに力尽きて失速。古性選手が脇本選手の番手を奪い返しましたが、新田選手とのバトルでかなり脚を使わされています。となれば、絶好の展開となるのが、その直後につける守澤選手。後方にいた深谷選手と眞杉選手も、最終バック通過と同時に仕掛けて、前を捲りにいきました。

 最終3コーナーでは、守澤選手が少し外に出して古性選手を捲りに。先頭では脇本選手がまだ踏ん張っていますが、打鐘前から全力で踏みっぱなしというキツい展開ですから、和歌山の長い直線を先頭のままで押し切れるかどうかは微妙なところでしょう。古性選手も最終2センターからタテに踏み込んで、脇本選手との車間を詰めつつ最後の直線へ。スタンドからは大歓声があがります。

 しかし…ここからの脇本選手は本当にすごかった。どう考えても差す古性選手や捲る守澤選手に有利な展開だというのに、その差がジリジリとしか詰まらない。直線なかばになっても態勢は変わらず、外から伸びた山崎選手や、最後方から捲った深谷選手や眞杉選手も、前との差を詰めるのが精一杯。つまりそれだけ、先頭の脇本選手が失速せずに踏ん張り通しているということです。

新年一走目から完全優勝を達成した脇本雄太(白・1番)(撮影:島尻譲)

 ゴール前はさすがに僅差の勝負となりましたが、ハンドルを投げた脇本選手が少しだけ出ているのは、ハッキリとわかりました。2着は古性選手で、3着が守澤選手。4着が山崎選手ですから、最後の直線に入ったときの順番そのままでゴールインということになりますね。あの厳しい展開で最後まで他の追随を許さなかったのですから、まさに横綱相撲。脇本選手が、その強さをまざまざと見せつけた結果といえます。

 殊勲賞は、2着の古性選手。脇本選手との主導権争いでかなり脚を削られていたとはいえ、新田選手とのバトルに勝利して、その上で守澤選手の追い込みを最後まで寄せ付けず僅差の2着に好走したのですから、さすがですよ。古性選手が番手を奪い返してくれるという信頼があるからこそ、脇本選手もそれを気にせずに思いきって踏める。本当にいいパートナーシップですよね。

 前を走っていたのが脇本選手や古性選手でなければ、守澤選手はもちろん、最後方から捲った深谷選手や眞杉選手にもチャンスがありそうな展開。それを最後まで寄せ付けなかった脇本選手の強さは、驚異的ですらあります。さすがに優勝者インタビューでは「立っているのすらキツい」というコメント通り、ヘロッヘロになっていましたが(笑)。競輪界は今年も彼を中心に回っていく…と確信させる内容でした。

 持ち味であるダッシュのよさを生かして、先週の立川記念を完全優勝した新田選手。その新田選手が同様の戦いを挑んで、今度は完膚なきまで叩きのめされてしまった。この事実だけとってみても、脇本選手の強さがわかりますよね。今回のレースに関しては、本当に何も言うことなし。「とにかく脇本選手が強かった」というひと言で、回顧を終わってしまってもいいくらいですよ。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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