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山田裕仁のスゴいレース回顧

【鳳凰賞典レース 回顧】競輪ドラマの素晴らしい“第1話”

2023/01/08 (日) 18:00 40

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが立川競輪場で開催された今年最初の記念競輪「鳳凰賞典レース」を振り返ります。

通算10回目の記念優勝を飾った新田祐大。記念での4連勝完全Vは自身初(撮影:島尻譲)

2023年1月7日(土)立川12R 鳳凰賞典レース(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①新田祐大(90期=福島・36歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
③佐々木悠葵(115期=群馬・27歳)
④松井宏佑(113期=神奈川・30歳)
⑤佐藤慎太郎(78期=福島・46歳)
⑥高橋雅之(90期=千葉・40歳)
⑦北津留翼(90期=福岡・37歳)
⑧岡村潤(86期=静岡・41歳)
⑨和田健太郎(87期=千葉・41歳)

【初手・並び】
←①⑤(北日本)③(単騎)④②⑨⑧⑥(南関東)⑦(単騎)

【結果】
1着 ①新田祐大
2着 ⑦北津留翼
3着 ④松井宏佑

グランプリから中4日、明暗分かれたS級S班5人

 遅くなりましたが、皆さん、あけましておめでとうございます。2023年も、ドラマチックでアツいレースの連続となることを期待したいですね。そんな今年最初の「記念」が、東京の立川競輪場で開催される鳳凰賞典レース。いつも出場選手のレベルが高いシリーズですが、今年もS級S班が5名も出場するという超豪華メンバーとなりましたね。その決勝戦が、1月7日に行われています。

 初日特選はまるでGIの決勝戦のようなメンバーでしたが、そこで1着をとったのは、逃げた新山響平選手(107期=青森・29歳)マークの新田祐大選手(90期=福島・36歳)。新田選手はさらに二次予選、準決勝でも1着をとって、無傷の3連勝で決勝へと進出しています。まるでグランプリの悔しさを晴らすような走りで、調子もかなりよさそう。逆に新山選手はデキが思わしくなく、二次予選で姿を消してしまいました。

 北日本勢では佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)も決勝戦に駒を進めましたが、7着、3着、3着という結果からもわかるように、調子はいまひとつ。それでもなんとか勝ち上がってくるのが、さすがですね。決勝戦では当然、新田選手の番手を回ります。S級S班では、平原康多選手(87期=埼玉・40歳)も勝ち上がりを逃していますが、こちらもデキはあまりよくなかった。グランプリ後の調子の維持について、明暗が分かれた印象ですね。

 新田選手と同様に、デキのよさが目立っていたのが郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)。初日特選こそ新田選手の2着に敗れましたが、こちらも二次予選と準決勝は1着で勝ち上がっています。南関東勢は決勝戦に5名が進出して、ひとつのラインで結束。その先頭を任された松井宏佑選手(113期=神奈川・30歳)も、1着こそ取れていませんでしたが、調子はかなりよさそうだと感じました。

郡司もデキの良さは目立っていたが…(撮影:島尻譲)

 その番手を回るのが郡司選手ですから、この時点で南関東勢はかなり強力。ライン3番手は和田健太郎選手(87期=千葉・41歳)、4番手を岡村潤選手(86期=静岡・41歳)、5番手は高橋雅之選手(90期=千葉・40歳)が固めます。この“数の利”がある南関東ラインがすんなり先行するような展開になると、他者は手も足も出せなくなる。とはいえ、切り崩すのはけっこう難しいですよ。

 単騎を選択したのは、佐々木悠葵選手(115期=群馬・27歳)と北津留翼選手(90期=福岡・37歳)の2名。北津留選手は後方からの捲りで一発勝負をかけてくるでしょうから、南関東ラインに何か仕掛けてくるとすれば佐々木選手のほう。とはいえ、ここを分断するのは前述したように、簡単な話ではありませんからね。彼がどのようなレースをするのかにも注目したいところです。

仕掛けた松井の後ろで新田と郡司が競り合いに

 ではここから、決勝戦の回顧に入ります。スタートを取りにいったのは新田選手と郡司選手の2名でしたが、車番的に有利な新田選手が前を取りきって、先頭に立ちます。前受けを選んだ北日本勢の後ろには、単騎の佐々木選手がつけました。南関東ライン先頭の松井選手は、4番手から。そして最後尾に北津留選手というのが、初手の並びです。新田選手は、初手から勝負を仕掛けてきましたね。

 レースが動き出したのは、赤板(残り2周)の手前から。赤板を通過して先頭誘導員が離れるタイミングを狙って、4番手にいた松井選手が進出を開始。先頭の新田選手を斬りにいきます。しかし、内からの南関東ライン分断を狙っている新田選手は、当然ながら簡単には引きません。前へと踏みながら松井選手だけを出して、番手の郡司選手をヨコの動きで捌きにいきます。

新田(白・1番)は赤板ホームで松井(青・4番)だけを前に出して南関ラインの分断を計る(撮影:島尻譲)

 1センターから2コーナーで郡司選手は外に張られますが、態勢を立て直して新田選手の外を併走するカタチに。佐藤選手の外には和田選手、佐々木選手の外には岡村選手が併走するという隊列になって、レースは打鐘を迎えます。この態勢だと先頭の松井選手は思いきった逃げができませんから、全力で踏むのをギリギリまで待つために、少しペースを緩めつつ先頭を走ります。

 新田選手と郡司選手は、内外で激しくやり合いながら、打鐘後の2センターを通過。その後の最終ホームでは、佐藤選手と和田選手のバトルが繰り広げられます。そして、先頭の松井選手も全力でのスパートを開始。そのままの隊列で最終1センターを回りますが、その手前で後方から仕掛けたのが北津留選手です。前がもつれる絶好の展開を、外から一気の脚で捲りにいきます。

自分の強みをフルに生かして勝つ戦略を遂行した新田

 最終2コーナーを回ったところで、松井選手の番手争いは決着。内の新田選手に凱歌が上がって、郡司選手はここでやや失速しました。そこに外から力強くグイグイと伸びてきたのが、北津留選手。ここで新田選手は後ろを振り返って、外から北津留選手が迫ってくるのを確認していましたね。そして、最終バックの手前から仕掛けて、北津留選手の捲りに合わせつつ、先頭の松井選手を捲りにいきます。

最終2コーナー、郡司(2番・黒)との競りに勝った新田(1番・白)。後方からは北津留(7番・橙)が外から伸びる(撮影:島尻譲)

 最終3コーナーでは、先頭で逃げる松井選手に外から新田選手が迫り、その後ろに前を射程圏に入れた北津留選手という態勢に。その内には新田選手マークの佐藤選手もいますが、和田選手と激しくやり合った影響もあって、勝負どころでの伸びを欠いています。北日本ラインの後ろにつけていた佐々木選手も同様で、優勝争いは前の3名に絞られたという態勢で、最終2センターを回りました。

 逃げ粘る松井選手を、直線の入り口で新田選手が捉えて先頭に。その外から、北津留選手がジリジリと迫ります。立川の長い直線を利して北津留選手が突き抜けるか…と思われましたが、そこからの差が意外に詰まらない。結局、先に抜け出した新田選手が北津留選手を寄せ付けず、そのまま先頭でゴールを駆け抜けました。S級S班に復帰した年の早々から、完全優勝達成です。

 2着が北津留選手で、和田選手とのきわどい争いとなった3着は、逃げた松井選手がギリギリ残しました。南関東勢が人気の中心だったのもあって、3連単は10万車券という大波乱に。後から考えると「買えなくはない」車券なんですが、この並びだと松井選手が3着に残すパターンを狙いづらいんですよね。この車券が獲れた方、今年はきっとツキに恵まれた1年になると思いますよ(笑)。

 記念の完全優勝は今回が初という新田選手。初手で前受けしての南関東分断という「これしかない」戦略を見事にやりきって、その上で優勝したのですから本当にお見事です。それにあのカタチだと、自分の強みである「ダッシュのよさ」をフルに生かせる。松井選手を捲りにいったタイミングもベストで、北津留選手を最後まで寄せ付けなかった力強い走りなど、パーフェクトな内容だったと思います。

幸先の良いスタートを切った新田(撮影:島尻譲)

最下位に終わった郡司…南関東の逆襲に期待したい

 2着の北津留選手は「いつもの自分のカタチ」での好走ではあるんですが、途中までは高橋選手の後ろを離れず追走して、そのスピードをもらっていいタイミングで捲りにいくなど、なかなか巧い立ち回りをしているんですよ。最高の結果は得られませんでしたが、これは勝った新田選手のほうを褒めるべきでしょう。単騎勝負で勝つための工夫が感じられる、いい走りでした。

 3着に逃げ粘った松井選手は、新田選手が前付けした時点で、この展開があり得ると読めていたでしょうね。レースプランを変更して、じわりと踏む逃げに切り替えられたことが、好走につながりましたね。南関東から優勝者を出したかったでしょうが、番手の競りで郡司選手が敗れてしまった以上は致し方なし。その上で、最善を尽くしたといえる走りだったといえます。

 悔しい思いをしたのが、車体故障もあって最下位に終わった郡司選手。しかし、今年の競輪はまだまだ「これから」ですからね。今回のレース結果もあって、新山選手、新田選手、佐藤選手という北日本のS級S班は、今度は南関東勢から狙われる立場となる。やったらやり返されるのが競輪ですから、今日のレースはぜひ覚えておきたいですね。南関東の“逆襲”が、遠からず見られるはずですよ。

 佐々木選手が存在感を発揮できなかったのは残念ですが、2023年の競輪というドラマの第1話として、申し分のない内容だった決勝戦。この調子で、今後も手に汗を握るレースが続いていってほしいものです。そういえば、今年のKEIRINグランプリは立川での開催でしたね。暮れの大激闘をいまから予感させる、いいレースでした!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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