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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ウィナーズカップ 回顧】勝ちパターンへの拘泥はときに“必敗”と化す

2021/03/29 (月) 18:00 1 11

打鐘後、主導権を握った高橋晋也(6番車)の番手に潜り込んだ中国ラインの松浦悠士(2番車)と清水裕友(9番車)

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがウィナーズカップを振り返ります。

2021年3月28日 松阪12R 第5回ウィナーズカップ(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①山田英明(89期=佐賀・37歳)
②松浦悠士(98期=広島・30歳)
③郡司浩平(99期=神奈川・30歳)
④古性優作(100期=大阪・30歳)
⑤守澤太志(96期=秋田・35歳)
⑥高橋晋也(115期=福島・26歳)
⑦深谷知広(96期=静岡・31歳)
⑧稲川翔(90期=大阪・36歳)
⑨清水裕友(105期=山口・26歳)

【初手・並び】
←⑦③(南関東)②⑨(中国)①(単騎)⑥⑤(北日本)④⑧(近畿)

【結果】
1着 ⑨清水裕友
2着 ④古性優作
3着 ②松浦悠士

競輪は本調子でなくても展開ひとつで勝つ可能性も

 3月28日に、松阪競輪場でウィナーズカップ(GII)の決勝戦が行われました。グランプリ出場に直接つながるわけではありませんが、ここは賞金額の高いビッグレース。出場している選手のレベルは、GIとほとんど変わりません。地元・中部の大将格である浅井康太選手(90期=三重・36歳)や、S級S班の平原康多選手(87期=埼玉・38歳)が準決勝で敗れたのは、好調な選手が多く全体のレベルが高かったのも理由といえます。

 決勝戦に勝ち上がった選手では、とくに目立っていたのが高橋晋也選手(115期=福島・26歳)の好調ぶり。準決勝では、番手を走る守澤太志選手(96期=秋田・35歳)の援護を受けつつ、打鐘からの逃げで最後まで粘りきるという好内容を見せていました。そして、深谷知広選手(96期=静岡・31歳)もデキがよかった。1着こそ取れていませんでしたが、内容はなかなかのもの。本人も、いい感触をつかんでいたことでしょう。

 常に注目を集める中国地区の「ゴールデンコンビ」こと松浦悠士選手(98期=広島・30歳)と清水裕友選手(105期=山口・26歳)は、今シリーズも清水選手の調子がよく、対照的に松浦選手のデキはいまひとつ。松浦選手はダービー(日本選手権競輪)が今年の大目標だと早くから宣言していますが、そこにピークを持っていくための調整過程を考えると、確かにこのあたりで調子を落とすサイクルになるんですよね。

 本人も「60%のデキ」とコメントしていましたが、それでも巧みなレース運びで決勝戦まで駒を進めてくるんだから、さすがですよ。それに、競輪は展開ひとつで、本調子にない選手でも勝ててしまうもの。強くて調子のいい選手ならば常に勝てるといった性質の競技ではありません。レースの組み立てが上手な松浦選手ならば、たとえ60%のデキでも、優勝に持ち込める可能性は十分にあります。

打鐘後、高橋選手の番手争いが勝負の分かれ目に

 機動型の選手が多い細切れ戦だけに、どういう展開になるかが大いに注目された決勝戦。スタートの号砲が鳴って前の位置を取りにいったのは、深谷選手と郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)の南関東ラインでした。じつは私、この瞬間に頭を抱えたんですよ(笑)。詳しくは後述しますが、決勝戦でこの選択をしたのはハッキリと「悪手」で、レース前からそれだけは避けてほしいと思っていたんですよね。

 その後ろには、中国ゴールデンコンビ。単騎の山田英明選手(89期=佐賀・37歳)、高橋選手が先頭を走る北日本ライン、最後に古性優作選手(100期=大阪・30歳)と稲川翔選手(90期=大阪・36歳)の近畿ラインというのが、初手の並びです。赤板(残り2周)のホームでは、後方にいた古性選手がまずは前を切り、さらにそれを高橋選手が叩いて先行する構え。松浦選手は5番手、突っ張らずに引いた深谷選手は8番手です。

 そして打鐘で、松浦選手が上昇を開始。ここで“隙”を見せてしまったのが、高橋選手の番手にいた守澤選手です。前との車間を少しあけていたんですが、上がってきた松浦選手にスッと入られて、番手のポジションを奪われるカタチに。清水選手もそれに続いたことで、内に押し込められた守澤選手は下げざるをえなくなりました。松浦選手が巧かったとはいえ、これは守澤選手の油断。大いに反省すべき走りだったといえます。

 高橋選手の番手でひと息つけた松浦選手は、最終バックから再び踏んで先頭に。高橋選手も必死に抵抗しますが、相手が相手。さすがにちょっと分が悪かったですね。中団からは、古性選手が先頭を走る近畿ラインがジリジリと差を詰めます。そして、8番手に置かれた深谷選手も必死に追いすがりますが、こちらは前との差がなかなか詰まらない。一気のカマシ先行を考えていたと思いますが、それができるタイミングがなく、後手を踏むカタチになった以上は仕方がありません。

 直線に入ると、外に出した清水選手がいい伸びをみせて、そのままゴールイン。まったく危なげのない走りで、完勝といえる内容でしたね。2着は、直線手前でうまくインをさばき、間を割って伸びてきた古性選手でした。松浦選手はやはり本調子ではなかったようで、最後は粘りを欠いて3着という結果。とはいえ、調子が悪ければ悪いなりに、後ろを走る選手に迷惑をかけない走りができるというのが、松浦選手の凄味であり強さです。

柔軟性を欠いた感のある南関東ライン

 人気を集めた南関東ラインは、最後まで見せ場なし。なすすべなく、郡司選手が5着、深谷選手が最下位の9着という残念な結果に終わりました。なぜこのような結果になったかといえば、「まずは前を取りにいって、他のラインが来たら下げてからカマシ先行」という深谷選手のパターンを、決勝戦でもやってしまったからに他なりません。強くて調子がいい選手だけが走るGIIの決勝戦で、そうそう簡単に思惑どおりにはいきませんよ。

 自分の力を出しやすい「勝ちパターン」を持つのは、競輪選手にとってとても大事なことです。とはいえ、それに拘泥して、臨機応変さを欠いてしまったのでは意味がない。しかも、出走しているのはGIの決勝戦でもおかしくないメンバーで、自分以外にも高橋選手という絶好調の機動型がいる。となれば、自分のパターンで好勝負に持ち込める可能性は、かなり低いと読めるはずです。

 だというのに、南関東ラインは前受けから素直に下げる戦法を選んでしまった。スタートを取りにいかずにもう少しじっとしていれば、押し出されるカタチで松浦選手が前受けになったことでしょう。その後ろのポジションを選べば、そこから予想されるさまざまな展開に、柔軟に対応できるはず。郡司選手のデキもなかなかだったので、今回とはまるで違う結果が出ていた可能性は、かなり高いと思います。

 以上、ちょっと残念な点が多かった決勝戦で、それだけに松浦選手の巧さが光りました。ここから調子を上げていって、パーフェクトな状態で迎える5月の京王閣では、果たしてどのような走りが見られるのか。それが今から楽しみになってきますね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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