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山田裕仁のスゴいレース回顧

【トラック支援 回顧】ファンに“納得感”が与えられる走りを

2021/03/22 (月) 18:00 6

自慢のタテ脚とレースの読みが光った渡部幸訓(4番車)が優勝

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが、渡部幸訓選手がGIII初優勝を飾った国際自転車トラック競技支援競輪を振り返ります。

2021年3月21日 宇都宮12R 国際自転車トラック競技支援競輪(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①宿口陽一(91期=埼玉・36歳)
②柏野智典(88期=岡山・42歳)
③竹内雄作(99期=岐阜・33歳)
④渡部幸訓(89期=福島・37歳)
⑤杉森輝大(103期=茨城・38歳)
⑥新田康仁(74期=静岡・47歳)
⑦佐々木悠葵(115期=群馬・25歳)
⑧神山雄一郎(61期=栃木・52歳)
⑨小川真太郎(107期=徳島・28歳)

【初手・並び】
←⑦⑤(関東)③④(混成)①⑧(関東)⑥(単騎)⑨②(中四国)

【結果】
1着 ④渡部幸訓
2着 ⑤杉森輝大
3着 ③竹内雄作

52歳で決勝に勝ち上がってきた神山雄一郎

 3月21日(日)には宇都宮競輪で、国際自転車トラック競技支援競輪(GIII)の決勝戦が行われました。いわゆる「記念」ではあるのですが、ここはかなり手薄なメンバー構成。しかも、シリーズ開幕前に優勝候補と目されていた小松崎大地選手(99期=福島・38歳)が準決勝で4着に敗れたことで、混戦ムードとなりました。

 この流れのなかで一気に現実味を帯びてきたのが、地元の大スターである神山雄一郎選手(61期=栃木・52歳)の、「GIII通算100勝」という大記録達成です。私の同期で目標でもあった男が、52歳となった今も現役で、地元記念での優勝が視野に入るところまできたんですから感慨深い。しかも決勝戦には、関東勢が4人も勝ち上がった。昔からそうなんですが、彼は本当に“持っている”んですよ(笑)。

52歳の神山雄一郎の走りも話題を呼んだ

 そしてもう1人、注目を集めた選手がいます。それが佐々木悠葵選手(115期=群馬・25歳)で、まだS級2班とはいえ、今年はすでに優勝2回。今シリーズの準決勝でも、後方からのスピードに乗った一気の捲りで結果を残すなど、いい内容を見せていました。記念の決勝戦とはいえ、この相手関係ならば十分に通用する--そう考えて、若武者らしいきっぷのいい逃げを期待した方も多かったのではないでしょうか。

 それだけに、並びがどうなるかが気になるところでしたが、関東勢は2人ずつに分かれての「別線」を選択。4車でラインを構成すると神山選手が4番手になってしまうので、それを避けるカタチにしたと宿口陽一選手(91期=埼玉・36歳)がコメントしていましたね。神山選手の前を宿口選手が、杉森輝大選手(103期=茨城・38歳)の前を佐々木選手がそれぞれ走るというのが、関東勢の選択でした。

 小川真太郎選手(107期=徳島・28歳)が先頭を走る中四国ラインや、準決勝がいずれも好内容での1着だった竹内雄作選手(99期=岐阜・33歳)と渡部幸訓選手(89期=福島・37歳)の混成ラインも好調で、能力的にもまったくひけを取りません。細切れ戦らしく、展開次第でどの選手にも勝つチャンスがあるレースになったといえるでしょう。

関東ラインはファンが納得する走りを見せて欲しかった

 そして決勝戦。スタートから前の位置を積極的に取りにいったのは、大方の予想どおり佐々木選手と杉森選手。打鐘で、後方にいた小川選手が前を押さえにいきますが、意外にも佐々木選手は、ここで引かずに突っ張ります。その後も互いの出方を様子見しつつ、併走状態のままで最終ホームを通過。神山選手の前を走る宿口選手は、5番手から前の出方をうかがいます。

 この“機”を逃さずに仕掛けたのが、後方にいた竹内選手です。先行していた佐々木選手が踏まずに流しているギリギリのタイミングで、1センターから一気のカマシ捲り。これが見事にはまって、最終バックでは先頭にまで躍り出ます。佐々木選手も必死に抵抗しますが、伸びはいまひとつ。後手を踏んだカタチとなった宿口選手はインで動きたくとも動けず、7番手からの競輪になってしまいました。

 この時点で、4人も残った関東勢は万事休す。500バンクで直線が長い宇都宮でも、この態勢から1着までくるのはいかにも厳しい。最後の直線では、佐々木選手の番手にいた杉森選手がインをさばいて伸びてきますが、2着までくるのが精一杯。優勝は、竹内選手の番手から絶好の展開をモノにした渡部選手でした。渡部選手は、これがうれしい記念初優勝。彼はタテ脚があるので、宇都宮と相性がいいのも納得です。

 3着に、大いに見せ場を作るも直線では惜しくも粘りを欠いた竹内選手。注目の神山選手は、直線では外からいい伸びを見せるも、5着という結果に終わりました。ここを目標にかなり調子を上げてきていた印象でしたが、レースは水物。展開に恵まれなかったのですから、この結果は残念ながら仕方がない。そもそも、52歳の選手がS級1班にいて、GIIIの決勝でファンの期待を集めている時点で驚異的なんですから。

カマシ捲りでレースを動かし存在感を見せた竹内雄作(左)は優勝した渡部幸訓(右)を称える

 期待された佐々木選手は、かなり中途半端な競輪になってしまいましたね。小川選手が押さえにきたところで、行くならば行く、引くならば引くという選択をしたほうがよかったと思います。それに、竹内選手が後方からカマシてくる可能性があるのは、十分に読めたと思うんですよ。中四国ラインが自分の横にいるわけで、残っているのは竹内選手と、同地区である宿口選手だけ。勝ち上がりの内容から考えても、一気のカマシ強襲があるのは竹内選手のほうです。

 そして、これは結果論になってしまいますが、佐々木選手があのレースをするならば、関東はひとつのラインでしっかり連係したほうがよかった。地元記念で4人も勝ち上がっていながら、他地区の選手に勝たれるというのは、いわば“恥”ですよ。

 神山選手が優勝するチャンスが増えるよう配慮した結果の別線だとは思うんですが、それよりも重きを置くべきことがある。それは着順うんぬんではなく、そこに至った“過程”によって、車券を買って応援してくれたファンに納得してもらえるかどうか。そして関東勢は今回、そういう走りができていなかったように感じました。いいレースだったと思いますが、そこは正直、惜しいですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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