2022/11/28 (月) 18:00 67
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが小倉競輪場で開催されたGI「第64回朝日新聞社杯 競輪祭」を振り返ります。
2022年11月27日(日)小倉12R 第64回朝日新聞社杯 競輪祭(GI・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①平原康多(87期=埼玉・40歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
③新田祐大(90期=福島・36歳)
④新山響平(107期=青森・29歳)
⑤荒井崇博(82期=佐賀・44歳)
⑥小原太樹(95期=神奈川・34歳)
⑦成田和也(88期=福島・43歳)
⑧坂井洋(115期=栃木・28歳)
⑨守澤太志(96期=秋田・37歳)
【初手・並び】
←⑧①(関東)②⑥(南関東)⑤(単騎)③④⑨⑦(北日本)
【結果】
1着 ④新山響平
2着 ②郡司浩平
3着 ⑥小原太樹
気がつけば、今年も残すところ1カ月。年の瀬には毎年のように言っている気がしますが、時間の流れが本当に早いですよね。11月27日には福岡県の小倉競輪場で、今年最後のGIである競輪祭の決勝戦が行われています。このレースの結果によって、今年のKEIRINグランプリ出場選手や来年のS級S班が決定。ここから先は、年末の大一番へ向けて盛り上がっていく期間に入ることになります。
競輪祭は一次予選が「ポイント制」というのが大きな特徴で、2走で獲得したポイントの上位63名が二次予選へと進みます。そこから先は通常通りのトーナメント制に切り替わるんですが…今年はこの二次予選で、脇本雄太選手(94期=福井・33歳)と古性優作選手(100期=大阪・31歳)が敗退。今年の競輪界を牽引してきた両者が早々と姿を消したのですから、さすがに驚きましたね。
その後も、準決勝10レースでは松浦悠士選手(98期=広島・32歳)と吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)がともに落車し、12レースでは獲得賞金ランキング9位の清水裕友選手(105期=山口・28歳)が敗退と、波乱含みの展開に。結局、決勝戦に駒を進めることができたS級S班は、平原康多選手(87期=埼玉・40歳)と郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)、守澤太志選手(96期=秋田・37歳)の3名だけでした。
決勝戦に勝ち上がった選手のなかでもとくに調子がよさそうだったのが、郡司選手と新山響平選手(107期=青森・29歳)。この2名は準決勝11レースで直接対決しており、6番手から一気の脚で捲った郡司選手に凱歌が上がりましたが、新山選手もメチャクチャ強い内容だったんですよ。打鐘過ぎから一気に前を叩いて主導権を奪い、そのまま2着に粘りきった内容は、強いのひと言ですよ。
新山選手のほかに3名が勝ち上がった北日本勢は、ラインの先頭を新田祐大選手(90期=福島・36歳)が務めます。新山選手は意外にも番手で、3番手を守澤選手、4番手を成田和也選手(88期=福島・43歳)が固めるという強力な布陣。「新山選手をグランプリに連れていく」という北日本勢の意図がハッキリと感じられる並びで、ビッグをまだ制していない新山選手や守澤選手にとって、大きなチャンスでもあります。
関東勢は、近況好調な坂井洋選手(115期=栃木・28歳)が前で、番手に平原選手という組み合わせ。準決勝でも連係して結果を出したコンビで、勝ち上がりが決まったレース後は、本当にうれしそうでしたね。そして南関東ラインは、郡司選手が先頭で番手に小原太樹選手(95期=神奈川・34歳)。どちらのラインも機動力は十分なので、ここは北日本勢の力をいかに削ぐ展開をつくるかがテーマとなります。
最後に、単騎を選択した荒井崇博選手(82期=佐賀・44歳)。グランプリ出場を狙って一発勝負に賭ける、荒井選手“らしさ”を期待したいところです。他力本願にはなりますが、荒井選手としては関東ラインや南関東ラインが北日本ラインを捌いて、分断してくれるような展開が欲しいでしょうね。「北日本勢の好きには走らせない」ことは、ここで自分が勝つための必要条件です。
ではそろそろ、レース回顧に入りましょうか。スタートが切られると、平原選手、郡司選手、新田選手の3名が横並びで飛び出していきます。「スタートが速い新田選手の前受け」という見方が強かったと思うのですが、北日本による突っ張り先行からの二段駆けを絶対に阻止したい平原選手と郡司選手は、徹底抗戦の構え。先頭誘導員の直後に3車併走というのは、なかなかお目にかかれない光景ですよ。
誰もが一歩も引かないままで周回が進みますが、こうなると不利なのは3番車の新田選手。ついに新田選手が諦めて引き下がると、少し遅れて郡司選手もポジションを下げて、関東勢の前受けが決まります。先頭が坂井選手となって、郡司選手は3番手に。5番手は単騎の荒井選手が主張し、後方6番手から新田選手というのが、かなり時間をかけて定まった初手の並びです。
そこから赤板(残り2周)の手前までは、とくに動きのないままでレースが進行。先頭の坂井選手は誘導員との車間をきって、新田選手が後方から動き出すのを、何度も振り返りながら待ち構えています。ここで5番手にいた荒井選手が、郡司選手が空けていた内をすくって3番手に浮上。郡司選手はこの荒井選手の動きにはとくに反応せず、後方の新田選手のほうに意識を集中させているようでした。
そして、レースがついに動き始めます。赤板のホームを通過して2コーナーを回ったところで、新田選手がバンクを駆け上がってから急加速。コースの外側を素晴らしいダッシュで一気にカマシて、前に襲いかかります。それを待ち構えていた坂井選手も合わせて踏み込みますが、勢いで勝るのはいいタイミングで仕掛けた新田選手のほう。打鐘で、坂井選手のすぐ外にまで迫ります。
坂井選手は内から飛びつきますが、新田選手はそれを警戒して、少し離れたところを回っていましたね。両者併走のままで、打鐘過ぎの4コーナーを通過。ここで、新田選手が坂井選手の少し前に出ました。平原選手は守澤選手をブロックして北日本ラインの分断を図りますが、守澤選手は必死の抵抗で新山選手の後ろに復帰。さっきのお返しとばかりに、最終ホーム通過時には平原選手を内に押し込めます。
坂井選手は新田選手に出られてからも抵抗を続けますが、かなり苦しい態勢。そして、坂井選手を力任せに叩ききって先頭に出た新田選手も、そう余力はありません。それを察知した新山選手は、最終2コーナーを回ったところで進路を外に出して、ためらわずに新田選手の番手から発進。この番手捲りでみせた新山選手のダッシュは、驚異的といっても過言ではないものだったと思います。
一瞬のうちにトップスピードまで加速すると、後続をグングンと引き離していった新山選手。守澤選手の意識が内に向いていたとはいえ、追走できずに離れてしまうほど鋭いダッシュでした。ここで、新山選手とほぼ同じタイミングで仕掛けたのが、これまでじっと脚を温存してきた郡司選手。外からの捲りで前との差を一気に詰めて、最終バックでは守澤選手の外に並びかけます。
しかし、先に抜け出してセーフティリードを築いた新山選手とは、まだかなりの差がある。郡司選手は最終3コーナー手前で守澤選手の前に出ますが、先頭を走る新山選手との差はほとんど詰まっていません。郡司選手の後ろから小原選手と荒井選手も前を追いますが、ここからグイッと伸びてくるような気配はなし。最後の直線を待たずして、このレースの勝者は新山選手か郡司選手に絞られました。
最終2センターで守澤選手は、進路を外に振って小原選手をブロック。郡司選手は、先に抜け出している新山選手に追いすがり、最後の直線でもその差をジリジリと詰めていきます。それでも新山選手の脚色は衰えず、直線のなかばでもリードを保ったまま。郡司選手の後ろでは、小原選手と守澤選手、荒井選手が前を追いますが、こちらは脚色的に3着争いの態勢です。
結局、最後の最後まで新山選手の脚色は鈍らないまま。郡司選手を寄せ付けずにゴールラインを駆け抜け、初のビッグ制覇とグランプリ出場を決めました。いやあ…もう、本当に「強い」としかいえない走りでしたよ。昨年の競輪祭は逃げ粘るも2着惜敗という結果だっただけに、優勝の喜びはひとしおでしょう。ナショナルチームを卒業して、競輪への専念を決めた直後に手にした“勲章”でもあります。
そして、2着が郡司選手で3着に小原選手と、南関東勢が上位に食い込む結果に。4着は荒井選手で、新山選手と口が空いてしまった守澤選手は5着。新田選手との主導権争いで叩かれた関東勢は、平原選手が6着で坂井選手が8着という結果に終わっています。どのラインも死力を尽くして戦いましたが、新田選手と新山選手が、今日はその「上」をいったという印象。じつに競輪らしく見応えのある、素晴らしいレースとなりました。
新田選手から受け取ったバトンを新山選手がしっかり繋いだ、北日本ラインの“結束”による勝利。獲得賞金でのグランプリ出場が叶う可能性のあった成田選手が4番手を固めたというのも、新田選手の思い切りのよさを引き出すカギとなったような気がします。これで北日本勢はグランプリでも、脇本&古性という超強力コンビと互角以上に張り合えるはず。年末の大一番が、なおさら楽しみになりましたよ。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。