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山田裕仁のスゴいレース回顧

【玉藻杯争覇戦 回顧】文字通りの“完勝”だった関東勢の走り

2022/12/07 (水) 18:00 15

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが高松競輪場で開催された「玉藻杯争覇戦」を振り返ります。

高松競輪場で開催された「玉藻杯争覇戦」を振り返ります(撮影:島尻譲)

2022年12月6日(火)高松12R 開設72周年記念 玉藻杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①香川雄介(76期=香川・48歳)
②南修二(88期=大阪・41歳)
③宿口陽一(91期=埼玉・38歳)
④佐々木悠葵(115期=群馬・27歳)
⑤吉澤純平(101期=茨城・37歳)
⑥稲毛健太(97期=和歌山・33歳)
⑦眞杉匠(113期=栃木・23歳)
⑧簗田一輝(107期=静岡・26歳)
⑨稲川翔(90期=大阪・37歳)

【初手・並び】
←⑥⑨②(近畿)⑦④⑤③(関東)⑧①(混成)

【結果】
1着 ④佐々木悠葵
2着 ⑤吉澤純平
3着 ⑦眞杉匠

3名がS級S班から陥落 層が厚いトップクラス

 今年のKEIRINグランプリ出場選手が決まったとはいえ、以降も全国各地の競輪場では、2023年の飛躍を目指した熱い戦いが続きます。12月6日には香川県の高松競輪場で、玉藻杯争覇戦(GIII)の決勝戦が行われました。S級S班からの出場は宿口陽一選手(91期=埼玉・38歳)だけでしたが、全体のレベルはなかなもの。実績上位の選手が、キッチリ存在感を発揮するシリーズとなった印象です。

 宿口選手の名前が出たところで、前回の回顧で盛り込めなかった「S級S班から陥落した3名の選手」について、最初にちょっと触れておきましょうか。まずは最年長の宿口選手ですが、S級S班という「看板」を背負っても、大きくは変わらなかったですね。当然プレッシャーはあったとは思いますが、良くも悪くもマイペースというか。とはいえ、重荷を下ろしたことで、もっと気楽に走れるようになる側面があるかもしれません。

 惜しいところでグランプリ出場を逃した清水裕友選手(105期=山口・28歳)は、今年は調子の悪い時期が長かったように感じました。大舞台で、松浦悠士選手(98期=広島・32歳)との「中国ゴールデンコンビ」が存在感をあまり発揮できなかったのも、そこに理由があったように思いますね。それでも地元記念の連勝記録をのばしたように、「持っている」選手であるのは間違いなし。能力も、上位との差はほとんどありません。

 最後に、吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)。S級S班のプレッシャーともっとも戦っていたのは、彼かもしれませんね。層の厚い関東勢の先行選手として、今年も随所でいい働きをしていたように、力はやはりトップクラス。今年は残念ながらグランプリ出場の切符を得られませんでしたが、来年はさらに気合いを入れて、その切符を奪いにくるでしょう。実際、それに手が届くところにいる選手ですよ。

吉田拓矢と宿口陽一(撮影:島尻譲)

 改めて感じるのが、トップクラスの層が本当に厚いということ。このシリーズに出場している眞杉匠選手(113期=栃木・23歳)も、来年さらなる飛躍が期待できそうなトップクラス選手の一人です。この決勝戦では、4名が結束した関東勢の先頭を志願。その番手を回るのは佐々木悠葵選手(115期=群馬・27歳)で、記念初優勝の絶好機が転がり込んできましたね。ぜひ、このチャンスを生かしたいところです。

 関東勢は、3番手が吉澤純平選手(101期=茨城・37歳)で4番手を宿口陽一選手(91期=埼玉・38歳)が固めるという、超強力ラインナップ。このラインに好き放題をさせると、他のラインは勝負になりません。その力をいかに削いで、自分たちに有利な展開をつくり出すかが問われる一戦といえるでしょう。

 3車ラインの近畿勢は、稲毛健太選手(97期=和歌山・33歳)が先頭で、番手に稲川翔選手(90期=大阪・37歳)。3番手に南修二選手(88期=大阪・41歳)と、こちらも総合力はなかなかのものです。あとは、簗田一輝選手(107期=静岡・26歳)と香川雄介選手(76期=香川・48歳)の即席コンビ。唯一の地元勢である香川選手は、ぜひとも意地をみせたいところですが…そこは梁田選手次第でしょうか。

(撮影:島尻譲)

初手の並びで有利な展開に持ち込んだ関東4車ライン

 以上の三分戦で、ここは眞杉選手と稲毛選手による主導権争い。機動力で勝る眞杉選手に対して、稲毛選手がどういった手で対抗するか--というのが、レース序盤の見どころとなりそうです。ではレースの回顧に入りましょう。スタートの号砲が鳴って、積極的に前へと出たのは稲毛選手。つまり、近畿勢は前受けからの組み立てを最初から狙っていたということになります。

 関東ライン先頭の眞杉選手は、中団4番手から。そして後方8番手に梁田選手という、初手の並びとなりました。正直なところ、この初手の並びはどうなんだーーというのが、私の印象でしたね。もがき合いでの共倒れは覚悟の上で、関東勢に前受けをさせるカタチにもっていくのがベターだと考えていたからです。この初手の並びだと、もっとも総合力が高い関東ラインに有利な展開となってしまう可能性が高いんですよ。

(撮影:島尻譲)

 最初に動いたのは、後方に位置していた梁田選手。赤板(残り2周)の前から勢いよくポジションを上げていき、赤板通過と同時に先頭の稲毛選手を斬りにいきます。しかし、稲毛選手は突っ張って抵抗。梁田選手は無理せずに引いて、近畿ラインの後ろの4番手におさまります。これで6番手となった眞杉選手は、打鐘前の3コーナーで高松バンクのきつい傾斜を駆け上がり、そこからの一気のカマシで進出を開始しました。

 先頭の稲毛選手も合わせて踏みますが、打鐘で眞杉選手はその「すぐ外」まで接近。その勢いのままに、眞杉選手は打鐘過ぎの3コーナーで先頭に立ちます。佐々木選手と吉澤選手もそれに続きますが、関東ライン4番手の宿口選手を、稲川選手がヨコの動きでブロック。危うく捌かれかけますが、必死のリカバーで元のポジションに復帰して、最終ホームでは関東4車が完全に出切ったカタチとなりました。

 眞杉選手に叩かれた結果、最終1コーナーで早々と脚が鈍ってしまった稲毛選手。それをみた稲川選手は、自力に切り替えて中団から前を捲りにいきます。後方のポジションとなった梁田選手も必死に前を追いますが、前との差がなかなか詰まってこない。稲川選手の捲りはスピード十分で、宿口選手の外をパスして最終バックでは吉澤選手と佐々木選手に襲いかかります。

(撮影:島尻譲)

 しかし、最終3コーナー手前で佐々木選手は進路を外に振って、稲川選手の猛攻をブロック。吉澤選手も内からプレッシャーをかけて、進撃を止めにいきます。このブロックで稲川選手は勢いを削がれて、先頭グループと同じような脚色で最終4コーナーへ。先頭では眞杉選手がまだ踏ん張っており、その外から佐々木選手と稲川選手、眞杉選手の後ろに吉澤選手という態勢で、最後の直線に入りました。

 内で粘る眞杉選手を、外から差しにいった佐々木選手が捉えて先頭に。その間をついて、吉澤選手もいい脚で伸びてきます。さらに外からは稲川選手もジリジリと伸びてきますが、先に抜け出している佐々木選手や吉澤選手には届きそうにない。大外を回って梁田選手や香川選手も追い込んできましたが、こちらは残念ながら「時すでに遅し」でしたね。先頭でゴールラインを駆け抜けたのは、佐々木選手でした。

 2着は吉澤選手で、逃げた眞杉選手がギリギリ残して3着。つまり、関東勢の完全勝利という結果です。最終ホームで関東勢4人が完全に出切った時点で、ライン戦の勝負はついていたといえるでしょう。自力に切り替えて捲った稲川選手は、健闘するも4着まで。唯一の地元勢だった香川選手は、最後方からよく追い込むも5着という結果でした。梁田選手が後方に置かれる展開では、致し方ありません。

 これが記念初優勝となった佐々木選手。脳にダメージが残るほどの大怪我や骨盤骨折を乗り越えての結果だけに、これは本当にうれしかったでしょう。捌いて番手をもぎ取った二次予選や、開いた内へと瞬時に突っ込んだ準決勝など、走りに幅が出てきているのは好印象。眞杉選手の番手という最高のポジションを回してもらえたのも、これまで自力選手として前で頑張ってきた“ご褒美”のようなものですよ。

(撮影:島尻譲)

内容は「強い」のひと言 殊勲は眞杉匠

 殊勲賞は、文句なしで眞杉選手。あそこから全力で駆けて3着に残した内容は、強いのひと言ですよ。佐々木選手自身が優勝者インタビューで語っていたように、今日の勝利はラインの仲間に助けられてのもの。まだデビューから3年目である佐々木選手が、この記念優勝を糧に今後どのような選手に育っていくのか…まだムラっぽい面があるので、そこは今後の課題となるでしょう。

 稲毛選手については、やはり初手での前受けが失敗だったと思います。関東勢に前受けをさせて、前を斬りにいって突っ張られたらガチンコでもがき合う…といったカタチのほうがよかった。この場合も厳しい展開にはなりますが、同じ9着という結果になったとしても、内容が違う。あの9着だと、意味がありませんからね。それにそのほうが、応援するファンにとっても納得感が出たのではないでしょうか。

 梁田選手はかなりデキがよさそうだっただけに、準決勝ゴール後の落車が痛かった。大丈夫だとコメントしていたとはいえ、身体や自転車になんらかの影響はあったと思いますよ。落車がプラスに働くことだけは、絶対にありませんからね。

眞杉匠(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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