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山田裕仁のスゴいレース回顧

【富山湾カップ 回顧】タフな展開のなかで勝利をもぎ取った飯野祐太

2022/11/21 (月) 18:00 16

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが富山競輪場で開催されたGIII「施設整備等協賛競輪in富山 富山湾カップ」を振り返ります。

優勝した飯野祐太(撮影:島尻譲)

2022年11月20日(日) 富山12R 施設整備等協賛競輪in富山 富山湾カップ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①飯野祐太(90期=福島・38歳)
②近藤隆司(90期=千葉・38歳)
③大塚健一郎(82期=大分・45歳)
④伊藤旭(117期=熊本・22歳)
⑤北井佑季(119期=神奈川・32歳)
⑥泉慶輔(99期=宮城・32歳)
⑦野口裕史(111期=千葉・39歳)
⑧根本哲吏(97期=秋田・36歳)

⑨竹内智彦(84期=宮城・45歳)

【初手・並び】
←⑧①⑨⑥(北日本)④③(九州)⑤⑦②(南関東)

【結果】
1着 ①飯野祐太
2着 ⑨竹内智彦
3着 ⑦野口裕史

今開催は高配当続出の波乱のシリーズとなった

 11月20日には富山競輪場で、富山湾カップ(GIII)の決勝戦が行われています。ほとんどの有力選手が小倉での競輪祭(GI)に出走するのもあって、その直前の開催となるこのシリーズはかなり手薄なメンバーに。しかも、舞台が先行有利で知られる富山の333mバンクとあっては、そうそう順当には決まりません。準決勝があったシリーズ3日目なんて、高配当のオンパレードでしたからね。

シリーズ3日目は高配当続出となった(撮影:島尻譲)

 初日特選に出場していた選手で、決勝戦に勝ち上がったのは2名だけ。これも、シリーズ全体が波乱含みだったことの証明といえるでしょう。決勝戦に勝ち上がったのは、北日本の選手が4名で、南関東が3名。そして九州が2名で、単騎を選んだ選手はゼロ。シンプルな三分戦ですが、展開については一筋縄ではいかなさそうな、なかなか興味深いメンバー構成となりました。

 4名が結束した北日本ラインの先頭は、根本哲吏選手(97期=秋田・36歳)に任されました。その番手を回るのは、デキのよさが目立っていた飯野祐太選手(90期=福島・38歳)。一次予選は4着でしたが、序盤から突っ張り通して粘った内容は見どころ十分でした。3番手は竹内智彦選手(84期=宮城・45歳)で、4番手を泉慶輔選手(99期=宮城・32歳)が固めるという布陣です。

元Jリーガーの北井佑季(撮影:島尻譲)

 南関東勢は、元Jリーガーという異色の経歴を持つ北井佑季選手(119期=神奈川・32歳)が先頭に。先日の京王閣記念の決勝戦では、単騎というのもあって厳しい戦いを強いられましたが、今回は番手に野口裕史選手(111期=千葉・39歳)、3番手には近藤隆司選手(90期=千葉・38歳)と、3車のライン戦で勝負できます。その機動力をうまく活かせば、今度は上位争いが可能でしょう。

 九州勢の先頭は伊藤旭選手(117期=熊本・22歳)で、準決勝では中団からの鋭い捲りで1着に好走。デキは上々のようで、主導権を争って前でもがき合うような展開にでもなれば、決勝戦でも後方からの捲り一発で突き抜けてしまうかもしれません。番手にベテランの大塚健一郎選手(82期=大分・45歳)がついてくれるのも、まだキャリアが浅い伊藤選手にとって心強いでしょう。

準決勝で1着だった伊藤旭(撮影:島尻譲)

 4車という数の利を生かすためにも、北日本ラインは是が非でも主導権が欲しいところ。しかし、ここは先行へのこだわりが強い北井選手がいますから、そう簡単にはいきません。しかも、北井選手の番手を回る野口選手も機動型で、デキもかなりよさそう。南関東勢が楽に主導権をとっての「二段駆け」を、他のラインは何よりも警戒する必要があります。根本選手や伊藤選手の立ち回りに注目ですね。

最初に火花を散らしたのは北日本VS南関東

 それでは、決勝戦の回顧です。スタートを取って前受けを選んだのは、車番の通りに北日本勢。その後ろの中団5番手は、南関東勢ではなく九州勢がとりました。そして後方7番手に北井選手というのが、初手の並び。北井選手が後ろ攻めとなったことで、主導権がほしい北日本ラインは、突っ張り先行を選ぶ確率がグンと上がりましたね。根本選手は青板(残り3周)のホーム通過から、先頭誘導員との車間をきって態勢を整えます。

 北井選手が動いたのは、青板の2コーナーを回ってから。バンクを駆け上がってからの一気のカマシで、先頭を走る根本選手に襲いかかります。前で待っていた根本選手も合わせて突っ張りますが、勢いで勝ったのは北井選手のほう。先頭誘導員が離れたところで前を叩ききって、北井選手が先頭に立ちました。北日本勢は内から飛びついての分断も狙っていたようですが、内外が離れているので捌きにいけません。

大外から主導権を奪いに来る北井佑季(黄・5番)(撮影:島尻譲)

 ここでの攻防は北井選手の勝利でしたが、南関東ライン3番手の近藤選手が離れて、最後方に。この戦力ダウンは痛いですが、そんなものはお構いなしとばかりに、先頭に立った北井選手はガンガン飛ばします。根本選手は3番手、伊藤選手が7番手となって、赤板(残り2周)のホームを通過。そこからは動きはなく、一列棒状のままでレースは打鐘を迎え、そのまま最終ホームに戻ってきました。

近藤隆司が離れるも突き進む南関東ライン(黄・5番と橙・7番)(撮影:島尻譲)

熾烈な戦いで振り落とされていく選手たち

 ここで動いたのが後方にいた伊藤選手で、北日本ライン最後尾を走る泉選手の内に潜り込んで進出を開始。その直後、最終1センターを過ぎたところでは、野口選手が早々と番手捲りにいきます。伊藤選手はさらに竹内選手の内にも入り込み、最短距離で前との差を詰めることに成功。ただしこちらも、番手の大塚選手がその動きについていけずに離れてしまいました。

力尽きて減速しはじめる北井佑季(黄・5番)(撮影:島尻譲)

 前では、まだ北井選手が先頭で踏ん張っていましたが、最終バック手前でさすがに力尽きて、戦線を離脱。番手から捲った野口選手が今度は先頭に立ちますが、北井選手のかかりのいい先行をずっと追走してきたのもあって、後続を突き放すような脚はありません。その直後に、根本選手と飯野選手。さらにその後ろに伊藤選手と、ここまでほとんど差がない一団の態勢となります。

 ここで根本選手は脚が止まってしまい、切り替えた飯野選手が外から野口選手に肉迫。しかし、北日本ライン3番手の竹内選手は飯野選手との連係を外してしまい、飯野選手の後ろには伊藤選手がつけています。最終2センターでもこの態勢は変わらず、伊藤選手は最後まで内にこだわって、野口選手と飯野選手の間を割ろうと狙う態勢。その後ろの竹内選手は外に出して、飯野選手の番手に復帰するようなカタチとなりました。

ゴール前は全車ひとかたまりとなって走ってきた(撮影:島尻譲)

 そして、最後の直線での攻防。直線なかばまで野口選手が踏ん張りますが、外からジリジリと差を詰める飯野選手がこれを捉えて先頭に。この両者の間を狙った伊藤選手は、なかなか進路が開かずに内で詰まっています。そこに外からいい脚で伸びてきたのが竹内選手で、野口選手と伊藤選手を抜き去り、あとは飯野選手に届くか…と思ったところが、ゴールラインでした。

各々が「見せ場アリ」のいいレースだった

 1着でゴールを駆け抜けたのは飯野選手で、2着に差した竹内選手。3着には野口選手が粘って、なかなか進路が開かなかった伊藤選手が4着という結果です。優勝した飯野選手は、これがGIIIでの初優勝。初日からみせていたデキのよさが、しっかりと結果につながりましたね。ラインの仲間にも助けられたとはいえ、タフな展開のなかでもぎ取った1着ですから、感慨深いものがあるでしょうね。うん、いい走りでした!

レース後にガッツポーズを決める飯野祐太(撮影:島尻譲)

 2着の竹内選手は、勝負どころで伊藤選手に割って入られて連係を外すも、そこから巻き返してみせたのはお見事。とはいえ、アレがなければ優勝まであったでしょうから、ラインでワンツーを決められたとはいえ悔しい結果でもあります。そして、3着の野口選手もよく踏ん張っていましたね。北井選手のあの逃げを追走してからの番手捲りとなると、そこから粘るのは想像以上にキツいですから。

 最後方から内をすくって追い上げた伊藤選手も、4着とはいえ見せ場は十分。最後、進路がスムーズに開けていれば、また違った結果になっていたかもしれないですね。また、厳しい展開になるのは覚悟の上で、自分の競輪を貫き通した北井選手も、8着とはいえ存在感を大いに発揮しました。今回はいい結果を残せませんでしたが、ここでこういった走りをしたことは「次」につながりますよ。

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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