閉じる
山田裕仁のスゴいレース回顧

【ゴールドカップレース 回顧】優勝も画竜点睛を欠いた宿口陽一

2022/11/02 (水) 18:00 39

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが京王閣競輪場で開催されたGIII「開設73周年記念ゴールドカップレース」を振り返ります。

優勝した宿口陽一(撮影:島尻譲)

2022年11月1日(火) 京王閣12R 開設73周年記念ゴールドカップレース(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①平原康多(87期=埼玉・40歳)
②坂井洋(115期=栃木・28歳)
③北井佑季(119期=神奈川・32歳)
④佐々木悠葵(115期=群馬・27歳)
⑤森田優弥(113期=埼玉・24歳)
⑥高橋築(109期=東京・30歳)
⑦宿口陽一(91期=埼玉・38歳)
⑧中田健太(99期=埼玉・32歳)
⑨吉田有希(119期=茨城・21歳)

【初手・並び】
←⑤①⑦⑧(関東)⑨②⑥(関東)④(単騎)③(単騎)

【結果】
1着 ⑦宿口陽一
2着 ②坂井洋
3着 ①平原康多

“まるで関東の地区プロ”地元戦に勢ぞろいした関東勢

 今年も霜月を迎えて、あとは師走を残すばかり。昼間は暖かくても、朝晩はかなり肌寒く感じるようになりましたね。屋外で練習することが多い競輪選手にとって、「寒さ」や「冷え」はやっぱり嫌なものですよ。レースではあまり気になりませんが、いくら真剣に練習に励んだところで、寒いものは寒いですからね。目標レースに向けての調整も、暖かい時期に比べるとやや難しくなります。

 そんな11月の初日に、東京の京王閣競輪場ではゴールドカップレース(GIII)の決勝戦が行われました。出場する選手を確認した時から感じていたのが、若くて勢いのある関東の自力選手が多く、いかにも関東勢に有利だなということ。記念なので、地元の選手層が厚くて当然といえば当然なんですが、いささか極端なほどでしたね。これは他地区は苦戦必至だな…というのが、このシリーズの第一印象でした。

準決勝で6着に終わった新田祐大(白・1番)(撮影:島尻譲)

 関東勢以外で注目を集めたのは、先日の寛仁親王牌(GI)でグランドスラムを達成したばかりの新田祐大選手(90期=福島・36歳)。しかし本調子にはなく、決勝戦に勝ち上がれなかったばかりか、最終日も4着に敗れています。大きなレースを勝った直後というのはアレコレ用事が飛び込んでくるもので、調整がなかなか難しいんですよね。次の競輪祭(GI)までに、調子をどう立て直すのかが注目されます。

 さらに、S級S班の古性優作選手(100期=大阪・31歳)も二次予選で敗退。こうなると、このシリーズで「不動の中心」となるのが、関東の盟主である平原康多選手(87期=埼玉・40歳)です。決勝戦はなんと「関東が8名」という異常事態となり、しかもそのうち4名が埼玉勢なのですから、有利であるのは間違いなし。関東は結局「ラインが2つで単騎が1名」という構成となりました。ホント、まるで関東の地区プロですよね(笑)。

準決勝で2着だった森田優弥(白・1番)(撮影:島尻譲)

 埼玉4車の先頭を任されたのは森田優弥選手(113期=埼玉・24歳)で、初日から①①②で決勝戦へと駒を進めてきたように、デキのよさも感じられましたね。番手が平原選手で、3番手を回るのが宿口陽一選手(91期=埼玉・38歳)。最後尾を固めるのが中田健太選手(99期=埼玉・32歳)という並びです。近況が冴えない内容だった宿口選手も、このシリーズでは久しぶりに“らしさ”を感じられる走りをみせていました。

 そして「埼玉勢以外の関東ライン」は、吉田有希選手(119期=茨城・21歳)が先頭を務めます。1着こそ取れていませんが、その粘りのある先行はトップクラス相手でも十分に通用するもの。その番手を回るのは坂井洋選手(115期=栃木・28歳)で、3番手は高橋築選手(109期=東京・30歳)です。こちらもなかなか強力ですが、どう乗るかはかなり難しい。レースの組み立て次第といえるでしょう。

「埼玉勢以外の関東ライン」先頭を務める吉田有希(撮影:島尻譲)

 単騎を選択したのは、北井佑季(119期=神奈川・32歳)と佐々木悠葵選手(115期=群馬・27歳)の2名。どちらも自力のある選手でデキも悪くなさそうでしたが、二分戦での単騎となると、いかんせん立ち回りが難しい。これが記念初優出となる北井選手にとっては、なかなか厳しい戦いとなりそうです。

タイミングを逃し続ける吉田有希

 ではここからは、決勝戦の回顧に入っていきます。前受けを選んだのは、車番通りに埼玉勢。その後ろに吉田選手が先頭の関東勢がつけて、後方に単騎の佐々木選手、北井選手という初手の並びとなりました。ここまでは、レース前の想定とほぼ同じ。問題は、ここからレースがどのように展開していくかです。

 隊列が決まってからは動きがなく、淡々と周回が重ねられていきます。動きがあったのは、赤板(残り2周)の手前。吉田選手が、前との車間をきってカマシにいくタイミングを探っているところを、後方にいた佐々木選手がその内をすくって前に出ます。それもあってか、吉田選手は動かないままで赤板のホームを通過。先頭の森田選手は何度も振り返って後方を確認しつつ、打鐘前の2コーナーを回ります。

埼玉4車の先頭・森田優弥が後方を確認しつつ進む(撮影:島尻譲)

 そしてレースは打鐘を迎えますが、吉田選手はまだ動かない。カマシにいくタイミングを逸してしまったので、もう正攻法で捲りにいくしかありません。さてどうするか…と思われたところで吉田選手よりも先に動いたのが、5番手にいた佐々木選手。打鐘後の3コーナーでは、空いていた埼玉勢の内へと切り込んで、狙っていた「平原選手の後ろのポジション」を奪いにかかります。

 埼玉3番手の宿口選手の内に佐々木選手が併走するカタチで、最終ホームを通過。またしても先に動かれてしまった感のある吉田選手でしたが、ここからの挽回を期して、最終1コーナーから前を捲りにいきます。しかし、その仕掛けを前でずっと待ち構えていた森田選手には、まだ余裕がある。番手の平原選手も前との車間をきって、いつでも番手捲りにいける態勢を整えています。

三者入り乱れの直線、制したのは宿口陽一

 宿口選手の内を併走していた佐々木選手は、同地区というのもあってか、激しくやり合うことはなくポジションをキープ。そこに外から吉田選手がジリジリと迫りますが、一気に前を飲み込むような勢いはありません。そして、森田選手の脚が最終バック手前で鈍ったところで、平原選手が番手捲りに。その直後には、ポジションを守り抜いた宿口選手と、その後ろに下げた佐々木選手がいます。

番手捲りを仕掛ける平原康多(白・1番)(撮影:島尻譲)

 捲りにいった吉田選手は脚が止まって、万事休す。これは埼玉勢の完勝か…と思われたところで外から飛んできたのが、吉田選手の番手にいた坂井選手でした。グングン伸びて、最終3コーナーで宿口選手のすぐ外にまで進出。宿口選手は余裕がないのか、この鋭い捲りをブロックしにいけません。最終2センターでは宿口選手の前に出て、先に抜け出している平原選手に襲いかかります。

 しかし、それを察知した平原選手が進路を外にきって巧みにブロック。これによって、坂井選手はイエローライン付近まで外を回らされてしまいます。そして、このブロックで空いた内をまっすぐ突き進んだのが宿口選手で、先頭で最後の直線に突入。平原選手や、態勢を立て直した坂井選手がそれを追います。あとは、宿口選手と平原選手の直後に、佐々木選手と中田選手という態勢ですね。

1着の宿口陽一(橙・7番)はこれが「記念」初優勝となった(撮影:島尻譲)

 先頭の宿口選手を外から坂井選手と平原選手が追いますが、どうやら坂井選手の脚色がいい。その後ろの佐々木選手や中田選手は、それほど伸びがありません。この状況を正確に把握した平原選手は、直線なかばで再び進路を外にとって坂井選手を止めにいきますが、それでも坂井選手の伸び脚は鈍らない。坂井選手が平原選手の前に出て、宿口選手まで届くか…と思われたところが、ゴールラインでした。

S級S班として、ライン3番手として果たすべき“仕事”

 坂井選手の猛追を退けて、先頭でゴールを駆け抜けたのは宿口選手。S級S班に格付けされてからの10カ月、ずっと厳しい戦いが続いてただけに、喜びもひとしおでしょう。昨年の秋に前橋でナイターGIIIを勝っていますが、「記念」の優勝はこれが初めて。とはいえ、ライン3番手の“仕事”が果たせずに優勝したとなると、厳しい意見も出るでしょうね。手放しで喜べるような内容ではなかったのは事実です。

 レース後に宿口選手自身や平原選手がコメントしていたように、本来は坂井選手の捲りを平原選手ではなく、宿口選手が止めねばならなかった。しかし、その責務を宿口選手にかわって、平原選手が果たしていましたからね。埼玉勢から優勝者を出たのでライン戦には勝利していますが、画竜点睛を欠く走りだった…というのが正直な印象でしょうか。仮にもS級S班の一員なんですから、甘い採点はできないですよ。

坂井洋(黒・2番)を止めるため外に進路をとった平原康多(白・1番)(撮影:島尻譲)

 惜しくも2着に終わったとはいえ、その強さが印象的だったのが坂井選手。もともと捲る脚には定評のある選手でしたが、このところは先行して着をまとめる競輪ができるようになって、安定感がグッと増しましたね。走りに“幅”が出ているのは大きな成長で、これなら今後もコンスタントに勝ち上がれる。この結果で弾みをつけて、昨年優勝している四日市記念に向かえることでしょう。

 平原選手の3着は、前述の通り宿口選手の仕事を代わりに果たした結果ですから、これはもう致し方なし。後手を踏まされる結果となった吉田選手については、得意とするカタチに持ち込めなかったのが痛かった。脚をタメて一気に爆発させるというタイプではなく、持久力を生かした先行でよさが出る選手ですからね。あとは、佐々木選手に機先を制されたことで、思いきった動きができなかった印象も受けました。

 単騎ながら存在感を発揮した佐々木選手は、いい走りをしていましたね。相手が同じ関東の選手でなければ、ラインを分断して優勝争いに持ち込むことも可能だったかもしれません。北井選手は後方のままで何もできずに終わってしまいましたが…これはもう仕方がないですよ。せめて三分戦であれば付け入る隙もあったかもしれませんが、「自分以外はオール関東」という時点で厳しすぎる。これにめげずに、さらに精進してほしいものです。

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

閉じる

山田裕仁コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票