2022/11/07 (月) 18:00 46
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが防府競輪場で開催されたGIII「開設73周年記念 周防国府杯争奪戦」を振り返ります。
2022年11月6日(日) 防府12R 開設73周年記念 周防国府杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①清水裕友(105期=山口・27歳)
②吉田拓矢(107期=茨城・27歳)
③佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
④永澤剛(91期=青森・37歳)
⑤郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
⑥東口善朋(85期=和歌山・43歳)
⑦園田匠(87期=福岡・41歳)
⑧桑原大志(80期=山口・46歳)
【初手・並び】
←⑤③④(混成)①⑧⑦(混成)⑥(単騎)②⑨(関東)
【結果】
1着 ①清水裕友
2着 ⑧桑原大志
3着 ⑥東口善朋
11月6日には山口県の防府競輪場で、周防国府杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われました。5名が出場していたS級S班を筆頭に、出場選手のレベルが非常に高いシリーズとなりましたね。S級S班はそのうち4名が決勝戦に勝ち上がっており、三分戦となった各ラインの先頭を任されることに。これは見応えのあるレースになるぞ…と、思わずワクワクしてしまうような決勝戦のメンツでしたね。
このシリーズにおける“主役級”の一人が、郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)。このところ常に安定した結果を残しており、ここでも1着をとった初日特選から、デキのよさを感じる動きをみせていました。その番手を回るのは、普段からよく連係している北日本の佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)。3番手も北日本の永澤剛選手(91期=青森・37歳)が固めるという布陣で、総合力の高さはかなりのものです。
そしてもう一人の“主役級”が、ここ防府がホームバンクである清水裕友選手(105期=山口・27歳)。清水選手はこの防府記念を4連覇中で、この前人未踏の記録を今年さらに更新できるかどうかに注目が集まっていました。相手は強力ですが、このレースにかける気持ちの強さは、誰にも負けません。改修工事に入る関係で、来年はこの防府記念が開催されないというのも、それをさらに強めていたことでしょう。
とはいえ、今年の相手はかなり強力で、それだけに心強い“相棒”である松浦悠士選手(98期=広島・31歳)の準決勝敗退は大きな痛手。しかも、その準決勝で松浦選手の番手を回っていた清水選手は、最終バック手前から早々と前へと踏み込んで、松浦選手が残しづらいカタチにしてしまったんですよね。この結果が果たしてどう出るかというのが、最大の懸念材料でした。
清水選手の番手は桑原大志選手(80期=山口・46歳)で、同県の先輩が後ろにいるというのは、清水選手にとって大きな支えとなるはず。そしてこのラインの3番手には、九州の園田匠選手(87期=福岡・41歳)がつきました。このシリーズを①①①と無傷で勝ち上がってきた東口善朋選手(85期=和歌山・43歳)は、単騎での勝負を選択。こちらも、デキのよさは目立っていましたね。
2名が勝ち上がった関東勢は、吉田拓矢選手(107期=茨城・27歳)が「前」で、番手に神山拓弥選手(91期=栃木・35歳)という組み合わせ。以前は先行に対するこだわりが強かった吉田選手ですが、最近は相手や番組次第で戦術をうまく使い分けて、着をまとめる競輪ができるようになってきました。ここもそうやって勝ち上がってきた印象で、デキに関してはそう強調はできないという印象です。
各ラインともに機動力のある選手が先頭を務めますが、徹底先行型は見当たらないので、誰が主導権を奪うかはレースの流れ次第。では、決勝戦の回顧に入りましょう。スタートが切られて、最初に飛び出していったのは郡司選手でしたね。その直後の4番手に清水選手で、単騎の東口選手が7番手。そして後方8番手に吉田選手というのが、初手の並びです。これは、ほぼ想定通りの隊列といえるでしょう。
最初に口火を切ったのは、後方にいた吉田選手。青板(残り3周)のバックから進出を開始しようとしますが、その機先を制して、中団にいた清水選手が前を斬りに動きます。先頭の郡司選手は抵抗せず、先頭誘導員が離れたところで清水選手がいったん先頭に。単騎の東口選手は清水選手の動きに連動して、4番手につけました。そしてホームに戻ってきたところで、今度は吉田選手が一気に動いて、先頭を奪いにかかります。
赤板過ぎの1センター、清水選手は上がってきた吉田選手と神山選手を前に出して、3番手をキープ。東口選手が6番手、郡司選手は7番手という隊列となり、そのまま一列棒状でレースは打鐘を迎えました。この時点で、主導権は吉田選手のものに。ただし、主導権を奪ったというよりは、清水選手に「譲り渡された」といったほうが正解でしょう。後方からとなった郡司選手は、やや不利な状況です。
それを挽回するために、打鐘後のホームで後方の郡司選手が動きます。素晴らしい加速で前との差を詰めにいったんですが…ここで残念ながらアクシデントが発生。郡司選手の動きを振り返りつつ察知していた園田選手が、その勢いを削ごうと進路を外に出したところに、猛スピードで迫る郡司選手が衝突してしまいます。おそらくですが、園田選手が思っていた以上に、郡司選手が捲ってきた勢いが鋭かったのでしょう。
この接触で、園田選手と郡司選手、佐藤選手、永澤選手の4名が落車。内にいて事無きを得た東口選手は、園田選手のいたポジションに収まりました。こうなると、あとは「清水選手が吉田選手を捲れるかどうか」の戦いに。最終2コーナーを回ったところから清水選手が仕掛け、それを神山選手がブロックしますが、清水選手は力強く乗り越えて先頭の吉田選手に襲いかかります。
吉田選手も負けじと踏ん張りますが、最終バックで清水選手に並ばれたところで、万事休す。最終2センターでは清水選手と桑原選手が完全に抜け出して、それを東口選手と神山選手が追う態勢となります。そのまま最後の直線に入りますが、先頭に立った清水選手の脚色はまったく衰えず、セイフティリードを保ったまま。桑原選手や東口選手が追いすがりますが、その差がまったく詰まりません。
結局、最後まで態勢は変わらず、直線に入った順番のままでゴールイン。昨年の時点でも前人未踏だった地元記念の連覇記録を「5」に伸ばすと同時に、グランプリ出場へ向けた獲得賞金の上積みにも成功しました。2着に桑原選手が入って、ここは地元勢による見事なワンツー決着に。3着が東口選手で4着に神山選手、5着に吉田選手という結果でした。スタンドに詰めかけた地元ファンは、清水選手を大歓声で迎えていましたね。
さすがに今年は厳しいかと思われた清水選手ですが、やはり「持っている」人は違うというか…この結果には正直、驚かされましたね。落車というアクシデントがあったとはいえ、この世界は結果を出してナンボ。そして地元記念というのは、すべての競輪選手にとって特別なものです。それを5年連続で勝つというのは、掛け値なしに驚異的ですよ。もう、素晴らしいとしか言いようがありません。
ただ…惜しむらくは、このレースが最高に盛り上がるところで、落車というアクシデントが発生してしまったことですよね。郡司選手のあの鋭い捲りを、清水選手や桑原選手がどのように受け止めて、そしてその後にどんな展開が待ち受けていたのか。それをぜひ観たかったというのが、私の正直な気持ちです。あ、失格となった園田選手を咎めているわけではないので、そこは勘違いしないでください!
初手の並びから吉田選手が主導権を握るに至るまで、清水選手は自分自身の手で、理想的な展開を作りあげています。その結果、決勝戦での最大の障壁となりそうな郡司選手を、後方7番手に置くことにも成功した。あの落車がなくとも、優勝に手が届くカタチをしっかりと作りあげていたんですよ。だからこそ、あの“先”が観たかったなあ…と余計に思ってしまう。すごくいいレースになりそうだったから、なおさらですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。