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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の基本姿勢】師匠・添田広福の教え「量をこなせ慎太郎、いずれ馴染む」

2022/10/18 (火) 18:00 31

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、佐藤慎太郎です。いよいよ今年の競輪も終盤戦へと差し掛かり、早いもので親王牌の季節だね。オールスターも共同通信社杯も今年前半の勢いで走ることは叶わなかったが、それはそれ、これはこれ。目の前のことだけに集中し、前橋には闘志をギンギンにみなぎらせていきます。

「落車にガッカリ? いつの話だよ!」慎太郎選手の闘志はギンギンに燃えたぎっている(撮影:島尻譲)

“お手本”にすべき選手がやめた

 冒頭に迷ったが、出場レースの振り返りを書く前に村上さんの引退について書こうと思う。オレは年上の選手を『お手本』とか『道しるべ』として見ていることがあって、過去に先輩選手が引退する度に寂しさを味わってきた。「道しるべにしていた競輪選手が1人減ってしまったな」って感じで。

 村上さんに対しても『競輪選手として年齢を重ねていった時にどんな姿を見せてくれるのか』という目を向けていた。お手本にするべき偉大な競輪選手ということに疑いの余地はないからね。「見習いてえな」と思える選手の引退は寂しいと同時に「道しるべを頼りにするのではなく、自分の道を歩まなくては」という意識を湧き起こす起爆剤でもある。オレはオレの競輪選手としての在り方を追求していくしかない。

 ただ、同業者としての『競輪選手・佐藤慎太郎』ではなく『競輪ファン・佐藤慎太郎』として村上さんを見てきたのも事実だから“ラストラン”を見たかった気持ちは強い。村上さんのファンの中にもそういう人は多くいたはずだ。しかし、そのあたりもすべて織り込み済みの選択だろうし、競輪選手の人生観も決断の仕方も人それぞれ。当事者の思いこそ“引き際”を決めるもの。こればっかりは変えようのない現実だね。

 オレは将来自分の“引き際”についてどんな答えを出すだろうか。競輪選手という職業は最高であり、やめる時の形なんて想像もできない。このコラムを書いている今、1ミリもやめることなんて考えられないし、戦うことに必死の真っただ中だ。明日のオレ、来年のオレが何を考えているかなんてわからないけど、どんな選択をしていくのかすごく興味深い。村上さんの引退は寂しい。でもオレは次のレースのことだけで頭ん中埋め尽くしてペダルを踏んでいこうと思う。

村上義弘選手(撮影:島尻譲)

納得するまで練習することで得られるもの

 さて、今回のコラムでは松阪記念の振り返りをきちんと伝えなくてはならない。落車明けの開催でお客さんもすごく心配してくれたし、次走はGI・寛仁親王牌。「慎太郎、状態どーなのよ!?」って気にかけてもらっている。

 まず結論から書くと「松阪は開催初日から最終日までを通じて、徐々に感覚を取り戻していくようなシリーズだった」という感じかな。シリーズ序盤から自転車と体がマッチせず、レースでは反応が悪かった。特に2日目なんてめちゃくちゃ反応が鈍かった。「2着で車券に貢献できたからヨシ!」なんてまったく思えず、『練習の足りなさ』を痛感したレースだ。

 オレはいつも「もうこれ以上は練習できない」と出来ることは全てやり尽くして開催に入っている。過去のコラムでも書いたが『1day 1race,easy』って考えを大切にしていて、日々の練習の中で極限まで何本も何本も自分を追い込んでいれば、いつレースがあっても最高の状態で走れるという理屈。その心構えでいれば“本番”である1日1本のレースで失敗するわけないし、疲労なんかもあるはずないって考えだ。

 有坂直樹さんが引退後、オレに会いにきてくれたことがあった。ちょうど初夏のタイミングでオレも絶好調だったし、飯を食いながら有坂さんと色々な話をした。その時に「調子がいいのは結果や走りを見ていればわかる。そんで慎太郎、お前身体はホントに大丈夫なんか?」と声をかけられた。

 つい最近まで競輪選手を続け、32年のキャリアの中で頂点の景色を見ている番長はオレの近況成績を見て、練習にかけている負荷を理解して案じてくれたってわけ。実際大丈夫だったし「こんなん余裕すわ!」なんて答えていたわけだけど、そのくらい追い込まないと上位のレースで戦うことなんてできないと考えていた。

 そういうわけで、怪我によって極限まで追い込むことができていない日々ではうまくいかない部分がある。松阪記念でハッキリしたのはオレの“自信”に影響があったということ。絶対的な練習量から生まれる納得感や安心感、自分に対する自信。これらが不足していると2日目の2着のような反応の鈍さに繋がっちまうってわけだね。だからやはり練習をする。トレーニングをする。状態が悪いわけじゃない。自信の部分が大半を占めている。松阪記念から帰ってきて、気合を入れ直して仕上げているところだよ。

練習量が自信に繋がり、自信がレース中の反応に繋がると語る慎太郎選手(撮影:島尻譲)

普段やらないことをやるなよ慎太郎

 松阪の2日目に感じた反応の鈍さ。これに気が付いたせいで修正に慌てちまった。悪い時って修正したい気持ちが止められず“その場しのぎ”のことをやっちまうってわけ。開催中に自転車が身体にマッチしていない感覚があって、ハンドルを変えて重心移動を試みるなど悪あがきをした。これは良くなかった。厳密に言うと“オレにとって”は良くなかった。

 競輪選手が自転車に向き合うとき、セッティングの修正や試し方にはさまざまなアプローチがある。オレの場合は「セッティングを試すのは練習時のみ」、「何十本も全力でもがいてデータを集積する」、「開催中は迷わない、迷っても押し通す」ってルールを自分の中に設けている。

 だけど松阪では自転車と身体のミスマッチが許せず、開催中に試行錯誤してしまった。状態が良い時じゃないと色々やってもダメということを元々知っていたが、改めて再確認した。これはオレのやり方じゃない。普段やらないことを本番でしてはダメだと痛感した。

共同通信社杯での落車時にフレームは損壊。新フレームと身体がマッチしなかった(撮影:島尻譲)

 何かを試すときは感覚が研ぎ澄まされている完全にベストな状態でやる方が佐藤慎太郎には合っている。良い状態で質の高い練習をしながら試行錯誤することで“価値あるもの”に辿り着けるということ。これからは絶好調な時にきちんと乗り比べを行い、正確なデータを取り、パーツやセッティングの良し悪しを判断していこうと思う。このタイミングで「やっぱりダメなんだよな」と大事なことに気が付けたこと自体は収穫とも言えるがね。

 このようにネガティブな心理に苛まれた開催にはなったが、最終日は1着でシリーズを終えることができた。この結果には自分の中で及第点を与えてやりたい。セッティングの迷路の深いところに足を踏み入れることなく、気持ちの面をピシャリと切り替えてレースを走れた結果だ。これが本当の意味での修正だし、状態が戻ってきていることを証明している。

メンタルを“修正”し迷いを振り切った最終日の1着 ※慎太郎選手は中央2番車(撮影:島尻譲)

添田師匠の教え“いずれ馴染む”

 さて、これから前橋に向かうこのタイミングでオレの師匠・添田さんの教えを今一度胸に刻み込むとしよう。「慎太郎、道具を体に合わせようとするな。道具に体を合わせるくらい練習に取り組め。簡単なことだ、量をこなせばいずれ馴染む」というもの。

 競輪選手たちはセッティングや体調管理など「最高の状態の作り方」がそれぞれ違う。まさに十人十色、千差万別。骨格も違うし、動かしやすい筋肉も違う。いや、そもそも利き手・利き足すら異なる。もちろん自転車に関する新しい情報収集は欠かせないし、いいパーツがあったら試すし、いい車輪の組み方があれば選手同士で意見交換をする。愚直に最適解を求めていく。

 でもオレの場合は最終的に体と自転車をマッチさせるのも、走る上で持つ自信も『全精力を注ぐ練習量』が源だ。松阪が終わり、寛仁親王牌を目指す間、しっかりと足りない部分を見つけ、それを埋めるべく励んだ。

 フィジカルの細かいことを言い始めれば、そもそも怪我をしているし、今年前半の状態と比べて劣る部分もあるのかもしれない。ただ前橋に乗り込む以上はハートで足りない分を埋めていくし、その準備は120%できている。競輪は気持ち次第、完全にメンタルスポーツだ。松阪が終わり、添田師匠の教えを反芻している。そういうわけで当たり前のように優勝一点を狙っていく。

師匠の教えを実践して勝利を重ねてきたことを再確認した松阪最終日(撮影:島尻譲)

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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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