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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の試練】失望しても思考の方向はプラスに走らせなくてはならない

2022/11/12 (土) 18:00 52

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、病室にて一人静かにしている佐藤慎太郎です。今は体が痛くて寝返りも打てません。でも弱気に支配されるつもりは毛頭ありません。いかなる時も自分の気合で自分の弱気を打ち負かすだけ。釈然としない近況報告になっちまうが、今月もバシッと自分の心境を言葉に込めようと思う。

防府記念で決勝進出を果たした慎太郎選手(撮影:島尻譲)

落胆よりも“失望感”

 オレの選手人生を振り返ってみても今年のような試練はなかなか覚えがない。オールスター、共同通信社杯、直近の防府記念とアクシデントが3発。毎月のように頭を打って記憶を飛ばしていると、さすがにシリアスな気持ちになってくる。後半戦のビッグレースで2度落車した時には「ガッカリ」という表現でコラムに無念を綴った。そして今は「ガッカリ」を通り越している。“失望感”のような言葉が一番近い。

 防府競輪から病院へ移動した最初の日、完全に意気消沈したし、頭をよぎるのはネガティブなことばかり。「競輪選手が大きく調子を崩す時期は必ず落車が引き金になってるよな…」とか「思うように練習ができないことでモチベーションが維持できなくなり、そんな負のスパイラルの中で去っていくのだろうか」とか。体のダメージは言わずもがな、加えてメンタルへのダメージが苦しかった。

光が差した準決勝

 そんなドン底みてーな心境ではあるが、「どんなに悪い結果でもレースはしっかり振り返ること」と「どんなに悪い状況でもプラスの要素を探すこと」は大切。これは与えられた試練であり、何かに繋がるはずだと無理矢理にでも思い込む。突然プラス要素が見つかるはずもないが、思考の方向だけはプラスへと走らせなくてはいけない。

 決勝を振り返ると避けられない落車だったように思う。郡司がバランスを崩した瞬間の光景や自分の体が投げ出されてくシーンまでしか覚えていない。共同通信社杯の時と同じで、気が付けば救急車の中にいた。救急隊員の方の話によると、オレは熟睡していたらしい。「昨日たっぷり寝たはずなんだけどね」くらいのジョークを飛ばしたくなる状況だが、意識飛ばしてグーグー寝ちまうほどの衝撃を受けたと考えると怖さしかない。

割れたヘルメットが衝撃の大きさを物語っている(写真:本人提供)

 ただ、もう1日前まで遡って振り返るのなら、防府記念準決勝は久々に良い感覚で走れた。一刻も早く失いかけている自信を取り戻したかった中で、わずか一瞬だけかもしれないが「この感触、悪くねえ!」って自信を掴みながら走ることができた。1着という結果も嬉しかったが、自分の走りに納得できる感覚が何より嬉しく、また気合が入った。結果だけ考えれば、その後の決勝で落車しているわけだからバッドエンドかもしれないが、自信を持って走れたことやその感覚は忘れないでおく。直近はその感覚を目指して取り組む。

光る差し脚で魅せた防府記念準決勝(撮影:島尻譲)

地元で5連覇した清水裕友

 防府記念は終わってみれば今回も裕友が獲った。地元記念5連覇って凄まじい記録だと思う。地元で気合が入るのは競輪選手の性であり、気合の裏返しのプレッシャーは計り知れない。勝ちたいと思って勝てるほど競輪は甘くないし、誰よりも勝ちたいと思っていなければ優勝なんてあり得ない。地元記念5連覇という偉業には「おめでとう」としか言えない。素直に祝福の言葉を贈りたいと思う。

 そんな偉業が生まれたレースにアクシデントで水を差して申し訳なく思う。それは裕友に対してもだけど、一番は競輪を応援してくれるお客さんに対してだ。落車によって真っ先に被害を受けるのはお客さんに他ならない。落車や失格といったアクシデントはお客さんにも勝者にも関係者にも、もちろん当事者にさえも、影を落とす。『発走機からスタートした選手が全員でゴールしてレースを完結させること』がいかに当たり前で、いかにそれこそがプロフェッショナルなのかを今一度胸に刻もうと思う。

競輪祭がはじまる前に

 今月のコラムはここで筆を置こうと思う。次の競輪祭に全身全霊の気持ちを向けていく。体の状態は当然悪いが、早く全力で練習をしたい。当然上積みは期待できないが、全力で戻せるだけ戻す。可能な限り、防府直前くらいの状態までには戻したい。体が動くようになるまでに、とりあえず今抱えている失望感を木っ端微塵にぶっ飛ばす。そしてまずは寝返りを打つ!

準決勝レース後にファンと喜びを分かち合う慎太郎選手(撮影:島尻譲)

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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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