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山田裕仁のスゴいレース回顧

【共同通信社杯 回顧】強い“気持ち”を感じた郡司浩平の走り

2022/09/20 (火) 18:00 28

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが名古屋競輪場で開催されたGII「共同通信社杯」を振り返ります。

賞金争いで出遅れていた郡司浩平だが、共同通信社杯優勝でKEIRINグランプリ出場に大きく前進した(撮影:島尻譲)

2022年9月19日(月) 名古屋12R 第38回共同通信社杯(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①平原康多(87期=埼玉・40歳)
②松浦悠士(98期=広島・31歳)
③郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
④神山拓弥(91期=栃木・35歳)
⑤和田真久留(99期=神奈川・31歳)
⑥柏野智典(88期=岡山・44歳)
⑦佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
⑧内藤秀久(89期=神奈川・40歳)
⑨武藤龍生(98期=埼玉・31歳)

【初手・並び】
←①⑨④(関東)②⑥(中国)⑦(単騎)③⑤⑧(南関東)

【結果】
1着 ③郡司浩平
2着 ⑧内藤秀久
3着 ⑨武藤龍生

若手は決勝に進めなかったが、太田竜馬は存在感を発揮していた

 9月19日には名古屋競輪場で、第38回共同通信社杯(GII)の決勝戦が行われています。台風14号の接近もあって最終日は開催が危ぶまれていましたが、ギリギリなんとか耐えきったという感じですね。天候や風向きがコロコロと変わるなかでのレースだったので、選手も大変だったと思いますよ。幸い、決勝戦のときは雨が降っておらず、路面も乾いているという比較的良好なコンディションでした。

 共同通信社杯は、選考順位などを基にレースの出場メンバーがシステマチックに決まる「自動番組」で開催されるシリーズです。記念などでは、地元のスター選手が番組面でちょっと優遇されたりするものですが、このシリーズではそんなものはいっさいなし。さらに、決勝戦へと進出しやすい特選などの「シード権レース」もない。全員が公平に扱われるので、どちらかといえば勢いのある若手に有利なんですよ。

 今年も随所で、若手選手が存在感を発揮。なかでも印象的だったのが、果敢な先行であの脇本雄太選手(94期=福井・33歳)を退けてみせた、二次予選での太田竜馬選手(109期=徳島・26歳)の走りでしょうか。脇本選手の調子はよかったんですが、「負けるならばこういうパターン」と思っていた通りの負け方。最終日の敗北については、悪天候のなかのレースで、前との距離を測りかねたのも背景にあったと思われます。

26歳の太田竜馬は2日目二次予選でホームバックを取り2着。脇本雄太の連勝記録を止める先行を見せた(撮影:島尻譲)

 しかし、最終的に決勝戦へと駒を進めてきたのは、脚力だけでなく技術やレース運びの巧さも持ち合わせている選手たち。非常に高い壁となって、若い選手の前に立ちはだかりましたね。決勝戦で各ラインの先頭を任されたのは、いずれも「自力自在型」かつレース巧者のS級S班。展開次第で誰にでもチャンスがあるという、車券的にもたいへん面白いメンバーとなりました。

 3名が勝ち上がった関東勢は、“盟主”である平原康多選手(87期=埼玉・40歳)が先頭を務めます。無傷の3連勝で勝ち上ったように好調モードですが、厳密にいえば「自力でもやれる」というタイプなので、積極的に主導権を奪いにくることはないでしょう。番手を回るのは武藤龍生選手(98期=埼玉・31歳)で、3番手を神山拓弥選手(91期=栃木・35歳)が固めるというラインナップです。

 同じく3名が勝ち上がった南関東勢は、オール神奈川という結束の強さが魅力。その先頭は郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)で、平原選手と同様に無傷の3連勝で決勝戦に勝ち上がってきました。番手を回るのは和田真久留選手(99期=神奈川・31歳)で、つい先日の青森記念でも、郡司選手との連係でいいレースをしていましたよね。ライン3番手は、内藤秀久選手(89期=神奈川・40歳)が回ります。

 そして中国勢は、松浦悠士選手(98期=広島・31歳)が先頭。このところは、出場したシリーズで常に強い存在感を発揮しているだけに、今回も期待が大きいですよね。ここは“数”の面では劣勢ですから、それを踏まえてどのような競輪を仕掛けてくるのか、楽しみですよ。番手に柏野智典選手(88期=岡山・44歳)がつくというのは、松浦選手にとっても心強いでしょう。

 唯一の単騎となったのが佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)。北日本の選手がほかに誰もいないレースであっても、必ずといっていいほど“目標”がいましたから、これは非常に珍しい。徹頭徹尾のマーク屋なので単騎だと難しい面はありますが、レースの流れを読む能力はピカイチですから、混戦模様であればあるほど軽視は禁物。落車のダメージも少しずつ抜けてきているようですね。

赤板過ぎからの攻防、絶妙だった郡司の仕掛け

 以上、ビッグの決勝戦にふさわしいメンバーによる好カード。では、レース回顧に入っていきましょう。スタートを積極的に取りにいったのは平原選手と武藤選手で、これで関東勢の前受けが決定。松浦選手がその後の4番手で、単騎の佐藤選手が6番手。郡司選手が先頭の南関東勢は7番手からというのが、初手の並びです。佐藤選手が中国勢の後ろにつけたことまで含めて、レース前の想定通りといえるでしょう。

 そこからは、とくに動きがないままでレースが進行。赤板(残り2周)のホームを通過しても、まだ誰も動きません。赤板過ぎの1センターで、後方にいた郡司選手がついに始動。スピードに乗ったいいダッシュで前との差を一気に詰めていき、打鐘の直前に先頭の平原選手を斬って、先頭へと躍り出ました。ギリギリまで「待って」の仕掛けで、スピードに乗っているので前に抵抗される確率も低い。絶妙のタイミングだったと思います。

赤板過ぎの2センター。郡司(赤)が平原康多(白)を斬りに行く(撮影:島尻譲)

 次は後方となった松浦選手が動く「順番」ですが、もう打鐘を過ぎているので、ちょっと強引にでも前を叩きにいくしかない。先頭に立った郡司選手はそのまま主導権を奪うレースプランで、ポジションを下げた平原選手は中団キープの構えです。打鐘過ぎの4コーナーを回ったところで、今度は松浦選手が全力で踏んで、前への進撃を開始。郡司選手も負けじと踏んで、一気にペースが上がります。

 松浦選手は、最終1センターで内藤選手の外に並びかけるところまで進出。南関東ライン番手の和田選手が進路を少し外に張って、追撃を阻みます。関東ライン先頭の平原選手は、外に佐藤選手がいるのもあって動けない状態。とはいえ、ギュッと密集した隊列でもあり、ここからいくらでも挽回がききますからね。インの4番手で動かずに、じっと勝機をうかがいます。

 そして最終バック、松浦選手がジリジリと差を詰めて和田選手に並びかけたところで、和田選手は合わせて仕掛けて「松浦選手を内からブロックしつつ番手捲り」にいくような態勢に。しかし、松浦選手も外から負けじと押し返します。このブロックで空いたインに進路を切り替えたのが、松浦選手の後ろにいた柏野選手。しかし、その内には南関東ライン3番手の内藤選手がいます。

 外に張ろうとする和田選手と、それを押し返す松浦選手が絡んだままの態勢で、最終3コーナーへ。その内に内藤選手と柏野選手が入っていって、郡司選手の後ろは4車が併走するカタチとなります。その後ろからは、外をついて佐藤選手と平原選手が伸びてきそうな態勢。平原選手の番手にいた武藤選手は、ごった返す内へとあえて切れ込んで、一発勝負に賭けます。

 ここで、残念ながらアクシデントが発生。松浦選手と絡み続けていた和田選手が、外に張る際にバランスを崩して落車。その直後にいた佐藤選手と平原選手も、避けられずに落車してしまいます。松浦選手は瞬時に外へと出して落車こそ避けましたが、このロスで勝負圏外に。先に抜け出して粘る郡司選手と、それをインから追っていた内藤選手、柏野選手、武藤選手による優勝争いとなりました。

 最後の直線に入っても郡司選手の脚は鈍らず、終始セーフティリードをキープ。内藤選手が必死に追いすがりますが、その差が詰まりません。後方からいい伸びをみせた武藤選手は柏野選手を追い抜いて3番手に浮上しますが、そこまでが精一杯。積極的に主導権を奪い、レースを終始リードした郡司選手がそのまま逃げ切って、完全優勝でビッグレースをモノにしました。

気持ちが入っていた郡司の先行、平原と佐藤は落車の影響が心配

 ここでは、完全に先行選手のレースをした郡司選手。神奈川3車での連係というのもあって、「ラインから必ず優勝者を出す!」という気持ちが前面に出た、とても若々しい走りだったと思います。番手を回った和田選手の落車もあって、心情的に複雑な面はあるかもしれませんが、この相手のビッグレースを逃げ切ったというのは大いに称えられるべき結果。おそらく、青森記念での失敗も糧となっていたのでしょう。

打鐘前発進から最後まで踏み込み逃げ切った郡司。称賛に値する内容で優勝を飾った(撮影:島尻譲)

 勝負どころで大きな落車があったので、あとはどうしても「タラレバ」が多くなってしまうんですよね。それは松浦選手しかり、平原選手しかり。あまり存在感を発揮できなかった平原選手ですが、ほぼサラ脚の状態で追走して、勝負どころでは前を射程圏に入れていたわけで。あそこから外を回って、グイグイ伸びてきた可能性も十分にあります。どのラインも優勝を目指して、いい走りをしていたと思いますよ。

 この優勝で賞金を大幅に加算できた郡司選手は、これで獲得賞金ランキングの5位に浮上。平塚でのグランプリ出場に向けて、たいへん大きな勝利だったといえます。心配されるのが佐藤選手や平原選手の落車によるダメージで、どちらも前の落車による負傷がまだ残っている状態でしたからね。10月の寛仁親王牌(GI)や11月の競輪祭(GI)に向けて、うまく状態を立て直してほしいものですが…。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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