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不屈の男・金子貴志の奮闘記 〜40代の挑戦〜

【金子貴志の心構え】自分の気持ちを作るのは自分! ルーティンや験担ぎでプラスの“何か”を探し続ける選手人生

2022/07/29 (金) 18:00 10

 netkeirinをご覧の皆さん、金子貴志です。今回は選手の「ルーティン」や「験担ぎ」について書きたいと思います。私の解釈では「ルーティン」は自分専用のルール・手順という意味合いがあり“変えない”ものを指します。一方で「験担ぎ」は良い結果をもたらしそうな事柄に“願懸け”する感じでしょうか。これは“変わる可能性”もあるものです。私の中ではそんな感じで言葉を区別しています。

自分にルールを持つということ

今回のテーマは「ルーティン」と「験担ぎ」(撮影:島尻譲)

 スポーツの世界には数多くのルーティンがありますよね。勝負へ挑む前にしっかりと気持ちのスイッチをオンに切り替えるために自分だけのルールを作っている人は多いように思います。元メジャーリーガー・イチローさんの「毎朝カレーを食べる」なども広く知られているところではないでしょうか。競輪の世界でもアップの仕方やレースへの入り方、発走機での行動などに各選手のルーティンがあります。

 また「験担ぎ」はプロスポーツ選手だけではなく、普段の生活の中で意識している人もいるはずです。例えば宝くじを買うのに、良く当たる場所で何月何日の何時何分に買うとか、当たった人の話を聞いて、同じパターンで買ってみるとか、そういう思考を持っている人もいますよね。その逆で「どこで買おうがいつ買おうが当たる時は当たる!」と考える人もいるでしょう。それと一緒で競輪選手も験を担ぐ人もいれば、そうでない人もいます。色々な考えの人がいるのが面白いんですよね。

新幹線でも飛行機でもない、車で移動する

レース前の準備段階にもルーティンがある(撮影:島尻譲)

 若い時の私は「ルーティン」をまったく意識していませんでしたが、最近ではとても意識するようになりました。例えば、私は自転車を組み立てた状態で持って行きたいので、競輪場には必ず車で行きます。出発する時、自宅からは必ず「左から」出ていくと決めています。

 私は車の中という独特の空間が大好きです。道中は一人きりの車内空間で自然と集中力を高めて感覚を研ぎ澄ましています。運転動作に集中していると頭の中に自分のアイディアやひらめきが次々と浮かんできます。ほど良い緊張感の中で、自分の考えと向き合う感じが性に合っているようで、どんな遠い開催地でもあっという間に着いてしまいます。新幹線や飛行機よりも疲れないというのが本音で、向かうまでの道のりから精神統一をはじめ、シリーズのスタートを切っているような感覚を持っています。

「開催には必ず車で行く」というルーティンをより良いものにするため、遠方の開催であれば余裕を持って出発するなど工夫もしながら、最高の状態で入れるように計算しています。たまに北日本地区の開催から休むことなく九州地区の開催に入ることもありますが、道中は移り行く景色を眺めながら、気持ちを整える時間に充てます。たまに「大変じゃないか?」と声をかけられることもありますが、全然大変ではないばかりか、むしろ時間が足りないと思うことの方が多いくらいです(笑)。

 レースでは発走機に自転車を入れた時、サドルを3回叩いたり、自転車に乗った時に胸を3回叩いたり、自分の決め事に沿って行動するようにしています。宿舎での朝食は、なるべく早く済ませ二度寝をして、その後お風呂に入って目を覚ますようにしています。このルーティンをこなすことで不安をなくし、心と体の状態をプラスの方向へと導いていきます。

レースに臨むまでに気持ちを整える工夫を詰め込む(撮影:島尻譲)

少しでもプラスになることを見つけたい

 私にはルーティンに当てはまらない「験担ぎ」もあります。前検日の指定練習では自転車を意識して「8番」に入れています。ユニフォームは「3番」、「4番」、「7番」だと気分が高揚します。これらの数字は私がタイトルを獲得した時の車番ですが、良い記憶を呼び覚ましてくれるものなので、意識していると戦いの中でポジティブな気持ちにしてくれるものなのです。

縁起の良さを感じる7番車(撮影:島尻譲)

 また成績が良かった時に宿舎で使っていたトイレの位置やお風呂の洗い場所は、同じ場所を使うようにしています。良い成績に繋がる「何か」が小さなことに隠れていることもあるかもしれません。少なくとも良いイメージを抱くものに触れてみたり、その場所からの景色を見たりすることで、思考もプラスになっていきます。

 ただし、これらの験担ぎには決めていることがあって、自分が使いたい場所に別の誰かがいても待つことはしないということです。験担ぎそのものに注意を払い過ぎるとストレスになり、本末転倒になってしまうので、決して無理はしないように気をつけています。

植物を育てながらルーティンの大切さに気づかされる

 私が「ルーティン」や「験担ぎ」を意識するようになったのは植物の影響です。これまでも植物について書く時に、競輪や選手生活との共通点を書いてきましたが、ここにもあるんですよね。

 植物も一定の良い環境に置かないと、ストレスが溜まっていきます。そういった場合は光の加減を変えたり、水を多くしたり、風の風量や土質も変え、試行錯誤して良い状態を作り出します。それらがうまくいったら、毎回良い状態が保てるように「ルーティン化」していきます。

環境の大切さを植物に学ぶ(写真:本人提供)

 競輪も結果を出すために、少しでもプラスになることを考え、自分の力をしっかりと発揮させる環境を整えることが大切です。植物を育てることで、私自身のルーティンに対する意識もここ最近でまた変化していきました。

邪念を捨てて無心になること

 競輪の世界では荒天の際にレースが中止になり、勝ち上がりが抽選になることもあります。抽選方法は商店街の福引きで使うような「ガラポン」を使います。あのガラポンを回す前に手を洗う人もいれば、何も気にせずそのまま回す人もいます。実際に昨年の武雄競輪場で抽選が行われましたが、私は最後に抽選場所の部屋に入り、意識しないように振る舞ったのですが、意識し過ぎたのか、結果は残念ながら最下位でした。

 抽選がガラポンではなく「ジャンケン」なら勝てたかも知れません(笑)。小学生の頃、100人くらいが参加するようなジャンケン大会で私は2位になったこともあり、昔からジャンケンが得意です。練習をする時に選手同士「ジャンケン」をして位置を決めるのですが、相手が何を出すか見えてしまうので、私は毎回好きな位置で練習に励んでいます(笑)。

 これは小学生の頃にやっていた剣道が影響している気がします。当時から間合いを読むのが好きで、相手がどう出るのか「察する」ことには長けていたと思います。ちなみに剣道では市の大会でも決勝まで勝ち上がりましたが、決勝では邪念があったのか、女の子に負けてしまいました(笑)。

 こういった子ども時代を思い返してもルーティンや験担ぎを今のように心がけていたら「1番」の結果が得られたのかもしれないな、と思う時もありますね。どういうことかと言えば『勝負は邪念を捨てて無心になること』が最重要だからです。変に結果を意識し過ぎるのではなく、いつも通りに戦えることかどうかだと私は思っています。

 自分にプラスの効果を見つけ続けるのが「ルーティン」の目的。それこそルーティンというものはその人にしかハマることはなく、誰それのルーティンを真似たところで自分にはフィットしないでしょう。自分をよく理解して勝つために決めたルールを日々淡々とこなしていくことが、勝負の世界で長く戦っていくために必要なことだと思っています。

勝つためにどんなに小さなことにもプラスを見つけていく(撮影:島尻譲)

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金子貴志

Kaneko Takashi

愛知県豊橋市出身。日本競輪学校75期卒。2013年には寛仁親王牌と競輪祭を制し、同年のKEIRINグランプリでも頂点に。通算勝利数は500を超え、さらには自転車競技スプリント種目でも国内外で輝かしい成績を収めている。またYoutubeをはじめSNSでの発信を精力的に行い、キッチンカーと選手でコラボするなどホームバンクの盛り上げにも貢献。ファンを楽しませることを念頭に置き、レース外でも活発に動く中部地区の兄貴的存在。

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