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山田裕仁のスゴいレース回顧

【不死鳥杯 回顧】努力と“ツキ”で好結果を呼び込んだ菅田壱道

2022/07/11 (月) 18:00 20

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが福井競輪場で開催されたGIII「不死鳥杯」を振り返ります。

優勝した菅田壱道(撮影:島尻譲)

2022年7月10日(日) 福井12R 開設72周年記念 不死鳥杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①古性優作(100期=大阪・31歳)
②森田優弥(113期=埼玉・24歳)
③鈴木裕(92期=千葉・37歳)
④松岡辰泰(117期=熊本・25歳)
⑤菅田壱道(91期=宮城・36歳)
⑥坂本周作(105期=青森・30歳)
⑦松井宏佑(113期=神奈川・29歳)
⑧佐々木雄一(83期=福島・42歳)

⑨南修二(88期=大阪・40歳)

【初手・並び】
←①⑨(近畿)⑦③(南関東)④(単騎)②(単騎)⑥⑤⑧(北日本)

【結果】
1着 ⑤菅田壱道
2着 ①古性優作
3着 ④松岡辰泰

開催3日目の福井競輪を襲った豪雨

 7月10日には福井競輪場で、不死鳥杯(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からは松浦悠士選手(98期=広島・31歳)と古性優作選手(100期=大阪・31歳)、宿口陽一選手(91期=埼玉・38歳)の3名が出場していました。それ以外もなかなかレベルが高い出場メンバーでしたが、それでもシリーズの“主役”はやはり、ここがホームバンクである今年のダービー王・脇本雄太選手(94期=福井・33歳)でした。

 近畿ラインの先頭を走った初日の特選では、打鐘からの猛烈なダッシュで主導権を奪って、そのまま押し切り。タフな展開でしたが、それでも近畿勢が上位を独占する結果を見事につくり出しています。二次予選での走りも圧巻の内容で、前をあっさり捲りきると、その後は後続を突き放しての大差勝ち。後続の稲垣裕之選手(86期=京都・44歳)以下が捌かれて離れたのなんて、関係なしでしたね。

 ところが、開催3日目は悪天候のために10レース以降が打ち切り中止となり、急遽「決勝戦に勝ち上がる選手を準決勝出場選手からガラポンで決める」ことに。そして、圧倒的な存在感を放っていた脇本選手や松浦選手は、残念ながら決勝戦には進めませんでした。コレについては批判的な声もあがっていたようですが、そう決まった以上は割り切るしかない…というのが、選手心理でしょう。

審判員が懸命な排水作業を続けていた(撮影:島尻譲)

 そして決勝戦へと駒を進めたのが上記の9名で、ラインが3つに単騎が2名というメンバー構成に。脇本選手の分まで…と人気を集めたのは、古性選手が先頭を走る近畿ラインです。この混戦模様において、臨機応変に立ち回れるのは古性選手の大きな強み。その番手を回るのは南修二選手(88期=大阪・40歳)で、二次予選などの内容から、こちらも調子はなかなかよさそうです。

注目が集まったのは古性選手(撮影:島尻譲)

 そんな近畿勢とも互角に張り合えるスピードを有しているのが、松井宏佑選手(113期=神奈川・29歳)が先頭を任された南関東ライン。その番手は、鈴木裕選手(92期=千葉・37歳)が回ります。初日特選では厳しい展開となった松井選手ですが、二次予選では後方から一気に捲って1着と、デキのよさが感じられる走りをみせていました。レースの組み立て次第では、優勝争いが十分に可能ですよ。

 唯一の3車ラインとなった北日本勢は、記念の決勝戦に乗るのは今回が初となる、坂本周作選手(105期=青森・30歳)が先頭を任されました。それだけにここは、積極的に主導権を奪いにいくような競輪を仕掛けてきそう。番手は、このシリーズが復帰戦ながらデキのよさが目立つ菅田壱道選手(91期=宮城・36歳)で、3番手を佐々木雄一選手(83期=福島・42歳)が固めます。

 そして単騎を選んだのが、森田優弥選手(113期=埼玉・24歳)と松岡辰泰選手(117期=熊本・25歳)。いずれもタテ脚のある選手ですから、展開をついての一発や上位食い込みがあって不思議ではありません。それもすべては、どのラインが主導権を奪って、どのような走りをするか次第。展開次第でどの選手にもチャンスがあるような、かなりの混戦模様になったといえるでしょう。

主役を欠いた決勝が始まった

 では、レースの回顧といきましょうか。スタートの号砲が鳴っても牽制が入って、しばらくは誰も出ていきませんでしたね。それならば仕方がない…と、最終的にスタートを取ったのは古性選手でした。これで近畿ラインの「前受け」となり、3番手につけたのは松井選手。その後に単騎の松岡選手と森田選手が続いて、最後方7番手に北日本ライン先頭の坂本選手というのが、初手の並びです。

発車後、互いに出方を窺う(撮影:島尻譲)

 レースが動き出したのは赤板(残り2周)の手前になってからで、後ろ攻めとなった坂本選手が、セオリー通りに進出を開始。この動きに連動したのが単騎の森田選手で、まずは北日本ラインの後ろにつけました。先頭誘導員が離れたところで、坂本選手が先頭の古性選手を斬って先頭に。古性選手は抵抗せず中団に引きますが、ここで単騎の森田選手は、近畿ラインの後ろへと切り替えます。

 松井選手は後方7番手となり、最後方9番手に松岡選手という隊列で、レースは打鐘を迎えます。レースの主導権を握るのは北日本ラインとなり、坂本選手がスパートを開始。タテ長の一列棒状で、レースは打鐘後のホームを通過します。ここで最初に動いたのが6番手にいた森田選手で、この仕掛けに乗って直後の松井選手も、最終1センターから前を捲りにいきました。

 それを察知した中団の古性選手は、ほぼ同時に前を捲りに。うまく仕掛けを合わされてしまった森田選手は伸びがなく、それを察知した松井選手が外へと進路を振って抜きにいきますが、下がってきた森田選手をかわすために、かなり外へと振られてしまいました。後方に置かれる展開からのこのロスでは、松井選手がここから挽回するのはかなり厳しい。その間に、仕掛けた古性選手が一気に前へと迫ります。

迫る古性(白)、先頭の菅田(黄)(撮影:島尻譲)

 最終バック手前で坂本選手が一杯になったところで、菅田選手が前へと踏んで番手捲り。外から古性選手もジリジリと迫りますが、北日本ライン3番手の佐々木選手と少し絡んだのもあって、一気に抜き去るような勢いはありません。そのままの態勢で4コーナーを回って、菅田選手が先頭のままで最後の直線に。後方からは、松井選手マークから自力に切り替えた鈴木選手が、内をついて伸びてきます。

僅差を制したのは菅田選手

 そして直線。番手捲りから押し切ろうとする菅田選手を古性選手が必死で追いますが、その差がなかなか詰まらない。外からは、古性選手マークから外に出した南選手や、最後方から一気の脚で伸びてきた松岡選手が追いすがります。しかし、菅田選手の脚は最後まで止まらず、ゴール直前でハンドルを投げて古性選手よりも少しだけ前に出た態勢でゴールイン。接戦をモノにして、通算4度目となる記念優勝を決めました。

ハンドル投げ勝負の結果、菅田選手が1着に(撮影:島尻譲)

 優勝した菅田選手は、「先頭誘導員の早期追い抜き」によるペナルティで、約4カ月という長い休み明け。それだけに調子がどうかと思われましたが、初日から非常にいい走りを見せていたんですよ。モチベーションを切らさずに、この休み期間をプラスに変えようと努力してきた成果が感じられる、素晴らしいデキ。坂本選手から託されたバトンをしっかり繋いだ、見事な走りだったといえます。

 それに、脇本選手や松浦選手が決勝戦に乗れなかったという“ツキ”も大きく味方しました。タラレバになりますが、あのデキの脇本選手が決勝戦に勝ち上がって近畿ラインの先頭を走っていたならば、どの選手も太刀打ちできなかったと思いますよ。絶好調で、しかも速いタイムが出やすい軽いバンクコンディション。脇本選手のスピードを活かせる、最高の舞台が整っていましたからね。

「ここに脇本がいたら」を考えずにはいられない(撮影:島尻譲)

責務を果たした者、果たせなかった者…

 僅差の2着に惜敗した古性選手は、そう調子がよさそうではない中でも、唯一のS級S班としての責務を果たしたという印象。初手は前受けとなりましたが、その後はしっかり立ち回って中団を取りきって、結果を出しましたね。逆に、ちょっと不甲斐ないレースとなったのが南関東ライン。森田選手の動きに翻弄された感もありますが、それ以前に松井選手には、もっと上手い選択肢があったと思いますね。

 あのレースをするのであれば、初手で前受けを選んでもよかったはず。ここでもっとも強いのは古性選手なのだから、その古性選手に道中で脚を少しでも使わせるような組み立てを考えねばなりません。二次予選でバンクレコードタイのタイムを出していたように、松井選手も非常にデキがよかったんですよ。それだけに、余計にもったいないというか。いくらいいデキにあっても、あのレース運びや位置取りでは通用しません。

 そういった意識が欠如していたから、何もできずに終わってしまうような結果となった。あのレース内容では、応援してくれたファンを納得させられませんよ。大いに反省して、次に繋げてほしいところです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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