2022/07/04 (月) 12:00 18
平塚競輪場でガールズケイリンが始まったのが、2012年の7月1日。ちょうど10年後の2022年7月1日に「オッズパーク杯ALL GIRL'S 10th Anniversary」の最終日が行われた。
ガールズケイリン10周年を記念しての大会。どんな意味を持っていたのかーー。
前検日、1期生の中村由香里(41歳・東京=102期)の表情は険しかった…。シリーズについて聞くと「危機感しかない。この開催ができるからって、浮かれている場合じゃない」と語気を荒げていた。
戦後、1949年に始まった女子競輪は15年後の1964年に廃止となっている。だからこそ「また15年でダメになってはいけない。これからの10年が…」と強調した。
1期生、2期生は、創生期の苦労を痛いほど知っている。新しい期になるにつれ、ガールズケイリンがあるのは“普通”となっている。それはいい事に違いないが、“まだ何もでき上がっていない”というのが1期生の実感だ。
中村は若い子たちに対して、不安に思っていた。「不満」といってもいいだろう。しかし、この3日間で、若い選手たちは見事にその見えない雲を吹き飛ばした。
最終日のレースを走り終えた中村は、興奮していた。みんなが共有している。ガールズケイリンの選手たちは一つだ。はっきりと分かった。
「これまではね。期でバラけている感じだったんです。でも今回はレースが終わるたびに、期に関係なく、『頑張ったね』とか、『良かったね』とか、負けた後でも『次の日もファンは車券を買ってくれるんだから頑張ろう』とか。全員で言ってたんです」。
7月1日最終日の昼、1期生は後輩たちに呼ばれたそうだ。控室に集まると、2期生以下が、1期生を前に「ガールズケイリンをつくってくれて、ありがとうございます」などと感謝の思いを述べたという。
計り知れない1期生の苦労を、この女子だけの12個レースの開催を通して痛感した。太田りゆ(27歳・埼玉=112期)は「目の前のことに集中できる環境を、1期生の方々がつくってくれていたんだ、とよくわかりました。どんなにありがたいことかと」と話した。
当り前じゃない。この道が、この仕事があるのは1期生のおかげ。同じ責任を胸に、誰もが「これからの10年」を口にするようになった。
中村は連勝で決勝進出を決めた尾崎睦(37歳・神奈川=108期)に「地元でプレッシャーがある中で、頑張ってるね」と声をかけたそうだ。そこで返ってきた言葉が、意外だったという。
「この開催を走っている1期生の方々のプレッシャーに比べたら」
どれほどの思いを持って1期生が…。やっとたどり着いた舞台で、「成功させないと」と今も唇をかんで、笑顔もなく、這うようにして頑張っている…。小学校の先生から転職してきた“由香里先生”は、後進の成長が頼もしく、うれしかっただろう。
はっきりとこれまでのガールズケイリンの歴史の中で、飛び抜けて好レースの多い、レベルの高いシリーズだった。ただ「ヨコの動きはダメよ」とは書いておこう。確かなルールに立ち返ることを、ガールズ選手にもう一度、伝えたい。
目標の売り上げ10億円を達成し、11億円を超えた。FIナイターとの競合の中、厳しい数字だったが、乗り越えた。
しかし中村は自身のSNSですぐに書いた。
「入場1万人の方の目標は達成できなかった。真摯に受け止めて、これからの10年を」と。10年後、20周年記念のシリーズも、平塚で間違いなく開催されるだろう。
その時、何を、どんな光景を見ることができるのだろう、果たしてより確かなものになっているのか…。などと、先のことを由香里先生に見習って厳しい瞳で見つめようと思いながらも、最後にひと言、書かせてもらおう。
ガールズケイリン10周年、おめでとう! 素晴らしい10年、みんなで築き上げてきた美しい10年の輝きは、何物にも負けてないぞ!
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。