2021/02/03 (水) 12:00 3
将棋の藤井聡太2冠がデビューから29連勝で、将棋界の連勝記録を塗り替えたのが2017年6月26日。その1年弱前の2016年8月14日に玉野競輪場のバンクレコードが更新されている。太田竜馬(24歳=徳島・109期)、デビューから3場所目、9連勝目でA級1、2班戦への特進を決めるレースだった。
上がりタイムは10秒5。チャレンジ戦は7車立てということもあり、タイムが出やすいこともあるが、やはりこのタイムはすごい。109期の卒業記念チャンプで、その前の高校時代から有名だった男。とんでもない逸材が、現れたぞ…。
藤井2冠はデビュー後もすさまじい進撃を続け、王位、棋聖と2つのタイトルを手にしている。太田は2018年末のヤンググランプリでGIIを勝つと、翌年にはGⅢ4度の優勝と輝きを放った。GIでも活躍したが、タイトルまでは及ばず。そして今、不本意な低迷に沈んでいる。
太田のデビュー戦は、2016年7月の高松。当然、といっていい3連勝だった。そしてヤンググランプリを制した2018年のすぐあと、2019年2月の高松記念でGⅢ初制覇を手にした。縦横無尽に駆け巡る、竜、そして、馬…。高松は特別な場所。
公式HPに2019年2月3日決勝のダイジェストが残っているのでぜひ、見てほしい。将棋の飛車は縦横へどこまでも、角は斜めならどこまでも。太田の走りは、そんな感じだ。ご存じのように飛車と角は、敵陣に入り込むと龍と馬に成る。
太田の名前は、四国の偉人・坂本龍馬も将棋も特に由来には関係ない、竜馬(りゅうま)ということだが、その走りには坂本龍馬や、飛車角、龍、馬を感じさせる。
太田がヤンググランプリを勝った後のシーンを徳島の、四国の大親分・湊聖二(44歳=徳島・86期)が話してくれたことがある。「抱きしめてくださいよ! 」。一見、つっけんどんに見えるが、子供らしさがいつまでも残る太田。そのままの感情で、無邪気に湊に「抱きしめてくださいよ! 」と笑ったという。
湊は全身から涙が出たそうだ。湊については、いつか、徳島県の番記者の手を借りWebの容量が超えるほどの量の文章を書きたいが、今回は“再起不能レベルから立ち直った86期在校1位”とだけ書いておこう。最近は86期在校1位の話をすると「バカにしとるんでしょ」と笑うものだが、親分肌の男は、誰からも愛されている。ちなみに86期の卒業記念チャンピオンは“天才マサキング”こと井上昌己(41歳=長崎・86期)だ。
無邪気な太田の姿は、かつて勝海舟を切りに行ったが、そこで話を聞いた瞬間、勝に惚れてしまい「弟子にしてください」と言い放ってしまった坂本龍馬の風を思わせる。思いがけない言葉を放ち、人の心をとらえる。
松浦悠士(30歳=広島・98期)が昨年の大会覇者。「高松はとにかく走りやすくて…」。衝撃を覚えるほどの4日間だった。松浦と太田の連係が、どんな形でこのシリーズを盛り上げるか。現在は松浦と清水裕友(26歳=山口・105期)の2人が中四国の大看板だが、本来、太田も並びうる存在なのだ。
低迷している太田の復活を期待し、ぜひ、太田と松浦が連係し、松浦が太田について語る言葉を聞きたい。また、誰よりもファンとの触れ合いができないことを悲しんでいる松浦が、豊橋記念の追加を受けた意味も感じるところ。静岡移籍後、初走を迎えた深谷知広(31歳=静岡・96期)の4走の重みもあったし、優勝が吉田敏洋(41歳=愛知・85期)という結末には「競輪の神様は、いつも考え過ぎやろ」と思ったものだ。
2019年の当大会では苦杯をなめている平原康多(38歳=埼玉・87期)、状態面が気になる守沢太志(35歳=秋田・96期)の2人も、責任を果たすだろう。高松ではどんな物語が繰り広げられるのか。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。