2021/02/06 (土) 12:00 6
2月4日、川崎競輪場で20〜23日に開催される全日本選抜競輪が無観客で行われると発表された。元々は事前抽選を行い、人数を限定しての入場を計画していた。しかし、緊急事態宣言の延長…そこに神奈川県も含まれており、やむを得ない判断だった。
だが、悲しい。川崎では1965年「第10回オールスター」が開かれた歴史がある。戦後20年、異様な雰囲気だったろう。足を運んだ入場者の数は予想をはるかに越え、決勝の時、あふれたファンはバンク内で観戦したという。
伝説が生まれたのはその時、5月5日。優勝した故・白鳥伸雄(期前)をファンが胴上げしてしまったのだ。白鳥は特別競輪、今でいうGIの決勝。そのレースの少し前の開催で1着到達も失格という結末に涙をのんでいた。ファンも、もちろんそこにいる。
そう、そこに、いた…。
競輪場に響く声が、今年は不在。そう、ファンが、いない…。
2020年のコロナ禍にあって、多くの開催が無観客で行われている。確かに心の空白が存在する。走り終えて戻ってきた選手に精気を感じないことがある。
競輪場には目には見えない何かの“やり取り”がある。選手はただ走っているわけではなく、伝えようとしている。それは1948年11月に産声を上げた「競輪」が作り上げてきたものだ。ファンと選手の間を行き来する音色がある。
新型コロナウイルスの感染拡大のため、さまざまな手が打たれている。極論を言えば、2週間なり、2ヶ月なり半年なり、事態が終息するまで開催しなければよい。だが、それは競輪が作り上げてきたもの、競輪開催の意義と議論の場を異にする。
競輪誕生の原点は戦後の復興である。
そこから地域振興や災害復興に対し、財源を作ることができるという存在に至った。また単に競輪が好きな人の癒しとしても。各地の関係者、現場の人たちが開催を成立させようと尽力している。困難が立ちふさがる今、この川崎競輪場で開催される全日本選抜の意味をとらえ直したい。
困難を乗り越えることが、人間の力。ともすれば殺伐な気持ちになり、乱雑な言葉を投げかけてしまうこともある。「競輪なんかやめてしまえ」という声すらあるだろう。
だが、そうじゃない、と胸を張って、これまでの競輪の歴史をみなが背負っていくことが大事だ。
今を乗り越えて、あの時があったからと、この全日本選抜を軸に新しい時を迎えたい。
優勝選手を予想してamazonギフト券を当てよう
▶全日本選抜競輪キャンペーン
前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。