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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】秩序が乱れてきた!? 中川誠一郎が九州地区の魅力を語ります ♯10

2022/03/03 (木) 18:00 34

いつも以上のニヤケ顔で姿を現した中川。何やらいいことがあったのか、ビール、日本酒、ワインと何でもござれとしこたま飲んで競輪よもやま話。密を避けた貸し切りの個室で慎ましく、それでいて話は図太く大胆に、競輪の魅力を紐解きます。 【構成=塩次洋太(大阪スポーツ)】

ーー八番手師匠、今日は何やらご機嫌ですね。

 あはは、わかりますか。このあだ名って実は「八番手」じゃなくて「八番亭」が正解っぽいですよ。ま、どっちでもいいんですけど。実は先日、妹の子どもが生まれたんです。それが、うれしくって。

ーー諒子選手ですか。それはおめでとうございます。

 女の子でした。まだ会えていないから早く会いたい。オジサンもまだまだ仕事してこの業界にしがみつかないと。まずは(義弟の)吉成、頑張れって感じです。

ーー前回のコラムも好評でした。何か反響はありましたか。

 いや、あまり外に出ていなかったので感想を聞けていなくて。ただ、読んでくれる人が増えたなと感じました。「注目数」の数字が格段にアップしたでしょう。

ーーよく見ていますね。

 そりゃnetkeirinウォッチャーですから。この人のコラムは今月この辺りで更新するなとか、チェックしています。我ながらイヤな選手だな(笑)。

東口善朋(左)と

ーーそういえば東口善朋選手からこのコラムに注文が入ったという話を聞きましたよ。

 そうでした。取手(全日本選抜競輪)の前検日にニヤニヤ近寄ってきて「オレをあまりいじるんじゃないよ」とか「どうせ書くんでしょ、ネタにすんなよ〜」みたいな茶番のクレームを入れてきたけど、いじられて満更でもないような顔をしていました。

ーー東口選手は今年に入りTwitterを始められたそうです。

 もちろんチェックしました。長い付き合いだけど、あんなイメージと思わなかった。ああいうの嫌いじゃない人だったみたい(笑)。これからは監視下に置いて、こっそり偵察に行こうと思います。

坂本健太郎(右)と

ーー前回のコラムのあとは1月の高松記念(GIII)、そして2月の取手全日本選抜(GI)を走りました。取手は一次予選を9着大敗したあと、怒涛の3連勝とインパクトを残しました。

 初日の一次予選はカマしておけばよかった。取手はカントが若干無さげなんで。番手の(坂本)健太郎も「オレも(もし自分でやっていたら)あそこは迷いました」って仕掛けのポイントを指摘してくれた。

ーーレース後に敢闘門へ引き揚げる際、中川選手はいつにも増して沈痛な面持ちでしたね。

 いや、あれは…。悔しさもあったんですけど、えも言われぬ違和感があったんです。

ーー自転車や体など技術的なものでしょうか。もしくは組み立て面とか…。

 そんないいモノではないんです。レース後に「おい中川!! お前、いつも同じレースしかしてねぇなぁー!!」ってヤジられたんです。驚きましたよ。えっ、今さら? って。何年見ているの? って頭がこんがらがった。

ーー20年同じ芸風ですよ、ということですね。

 グレードとか関係なく勝ち、負けするのが中川誠一郎だと思っていて。でも、そんなヤジがきたので、その人が勉強不足なのか、もしくはまだオレの名前が浸透していないのか…。若干ショックというか考え込みましたもん。久しぶりに心に残るヤジでした。

ーー確かに中川選手は格上を相手に圧倒的強さを示したと思えば、A級から上がったばかりの若手選手に簡単に負けることもありますね。

 そうです。健太郎もそのヤジを聞いていて「誠一郎さんは一般戦だろうが決勝だろうが、どのグレードでもそのレースで勝つか負けるかでしょ。何を今さら」と、まっとうな感想でした。

 あ、そういえば健太郎の話で思い出したことがあります。大変なことがありました。

稲川翔(左)・松岡貴久(中)と

ーー何でしょうか。思わせぶりですね。

 開催中、健太郎がオレと間違えて、イナショー(稲川翔)に声を掛けたって言うんですよ。

ーー中川選手と稲川選手を間違えた、と。そんなことってあるんですか。

 あったそうですよ、それが。あれ、もしかして似てるのオレ? って舞い上がりましたもん。まさか、あんなイケメンと間違えられるとはね。

ーーそんなにテンションが上がったのですか。マスクをしていたから補正されていたのではないですか。

 マスク・イケメン(笑)。そりゃ、イナショーに間違えられたら誰だってうれしいでしょ。光栄です。殺伐としたGI戦線の中、ほっこりしたエピソードでした。でも、ひとつ気になったんです。もしかしたら、健太郎がオレを気持ちよく駆けさせるために仕組んだワナだったんじゃないかと。

ーー相変わらず猜疑心が強いですね。

 いやいや、前にも言いましたが、後輩たちはオレに気持ちよく自力を出させるためのトリセツを作っていると思う。イナショーに似ているとか持ち上げて、オレに先行でもさせようとしたんだ(笑)。

単騎でノビノビと戦ってきた野田(右)には最近、北津留翼(中)すら付きだした

ーー2日目は上田尭弥選手マーク、3日目は野田源一選手と並ばずそれぞれ単騎戦でした。野田選手との連係はどうなんですか。

 ここ1、2年の九州の並びは、ゲンさんにみんな付きだしてからおかしくなってきた。最初、(井上)昌己あたりが付いたら今度は荒井さんも。荒井さんなんて3番手も回っていたし2人を見てゲラゲラ笑ってしまった。あの辺から九州の秩序が乱れてきたんです(笑)。

ーー野田選手はこれでもかというほどスタイルを徹底しています。

 単騎といえばゲンさんじゃないですか。今まで自由にやってもらっていた人にこぞって付きだした。どさくさに紛れて(北津留)翼まで。だからオレだけはちゃんと最後の砦として、付けないんです。自力と自力のプライドもあるしゲンさんへの誠意。まるで近畿の自力型が別線でやるように。

ーーそんなレベルが高いものなんですか。

 そんないいもんじゃないですね。荒井さんに「自力と自力のプライドで並ばんのです!」って力説したら「んっ? 誰と誰の話や?」って分かっていなかった。そのあと理解したら「あいつは自力じゃない。ただ単騎がいいだけ」とバッサリ。番手、回るくせに(笑)。

ーーそういうとき、井上選手はどんな反応なんですか。

 昌己は「誠一郎だけは最後の砦。付かんでもいいよ…ね?」って複雑そうな顔をする(笑)。付くってことはゲンさんを自力と認めているんですよ。みんな40すぎて丸くなったな。

荒井崇博選手(左)と

ーー荒井選手との500勝争いは熾烈ですね。取手では荒井選手が1着を取って中川選手に勝ち星数が並ぶと、そのあとすぐ中川選手が1着を取って再びリードする、そんなことが2日間続きました。現在、荒井選手が484勝、中川選手は485勝です。

 荒井さんは4月に地元(武雄)記念があるでしょ。どうせ荒稼ぎをするから、そこまでに2勝ぐらいは引き離しておきたいんですよ。でも、しぶとい。

ーー今、九州地区で一番強いとの声も聞きます。

 強すぎますね。静岡記念、見ましたか? 準決で深谷(知広)をまくっていたでしょう。あれはさすがに嫉妬しましたもん。

ーーnetkeirinのニュースで「誠一郎の白星に並んだ。アイツ悔しくて、まずい酒を飲んでいるだろうな」みたいなコメントがありました。

 読みましたよ。まずくはなかったけど明らかに嫉妬した。本人に伝えたら、43歳がこれでもかとハニかんでいましたよ。

ーーお互いにいい刺激になっているのではないですか。

 オレは自然体ですが荒井さんは意識しているかも(笑)。若干、数字が開いてオレがリードしたときなんか、その話題に触れなくなったぐらいだし。まあ、負けませんよ。

九州の切り込み隊長、山崎賢人は徹底して中川を介護する

ーー最終日は山崎(賢人)選手と、バンクレコードを出した佐世保以来の連係でした。どんなやりとりがありましたか。

 レース前に一言だけ。「初日の(北津留)翼の刑だけはやめて。あとは何でもいいよ」と伝えました。

ーー翼の刑とは?

 番手で粘られて飛ばされるやつですよ。あれだけはやめて下さい、あとはまくり追い込みでも何でもいいですと懇願して。元気よく「わかりました!」って返ってきたからホっとして。んで、レース前の顔見せに行ったらオレたちをヤジってくる人がいたんです。

ーーまたヤジですか。人気がありますね。

 その人が「賢人ぉ〜〜〜。誠一郎を競らせるなよぉ〜〜〜!!」って3回ぐらい連呼していました。

ーーそれは、ヤジでは無いですよね。

 ああ、オレへのエールですかね。顔見せを終えて控室に引き揚げてきたら、賢人が自分で胸に手を当てて「(心に)届きました!」って(笑)。

ーー山崎選手にズバリ刺さった。

 オレの心の願いを代わりに叫んでくれたファンがいたって話になって、心が温まりましたよ。レース中はヨシタク(吉田拓矢)もチラチラ見ていたので、これはやられるって身構えていましたが、賢人のスピードがよかったので助かった。

ーー生ぬるいスピードだったら危なかった。

 はい。まさに翼の刑になっていたでしょう。からまれなかったのは、あのファンのおかげです。

ーー初日に大敗して「一般戦」まで落ちたのに「決勝」の1つ下の「特別優秀」まで這い上がり、しかも1着を取ってしまう。普通の選手では考えられないです。

 最終日は残りの8人に申し訳ないと思いましたね。「特別優秀」って準決を敗れたメンバーの挽回戦みたいな位置づけでしょ。それなのに初日に終了した男がノコノコでてきて、1着賞金の176トン(中川は「万円」単位をなぜか「トン」と表現する)をかっさらってしまったんだから。

ーー以前、コラムで「ピン、ピン、ピン、ビラ」的な位置が自分の芸風と話していましたが今回の「9、1、1、1着」はまさに真骨頂でした。

 初日以外はぜんぶ自分の得意パターンだったから。からまれずにスピードをもらって外を踏むだけっていう。これができなくなったら、オレはもうクビですね。

ーーさすがに4日間は続かない。

 前から言うじゃないですか、FIでまくり3発はなかなか無いと。大体はピン、ピン、ビラ。それが4日間なのだから、かなり難しいですよ。

ーー新年早々にバンクレコードを樹立し、今月はGIで3勝。何らかの形で爪痕を残しています。

 あんまり目立つのも嫌だし、僕はここにいるよ感がでればいいなと。バンクレコードとか負け戦の3勝なら許してくれるでしょう。この先もスキマ産業的にこの業界をうごめきます。

ーー今月も質問が届いています。お答えください。

Q、高松記念の決勝を見ていましたが、八番手どころか九番手だったですね。襲名しないのですか。(栃木県/30代/男性)

 それじゃあ、ゲンさんの跡を継ぐことになってしまうじゃないですか。いわゆる「単騎のゲンさん」。そっちを襲名するのもアリですね。「単騎のゲン一郎」とでも名乗りましょうか。

Q、私の知り合いが中川選手の友人です。その人が言うには中川選手のコラムは変だと。本当はもっと無口でおとなしいとのことで、コラムは写真以外は捏造と妄想だと断言しています。(熊本県/40代/女性)

 それは飲んでいるからでしょう。酒は喉を湿らせますから。そもそも、捏造や妄想と言っている時点で甘い。本当はもっと危険な話をしていますから。これでもオブラートを50枚ぐらい包んで表にだしています。

Q、2人の女性を同時に好きになってしまいました。「美魔女」風と「小悪魔」風の2人です。中川選手はどちらがお好みですか?(東京都/30代/男性)

 ん? もちろん、小悪魔なんでしょうかね…。ギャル系とかは好きですよ、でも美魔女も小悪魔も同じようなもんか。質問の意図とは別に個人的に刺さる感じではあります。

Q、松岡貴久選手のファンですが今の松岡選手はどう見えますか? 私は応援して5年強になりますが、何だかな…ってレースが多くなっている気がして。今は到底期待ができないんですよ。(愛知県/20代/男性)

 いいですね、こういうの(笑)。貴久か…。自分で「サラリーマン選手」とか言ってますからね。若い頃のギラギラ感はなく、グレイトな余生を送っているんじゃないですか。最近の言葉で言うと“プチFIRE”みたいな。ただアイツは練習じゃクソ弱いのにレースでは結果をだすのでセンスはあります。

Q、コラムの写真、誠一郎はいつも同じ黒のパーカーを着ているな。稼いでいるのに、それしか服が無いのか?(福島県/50代/男性)

 そんなわけないでしょうが(笑)。アンチの人っぽいけどよく見ていますね。本当はオレのこと気になっているんじゃないですか。それなら春用のパーカーでも買ってください♡。もちろん黒のやつ。

Q、九州では荒井選手や井上選手とのエピソードが多いですが、О分県のО塚選手とはどんな関係ですか? 洒落の通じない先輩なのでしょうか。(神奈川県/40代/男性)

 大塚さんとは昔、「チーム冷や飯」を結成していました。10数年以上前の特別戦線に行くと、オレと大塚さんは九州の中で弾かれ者の立ち位置だったんです。自力代表と追込代表として。

 荒井さんや昌己は清水(裕友)、松浦(悠士)が出てきた時ぐらいの感じだったから、若くても(九州内で)位置があったし意見も通った。でもオレたちはやっとGI来て初日予選で飛ぶぐらいで。大塚さんも3番手を回りたくない、競れないでムチャクチャするみたいな感じで周りから怒られたりして。だから大塚さんは同士、盟友みたいなものです。

Q、似ていないのに見分けがつかない人っていますか?(愛知県/50代/女性)

 今回、取手で松井(宏佑)と池田(勇人)が似ているなと思ったのですが、荒井さんに「その感性はわからん…」って全否定されました。歳を取ったせいかオレも眼が悪くなったのかな…。

 オレ自身、若い頃は高原(仁志)や(渡辺)十夢に似ているとよく言われました。今はイナショーですが(笑)。坂本健太郎も眼が悪くなった? いやいや、それはないでしょ(笑)。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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