2022/02/19 (土) 10:00 9
S級S班として全日本選抜競輪(GI)に挑む宿口陽一選手。今年は苦しい戦いが続いてきましたが、直前の奈良記念(GIII)では勝利を挙げ、きっかけを掴んだシリーズとなりました。
関東ラインを形成する平原康多選手、吉田拓矢選手のことや、S級S班の重圧、悔しさしかなかったと語る昨年のKEIRINグランプリなど、関東のキーマンは今の状況をどのよう感じているのでしょうか。宿口選手にお話しを伺いました。
(取材・構成=netkeirin編集部)
ーーS級S班として大宮、高松、奈良の記念を走られ、奈良の2日目に今年初勝利を挙げられました。
大宮では勝てるレースで勝てなくて、高松も奈良も今ひとつで、流石にヤバいなと思ってたんですけど、2日目にラインを組んだ佐々木悠葵くんの頑張りで1着を取れて嬉しかったです。
ーーちょうど奈良記念から復帰された脇本雄太選手からアドバイスを貰ったとか。
初日のレース後(8着)、検車場にいた脇本くんとたまたま目が合った時、「全然ダメだね」って言われて(苦笑)、いろいろ状況を伝えたところ「そらそうだ、ハンドル周りを変えてみて下さい」ってアドバイスを貰ってハマった感じですね。2日目から走った時の感覚が良くなりました。
ーー宿口選手の方が脇本選手より5歳年上で、関東と近畿で所属も異なります。あまり気にせず相談する感じなのでしょうか?
練習仲間であり、自分が尊敬している平原康多選手と脇本くんが仲良くて、練習方法や乗り方などを平原さんが結構脇本くんに教えてもらってることがあって、そのつながりで聞いた感じですね。今までもちょこちょこあったんですけど、具体的なアドバイスは初めてです。
ーーその後2日目1着、3日目の準決勝2着で勝ち上がって決勝に進みます。中四国が5車連係でしたね。
作戦的には中四国、近畿のどちらのラインが前を取っても中団からと考えていました。ただ、近畿が初手で後ろは想定してなかった。中四国に前を取られると苦しかったですね。ラインを組んだ吉田拓矢選手は「打鐘前で口が空かなかったら、もう少し際どい勝負が出来た」と話していました。
中四国は石原選手に宮本選手…2人とも掛かりが良かったですし、あの脇本くんが何にもできなかったのでハードなレースでした。ただ、あの壮絶なメンバーで走れたことは全日本選抜につながると思います。
ーー年末のKEIRINグランプリ後は少しゆっくりできましたか? 宿口選手に限らず競輪選手は年中無休のイメージがありますが…。
グランプリは平原さんを勝たすことができなかったし…元旦から練習してました。休みはそうですね…高松記念の後に1日少し休んだくらいですね。
ーー1日休まれたくらいでリラックスできるんですか?
多少は(苦笑)。現状の状態で休んだところでってていうのはあるので。周囲は休んだほうがいいのかもしれないって思ってくれるのかもしれないけど、そういう気には全然なれないです。
ーーなかなか心が休まる時がない?
本当にないですね。
ーーそれはS級S班になってさらに?
そうですね。昨年、高松宮記念杯競輪(GI)を優勝してからは、FIレースを休ませてもらってビッグレースに向け、練習や自転車のセッティングなどに充てられたので、心が休まる時もあったかもしれません。今年はグレードレースで走りながら調整する必要があるので、その辺りの大変さはあります。
ーーS級S班となった宿口さんから車券を買われるファンも多いと思います。オッズはご覧になりますか?
見ます。自分から売れることも多いですし、その分ヤジのほうが最近は多いですけど(苦笑)…だけど、僕に期待して賭けてくれるファンがいるからヤジも飛んでくるわけですから、嬉しさもありますよ。ヤジが一番の応援かもしれない。僕が不甲斐ないレースして負けた時のヤジは「もっとお前頑張れよ」ってことだと思うので。
ーー宿口選手と言えば、昨年37歳で初めてGI決勝の舞台に上がるといきなり優勝。遅咲きとも言える経歴です。
昔は前を取って引いて捲るか、捲り追い込みか、たまに先行。自分が勝てばいいやみたいな、そんなスタンスでしたね。 平原さんとか周りの選手の方とかにも言われていたんです。言われてから気をつけるんですが、少し経つとやらなくなったりとかそんな感じで…自分の結果を出すことだけに躍起になってしまい、S級からA級に降級も経験しました。
降級したA級一発目も勝てなくて、「このまま自分は終わるのかな」って思ったこともありましたね。その時期に平原さんに「お前とはもう練習したくない、頭丸めて来い。ゼロから再スタートだ」って言われて、そこから競輪の見方や考え方、練習の姿勢や態度が変わってきたのかなと思います。 実際に丸坊主にしましたよ(苦笑)。
ーー宿口さんから見て平原選手はどんな人なのでしょうか?
新しい練習メニューを試す前日はワクワクして眠れないって言ってたし、常に競輪のことしか考えてないって言うぐらい、本当にもうとんでもない人です(笑)。
実績を残している選手ですが、平気で他人に教えてくれたりもするし、例えば「あの選手はなぜこの靴を履いてるんだろう」と思ったら、強い弱いは関係なく飛んでいって聞いていますね。めちゃくちゃ行動が速い。
ーー印象に残っているエピソードがあれば教えてください
2020年にコロナでレースがこぞって中止になった時、自分は地元の記念とダービーが中止になって凄く慌てました。選手はレースに出ないと色々不安ですから…。そんな状況の中、平原さんは「強くなるなら今だ。レースはないけど練習やフレームやらセッティングなどを試せる期間だろ」って練習仲間に声を掛けていたのが本当に印象に残っています。自分も「シケってたまるかよ」と勇気を貰いました。
ーー自分を変えたレースってありますか?
やっぱり平原さん絡みになりますが、2018年の寛仁親王牌(GI)最終日の優秀レースです。平原さんと一緒に走ることになり、僕は前を主張しようと思ったら、平原さんから「お前の後ろは回れない」って言われて。当時、自分は自力を出せる場面で自力を出せていなかったこともあり、「俺はそういう選手の後ろにはつけない。俺も自力選手としてのプライドがあるから、つけない」って。
ーー重たい言葉ですね。
あの言葉は堪えました…。「普通に回れると思うなよ」って。そりゃそうだよな、って。当時も自分は競輪のことは考えてたと思うんですけど、そこからさらに平原さんの前を走るにはどうしたらいいのかっていうことを考えるようになりました。
ーーそれからですかね。2020年の四日市記念決勝では宿口選手、平原選手、佐藤慎太郎選手っていう並びになって…
あの時、前を志願したときに、すんなり「いいよ」って言ってもらえたので嬉しかった。少しずつ任せてもらえるようになってきたのかなってのは思いましたね。
ーー全日本選抜競輪ですが、宿口選手、平原選手、吉田選手の関東S級S班に注目されるファンも多いかと思います。KEIRINグランプリは不完全燃焼な所もあったと思うんですが、3人が決勝に勝ちあがったらどんな走りを見せたいですか?
最近のレースから、自信をもって平原さんの前を回るって言えないのでどうなるかわからないんですけど、気持ち的には自分が先頭。でも拓矢は(先頭を走りたいので)嫌がるだろうし…今までの流れだと僕が番手かもしれない。自分が勝ち上がり段階でしっかりレースできれば、決勝は3人にとってベストな並びになると思います。グランプリが悔しいレースだったので、優勝したいですね。
ーーやっぱりグランプリは悔しさしかない?
ラインで拓矢が一生懸命頑張ってくれて、あとは自分ができるだけ引っ張ってって形だと思ったんですけど、古性優作選手にあっさりといかれてしまって。「何やってんだ俺」っていう悔しさです。競輪人生でレース後に初めて涙が出ました。
ーー実際、番手から出た時の手応えはどうだったんでしょうか、少し微妙みたいな感じでしたか?
風も強くて寒くてあおりも強く、緊張感が凄かったです。走る前に平原さんから「緊張したら力が絶対出ないから、楽しんで走れ」と声をかけてもらっていましたが、番手として平原さんを勝たせたいというプレッシャー、お客さんの歓声などから楽しむことが一切できなかった。緊張を楽しみながらレースを読めてたら結果も変わったのかなと思います。
ーー最近は大事なレースで吉田選手との連係が増えています。宿口選手から見て吉田選手はどのように映っていますか?
強烈な先行というより自在型で後ろに付きやすいタイプを見てますが、奈良記念の3日目で見せたダッシュはエゲつなかった。かましのスピードには驚いた。怪我の報道も出ていましたが、皆さんも見ておわかりの通り全く問題ありません。本当に強い(笑)。
ーーS級S班として走り続けるため、新しく始めたこととか、挑戦していることはありますか?
日々、平原さんの背中を追いかける、それが一番S級S班に近い道だと思いますが、それが一番遠い道なんです。平原さんの行動を目で盗んで聴いて、それを自分のものにどれだけできるか。だから新しく始めるよりは今まで通りですね。
ーー最後に全日本選抜競輪に向けてメッセージをお願いします。
取手競輪はクセのないバンクで苦手意識はありません。関東チームで優勝できるように頑張ります!
netkeirin特派員
netkeirin Tokuhain
netkeirin特派員による本格的読み物コーナー。競輪に関わる人や出来事を取材し、競輪の世界にまつわるドラマをお届けします