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【脱サラから伝説の予想屋へ】競輪に魅せられた男・木村安記が語る予想屋稼業【前編】

2022/05/05 (木) 12:00 21

「さあ、ここが今日の推奨レース、狙って狙って! 平原、杉森が真ん中を取れれば楽な展開だよ」。

大宮競輪場4号スタンド投票所に威勢良い通る声が響き渡る。声の主は、約20年『ギャンブラー』の屋号で場立ち予想を行っている木村安記、49歳。競輪予想を生業とし、お客さんに1000万円の払戻しをもたらしたこともある男は、5月8日からnetkeirinで予想を公開する。なぜ競輪予想を職業に選んだのかーーインタビュー前編では予想屋になるまでの遍歴を伺った。▶後編はこちら

大宮競輪場、西武園競輪場の場立ち台で予想を行うほか、サテライト水戸、花園寄居での予想イベントにも出演している

ーー予想屋として場立ち台に立つまでの事から伺います。競輪との出会いは何がきっかけだったのでしょうか?

木村 亡くなった父の実家が大宮競輪場の食堂を営んでおり、幼少から競輪を見ていた記憶があるんです。親戚に引退した競輪選手や女子競輪の選手がいたりと、競輪が身近な環境でした。

ーー競輪にのめり込むのようになったのはいつ頃からですか?

木村 窓口に並んでガチ買いするようになったのは、高校卒業後フリーター生活を送っていた二十歳頃からですかね。バイト代を1日で全部使ってしまったことも(苦笑)。その後、サラリーマンになってからは給料で車券を買って儲かったり、外したりと…。

ーーサラリーマン時代はどんなお仕事を?

木村 不動産会社で事業用賃貸の営業をやっていました。入社して3年間は社長の運転手。その後は宅建を取得して飛び込み営業をバンバンこなして稼いでいました。自分で言うのも何ですが結構良い給料を貰っていたんです。まあ、営業中に隠れて弥彦競輪や豊橋競輪に行ったりしたこともありましたが…。働いて、打っての繰り返しで、競馬やオート、パチンコにも手を出しましたが、競輪ほどのめり込むことはありませんでしたね。

ーー競輪が趣味のサラリーマンが競輪の予想屋にジョブチェンジするわけですが一体どんな経緯が…

木村 10年近く働き続け、離婚もあってサラリーマンとして働くのが面倒になってしまった。仕事を辞めたいと思い続けていた時、格闘技ライターに憧れて、雑誌『週刊プロレス』のライター講座を受講したんです。編集長を務められたターザン山本さんに文章の書き方や感性の磨き方を教わったり、講座後も可愛がってもらいました。予想屋の屋号『ギャンブラー』は、僕が次も決めず退職したことを報告した際に山本さんから言われた「お前ギャンブラーだな」をそのままいただいたものです。

 サラリーマンをしながら2年近くライター修業をしましたが、ライターのセンスは無かった(苦笑)。会社を辞めてから半年ぐらい競輪やパチンコを打ったりブラブラして何をして食べていこうかと考えた時、川口オートレースで「名門社」という予想屋をやっている親戚の事を思い出したんです。場立ち台を囲んだ100人くらいのお客さんが予想に耳を傾けていたり、レースを的中させてお客さんからたくさんのご祝儀を貰っている姿に憧れ、自分は大好きな競輪で一発やってみようと思いました。

ーー予想屋で食べていける自信はありましたか?

木村 予想屋を始めるために、組合に100万円を預ける決まりがあったので、退職金から100万円を支払い予想屋になりました。デビュー前、発声練習や展開説明など親戚に教わったりと入念に準備をしたので、スムーズに予想を売ることが出来ましたね。大宮競輪場には当時20人以上予想屋はいましたが、年配の方も多くバリバリやっている人もいなかったので、本気でやれば商売になるなと思いました。

場立ち台でレースの見解を説明。常連客が次々と予想を買っていく姿が見られた

ーーサラリーマン時代の経験が活きたことはありましたか?

木村 お客さんとのコミュニケーションは営業の経験が活きたと思います。顔色を見て気持ちを察知して、適切な言葉を選んで距離を詰める。予想屋になってからはお客さんと友達になることが増えました。大事な友達も何人かいますよ。

ーー最終的には競輪愛が現在につながっていると思いますが、木村さんにとっての競輪の魅力は?

木村 身体を張って戦う選手の姿です。野球やサッカー選手が試合中に亡くなる事は滅多にありませんよね。競輪は時速70kmのスピードに生身を晒して時にぶつかり合って走っているわけですから、バンクに入った段階で死と隣合わせ、賞金があるとは言え凄いですよ。走りに文句は言うことはありますが、リスペクトしています。

 あとはやっぱり人が人のために走る姿じゃないですか。1億円がかかったレースで稲垣裕之が村上義弘の前で発進する。稲垣の前で「村上のために1億円いらないと思ってやったんですよね」と聞いても、「はい」とは言わない。絶対言わないけど気持ちはそうじゃないですか。それをお客さんに感じ取ってくれよと。自分を犠牲にしても人のために命を削って、時には賞金が無くなったとしても、やるだけやるという競輪選手の尋常ではない精神力…競馬やボートには無い魅力です。

ーー木村さんは二十歳頃から車券を購入され、ファンとして予想屋として約30年間競輪を見られていて競輪の変化は感じられますか?

木村 若手選手の自力の走りが変わってきて、予想が難しくなりました。例えば3分戦になった時、1番車の選手が先頭で1番力が無いとする。なのに前を取ってしまって、斬って斬られて7番手になり何も出来ずに終わる。先行する意味やレースで先行して力を付けていくことがどういうことなのかを、わかっていないような気がします。先輩選手が教えないのかな。若手の意識の変化もあると思いますが、コロナ禍やパワハラなど人間の付き合い方が難しい時代なのも影響しているかもしれませんね。

 村上義弘みたいな人間が山ほどいたら、みんな逃げるんですよ。平原康多もそう。今は関東の若手の後ろを回っているけど、自分がやるべきことをやって勝ってきた実績もあるから、与えられる位置がある。そこに行くまで怪我もあるし、精神的にキツいこともあると思うけど、自分の気持を研ぎすませて脚力を鍛えているから順番が回ってきたときにそこに座れるんでしょう。今の若手は頑張ればいつか良い事があるという裏付けみたいなものが無いとダメなのかな…競輪の世界に入ってきて誰かを何かを信じるのではなく、ただ目の前のレースを勝てば良いと思っている子が多いんじゃないでしょうか。

 ライン戦を考慮して車券を買うお客さんがいる以上、予想屋としてラインや選手の特徴などをお客さんに伝える必要があるので、選手も先行やラインの意味を考えて走って欲しいですね。このままだとライン戦は崩壊してしまいますよ。

競輪予想の醍醐味であるライン戦の崩壊が心配と語る木村さん

5月8日から「netkeirin」で場立ち予想屋・木村安記さんの連載予想動画「ギャンブラー 木村安記の競輪爆勝予想」がスタート。また、ウマい車券で予想を公開します。ぜひ車券購入の参考にして下さい。


取材・構成:netkeirin編集部
撮影:Kenji Onose
協力:大宮競輪場

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