2022/02/07 (月) 12:00 21
脇本雄太(32歳・福井=94期)のコラムで、「村上義弘(47歳・京都=73期)が群を抜いて後ろにいる時の安心感がある、また脇本のことを誰よりも知っている」とあった。2人の歴史は古く、初連係は2010年6月17日の向日町FIの準決。脇本21歳で村上が35歳。
まあ、緊張したことだろうと思う。
脇本はデビューが2008年7月で、2010年の1月に定期昇級でS級に上がっている。逃げてはいたが、今のような強さではない。
私が脇本を初めて取材したのは、2009年4月の川崎競輪場で開催された94期のルーキーチャンピオンの時だ。出場選手には在校1位で卒業記念レースチャンピオンの鈴木雄一朗(36歳・東京=94期)、岩本俊介(36歳・千葉=94期)や坂本貴史(32歳・青森=94期)と、東日本には有望な選手がいた。
西にも松川高大(32歳・熊本=94期)、山田庸平(33歳・佐賀=94期)、不破将登(32歳・岐阜=94期)らがいたが、“東に揃っている”というのが印象だった。ルーキーチャンピオンレースの前検日に取材に行くと、銀行員のような若者がいた…。内心「大丈夫かいな…」と思ってしまった。だが話してみると先行への意欲がすごかった。レースももちろん先行。結果は9着だがインパクトは爆裂だった。優勝は関根彰人(32歳・福島=94期)で、脇本に離れた不破は岐阜まで自転車で帰らされた(師匠は加藤慎平さん)という逸話も残るものの、脇本のインパクトがすごかった。
脇本は村上との初連係を経て、数々の死闘へと向かう。2013年は1年間で21回も一緒に走っている。番手まくりになる展開も多かったが、脇本は一緒に勝ち上がりを決めること、ワンツー、と、ひとつずつ目標を達成していった。
2012年1月立川記念の初日特選で押し切ってワンツーを決めており「自分が1着でのワンツーは初めてです」と震えていたのを思い出す。
前年の2011年3月に熊本競輪場で開催されたダービーの準決では、村上が3着で脇本が4着。ダービーの準決で村上と一緒に決勝の切符をつかめそうで、最後の最後にこぼれ落ちた。こうして文字に書いている以上に、GI準決、ましてやダービーの準決で…となれば、その価値は身にしみるものがある。
悔しい思いばかりしてきたが、村上とラインを組む中で一緒に上を目指していった。一つのレースでの連係を決めることは大事だが、選手として高め合っていけることがまたラインを組む意味でもある。
それはまさしく“競輪の良さ”だ。では、なぜそんなラインの良さが生まれるのか。
お互いの存在を意識し、重いものとして感じる。自分一人じゃない、という思いを共有する。それは競輪に携わる者の武器にもなっている。災害が起こった時の結束や行動で競輪選手たちは示してきた。が…。
新型コロナウイルスは時に死を招き、肉体、精神にダメージを与えるウイルス。その上で、発生時から「人間同士を分断するもの」「本当の敵はコロナではなく人間」と何度も指摘されてきた。現在の競輪界にもその分断を感じるものがある。
関係者の感染などによる中止の判断は適切だ。だが、参加また出走できるできない、その後の対応で選手への負担も大きくなってしまっている。言うまでもなく開催にあたる関係者の苦労は推して知るべしで、今、誰もが苦しいからこそ、お互いを尊重する態度でひとつになり、乗り越えていく必要があるだろう。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。