2022/01/24 (月) 18:00 24
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが豊橋競輪場で開催された「ちぎり賞争奪戦」を振り返ります。
2022年1月23日(日) 豊橋12R 開場72周年記念 ちぎり賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①原田研太朗(98期=徳島・31歳)
②吉田敏洋(85期=愛知・42歳)
③佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
④取鳥雄吾(107期=岡山・27歳)
⑤郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
⑥岡本総(105期=愛知・34歳)
⑦和田圭(92期=宮城・35歳)
【初手・並び】
←⑤③⑦(混成)④⑨①⑧(中四国)②⑥(中部)
【結果】
1着 ①原田研太朗
2着 ⑨清水裕友
3着 ③佐藤慎太郎
1月23日には豊橋競輪場で、ちぎり賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。豊橋競輪場はこの時期、強い風が吹き込むことが多いんですが、今シリーズはその影響が非常に強かったですね。最終日こそ無風に近いコンディションでしたが、3日目などはかなりの強風だった様子。自力で勝負する選手にとっては、かなりタフなバンクコンディションだったといえます。
そんな状況下にあってもキッチリ結果を出すのが“超一流”で、このシリーズに出場していたS級S班の3名は、いずれも決勝戦まで勝ち上がり。それもあって、決勝戦はなかなかレベルの高いメンバー構成となりましたね。郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)は和歌山記念に続いて、佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)との連係。混成ラインの3番手は、和田圭選手(92期=宮城・35歳)が固めます。
デキのよさが目立っていたのが中四国ラインで、その先頭を任されたのは取鳥雄吾選手(107期=岡山・27歳)。先行にこだわりがある選手なので、ここが積極的に主導権を奪いにいく可能性が高そうです。番手は清水裕友選手(105期=山口・27歳)で、3番手に原田研太朗選手(98期=徳島・31歳)。そして他地区の中本匠栄選手(97期=熊本・34歳)も、このラインの4番手を回ることになりました。
このレースでもっとも注目を集めたのが、中四国ライン3番手を走る原田選手。なんとここまで11連勝中で、相手が一気に強くなったここでも、初日特選から無傷の3連勝で決勝戦まで駒を進めてきました。もともと力のある選手なんですが、ちょっとレースぶりが淡白というか……自分のカタチに持ち込めないと、あっさり崩れるようなところがあったんですよ。しかし、最近はそんな面を見せず、濃い内容のレースを続けています。
地元である中部からは、残念ながら2名しか決勝戦に進めませんでした。ラインの先頭を務めるのは、昨年の覇者である吉田敏洋選手(85期=愛知・42歳)。そして番手が、岡本総選手(105期=愛知・34歳)です。地元の意地を見せてほしいところですが、番組にも助けられて、なんとか決勝戦まで勝ち上がってきたという印象。ここで上位争いをするには、展開面での助けなどが必要となってきそうですね。
では、決勝戦の回顧といきましょう。スタートの号砲が鳴って、ダッシュよく飛び出したのは、意外にも郡司選手。内の選手がスタートを取りにいかなかったのもあって、すんなりと先頭を確保します。もう、最初から「前受け」を狙っていた飛び出しでしたね。そして、4番手に取鳥選手がつけて、後方8番手に吉田選手というのが、初手の並び。この時点で、中部ラインはちょっと厳しい。
赤板(残り2周)の手前から、後方にいた吉田選手がセオリー通りに上昇。先頭誘導員が離れたところで、先頭の郡司選手を外から「斬り」にいく姿勢を見せましたが、郡司選手は引かずに突っ張って、先頭をキープ。吉田選手も、ここで主導権を巡るつぶし合いをする気なんて毛頭ありませんから、少し抵抗はしましたが最終的には引きましたね。
見事に主導権を奪った取鳥選手は、その後もかかりのいい先行をみせて、最終2コーナーを回ったところでも態勢は変わらず一本棒。その番手を走る清水選手は、取鳥選手との車間を切って、他のラインの動きを待ち構えます。そして最終バック、郡司選手が捲って前との差を詰めにいきますが、それに合わせて清水選手が前へと踏んで、番手捲り。それでも郡司選手は追いすがり、中本選手を乗り越えて前を射程圏に入れます。
とはいえ、ここまでけっこう脚を使わされている郡司選手は、さすがに最後は伸びを欠きましたね。先に抜け出した、清水選手や原田選手に並ぶところまではいけませんでした。前では清水選手が先頭で粘り込みをはかりますが、最後の直線では少し外に出した原田選手がいい脚で伸びて急追。その後方では、郡司選手の番手から思いきってインに突っ込んだ佐藤選手が、原田選手の外からグングン伸びてきます。
そして、決勝線の手前で原田選手が清水選手を差して、先頭でゴールイン。連勝を12に伸ばして、勢いのままに記念で完全優勝を果たすという、最高の結果を残しました。僅差の2着に清水選手が残して、中四国ラインでのワンツーに。そして3着には、コース取りなど相変わらずの巧みさをみせた佐藤選手が入りました。そして郡司選手が4着ですから、S級S班の3名を原田選手が見事に退けた……という結果となります。
決勝戦はライン3番手からのレースで、取鳥選手のかかりのいい先行があってこその結果とはいえ、原田選手の優勝は素直に褒め称えられるもの。最後は清水選手を差しているわけですから、本当に力をつけていますよ。この結果を受けて、ファンはもちろん、選手からの「見る目」も変わってくるでしょうね。競輪選手として、ひとつ上のステージに立ったといっても過言ではありません。
そして原田選手にも、そういう立場になったということを自覚してもらわねば困る。レースの結果や内容について、周囲から要求されるレベルがこれまでとは違ってきますからね。当然ながらプレッシャーも大きくなりますが、レースの組み立てが上達して、淡白なレースをすることがなくなってきた現在の彼ならば、その期待にも応えられるはず。さらなる飛躍を目指してほしいですね。
2着の清水選手も、シリーズを通して調子がよさそうで、決勝戦でもいいレースをしていたと思います。だからこそ、それを差した原田選手が強かった……という結論となるわけです。4着の郡司選手も、道中でけっこう脚を使わされていながら勝負どころであそこまで追い上げてくるんですから、内容的にはかなり強いですよ。3着の佐藤選手も含めて、S級S班としての責任を果たしたレースだったといえます。
結果的に何もできずに終わった中部勢ですが、ちょっと致し方のない面もありますね。機動型の選手がもう1人勝ち上がっていたり、せめて1番車が貰えていれば、もっと違うレースができていたかもしれません。ここでの吉田選手に「主導権を奪いにいく」という選択肢はありませんから、取鳥選手と郡司選手がつぶし合うような、展開の助けが必要不可欠。とはいえ、初手で後方からになってしまうと、それを誘うのも難しい。地元の意地を見せてほしかったとはいえ、最初から選択肢の少ない一戦だったのも事実でしょう。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。