アプリ限定 2022/01/21 (金) 18:00 35
⽇々熱い戦いを繰り広げているガールズケイリンの選⼿たち。このコラムではガールズ選⼿の素顔に迫り、競輪記者歴12年の松本直記者がその魅⼒を紹介していきます。1⽉のピックアップ選⼿は新成人になったばかりの120期レーサー。
2021年5月にデビューした「飯田風音(いいだ・かざね)選手」です! 父は67期の飯田威文、母は元自転車競技選手という自転車一家に生まれ、自然とガールズケイリンの道を志したという飯田選手。幼少期のお話や交流のある選手、コロナ禍真っ只中の養成所入学から現在に至るまでの軌跡を写真とともに辿っていきます!
飯田風音は2世選手。父は現役競輪選手・威文(67期)。物心がついたころから父の練習に付いていき、競輪場やトレーニングジムで遊んでいたという。幼い頃は2人姉妹で活発に過ごした。幼少期はレスリング、小学3年生のときに母の影響でスピードスケートを始め真剣に取り組んだ。しかし、高校の進路選択をする際に迷いが生じる。
「スピードスケートを続けるには寮生活のある強豪校にいかないと上を目指せないだろうなと考えていました。でも、実家を出て寮に行くのは嫌だったので、自転車競技の方で頑張ろうかなと。中学時代のスピードスケートのクラブのOBが川越工業高校の顧問だったこともあり、川越工業高校へ進学することを決めました」。
埼玉県立川越工業高校と言えば、埼玉県のプロ競輪選手を多く輩出する名門校。太田真一、平原康多、宿口陽一とGIタイトルホルダーに、ガールズケイリンでも細田愛未、新井美菜と先輩だらけ。
両親から受け継いだDNAを遺憾なく発揮し、高校時代は自転車競技で大活躍。高校1年のインターハイ・ケイリン3位、2年、3年はケイリンで優勝と輝かしい実績を残した。
高校卒業後の進路は、家族と話し合いながら自然と決まっていったという。
余談だが、風音の母も自転車競技で活躍。埼玉県の国体の選手として活躍した時期もあり、ガールズケイリン1期生を受けるか真剣に悩んだそうだ。挑戦することを辞めた理由は、まだ小さかった風音が反対したそうだ。
日本競輪選手養成所は現役で合格。合格通知は授業中に携帯電話で確認したそうだ。「受かる自信は実はあったけれど、発表を見た時は感無量でした」と振り返る。
高校3年時は秋の国体で落車。鎖骨を骨折。養成所入所までの期間は思い切ってオフにしたそうだ。
コロナ禍での養成所生活は我慢の連続だった。外出もままならず、ストレスのたまる日々。そんな中で心の支えとなったのは同期の存在だ。
「同期のおかげで1年間の養成所生活は乗り切れました。特に内野艶和と西脇美唯奈。内野さんとは高校1年のときからの付き合い。大会に行って1年生は自分と内野さんしかいない状況だったので自然と仲良く。西脇さんとは生徒番号が近かったのがきっかけ。自分、西脇、内野と生徒番号が続いていて、いつも一緒に過ごしていました!」。
養成所ではゴールデンキャップを獲得。「第1回、第2回の記録会では苦手な2キロタイムトライアルでタイムが出なかったのでゴールデンキャップを獲得できなかった。でも第3回の記録会では苦手な2キロタイムトライアルがなかったからやっとゴールデンキャップが取れました」と教えてくれた。
卒業記念レースは西脇に優勝を持っていかれた。力を出し切れず負けたことが悔しかったと振り返る。在所成績は2位で終わった。
卒業後の楽しみは大好きなマクドナルド。厳しい養成所生活の中でもつらかったのが食生活。その反動で卒業後はマクドナルドをいっぱい食べたという。体重は増加してしまったが、練習はしっかりやっていたので問題はない。師匠である父や、男子選手ばかりの練習グループでしっかり乗り込み食らいついた。
5月のルーキーシリーズ・デビュー戦は静岡。以降大宮、和歌山と3場所走り、全て決勝進出。ルーキーシリーズは3場所走り、ある程度の手応えはつかんだが、本デビュー後はプロの壁にぶち当たった。 「レースの流れが養成所と全くちがった。ヨコの動きもあるし、自分の動きが全くできなかったので本当に戸惑いました」。
プロの洗礼を浴びて、なかなか思い通りに走れない中、きっかけは9月の静岡開催だった。
静岡は「自力を出す」とテーマをしっかり持ったことで開催に臨んだ。初日は打鐘過ぎに仕掛けて先頭に立ち、レースを支配。荒牧聖未にまくられたが、2着に逃げ粘り。2日目は前受けから突っ張り先行。久米詩にまくられてしまうが、番手に付け直し、最後の直線では差し迫った。決勝は最終ホーム6番手からロングまくり敢行し前団をたたき切った。最後は荒牧、久米に差されて3着だったが、収穫の多い3日間だったという。
静岡後は、「風を切る、先頭に出て力を出し切る」とシンプルな組み立てを心掛けていき、成績は少しずつ上向く。
グランプリトライアルの裏開催となった11月のいわき平で初優勝を達成。決勝は加瀬加奈子らを相手に飯田らしい積極的なレースを披露して、逃げ切りでの優勝だった。「優勝を意識した開催で結果を出せて喜びもひと塩でした」。父・威文と同時あっせんで、目の前で決められたこともうれしかったと振り返る。
2022年の目標はシンプルだ。
「2021年は良いときと悪いときの差が大きかった。今年は安定した成績を残していきたい。今は自力を出すことが安定した成績につながると思う。1月の宇都宮でコレクショントライアルに出場ができるのはうれしい。狙って勝てるほど甘くないし、自力を出して後から結果が付いてくればいいと思います」。
憧れの選手は小林優香。自力での力強さとナショナルチームでオリンピック目指して奮闘していた姿を尊敬している。まだ開催が一緒になったことはないそうだ。一緒になったら話をしてみたいですか? と尋ねると「私、人見知りなんです(笑)」と照れた。
レースで自力を出していることをアピールしていけば、憧れの小林優香にも飯田風音の存在は届くはずだろう。そして、小林から色んなアドバイスをもらい、さらに大きく成長するはずだ。
今の楽しみはレースでいい成績を残して、両親にご飯をごちそうすること。昨年8月9日に20歳の誕生日を迎えて、お酒が飲めるようになった。両親はともにお酒が好き、飯田自身も「(お酒は)好きですね」といける口。大人の仲間入りをして、両親との絆も深まりそうだ。
伸びしろたっぷりの新成人が、2022年のガールズケイリンを盛り上げてくれることだろう。
松本直
千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。