2021/12/29 (水) 12:00 28
年の瀬も押し迫り、いよいよ30日には競輪界の頂点を決める大一番「KEIRINグランプリ2021」が行われる。日に日に全体のボルテージが高まる中、1人のスーパーアスリートが一升瓶を片手に立ち上がった。今年1年を振り返る、題して「2021年・極私的10大ニュース」。酒を飲み熱い語りで競輪の魅力を紐解きます。 【構成=塩次洋太(大阪スポーツ)】
ーーこちらのコラムが掲載される29日はグランプリシリーズの真っただ中で「ヤンググランプリ2021」が行われます。
ああ、懐かしいですね。そう言えばヤングラは3回、出ているんですよ。
ーー3回もですか。ヤンググランプリは1回優勝したら、次は出場できないシステムですよね。と、言うことは…。
もちろん、獲ってません。荒井(崇博)さん、(渡部)哲男、(岡田)征陽が優勝しました。今はルール上、3回出るのは無理だと思うので史上最多の記録でしょう。まったく、うれしくありませんが。
ーーいつも直近のレースの話をうかがっていますが、今月は松山記念を欠場し、先日の防府はあまりにも…だったので、慢性的に話題不足です。そこで今回は趣向を変えて今年1年をニュース形式で振り返ってもらいます。
わかりました。だけど、まあ…ヤンググランプリを走っていた純粋なころは、将来こんな危ないコラムを書くなんて夢にも思ってなかったでしょうね。
ーー興味あるんですか?
世間的に言えば、やっぱりこの辺は押さえておかないといけないでしょう。国際的な情勢で言えば5位ぐらいでもよかったです。
ーー大変申し訳ないのですが、この手のリアルなやつは、しかるべきメディアがやりますので、あくまで中川選手個人の10大ニュースをお願いします。9位からでいいですので。
ーーそうです、こういうのをお願いします。タイムリーな話題ですね。
競輪のようにラインのしばりやヨコの動き、点数とか関係ないから、プレッシャーなんてまったくないだろうと軽い気持ちで行ったんです。いわば“アルバイト的”な。瓜生(崇智)には「バイト6」とか吹いていたぐらいで(笑)。
ーーそういうの言っていると、誰かに怒られますよ。
だって、こっち側でメシを食っていたようなものなので、他の選手よりは明らかにアドバンテージがありますから。そんな気軽なつもりだったんです。
だけど、いざ発走機に立ったら、ふと競技時代のころを思い出して、こんな感じだったな〜って。そこで一気に緊張してしまったんです。
ーーオリンピアンとしての血が騒いだのでしょうか。
もう、それが悔しくて。いつでも勝てるぐらいの気持ちだったのに、真剣に入ってしまった自分に憤りを感じてしまった。競技者、オリンピアンとしてのプライドを保ちながら、余裕があるようで無かったのが。
ーー思った以上に激しい勝負だったということですね。
発走までは選手、お客さんや全体で盛り上げて、場内の雰囲気もあって楽しいんですけど、発走機に着いたら違いましたね。ぜんぜん「バイト6」じゃなかったです、すいません。
ーー結果は雨谷一樹選手が優勝、中川選手は準優勝でした。
自分もレースの流れに沿って一番いい形で走ったので、雨谷を褒めるしかなかったです。でもシリーズを通して思ったのはクジ運の悪さでした。
ーーどういうことでしょうか。
車番はハロン順ですが、発走機に着く順番は自動抽選なんです。それが「1」か「6」しか出なかった。つまり前か後ろしか選択肢がない。「1」だと中途半端に押さえられたら詰まるし、放置されてそのまま逃がされることも。だから「1」は苦手なんです。しかも雨谷と対戦した2回とも雨谷がオレの真後ろにいたので。あれは大誤算でした。
だけど、開催は楽しかったし、お呼びがかかればまた走りたいです。入場パフォーマンスもそれとなく考えておきます。
ーーこれは、まったく見当がつきません。くわしく説明をお願いします。
SNS上で、たまに自分のことが書かれている投稿を目にするんですが、そこで「8番手師匠」と呼ばれているのを知ったんです。
ーーかなり過激なニックネームです。そもそもエゴサーチとかするのですね。最近は減りましたが、以前は結構やってました。昔、匿名の掲示板があったでしょ。あのころはあまりにも悪口を言われすぎて、段々と見るのが怖くなっていました。
ーーそれでも、気になって見に行ってしまうのでしょうか。
そうなんです。酔うとついつい調べてしまい、結局は後悔するんですよ。
ーー悪口が書かれているのが分かっているのに読みに行く、というのがわかりませんが…。
ああいうのを調べるのって、すさんでいたり成績がドン底のとき。成績がいいときは、新聞やネット上で十分に絶賛されていて満たされるから調べる必要がないんです。
ーー「師匠」のくだりはわかりましたが「先生」とは一体…。
昔、その掲示板で“バカ川先生”って言われていたんですよ。知人が“バカ川先生”ってネタが大好物で、飲みに行くたびに「今日も書かれていましたよ“バカ川先生”」とネットの反響をいちいち教えてくれるんです。
ーー“バカ川先生”ですか! その手のレースが多かったからでしょうが、かなり直球的です。うまいことを言いますね。
“バカ川先生”の話題になると大体はオレの悪口で盛り上がるんですけど、たまに群馬のY口の名前が上がったりしていて。腹が立つというよりも、客観的になってしまうんです。
ーーY口選手、完全な流れ弾ですね。
どちらがバカかみたいな書き込みで延々と盛り上がっていたこともあったりして、もう狂気の沙汰。自分が中川誠一郎なのを忘れて1人の読者として読み込んだぐらい(笑)。矢口、ごめん。
ーーそれで「先生」から「師匠」なんですね。もっとマジメな話だと思っていました。ちょっと、くだらなすぎませんか。
いやいや、先生から師匠に格上げしたんですよ! 年齢と経験を重ねて師匠になったんだから。たぶん大トリを飾れますね。去年、漫才コンビの「中川家」も吉本興業の劇場で「大看板」になったでしょ。もはや師匠格だし“中川”は日々成長しています。
荒井(崇博)さんの知り合いの方の紹介でランチをする機会に恵まれて。ものすごいアスリート気質の選手と思っていたら、まったく違う気さくな方だったので感激したんです。
ちなみに荒井さんは「酒を飲まないと人見知りだから、ランチなら行かん」という、非常に男らしい理由で欠席でした。
ーー世界と戦うアスリートに影響は受けましたか。
超高級車でスラっと現れたんです。プロアスリートには夢があるなと。基本的にスポーツ選手そのものに敬意があるので会うだけで刺激になります。
ーーこれは極私的感がありありですね。
ずっと量販店の抽選に応募していたけど、まったく当たらなくて。あるとき(徳永)哲人が競輪場で「オレ、当たりましたよ」って報告してきた。なんだ自慢かよ、と聞いていたら「今、モンハンにはまっちゃって。プレステ5でやりたいゲームが無いんですよ」と。
ーーその時点で身を乗りだしましたか。
平静を装って、欲しい、欲しいの空気を出さずにしていたら「誰か代わりに買う人いませんかね?」ってきたので、食い気味に「ぜ、ぜひっ、オレに権利を譲ってくれ!」って頼みましたよ。そこからはゲーム三昧。今年前半のスランプは、おそらくプレステのやりすぎだったからです。
ーーさっきから競輪の話が全然でてきませんが…。
家のローンが無事に終わりました。14、5年かかりましたね。繰り上げたのは最初の1、2年ぐらいで、GIを獲ったときも繰り上げ返済はしなかった。ファンの皆様がオレから車券を買ってくれたおかげです。
ーー柱の一本はお客さんに建ててもらったようなものですね。
鉄骨がアンチファンの人からのものだったら傾くかもしれないので、それはそれで嫌ですね(笑)。ダービーの優勝とかで泣いてくれた人たちが、骨組みや梁の部分を支えてくれていると思います。
ーーこれは先月のコラムで名前の出た岡山の取鳥雄吾選手の話ですね。
ネット上の反応が良かったですよね。あんなにみんなが好意的とは思わなかったです。(取鳥)雄吾に悪いぐらい。ちょっと似たものを感じたから親近感が湧いてしまって。ひそかに応援していると、そんな気持ちが伝わったのでいいのかな。
ーー取鳥選手もコラムを読んだそうで喜んでいました。直後の松山記念では活躍していました。
松山は準決で駆けてタレていたでしょ。あれが、らしさなんですよ。あそこで飛ぶところがオレみたいでいいじゃないですか。ピン、ピン、ビラ、ピン(1着、1着、大敗、1着)ぐらいがちょうどいい。そこも受け継いでいる。あとはピン、ピン、ピン、ビラとかも最高(笑)。
ーーはたして、これを読んだ取鳥選手は喜ぶのでしょうか。
雄吾ならわかってくれます。ちゃんと落とすとこで落とさないとオレ側じゃないんですよ。ちょっと可愛らしいところを持っていないと。我々は平原(康多)にはなれないんだから。
ーー確かに平原選手は完ぺきすぎます。
五角形のグラフがすべて整っていては可愛らしさの魅力が半減しちゃう。雄吾とかガルベス(上田尭弥)はタテ脚一本で頑張っているからオレ側。矢口もそうです。
ーー前回のコラムでは、取鳥選手が記念を優勝したら接待したいと話していましたね。
もう、いくらでも。若いし、伸びしろだらけで可愛いじゃないですか。雄吾は(園田)匠とも仲がいいし、中国地区は友好国。松浦王国の一員としてもう伸びして欲しい。いずれ、このコラム上で対談とかしたいです。
ーー荒井選手がよく登場しますね。ご本人はこのコラムを知っているのでしょうか。
荒井さんはあまり競輪の読み物とか見ないので届いていません。大丈夫です。誰かがこんなのあるよと通報したらバレるかもしれないけど、わざわざ自分から見に行くことは絶対にない。読んだら1000%クレームが来ます(笑)。年末ですし、あまり怒られたくない。
ーートレードとは、どういうことですか。
いま熊本バンクが改修中なので、街道や他地区へ出げいこに行かなきゃいけないんです。そうなると自転車や荷物がたくさん積めるクルマが必要なんですが、それまで乗っていたクルマじゃ手狭で。
そこでワンボックスの「ハイエース」を買おうと思って。小岩(大介)が乗っていたから見せてもらったりして迷っていたんです。
ーーそこで荒井選手が介入してくるのですね。
荒井さんにその話をしたら、「じゃあオレの乗る?」って言いだしてきて。ちょうど車検の時期で乗り替えようと思っていたらしくタイミングが合ったようです。
ーートレードとは自動車の交換だったのですか。
下取りの買い取り額が2人とも同じぐらいだったから、それなら買い替えなくてもいいやとなって、荒井さんのベンツのVクラスとオレのアウディのA7を交換しました。荒井さんが名義変更の手続きをしに熊本に来てくれて、クルマを交換してフェリーで帰って行きました。
ーー自動車ってそんなに簡単に交換できるとは知りませんでした。
それ、大塚(健一郎)さんにも言われました。「何やそれ? クルマ交換してパッと帰るなんて、小学生がオモチャを交換して帰るんやないんぞ。第一クルマってそんな簡単に交換できるんか」って。
ーー実際に乗ってみていかがですか。
ワンボックスは必要性を感じなかったから乗ったことがなかったんですよ。これで長年、不義理をしてきた家庭サービスができますね。40歳すぎて…バーベキューとか行っちゃいましょうか。根っからのインドア派ですけど。
ーーやっぱり上位にきましたか。読者や周囲からの反応をどう受け止めていますか。
「アクセス数」をけっこう気にしていたんですよ。ある日、1日だけ平原(康多)のコラムの数字を超えたんです。わずか数時間でしたが、瞬間最大風速が吹いた。うれしくて、その画面をスクリーンショットで保存しましたもん。
ーー他の選手のコラムとかまったく興味ないと思っていましたが意外ですね。
平原の吉田拓矢を称える競輪祭の振り返りのやつなんて“これぞ競輪”みたいな内容だったでしょ。こっちは荒井さんと酒飲んだとか、そんな与太話ばかりで。いわば「月9ドラマ」と「笑点」が同じ視聴率だったようなものです。
ーー方向性やファン層の違いもありますもんね。
平原や松浦(悠士)、(佐藤)慎太郎さんとこっち側とじゃ立ち位置が違います。シリアスとコメディみたいなものだから、読者に求められるものが大きく異なってくる。
だから、あっち側のトップに匹敵するほど(読者に)届いたのにはびっくり。オレでもいい勝負ができるんだと、大きな発見でした。まあ、清水(裕友)のは面白いからこっち側であって欲しいけど。
ーー読者の感想に「よく見せようとするカッコつけが一切ないのが逆に心配。本音をむき出しすぎ」というものがありました。
競輪に対する、隙間産業的な考え方が前提にあって。さっき名前を出した人たちはこの業界の本線、王道を担い続けなければいけないけどオレは違う。実際にGIタイトルも隙間的に獲ったし今さら隠すとかは無いんです。人生のテーマをこのコラムへ反映させています。
ーーコラムのランキング欄には「アクセス数」のほかに「注目数」というものがあります。
「いいね」みたいなやつでしょ。それはそこまで上がらないですね。オレに注目したくないし、「いいね」を押したくないって人が不特定多数いるんですよ。
けれども、そういう人って注目しないわりには気になってチラっと覗きに来るんでしょうね。だから「注目」はないけど、アクセス数が伸びちゃう。
再開への思いはずっと言い続けてきたので、これを1位にしなかったら熊本にいられなくなる(笑)。2024年秋の再開へ向けて11月から工事が始まりました。もう今は希望しかないです。
ーー解体工事は始まったのですか。
先日こっそりと競輪場をチェックしに行ったんです。怒られないように。バンクを覗きましたが、まさに解体の途中でした。この先も3カ月に1度ぐらい「誠一郎の熊本競輪NOW」をレポートしたいと思っています。
このコラム、まずまず需要があるのがわかったので、来年もどうぞよろしくお付き合い願います。皆さん、よいお年をお迎えください。
ーー今月も質問、相談が届いています。お答えください。
Q、自転車競技をしています。前回のインタビューで「若いころは負けグセが悪かった」との話がありました。私もそっち側の人間なのですが、感情をコントロールするにはどうすればいいのでしょうか。(東京都/20代/男性)
この質問コーナーは当初、「人生相談」をメーンに始めたのですが、いつの間にか悪口コーナーみたくなっていました(笑)。ようやくそれっぽい投稿が来ましたね。
若いころはふてくされるとかのレベルじゃなく、合志(正臣)さん、森内(章之)さん、荒井さんに怒られまくっていました。対処方法は簡単です。誰かと一緒にいるとアタりたくなる可能性が高まります。だから、人のいないところに逃げるんです。
階段の最上階の踊り場とか、誰も来なさそうなところを探してください。そこで怒りを鎮めて、何事もなかったように帰ってくるのがいいでしょう。
Q、作家の伊集院静さんがかつて、某新聞のコラムで中川選手のことを「ストレンジャーなお方のようだ」と評していました。ご自身の性格を一言で表すと? (大阪府/50代/男性)
若干、ひねくれているのでしょうか。普段の競輪はみんなちゃんとしているので、何かふざけたくなったりしたり。だからって、PIST6ではみんながワーワーってにぎやかにしているでしょ。そこでは、澄ましていたいんですよ。
小さいころからそうで、写真を撮るときにみんな変な顔とかしていたら、冷めてマジメな顔で写ったりして。あまのじゃくなんでしょうね。周りの友人もそんなタイプが多いような気がします。だから荒井さんとかが寄ってくるのかも(笑)。
Q、YouTubeで「ルーキー・もうひとつ、夢を目指して」という21歳の金髪の中川選手の特集映像を見ました。競走や発言内容、中野浩一さんに説教されていることなど、今とまったく同じでした。振り返ってどういう感慨がありますか。(栃木県/60代以上/男性)
ああ、懐かしいですね。あれから20年以上経ちましたが、結局は成長していないんですよ。確か中野さんに熊本城の二の丸でずっと怒られているんです。けなげな若者がコワモテのオジさんに説教され続ける恐怖映像ですよ(笑)。家までロケに来てくれたんですよね。あの家は建て替わり、今はローンの終わった新居が建っています。
Q、コラムを楽しく拝見しています。中川選手がそんなに色々考えてレースをしているとは思いませんでした。後方でひたすら前がやり合うのを待っているだけかと思っていました。失礼いたしました。(北海道/40代/男性)
ご質問は理解できます。だから“バカ川先生”があり“八番手師匠”なるキャラクターが登場するんですよ。何も考えずに前取って引いてって、そういうときもありますよ。だって人が走るんでしょ、競輪って。機械じゃないんだからバイオリズムがあるわけで、その手のレースもあるってだけです。
質問欄に「ペンネーム」を明記されているのですが、こちらの方のペンネームが「藤巻昇」だったんです。思わず吹きましたよ。藤巻さんだったら40代のわけがないし。「荒澤貴史」の間違いでしょう。
Q、前回のコラムで「60代」と言われなき中傷を受け、非常に心を痛めております。とはいえ、昨今は若い女性キャスターやタレントの台頭により、私のようなお局キャラはその存在意義を失いかけております。ですので、逆にいじってくれてありがとう!!(神奈川県/20代/女性)
出た…。今度は20代とか誰にもわかるウソついて。業界歴何十ウン年の人が20代とか計算が合わないでしょ。熊本競輪の再開まで一緒に、この業界にしがみつきましょうね、江藤みきさん。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。