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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】中川誠一郎の長くて濃い10月… 地元記念で決勝進出、二次予選は「もはや拷問でした」♯42

2024/11/02 (土) 18:00 38

10月は入魂の地元記念を含め大忙しだった中川誠一郎。全国各地をあちこち回り、体を張ってコラムのネタを仕入れる競輪選手の日常を皆様にご報告。他の有名選手たちとは違ったアプローチで競輪の魅力を紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーー10月はいろいろな出来事があったそうで、大忙しだったそうですね。

 いい知らせから悪い知らせまで、ありとあらゆることがありました。実戦では地元記念も走ったし、けっこう内容のある1か月でした。

ーーそれでは、ひとつずつ振り返っていただけますか。まずは熊本記念の話からうかがいます。7月の再開第一弾のFIシリーズに続く2回目の地元参戦となりました。

 地元だし一次予選ぐらいは本線だろうなと思いましたが、まさか町田(太我)君とは。これは年に1回ぐらいあるちゃんとしないといけないやつだ、と急激にピリッとなりました。

ーー一次予選は見事に白星を飾りました。二次予選はまさか、あの脇本(雄太)選手を目標に得ました。

 先月のコラムでワッキーの番手がいいなとか軽口を叩いてみたものの、あれは酔った勢いの戯言で、実際は絶対にないと思っていました。まさか実現するとは思わなかったです。

ーー久しぶりの連係はいかがでしたか。

 ぬるま湯につかりすぎて湯冷めしていた自分にとっては久々にレースできつい思いをしました。ここ最近で一番だったかもしれず、1センターの登りなんか、まるで拷問でした。

ーー初日の町田選手もそうですし、それぞれ刺激的だったのでは。

 町田君は突っ張ったあとはずっとペースで内外線間を走るだけだからある意味、誰にも邪魔されない空間なんです。だから、そこまできつくない。でもワッキーは、1コーナーを登ってグググッと駆け上がるから、もはや嫌がらせみたいで(笑)。練習を100回やっても入らないような刺激がレース一本で入りました。

脇本雄太と

ーーレース後、脇本選手とはどのようなやり取りがありましたか。

「ゴール前、なんであんなに内を差していたの?」と言われました。直線で交しに行こうと外したけどまったく出なくて、無理と思って下げたら勢いで内に差してしまったんです。ワッキー、げらげら笑っていました。

ーーともあれ、ワンツーが決まってよかったです。準決は東矢(圭吾)選手と嘉永(泰斗)選手の3番手でした。

 準決はスタンドの雰囲気が異常で、どのレースよりも盛り上がっていました。ゴール後に手を挙げたら、下から轟音みたいな声援がわいてビックリしました。

ーー地元の後押しを味方に付けたと。

 もちろん応援やメンバー構成、それに環境とか。あとは他県の選手も若干、気をつかってくれるし、そういう意味では有形無形の地の利はあったでしょう。「地元割増」って競輪格言もあるぐらいだから。

東矢圭吾、嘉永泰斗と

ーー決勝戦は嘉永選手と2人でした。

 さすがに決勝ともなると、オレの力なんて大きく落ちます。SSもいたし、彼らの主戦場なので興行的にも有名どころから売れるでしょう。だから“中川さんお疲れ様でした、アナタの見せ場は準決までですよ”と言われている気がした(笑)。

ーーそれでも、嘉永選手が頑張ってくれました。

 そうなんですよ。泰斗がきつくなったところで、深谷(知広)よりも先に迷わず外を踏んでいれば優勝があったかもしれなかった。どうして内だったんだろう…。今回、自分でも驚くほど仕上っていたんです。次の寛仁親王牌では見る影もなかったけど。

ーー着外とはいえ無事に地元の大一番を終えることができました。

 胸のつかえが取れた感じがあります。2年後の(熊本で行われる)全日本選抜競輪は半年間、頑張って点数を取らないといけないから厳しいけど、もう少し抗いたいですね。

ーー開催後、打ち上げは盛り上がりましたか。

 地元は(島田)竜二さん以外の全員と、誘導の(伊藤)旭らが来ました。客人はワッキーと(佐々木)豪ちゃん。

ーーけっこう、濃い目なメンバーです。

 そうですよ、濃厚すぎました。だってワッキーが一瞬でつぶれたんですから(笑)。

ーーのっけから激しいですね。

 オレは私用があって40分ぐらい遅れて参加したんです。合流したときにはすでに怪しい雰囲気になっていて、呂律が回っていないんですよ。

ーー開始40分でそのようになるとは相当、愉快な酒だったのでしょうか。

 それが、どうやら打ち上げの前に0次会をしていたようで、豪ちゃんと(松岡)貴久でワインを1本空けていたそうです(笑)。

ーー打ち上げのときにはすでに酒が入っていたと。

 そうです。こっちがまだ一杯目なのに、テーブルに日本酒が10本数本並んでいたりして、もうお祭り状態でした。そりゃ、ワッキーも仕上がりますよ。

ーーその後、脇本選手はどうなったのですか。

 1軒目でベロベロになったから、泰斗やウリ坊(瓜生崇智)ら5、6人で担いでホテルまで運びました。

ーー屈強な皆さんが脇本選手を運んでいる姿を想像すると、壮絶なものがあります。

 酔っ払った80キロを担ぐって相当きついですよ(笑)。何とかみんなでホテルの部屋まで届けてベッドに寝かしつけたんです。だけど、また問題があって…。

ーー次はなんでしょう。

 ワッキーが翌日、バイトだったんです。新人訓練の講習会に呼ばれて、講演をするとか言っていて。つぶれる前に「明日、朝8時の新幹線なんです」って聞いていたから、何とか遅刻をしないようにとみんなで策を練ったんです。

ーーどうしたら朝起きられるだろうか、と。

 そうです。まず、ワッキーのスマホを取り出してアラームを大量にかけました。それだけじゃ不安だからモーニングコールも頼みました。フロントに「起きるまで鳴らし続けていただくようお願いします」と伝えて。おかげで翌日は何とか起きられたようです。

ーー脇本選手からは。

 翌日に「介抱をしてもらったようですが、1ミリも記憶がありません。でもおかげさまで間に合いました」と。何も覚えてないんかい! って(笑)。大胆なヤツですよ。

ーー写真があれば状況が伝わりましたね。

 それが、つぶれるのが早すぎて写真を撮るどころじゃなかったんです。そのかわりにこちらを載せましょう。

ーーこの写真はどのような状況なのでしょうか。

 返す刀といいますか、2軒目のスナックで貴久がつぶれたんですよ(笑)。よ〜く見てください。右奥の白いソファでひれ伏しているヤツがいるでしょう。

ーーこれが松岡選手ですか。上半身裸に見えますが。

 暑かったんでしょう、きっと。マイクを持って冷ややかな目で見ている泰斗がまた面白さに拍車をかける衝撃的でイイ写真です。

ーーどういう状況かをつかめていない感じもしますね。

 まあ、いろいろとアクシデントもありましたが地元勢の結束力はまた高まったと思います。貴久の運行は通常どおりでしたが。

局地的人気に戸惑う荒井崇博と

ーー熊本のあとは弥彦競輪のGI寬仁親王牌を走りました。

 こちらはもうレースでは全然。熊本記念の脚はどこへ行ったの? というぐらい、まったくお呼びじゃありませんでした。

ーー7、9、7、8着と大きく叩いてしまいました。

 そういえば、荒井(崇博)さんのファンっていう競輪場の職員の人がいました。いきなり「荒井さんの話、面白いですね」って声をかけられたんです。

ーー荒井選手、今回も強かったです。

 荒井さん、ぼやいていましたよ。「お前や(加藤)慎平のせいで、最近『荒井ちゃ〜ん』って声援が起こる」って(笑)。悪役の芸風で20数年やってきたから戸惑うのでしょう。

ーーたしかにヒールなのに「ちゃん」付けは変です。

 ヒデ(山田英明)が前回のコラムを読んでいたようで“荒井さんを囲む会”とかの一連のくだりをメッチャ喜んでくれたんです。だから、競輪場や宿舎で荒井さんが騒いだり、何か起こすたびに「絶対、これコラムに書くでしょ!」ってあおってくるんです。

ーー山田選手は直系の後輩ですし長年、一緒にいますね。

 書き方や表現方法まで提案してくるんです。詳しい描写とかもうまくてセンスがあるんですよ。ヒデたちは荒井さんになかなか言えないから、溜飲が下がる思いでしょうね(笑)。

ーー寬仁親王牌のあと、打ち上げはあったのですか。

 九州から誰も決勝に乗らなかったし今回は各々でした。オレは、ワッキーがそのまま近畿の地区プロへ行くから江戸に泊まるというので、麻雀の約束していたんです。だけどメンバーは誰が来るとか知らず、いざ現場へ行ったら佐々木寿人さんがいました(笑)。

ーーそれとなく、有名人がいるのですね。

 “魔王”ですよ。あんな強い人がこんなド素人と遊んでくれるんだってビックリです。コラム用にしっかり写真を撮ってきましたよ。そこらへんは抜かりないです。

ーー有名人に乗っかるところ、ちゃっかりしていますね。

 いつも酒瓶を持った写真を扉絵にしていますが、せっかくだし少しでも数字を稼ぐためにも魔王の写真を最初に使わせてもらいましょう(笑)。

中野浩一氏、倉岡慎太郎、矢村正さん、筆者

ーー今月は競輪場の外でもいろいろあったそうですね。

 そうですね。地元の大先輩、矢村正さんが亡くなりました。お世話になっただけにショックなニュースでした。

ーーいつ頃、お亡くなりになったのですか。

 ちょうど熊本記念の初日でした。今年だけでも2、3回ゴルフとご飯に行ったし、中野(浩一)さんが参加するコンペにも参加したりして、つい最近まで頻繁に会っていました。

ーー矢村さんと中野さんの関係もよく知られています。

 中野さんは現役時代から矢村さんのお世話になっていたそうで。だから引退したあとも熊本でゴルフをしたり飲んだりと仲が良くって。同門じゃないけど師弟ぐらいの関係性だと聞きました。オレとタツ兄(田川辰二)みたいな感じでしょうか。

ーー熊本競輪場ではFIの冠レースがあり「マッハ矢村」の異名で地元ファンにはおなじみでした。

 日韓競輪の交流親善大使をされていたんです。第1回の冠レースの開会式だかで挨拶をしたさいに、第一声目がなぜか「ニーハオ」で、出席者たちがみんなずっこけたというエピソードが残っています(笑)。

ーーそれは、驚きますね。

 地元の選手たちの間では語り草になっていて。そんなエピソードからもわかるように細かいことを気にせず大らかで、あたたかみのある先輩でした。ご冥福をお祈りいたします。

後輩の結婚式に参列し心が洗われる

 あとは、いい知らせもありました。のすけ(松本秀之介)と南円佳ちゃんの結婚式に行ってきました。

ーー南選手がX(旧Twitter)で発表していましたね。そこで掲載された写真に、元選手の大久保聡さんと四元(慎也)選手とともに中川選手が写っているものがありました。

 あの辺りが年齢的に来賓だったのでしょう。熊本の支部長、副支部長の(西島)貢司さんと時松(正)さんが怪我をして欠席だったので、1番テーブルはその3人だったんです。 

ーー中川選手の年齢で、もう上に類するのですね。

 時代を感じますよ。競輪選手の風習で、こういう宴のときってビール瓶を持って先輩に注ぎに回るんです。でもオレが熊本の最年長なものだから注がれてばっかりで。こっちが注ぎに行ったのは秀浩さん(松本選手の父で元選手)ぐらいでした。

ーー松本選手はともかく、南選手との接点はあるのですか。

 これまでは県も違ったし、バンクで会って挨拶する程度ですね。2人とも同期にからまれて忙しそうでしたけど、幸せな雰囲気の伝わる居心地のいい式でした。年齢的に最近は、結婚式に出席する機会が段々と減ってきたし久しぶりにいい空間を味わいさせてもらいました。次は(伊藤)旭のですね。

ーー伊藤選手ですか。

 今月末ですね。だけど最初、旭のLINEを登録していなかったから、こちらに招待状が届かなかったんです。

ーー今はLINEで招待状を送るのですか。

 身近な人にはそうみたいですね。のすけのときもそうでした。あるとき、貴久と雑談していたら「旭の結婚式に呼ばれた」って話が出たんだけど、オレは初耳だったんです。

ーーLINEを登録していないから、単に招待状が届かなかっただけですよね。

 そのときは、そんなのわからないじゃないですか。だから、まさかオレ呼ばれていないの? と、少しイジけていたんです。

ーー中川選手は田川辰二選手の隠れ弟子ですから、伊藤選手は弟々子みたいなものですね。

 後日、旭から電話がかかってきて招待状の存在を知りました。「呼ばないわけないじゃないですか」と言われてホッとしましたよ。もちろん、田川一門の総代として参加してきます。

ーー結構、ボリュームのある1か月でした。

 まだ、あるんです。アルバイトですよ。

ーー相変わらず稼ぎますね。今度は何をしてきたのですか。

 モーニング競輪の誘導です。誘導免許を更新するには年に1回、誘導をひかないといけないんです。それに、人手不足ってこともあったので引き受けました。

ーーそれはリアルなアルバイトじゃないですか。

 朝5時に起きてせっせとバイトに勤しみましたよ。前の日はあまり深酒もできないし、忙しかったです。あとは…。

ーーまだ、あるのですか。

 最後にお知らせがあります。またアルバイトをしてきまして、その告知です。SPEEDチャンネルに呼ばれて、山口幸二さんの「熱弁!ヤマコウの場外乱トーク」という番組に出てきました。

ーーヤマコウさんと何か対決をするのですか。

 いやいや、テーマは「日本酒」で、共演相手が新田(祐大)という何とも味のある企画です(笑)。

ーー新田選手ですか。

 放送を見てもらえればわかりますけど、新田の日本酒への取り組み方がちょっと違うんですよ。だいぶ、こじらせていて面白いんです(笑)。11月にも再放送されるというので、詳しくはホームぺージなどをご覧ください。

競輪解説者の山口幸二氏、新田祐大と

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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