2021/12/01 (水) 18:00 24
いつもながらに行きつけのお寿司屋さんで気分よく、日本酒をあおりながら競輪談義。たとえ周りから「競輪漫談」と言われても、そんなのまったくお構いなし! アルバイトをこよなく愛する42歳の熱きタイトルホルダーが競輪の魅力を紐解きます。【構成=塩次洋太(大阪スポーツ)】
ーーどうしましたか、来るなり何か複雑な表情をしていますが。
実は…。さっき銀行に行ったら、いつも投資信託とか見てもらっている担当者の人にまで、このコラムが行き渡りだしたことがわかったんです。いきなり「コラム見ましたよ! 連載とかされているんですね」って真剣な顔で言われて。
ーーそういうときはどんな反応をするんですか。
「よく知ってますね!」ってイキイキと返しましたが、もう苦笑いするしかないですよ。こんなとこまで届いているのかって思うと…。
ーー中川選手は、普段はあまり競輪選手っぽくない感じがしますね。
村上(義弘)さんや松浦(悠士)のような硬派な路線や(佐藤)慎太郎さんや清水(裕友)みたいな読ませる面白い系ならいいんですけど、こっちは酒飲んで誰かを怒らせるような危ない話ばっかでしょ。うれしさと恥ずかしさの中間のくすぐったい気持ちになりました。
ーー11月を振り返ってもらいます。「別府F1」、「小倉GI競輪祭」、それに「武雄・九州地区プロ」がありました。
あと、それと別に行ってきたんですよ、アルバイト! 競輪選手界の「バイト王」の座がありますから。久しぶりにトークショーをしてきました。
兵庫県の「サテライト姫路」まで行ったんです。『ドラクエウォーク』ってゲームの都合で、どうしても姫路城に行きたかったものでしたから、ちょうどいいタイミングでした。
ーー「九州地区プロ」の話をうかがいます。前回もお話されていた「スプリント」の荒井(崇博)選手との対決は盛り上がりましたか。
結果から先に言うと荒井さんの優勝でした。予選でハロンを計ったら、オレは10秒5で荒井さんは10秒9。差がコンマ4もあったんです。これだけあれば負ける人ってまずいない。本来ならオレが勝つべきなんです。
しかも3コーナーで「ウッ、ウッ」って変なうめき声をあげながら踏んでいた荒井さんを見て大笑いしていたぐらいでしたから、余裕だなと。
ーー準決勝で2人の直接対決があったそうですね。
さすがに今回は勝てると思って力勝負に行きました。でも結局、荒井さんに10秒6で逃げ切られて、コンマ4を跳ね返された。ハロンで10秒9の人に負けるって相当恥ずかしいことなんですよ。だけど本番になると何か知らないけどタイムを縮めてくるんです。
ーーそれだけ、荒井選手がすごかったということですか。
もうありえないんですよ。(井上)昌己が“誠一郎と戦うときだけ荒井さんが強くなる”みたいな話を振ってきて。「まるで『と金』になるもんね」と言ったんです(笑)。
やけにおかしかったけど、さすがに「歩」は言い過ぎだろってなって。じゃあなんだろう? と2人で考えていたら、一旦間が空いて「桂馬だ!」ってハモったんです。横にいた合志(正臣)さんや小野(俊之)さんが爆笑していました。
ーー中川選手は準決で敗れましたが、曽我圭佑選手との3位決定戦を制しました。「スプリント」は3位までが「全プロ」に出場できます。
2位の(橋本)瑠偉が栃木に移籍するのが決まっていたから、瑠偉が1回戦を勝ち上がった時点で、準決さえ乗ってしまえば「全プロ」の権利が確定だったんですよ。だから、とにかく朝から瑠偉を応援してました。
ーー結局、荒井選手の独壇場だったということですね。
荒井さんはその後も「佐世保FI」、「武雄GIII」と優勝したでしょ。武雄で優勝した日の晩に電話したらすごくテンションが高くて「タツ(松岡辰泰)が落ち込んでいたぞ〜」とか上機嫌で。その時点で、少し笑ってしまったんですけど「タツに会ったら慰めておきます」って無難に返しておきました。
ーー「競輪祭」の話をうかがいます。開催中、何やら異変があったそうですが…。
開催中、酒が飲めないから体調が悪くなったんですよ。今、宿舎は酒類が禁止だから6日間、飲めないんです。だから、最初は入院するつもりで現地に入りました。デトックスしようと前向きに挑んだけど、3、4日目あたりから具合が悪くなってきた。
ーー晩酌が生きがいの中川選手にとって、6日間もの酒断ちは苦痛ですね。
風呂に行けば「黙浴」、食堂に行けば「黙食」ってあるんだし「黙飲」もダメなんですかね? だけど、そもそもGI開催中って、普段から飲んでいる人はほとんどいなかった。
ーー食堂で飲めたころは、どのようなメンバーがいたのですか。
レギュラーは荒井さんとオレ、あとは成清(貴之)さんとか桐山(敬太郎)、(佐々木)雄一あたりですかね。全選手の中でも、ほんの一部。晩メシになると酒飲みチームのテーブルが隅っこに1つできるんです。各地区からはみだしたメンバーたちが1人、2人と集まってくるんですよ。
ーー割と緩めな感じのする普通開催ならともかく、厳粛なGIでは考えられないです。
周りはアルコールどころか、ササミ食ったりとか食事制限までして節制しているのに、オレらだけ場違いなテーブルで。「炭酸水まだある〜?」とか「カツ丼のアタマだけで飲みてぇなあ〜」とか居酒屋みたくなってて、あの周囲の冷たい視線はたまらなかったです(笑)。
ーーならば最終日を終えた後の一杯は美味しかったでしょうね。
最終日は5Rだったので本当は早く帰れたんです。だから、さっと出て寿司屋で一杯飲もうと前の日から構想を練っていたら、決勝に乗った(園田)匠と(北津留)翼が「(最終レースまで)待たせてしまいますがスイマセン」って挨拶に来たんです。そんなん言われたら先に帰れない(笑)
ーー可愛い後輩の晴れ舞台を見ないで帰ろうとしていたんですか!
もちろん、見たい気持ちはあったんですよ。翼が優勝しそうな匂いもあったし。でも、あのときのオレは心の傷の方が大きかった。速攻で抜け出して、寿司を食いたいモードに入っていたんです。それに、早く行かないと寿司屋が閉まっちゃうんですよ。
ーー園田選手と北津留選手が聞いたら泣きますよ。
大丈夫、あの2人は強いし、またすぐにでも(GIの決勝に)乗りますよ。決勝は2人を応援しながらも、アタマの片隅には刺身と日本酒がありました(笑)。
ーー競輪祭はナイターでした。6日間の長丁場ともなると、日ごろの過ごし方がより大事になってきますが、何か気をつけていたこととかは。
今回は参加選手が多いので、競輪場に併設されている選手宿舎とホテルに分かれる分宿制だったんです。やっぱりホテルは移動でバタバタするし制限とかもあるから、選手からすれば宿舎にいたいものなんです。
ーー中川選手はどちらだったのですか。
選手宿舎でした。優先はまずS級S班と地元(福岡)勢。あとは年齢の高い順です。選手宿舎の定員の泣き別れが、ちょうどオレの年代(42歳)でした。オレは6月生まれだったからギリギリでしたが、同級生でも(吉田)敏洋とかは入れなくて、少し機嫌が悪かった(笑)。
ーー確かに現場では、分宿組から「バタバタしてきつい」といった話が上がっていました。
だから、まだツキがあったんですよ。ホテルだと、ずっと部屋にいなければいけないから運動不足になりがちになる。他にもメシや洗濯の時間は融通が利かないし、一般のお客さんがいるから大浴場にも入れない。
ーー競輪祭はレースこそ冴えませんでしたが、刺激材料がいくつかあったそうですね。
前検日ですよ。中野(浩一)さんから「お前はオレにいじめられたときの方が成績がいいんだよな。いじめられるのが快感になっているんだろ〜」って言われたんです。
ーーなかなか激しい接近ですね。
9月の共同通信社杯のときには「お前も頑張っているし、これからは悪口を控えて、褒めるときしかコラムやネットで言わないからな」と話してくれたのに、いきなり撤回してきたんです(笑)。
ーー九州の先輩、後輩の微笑ましい信頼関係が垣間見えます。
中野さんはレースだけじゃなく、髪型が悪いとかヒゲがダメとか風紀委員みたくグサグサ言ってくるんです。もはや、言われすぎてあまり刺さらなくなりましたけど。快感だろ〜っていうから「そ、そうですね〜」って返しました。オレが寄り添うように(笑)。
ーー競輪祭は吉田拓矢選手の優勝でした。100期代の若手の台頭に世代交代の波を感じました。中川選手から見ていかがでしたか。
自分が若いころと、今の若手が置かれている環境や立ち位置って微妙に違いますけど、レースでやっていること自体はそう変わりはないんです。
最近、昔のGI戦線をふと思い返すことがあるんですが、いつもユウゴの顔が浮かぶんですよね。
ーーユウゴ? 同県の後輩の松尾勇吾選手ですか?
いやいや、そっちのユウゴは最近、位置取りをやりだしたりして、自力じゃなくなってきてるでしょ(笑)。取鳥雄吾ですよ。
ーー岡山の取鳥選手ですか。これはまた意外な名前が出ましたね。
FIで強くて、記念は決勝に乗るか乗らないかでたま〜に乗る。でもGIじゃなかなか通用しない、みたいな。あと先行するとタレるじゃないですか。フォームもガクガクしていて。オレの若いころってあんな感じだったんです。ものすごく似ている。だから勝手にシンパシーを感じているんです。
ーーあまり後輩に興味を持たない中川選手らしからぬ発言ですね。しかも他地区なのに。取鳥選手との接点はあるのですか。
レースで1、2回連係したぐらいです。エレベーターや風呂で全裸で会うと「今日は良かったね」とか当たり障りない会話はしますけど、地区も違うしあくまで立ち話程度。だけど、好きなんですよね。大好きかもしれない。
ーーそこまで、取鳥選手推しの理由とは。
オレが勝手に応援しているだけで、彼への見解は100%主観です(笑)。若いころの位置的な境遇が被るんですよ。立場的にというのかな。これって他の人には伝わらないと思う。さっきも言いましたが、フォームが崩れてタレるところなんか、モロ一生懸命さが伝わる駆け方。雄吾に昔の自分を重ねると、すごく親近感がわくんです。
ーー今回の競輪祭は準決勝まで勝ち上がっていました。
ずっと頑張ってほしいと思っていたから、誰にも言っていませんでしたけど、あのブレイクはとってもうれしかったです。まあ、いくら熱弁しても片思いですけどね(笑)。
ーーこれだけ後輩を熱く語る中川選手を見たことがないです。熊本の後輩たちが嫉妬しますよ。
ガルベス(上田尭弥)や(嘉永)泰斗、ウリ坊(瓜生崇智)とかもう散々褒めまくってますからね。褒めてないのは(松岡)貴久ぐらいか。
それにオレ、若いころってすごく負けグセが悪かったんです。だから、雄吾もそうだと思う(笑)。あと5年ぐらい頑張って、報われて欲しいと心から思います。記念でも獲ったら、勝手に熊本へ招待して焼肉でお祝いしたいぐらいです。
ーー取鳥選手の道のりは熊本で言うと、上田選手あたりに似通う感じがします。
ガルはあと懲役10年です(笑)。器用じゃないし、力だけで上がって行かないといけないから、あのタイプは苦労するんですよ。GIの二次予選、記念準決辺りで1回頭打ちなる。だけど10年、耐えられれば突き抜けるのかな、とも思います。
ーーそんなことを熱く語っている割には、中川選手はGIの準決勝に乗るまでに14年もかかっているじゃないですか。
んっ…。そうなんですよね。これだけ偉そうにベラベラしゃべっているけど、雄吾は去年の寛仁親王牌で準決に乗っているし、すでに負けている(笑)。デビューして5,6年目ですもんね。ガルベスにもオレより早く準決勝に乗って見返してほしいです。
ーーここからは質問にお答えください。
Q、好きな日本酒ベスト3を教えてください。 (東京都/40代/男性ほか多数)
これは難しい…。あまり高いお酒を入れると収拾がつかなくなるので「十四代」とかは殿堂入りで選考から外して、リーズナブルに手に入るお酒にしぼると「AKABU」「山本」「羽根屋」あたりですね。どれもうまいので順位は決められません。すべて、いわゆる甘い系統に入る「うま口」系です。
Q、私には熊本出身の友人がいて「そげんこつはなかと(そう思われているが違う)」が口癖です。中川選手が「そげんこつはなかと」と言うのはどんなときですか?(栃木県/60代/男性)
この質問を事前に聞いたのですが、そもそも「そげんこつはなかと」って生涯、まだ発したことがないんです(笑)。意味は分かりますけど、かなり濃い口の熊本弁ですね。コンドルの専務チックな。あまり考えたことがないです、すいません。
Q、前回のコラムで「初めて山田庸平選手の前で走った」と話していましたが、中川選手は2018年の宇都宮記念決勝で前を走っています。本人が覚えていなんですねー。ええええええええって感じです。間違えないでください。(滋賀県/30代/男性)
ありがとうございます。何か鬼の首を取ったような質問者のドヤ顔が伝わってきますね。これは、前回の記事を読んだコンドルの社長にすぐ指摘されました。オレのただの記憶違いだっただけで。さすが社長です。ちなみに専務には何も言われませんでした。たぶん覚えていないと思います。
Q、10月で熊本バンクが使用できなくなりましたが、出稽古でどこかのバンクに入るとか予定はあるのですか?(新潟県/40代/男性)
当面はないですね。このあいだ、島田竜二さんが笑いながら「セイちゃん、2年間一緒に沖縄にでも移籍しない? バンクあるよ」って言ってきた(笑)。「2年間だけ移籍って、そんな勝手なことしたら2人で戻って来られなくなりますよ」って丁重にお断りしましたが。島田さん共々もちろん移籍はしません。
Q、どうして、そんなに荒井さんと仲が良いのですか? (佐賀県/30代/男性)
この質問はどうも関係者の匂いがするなあ。しかも同業者(笑)。荒井さんと深く話すようになったのは年をとってからですよ。ギラギラしていたころは、オレが荒井さんのステージに行っていなかったから、おいそれと接触できなかったんです。
当時のGI戦線には久留米の3強(紫原政文、池尻浩一、加倉正義)がいて、昌己や合志さんが出てきていて。オレはまだGIに出始めのぺーぺーでしたから、認められていなかったのかもしれません。
Q、前回のコラムで話題に出た「誠一郎と飲(や)ろうぜ」の話、楽しそう! 私はいつでもOKだよ〜。実現したらよろしくね! 企画どうこうじゃなくても、今度どっかで飲もうよ〜。(神奈川県/60代/女性)
“私はいつでもOK”って、前回の文脈から読み解くと、江藤みきさんっぽくないですか? それにしても、みきさんがまさか60代だったとは…。誤記入だと信じたいです。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。