2024/10/01 (火) 18:00 46
10月に地元の大一番を控え少しずつピッチを上げているベテラン競輪選手・中川誠一郎。後輩たちの生き血をすすり少しでも食い下がろうと必死だ。本番にかける思いから、いつもながらのまるで熱くない雑談を通して競輪の魅力を紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー9月は松山を欠場し宇都宮の共同通信社杯(GII)を走りました。宇都宮はバンクレコードを記録し、記念Vもあるなど好相性かと思います。今回はいかがでしたか。
ああ、それはまた古い話ですね。今回というより、もう今の自分にはどこがいいとか悪いとか無いですよ。ビッグで戦える脚はどこかへ行ってしまいましたから。
ーーGIIIクラスならまだ何とか通用する、というところですか。
いやいや、GIIIも初日予選ぐらいでしょう。準決、決勝なんかおこがましいし。
ーー宇都宮の相性をもってしても厳しかったということですか。
一流どころはバンク相性とか関係ないじゃないですか。古性(優作)や平原(康多)が〇〇は相性がいい、〇〇は良くないとか言わないでしょう。オレも昔ならどこを走っても110〜115点とかあったから、相性とかはあまり気にしなかったです。
ーー現地のエピソードは何かありましたか。
何だろうなあ…。そうだ、(松岡)貴久から唐突に「誠一郎さん、最近守りに入っていますね」 と言われたんです。それがなんか気になって、喉に刺さった小骨のようにずっと引っかかっていたんですよ。
ーー身に覚えがあったのですか。
なんなんですかね? そんなとき、ワッキー(脇本雄太)の部屋でいつものように雑談をしていたんですけど、そこでも貴久の話が気になって。
ーーそんなことがあるかな、って感じですね。
ワッキーが景気のいい話ばかりするんですよ。最近は豪華な家を建てたとか、いい道場をつくったり、あとはMリーグで使うような数百万の麻雀卓を置いた専用の部屋がある、とか延々と浮かれ話を聞かされたんです。その手の話を聞いていると、貴久の話に変に納得がいったんです。「ああ、たしかに守りすぎだな」って。
ーー自覚症状があったのですね。
昔のような攻める気持ちを忘れていたって気付いて。ちょうど2日目の夜でしたかね、頑張らなきゃって突き動かされて心を入れ替えたんです。
ーー翌3日目は嘉永(泰斗)選手を目標から2着に飛び込みました。
心構えをしっかり持っていつも以上に気合が入っていましたね。次は地元記念もあるから。ワッキーと貴久に助けられて確定板に乗ることができました。
ーーほかに何かエピソードがあれば。
それが… まったくないんです(笑)。あ、最終日にやった九州の打ち上げは楽しかったです。
ーー九州勢の打ち上げというと、以前に禁断のかくし芸「トレイン・トレイン」など危ない話がありました。
そんな過激なものじゃなくて、普段通りでしたよ。ただ、その前にアクシデントもありまして。
ーー何でしょうか。
宇都宮から東京方面に移動する際、祝日だったから新幹線の指定席がまったく取れなかったんです。
ーー激戦のあとだけにきつかったですね。
指定席は無いし、グランクラスでもグリーン車でも何でもいいやとなったけど、何にも取れずデッキで時間を過ごして江戸に入ったんです。ワッキーもいたので一緒に移動しましたが、かつて3億円を稼いだ男がデッキで立ったままっていう(笑)。
ーー打ち上げは大きなレースのあとに必ずやっているのですか。
10年ぐらい前まではビッグのあとに必ずやっていましたが、近年はやったりやらなかったりで。最近は誰かしら決勝に乗る機会が増えてきたので、結束力って意味でも恒例化しています。
ーー九州の選手は皆さん参加するのですか。
そうですね。(北津留)翼はいつも帰るけど、ほぼほぼ全員。別名“荒井さんをもてなす会”(笑)。今回は荒井(崇博)さんや翼、(山崎)賢人と3人も決勝に乗ったし祝勝会になれば良かったんですけどね。
ーー盛り上がりましたか。
誠っちゃん(田中誠)がコラムの愛読者だと判明しました。焼肉屋さんで同じテーブルだったんですけど、ボソッと「あれ、面白いっすね…」って。
ーー田中誠選手は意外ですね。
そうしたら(井上)昌己も後輩から「誠一郎さんのコラム、知ってます? 誠一郎さんってあんなに面白い人なんですか?」と聞かれて最近、読んだみたいで「あれ、よかね」って。やはりボソッと言われました。
ーーなぜ、皆さんコッソリと言いにくるのでしょう。
これじゃ、秘密クラブですよ。そこへヒデ(山田英明)も「あのコラムいくらもらえるんですか?」とか入ってきて盛り上がっていたら、何やらヒンヤリとしたイヤな視線に気が付いたんです。
ーーまさか、あの方ですか。
そうです、ヤバいなって。だって同じテーブルにいるんですよ。このコラムは読まれていないって設定になっているんだけど、明らかに本人に会話を聞かれているんです。だから、あまり盛り上がるのはよろしくない(笑)。
ーー田中選手たちはそんなこと知らないですもんね。
だから早く違う話題になってくれと願っていたら、荒井さんがついに会話に入ってきてしまったんです(笑)。
ーー名前を出しますか。それは、気まずいですね。いったい何と言われたのでしょう。
「おい、お前と(加藤)慎平はオレに金を払え」って(笑)。
ーーそれって、このコラムどころか『ぺーちゃんねる』も見ているってことじゃないですか。
まさか、まさかですよ。『ぺーちゃんねる』が出てくるとは思いませんでした。それに、みかじめ料まで請求してくるとは(笑)。でも、当コラムの貢献度からいえば、たしかにしょうがない部分もあります。
ーー荒井選手も読者ということでいいのですね。
オレもしどろもどろになってあまりにも説明がつかなかったから、編集部に荒井さんの大ファンがいて、すぐに荒井さんを出したがるってストーリーを作って収めました。それ以上、引っ張られたら収拾がつかなくなるんで。
ーーまさか、編集部を売るとは…。
「オレは編集部に止めた方がいいですよと言ったんです」とか(笑)。最後は納得してくださり、上機嫌で壱岐ゴールドを流し込んでおられました。
ーー荒井選手は現地でもご機嫌でしたか。
記者の共同会見場で荒井さんがインタビューを受けているとき、(伊藤)旭と見学に行きましたね。オールスターに続きあれだけ絶好調ですからとにかく上機嫌でした。
ーーさて、10月頭には待望の地元GIII開設記念があります。段々と気持ちが上がってきたのではないですか。
これはもう、ミセスの「Soranji」って歌の心境ですよ。
ーーどういうことでしょうか。
消えそうな小さい希望だけどそれを信じていく、みたいな歌詞があるんですよ。まさに今の心境に刺さるんです。
ーー小さい希望とは優勝、ってことですか。
はい。99% 無理と思うけど、まだ小さい火種があるんです。それを大事にって感じです。小ささでいえば沖ノ鳥島ぐらいです。
ーー先ほど、話に出た脇本選手も参戦しますね。
ワッキーとはこれまで幾度も連係してきたし、二次予選あたりは脇本-中川でお願いしたいですね(笑)。ある人にその話をしたら、「いやいや、セイちゃん。脇本-中川-島田(竜二)でしょ」って。
ーーそれは島田選手、本人ですよね。
頑張りたいです。このあと、バイトをこなして地元記念に準備します。
ーーこの期に及んでアルバイトですか。
何かテレビのお話があって。地元記念がらみかなって聞いたら、まったく関係ありません、と言われました(笑)。なぜ、地元を前にしたこのタイミングでオレなのか? って不思議でしたよ。
ーー断ってもよかったじゃないですか。
これまで追加は断ってもバイトは断らないのが身上でここまできましたから。追加は準備不足で走るのが嫌だから苦手なんです。
ーー初日は点数的にも予選スタートになりますね。
(嘉永)泰斗や(中本)匠栄ですら初日特選は危ういでしょうね。オレなんか103点しかないから本線でもないし危ないですよ。
ーー一個でも上に勝ち上がって欲しいです。
この間バンクでガルちゃん(上田尭弥)と会ったから「たぶん、一緒かもね」って言っておきました。ガルちゃんぐらいがちょうどだろうなって(笑)。
ーー上田選手もいきなりそんなことを言われてどういう反応なんでしょう。
いや… 誠一郎さんは泰斗や(松本)秀之介じゃないですか? って。オレはもう出しゃばるほどの点数が無いからあまり大きなことは言えないんです。
ーーそんな人が「二次予選は脇本選手」とはずいぶん、厚かましくないですか。
いやいや、これはもうオレの完全なわがままで。昔みたく決勝乗って当たり前、みたいなときなら準決でワッキーとかもあったけど、今は準決に行けるか行けないかの状態ですから。わずかな希望を胸に抱き、全力を尽くしたいですね。そのためにも、まずはこのあとタツ兄(田川辰二)と(高田)隼人さんと飲みに行ってきます。
ーー今月も質問が届いておりますのでお答えください。
Q、いつも楽しく読ませてもらっています! ふとした時に暇な時間があるのですが、中川さんのおすすめゲームやスマホアプリ、漫画やドラマなどあれば何でも教えてくださーい!!(宮崎県/30代/男性)
漫画はやっぱりキン肉マンでしょう。新アニメもやっていたので見たけどおもしろいです。ドラマはネトフリで地面師とか極悪女王とか面白かったです。
Q、甲佐町で競輪選手が練習をしています。サングラスをつけており誰かはわからないのですが、あ、これは〇〇選手だってことがあります。サインをいただきたいのですが声をかけてもよろしいでしょうか。ちなみに中川選手を発見したことはありません。GOサインがいただければ声をかけたいと思います。(熊本県/20代/男性)
甲佐は家から遠いので出現することはありません! ゴルフならワンチャン行きますけど。休んでいるときなら声かけても怒らないしサインもくれますよ! オレの名前でよければ存分に使ってください。ただし「カネ貸して」とか「昼飯おごれ」とかはダメですよ。
Q、競輪始めて3年目の新米ですが、車券当たった時の嬉しさを求めて日々精進しています。今や「仕事で上司に褒められる」、「家族に料理を褒められる」を抜いて、「万車券を当てる」が日常生活の喜びダントツ1位です! 誠一郎さんの日常生活の喜びダントツ1位は、なんですか?(お酒以外でお願いします)。(三重県/50代/女性)
これはすぐに浮かびます。ドラクエウォークのガチャで新武器が当たったときですね。車券が当たる時もそうだと思いますが、きっと激しいドーパミンが分泌されるんでしょうね。
Q、九州はラインのために先行する選手が少なく感じます。そこで中川選手にお願いがあります。沖縄の伊藤颯馬選手は九州のために先行してくれる唯一の選手だと勝手ながら思っています。その伊藤選手は地元バンクがないため、今度グレードレースで中川選手が先行して勝たせてあげてください。前回のコラムで最終章とありましたが、その大役を終え最終章へ行ってください。中川選手のことを応援しているのでお願いします。(熊本県/20代/男性)
応援ありがとうございます! それもこれも時代ですよね(笑)。中島みゆきの世界で、時代は回るんですよ。今は颯馬がその位置にいますが、オレも荒井さんも昌己も若いころは馬車馬のようにラインのために先頭で働いていたんです。今じゃ老人会ですけど(笑)。ですので、颯馬の前で先行して勝たせるのはオレの役割ではないですよ。
Q、学校の先生をやるとしたら、小中高のどの学校でどの教科を選びますか? 事務室、給食室保健室勤務もアリで!(熊本県/20代/男性)
哲学がけっこう好きなので小学校の道徳か高校の倫理とかですかね。でも保健室の先生も興味あるなぁ。っていうか、保健室に男の先生てあまりいないか(笑)。
Q、私も年々、衰えを感じています。それだけに先月のコラムは思うところがありました。中川選手が実生活で若いころとは違うなと感じたことがあれば教えてください。(群馬県/40代/男性)
さっき話した打ち上げのときに思いました。脂身の肉がきつくて、タンとハラミあとはミノぐらいしか食えないんですよ。昌己や荒井さんとそんな話になって。でも誠っちゃんやヒデはマルチョウやカルビ、カイノミあたりがまだいけると。何歳も変わらないんですけどね。逆に若手のテーブルは脂祭りでした。ちなみに荒井さんは脂身がきついとか言っていたけど、チートデイではハムカツを食べるみたいです(笑)。また、怒られるやつですね。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。